少女よ大志を抱け…綿草(わたくさ)ものがたり・2
ぬ…さすがはメフラウ・オリューレ…。
あのマリアリーゼ陛下ですら、簡単に言い返せないほどの材料を突きつけて反論できるのはさすが、としか言いようがありません…私もまだまだ精進が必要ですね…。
(せめて南洋行政局の単独戦力で須磨虎かセレベス、またはパプワのどれか1つの島でも制圧できるようになっていないと、天竺の統治は困難よ、マルハ…)
あぃ…。
(まぁ、オリューレの意見も納得できなくもないな。ただ…マドゥラ純血種と混血種の1人卒女官相当は1名ずつ欲しい。これは天竺侵攻が確定してから提供してくれていい)
「で、差し当たってはこれが南洋行政局に対する本宮側の要求となる。これは球根詐欺支部の活用を含んでいるから、マルハちゃんだけでなくウィレミちゃんもそのつもりで見てくれ」
で、マリア様が寺務所のぱそこんを借りて表示させた要望書ですが。
・流刑地大陸で従来実施していた牛・豚・鶏並びに馬の飼育事業に加えて牧羊事業を本格化させること
・南北羊飼島の領有を図ること
・綿花栽培地の確保と綿花畑の拡大を図ること
・南洋行政局本体管内での麻・椰子など熱帯性繊維原料の増産と回収を強化すること
・流刑地から南洋行政局管内を経由しての比丘尼国までの鉄鉱石・羊毛・綿花の輸送手段を確保すること
ふむふむ…このうち、ウィレミに表立ってやらせたい事、あるいは協力させたいのは以下の二つ。
・流刑地大陸並びに南北羊飼島での軍事活動に伴う兵力提供
→橙騎士団として南洋側の橙騎士団とほぼ共通装備にしました
・比丘尼国向け輸出航路用の船舶提供
→実質的に貨物船を新規に建造せぇやという話になりますね
このうち、船舶建造については国土局海事部からの要請となるでしょう。
実は、比丘尼国と流刑地を結ぶ長距離貨物輸送航路、その一部はメフラウが南洋行政支局長だった時代に定期航行が始まっておるのだそうで…。
「比丘尼国の新那古野港並びに碧南港、衣浦港を結ぶ鉄鉱石と石炭輸送、そして品川港とを結ぶ畜肉輸送が試験的に始められていたんだ。この船には専用船を投入していたんだけど…」
ええ、あまり大っぴらにやっていると喧伝出来なかったのでしょう。
マリアリーゼ陛下に見せて頂いたそれらの用途の船、従来のこの世界の標準である帆船とは似ても似つかぬ構造…有り体に言えば先日、南洋に来航した軍艦フグー号やクレマンソー号が水に浮いたかのような姿の大型船でしたから。
「で、今回の船舶提供要請はこうした近代型船舶の建造を含んでいる。つまり…中仏支部と南独支部の合同事業であるルール地方での製鉄事業の本格稼働を受けて、製造された船舶用鋼材の提供によって作られる近代型動力船の造船にかかって欲しいという事だな」
(ウィレミ…わかっとるやろな…これは痴女皇国本国から造船技術を提供して頂かんことには進められん話なんや…いわばうちらは造船のためのショバ貸しの立場から始まるんやぞ…下手にアホな事を言い出してマリアリーゼ陛下の興を削ぐんとちゃうぞ…)
(ひぃいいいいいい)
ええ。普通ならこんな話をいきなり持ち出されてしまえば、ウィレミーナのようなあんぽんたんは驚きます。
そして、話を持ちかけた側を呆れさせるような事を口走ってしまいがちなのです。
「陛下。そして室見局長。既にご存じとは思われますが、ロッテルダム並びにアムステルダムの官営・民間造船所はいずれも木造帆船用。拝見いたしました船の建造のための設備導入またはドックの新設を要する話になるかと存じます。港湾開発計画の立案は元より、地権者への補償を含めた費用捻出、とうてい我が妹一人では困難かと。そして正直、グラスベルク鉱山分の資金融通にも限度がございます」
つまり、それだけの事を言われた日には南欧支部どころではない借金女王が爆誕してしまう事になりますよ、という話をしております。
更にはこいつにそれ、出来ますのという冷ややかな視線を向けております。
言ってて悲しくなるのですが、イザベル女王はどには女王の自覚と才覚がなさげな我が愚妹、イザベル陛下以上の額の債務に耐えられるとは思えません。
そしてメフラウから引き継いだ痴女宮本宮預かりのグラスベルク鉱山分の鉱物資源資産貯蓄、これをこのモンホールのために削るように減らすのも正直、やりたくない話なのです。
「ま、だいたいは予想通りの反応だ。りええ」
「国土局で把握している分の民間所有地も含めたアムステルダム・ロッテルダム港湾設備の更新工事に関する計画書をお渡しします。そして肝心の近代型動力船建造設備ですが、英国との合弁企業設立に向けての資本提供は最低でもお願いしたいところです」
「しかし、流刑地大陸の開拓というのであれば、既に掘削を開始しているという石炭や鉄鉱石とやらを含めて元来は南洋行政区管理資源となるはずでしょう。この分も含めて費用については一考を頂けませんでしょうか」
ええ、お分かりでしょう。
既に交渉は始まっております。
ぶっちゃけ、費用の押し付け合い。
既に掘ってもうた分も含めて南洋の資産やろがい、その分も含めてゼニの支出は持ってくれやというのが私の本音です。
一方、室見局長の側はなるべく支部支局側に支出を押し付けたい。
バチバチと飛び合う、目に見えぬ火花。
しかし、そこで介入が。
(室見局長。我が南洋行政局は国土局と同格の本宮直轄部局のはずです。従って、国土局の主導事業か、はたまた南洋行政局への内務局依頼または皇帝室勅命事業であるか、指示命令系統によって予算の出どころは変わって来るかと存じますが)
ええ、メフラウです。
(つまり、私とマルハは理恵さんと同じ役職地位、そして管轄下の部署は同じ本宮の行政部局の扱いなのよ…で、お金の出どころは最終的には本宮地下の大金庫なんだけど、そこの金庫のお金で私たち南洋行政局に割り当てられている分を使うか、それとも国土局の棚にある開発予算としての金塊を使うのかというお話をしているのですよ、マルハレータにウィレミーナ…)
(そして、この場にマリアリーゼ陛下がいらっしゃるということは、皇帝室からの勅命であり、予算については本宮財務局または皇帝室が責任を持って調達すべきであると上申出来る可能性も出て来るわけやで、ウィレミ…あんたもこれくらいは理解しぃや…でなかったらメット・ローとヒルバーサムの城はほんまにうちがもらうで…)
(ひいいいいい…)
そして、私がこうもセコく「予算は本宮で持ってや」とゴネる姿勢を見せているのはですね。
私が二代目スカルノ王朝南洋王国女王をやってるのはまだしも、南洋行政局長の地位についてはメフラウが仮死状態になっている間の暫定就任だったはず。
即ち、この私はあくまでも急場しのぎで行政局長をやっており、メフラウからはその地位と部局保有資源や資産を預かっているだけというのが私の言い分です。
つまり、グラスベルク埋蔵分の金銀銅は、うちのもんやでとばかりにガリゴリと浪費したくないのです。特に球根詐欺国には融資を含めて、南洋の資金や資源を流し込みすぎると南欧支部同様の借金漬けコースになってしまうのが見えております。
ええ、ウィレミの性格であるならば、絶対に浪費しやがると私は睨んでおりますから。
なるべくならば南洋のゼニとゼニの種は可能な限り、目減りさせずにメフラウに引き継ぎたいのです。
(マルハちゃん…うちの母親になんか囁かれたのか…あたし、かーさん相手してる気分になって来たんだけど…)
(まりり、確かにジーナさんは自分のお金の目減り、死ぬほど嫌がる傾向あったわよね…)
いえいえ、私はあくまでもメフラウのお金に手をつけたくないだけなのです。
いざメフラウが起きてきたら、南洋行政局の金庫がカラであったとか、見たくもない未来の幻想です。
その辺の潔癖性については理解を頂きたく。
(確かにマルハちゃんの行政局長就任の経緯を考えると、その主張には一理あるんだよな…)
(オリューレさんとカルノ君の治療についても強硬に研究続行を主張してるし…)
(ですよ。私の元来の性格はお見通しやと思いますけどな、普通やったらやったーしめしめ南洋王国はうちのもんやー軍備も増強してアジア一帯支配したれーとか派手にやらかしたい方ですよ私)
ええ、コープシェフ・ジョスリーヌからも言われております。
人間、シンボウも肝心やと。
このメフラウ絡みの縛りがなくば、私は絶対にジョクジャカルタと言わずバンドンと言わずジャカルタと言わず、更にはスラバヤなども含めてハバナ以上の都会に変えてティアラにドヤ顔してたと思うのです。
お分かり頂けますか室見局長、そしてマリア様。
私の財布はまだしも、行政局の予算については絞りに絞っとるのお分かりでしょう、支出。
(せめて夜会のドレスくらい!)
(やかましいお前の国の予算で何とかせぇっ)
(中国人並みに厳しいわね…)
(わかったわかった。とりあえず英国支部の分も含めて聖母記念銀行の開発債が発行できないかお祖母様に聞いてやるから…あたしもデルフィリーゼお祖母様は苦手なんだぞ…)
(まぁ、球根詐欺国で必要な分については、たのにも相談してみましょう。オリューレさんが苦労して貯めた資金や資本を無駄遣いしたくないという理由も理解はできます)
ええそうです。
あの強烈な絶林檎果汁や金玉珈琲がどういう代物であったか失念するくらいに…そして痴女島のスコール時の名物である淋の森公園のあの状況に視覚聴覚の興味が行かないほどに、私たちは真剣だったのです…。
(この意味でもマルハちゃんはうちのかーさんそっくりなんだよな…こうと決めたらテコでも動かんような意志を感じるぜ…)
(予算については現状、南洋行政局を引き継いだばかりという事情も勘案して暫定予算を国土局で確保する方向で行くから…ただ、各支部にも通達してるけど、持ち出しは皆無じゃないのだけは承知しておいてね…オリューレさんもそこは了承願います…)
そして、陛下との話し合いが終わった後で、スコールの上がった淋の森公園を視察する私。
ですが、その目的はいわゆる闇堕ちマリア系の事象を観察するためではありません。
実は、マドゥラ族についてはそちらの条件を飲む代わりに一種の特殊賎民扱いを了承してくれやという取引を突きつけて了承させております。
その一つが、ボロブドゥールでの混血児出産母体提供にあるのですが、他にもマドゥラ島民については未成年者はボロブドゥール仏教部初等科での最低1年の寄宿生活や、成人については他ならぬこの痴女宮本宮での女官研修受講を義務化しております。
その心は言うまでもなく、ほぼ全島民を若い女性にしてしまった性転換若返り作戦、通称マドゥラ事変の結果を反映させたものです。
ええ…男に戻りたくないとか女の方が働きの口があるとかいう要望多数で関係者が頭を抱えた、あの件が尾を引いてるのですよ…。
で、南洋行政局管内では今や茸島のごく一部…つまり本宮女官他の保養所やファインテック社員の方の利用を目的とした聖院学院生徒による学生売春と、そしてジャカルタやスマランなど外国人船員を主な顧客に想定した娯楽館仕様の慈母寺売春以外は、一般的には金銭を介して女を買う行為はさせておりません。
あ、そうか…バンドンやジョクジャカルタの旧市街の慈母寺も娯楽館、併設してることはしてますね。
じゃ、痴女皇国の管轄地域なのに農夫とか一般国民の皆様からどないして精気を抜いているのか。
もう、お分かりでしょう。南洋王国の大半では、聖環持ちの国民なら、慈母寺に行きさえすれば別に金を払わずともあれにありつけるのですよ、あれ…オランダ語で言いますけどね、Neukenって行為ですよ。
即ち、売春したいと言われても、南洋行政局としては尼僧になって管内の農夫など一般居住者と精気授受をしてもらう以外の、その手の仕事を斡旋しづらいのです。
ですので、売春で身を立てたい希望者については、やむを得ず本宮の女官養成コースに順次、送り込む事にしております。
ただ、これは本宮仕様の女官養成コースですから、還俗があり得るのです。
更には聖院での研修や警務や刑務騎士の業務など、やること自体は他の一般成人枠採用女官と何ら変わりません。
ついでにこのコースに入れる場合、当たり前ですが人事権は本宮の厚労局や警務局に移管されますから、私の管轄からは外れます。
研修終了後も本宮勤務が基本となり、千人卒を目指すか数年後の還俗かとなってしまうのは基本です。
(マドゥラ族女官についてはむしろ還俗方向の方が使い勝手がいいようですね…)
(ええ、一旦は還俗させて頂いて、南洋での雇用を打診願う方がありがたいです、二代目様…)
ただまぁ、因果を含めて送り出した立場ではありますので、現時点で最低でも数千名くらいはこの流れに乗せている私としては、その後の研修や業務従事状況が気になるところではあるのです。
(お姉様、たかが土人ごときに…)
(その土人の育成度合いや成長の程度に私たちの未来がかかっとるのです…特にマドゥラ族については、頑固者であることさえ何とかすれば、その利用価値は非常に高いのです…それよりウィレミーナ、貴女はここを見て何か参考に出来ることでもおありかしら…)
で、私の言葉遣いに、注意。
カンサイベンになってないでしょう。
つまり、この場にいてるのは私たち姉妹だけではないのですっ。
そして私は黒薔薇騎士団制服をベースにした橙騎士団指揮官用戦闘服姿です。
この淋の森では異質な存在になるでしょうけど、この森では騎士服を着用している二人連れ以上、公務であるから売春には応じられませんよという暗黙の了解が存在するのを知っている私としては、着用せざるを得ません。
その姿は黒薔薇騎士が刑務勤務、またはそれに類する業務に入る際の女看守服とやらに、南洋所属を示す橙色のパイピングやストライプをあしらったもの。
基本はがんつ服同様の黒のはいれぐTばっくれおたーどに、丈の短い同色上着と帽子、それから長手袋に…尻や脚を美しく見せることを助ける形状なのですが、その金属の装飾からは絶対に攻撃的に見える長靴姿となります。
まともな感性の持ち主ならば、例え私が一人で立っていようとも、売春従事女官や騎士とは思ってくれないだろうこと請け合いの威圧感のある姿です。
で、ウィレミーナについて。
(あんたもウリに間違われたいんかぃっ。もっとも、己自らの性根を叩き直したい希望があるんやったら普通の女官服なり私服なり、何なりと着ててええぞ)
と申しつけた結果、渋々ながら球根詐欺国仕様の橙騎士団長服に着替えてます。
ええ、確実に私からは格下に見えてしまう姿です。
それとですね、R18版を含めて私たちのお話をかねてよりお読みの方、いらっしゃいましたら、私たちの制服はその形状が変化するという仕様になっているの、覚えておいででしょうか。
まず、私は正式な黒薔薇騎士団員ではありませんが、ディードやメフラウ同様に黒薔薇騎士資格を得ています。
そして黒薔薇資格者となった私は、他の騎士団の下位階級職者の制服状態を、ある程度は手動操作することも可能となったのですよ…これにはマリア様ほどではありませんが、強制更衣させる能力も含まれています。
つまり、私がウィレミムカつくと思って、こいつを売春女官に誤解させてしまえと悪辣な考えを抱いたり…黒薔薇にはほぼ、思考制限がかからないに等しいそうです…あるいは犯してしまえと思うと、奴の制服の布面積が減少するとか、あるいは痴女そのものといった姿になってしまうそうですね…。
更には、私がその気になった状態で女官の誰かに接近すれば、対象が下級者ならば黒薔薇騎士団の強姦御免の越権待遇機能…相手の制服に穴が空いてしまったり、布面積が極度に縮小されてしまう自動機構が働いてしまうお馴染み機能も作動してしまいます。
ただ、この強姦御免対応機能は自動制御を切れるそうなので、今は作動停止させています。
(なんで室見局長までもが視察に…マドゥラ族って珍獣でも何でもないのですよ…)
(全員女体化の上に特殊育成でうちの国向けになったって聞いたし…)
ええ。
現時点でのマドゥラ族ですけど、一応は比丘尼国のかつてのエタヒニン同様に賎民階級にしています。
しかし、逆に賎民ゆえに選民として特定業種…はっきり言うと宮殿騎士団や、はたまた例のかうがーるとか言う独特の服装での牛飼育業に就業させやすくしている一面がありますから、彼女たちの納得も貰った上で奴隷めいた被差別民に甘んじて貰っているだけなのですからね…。
そう、彼女たちは今や血を見ることに慣れた女性になったわけです。
そして、もともとは出稼ぎ戦士を多く輩出した民族です。
いわば、畜産業向け。
刃物を使うのではなく、成仏を祈るドレイン工程の必要性も理解してくれていますし、彼女たちは屠殺から解体精肉までを「誇りを持って」こなしてくれる立場なのです。
そして、慈母宗でも「我々の代わりに手を家畜の血で汚さざるを得ない賎民に甘んじてくれている有り難い存在なので敬意を払い、彼女たちを積極的に受け入れるように」とアニサが発令してくれました。
ただ…残らず「顔はアジア人なんだけど身体はすごい」姿ですので…ええ、私らが殊更に受け入れろとか無粋な事を言わなくても、特定行為や特定状況では積極的に受け入れて貰っているのを確認済みです…はい。
ええ、今も積極的に受け入れてもらっていますね。
何をどう、積極的に受け入れているのかは敢えて申しません。
たとえ未成年の方であっても、このお話を最初からきっちり読み進めて頂いておれば、この淋の森という場所がどういうところかはいまさら事細かく説明を割くまでもない、既にご存知の場所であろうと天の声めも申しております…。
(で、二代目様…マドゥラ女官なのですが、敢えて私との混血児を増やしたり、他民族…特に白人と呼ばれる連中との混血出産を推奨しております。理由は、彼女たちの南洋系の容貌に尽きるのですが、それをするとマドゥラ人特有の忠誠心や戦闘力がどこまで低下するかを観察したいと言うのが私の視察理由です)
で、戦闘は…まさか、騎士訓練はまだしも実戦させるわけにもいきません。
で、かつてクヤンの乱…須磨虎事変の際にボロブドゥールでアニサを支える上級幹部たる中僧正の一人で、かつマドゥラ出身者だということが明らかになったカーティカ、彼女に同行してもらっています。
で、何をするのか。
このカーティカは修学宮と呼ばれていた当時の聖院学院の寄宿生の世話や教育を担当する女官だったのですが、当然と言うべきか、そんな時代からの生え抜きですから、淋の森がどう言う場所なのかはもちろん、今に至るまでの変遷もある程度は知っている立場なのです。
そして…私の聖環の黒薔薇騎士としての指揮能力であれば、カーティカの出力を制限して百人卒や十人卒同等にすることも可能な訳です。
(実はカーティカ、中僧正なので慈母寺に行けば私と同格だったりするのです…)
(いえいえそんなマルハレータ様相手に畏れ多いっ)
更には、厚労局で旧・女官種から痴女種に切り替えた彼女の肢体、改めて現行マドゥラ族仕様というべき姿に首から下を更新して頂きました。
ええ…混血マドゥラ人と純血マドゥラ人の身体能力の差異を比較するためのデータ収集作業なのです。
そして、夕方の勤務が終了した組の罪人のうち、食事の時間も惜しんで本宮下足処や淋の森に駆けつけるフウゾクダイオウなる人種が、その相手。
で、我々観察組はですね。
「なんですかこの恐ろしい瘴気漂う異空間は…」
「あたしここに一分とていたくないんだけど…」
「ええいうるさいですわよっ」
でまぁ、私たちがいる場所ですが。
聖院暦215*年版痴女宮・淋の森周辺図によりますと。
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痴女島北岸方面 ↑ 後宮
智秋記念牧場 ↑ 離宮
|| 聖院湖 || 聖院湖
---||--------------
←←←←←←←酷道1号線 ↑ 聖院開闢記念大堤 酷道2号線→
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↑ 淋 の 森 公 園 | 階→→→|聖院|本宮|女官|罪人
滝|♂|神| 東 |慈神英東聖 |学院|本宮|寮 |寮
壺| |練| 屋 | |
参
淋 の 森 公 園 | 警ジ | 道
------------| |
♂ =田中雅美之墓
神練=聖母教会鍛錬場
慈 =慈母寺
神 =神宮分社
英 =英国国教会
東 =東方聖母教会
聖 =罰姦聖母教会
警 =淋の森警備本部
ジ =ジュネス淋の森店
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ここに描かれている♂マーク、即ち田中雅美内務局長のお墓の周囲を囲む絶林檎の垣根の中らしいのです。
で、田中局長は以前、不祥事()の際に初代様と子作りをした上に寿命ががっつり削られたため、聖院方式で上級幹部を葬送する手順に則って火葬された後で義体という擬似身体を授かって復活なさったのですか。
しかし、この方法では本来ならば骨も残さず焼けてしまうのは、ボロブドゥールの北庭公園や亀地獄島で類似例を見て知っております。
そこで、焼き加減を調節することで遺骨が残るようにした上で、連邦世界のヤパンの標準的な風習で遺骨を祀る墓碑を建立し、その根本に遺骨を収納することで田中局長の旧罪を赦し徳と功績を称えるようにしたと…これは、墓碑の上に建てられた風雨を凌ぐためのお堂の前に聖院第二公用語で記された由来です。
そして、墓碑は…あの、黒々とした大きな石がPikすなわち男性性器の形そのものなのはどういう意味が。
更には墓碑の前に、生前?本人がお使いであったという黄金の剣の柄が埋められており、これを引き抜けば云々。
ただ、この黄金の剣の柄も「Pik=逸物」なんですけど。
つまりなんですか、この上に跨り締め付けて引き抜けとか?
更には、墓碑から発せられる禍々しい瘴気。
あのクヤンどころではありません。
私これ、黒薔薇資格を頂いてなかったら正気を保てていませんよ。
現にウィレミはぶっ倒れかけていたのです。
で、急遽駆けつけて下さったダリア統括団長と騎士の方々に運ばれて、慈母寺分院に担ぎ込まれています。
「だからここは強毒種型絶林檎で囲われてるのよ…」
更に聞けば、この絶林檎垣根の外側の道は聖院学院の子供たちが主に使う遊び場の滝壺につながっているそうですが、この田中局長のお墓の敷地内の坂道を上がると、黒薔薇昇格試練や女官鍛錬ですとか騎士教育に使う専用の滝壺に到達するそうですね。
なるほど、一般の立ちんぼ売春客に知られたくない施設のためにも、上級痴女種以外は近寄ることすらできぬ瘴気の障壁として利用しているのですか。
しかし、なんでこんな瘴気を発してるんですかこのお墓。
そう尋ねると、室見局長が無言で、この墓を建立した際の落成式の映像を見せて下さいました。
この墓堂の周囲にかかる紅白の幕。
そして、墓碑の両脇に飾られたいくつもの花の輪。
何をどう見ても、およそ墓と名の付く何かが完成したことを示すものではなく、むしろ祝っているとしか言いようがない装飾です。こんなもんがヤパンの風習としたら、死人は片端からあのクヤンのように化けて出るのではないでしょうか。
更には、お墓の前で関係者が勢揃いした記念写真とやらを撮影されたそうですが、当時の幹部らしき女官や騎士の表情を見るに、沈痛な表情で個人の冥福を祈っている人物は誰一人としていません。
いえ、むしろ全員が爆笑寸前の雰囲気…いえ、一人だけ仏頂面の人物がいます。
これ、田中局長ご本人じゃないですか…そりゃ、こんなお墓を建てられてはいくら蘇ったとしても…いえ、蘇ったからこそ怒っているのでしょう。
「このお墓は当時、昔のオリューレさんと似た立場や風聞だった雅美さんの故人を偲び遺徳を称える目的で、その意匠に至るまで日本人の後輩たちを中心にして決定して建立されたものなのよ…」
称えてません。
全く称えてません。
「でなかったらパチンコ屋さんの新装開店の花輪そのもので竣工を祝われてないわよ…」
どうやら、室見局長もこのお墓をこんなものにする一味に加わっていたようですね。
で、メフラウの場合は…。
「あの人は死ぬほどまでの悪事を働いたわけじゃなかったから茸島流しで終わってます。というより、ショタ売春、というよりは孤独な貧困少年救済の基礎を作った功績を知った欧州地区幹部数名が全力で助命嘆願入れたことで話が全く変わってね…茸島に行かせた方が絶対いいって推しまくられてたから」
(雅美さんの時は大変だったのよ…連邦世界の高木家の娘さんたちまで飛び火する犯罪事件になってね…ティアラちゃんが痴女皇国に来た原因の事件でもあるからあまり言いたくはないのだけど…)
聞けば、メフラウの厳しい女官教育や雑費着服が問題となったものの、その着服によって茸島の少年たちを感化教育する原資にしていた件が非常に高く評価され、名目は島流しであったものの、その島流しされた茸島行政庁舎のすぐ近くに皇族専用別荘が存在するとか、何をどう見ても何らかの配慮が働いたとしか見えない状況だったそうです。
普通はそんな不祥事を起こした人間に、王族の別荘、管理させませんよね。
更には、後年に聖院学院がその近所に建設されて今に至った件はメフラウやティアラからも聞いております。
(で、この場所に陣取っている理由は…)
(ここは絶対に普通の女官では中を伺うことは出来ません。そして、幹部が姿を見せると何かしていると勘繰られては収集データの精度が変わりますから、カーティカさん以外の事情を知らされていない女官には普通に売春して欲しいからなのよ…)
ええ、私をアンテナにして周囲の状況を監視しているという、二代目様からも言われました。
(だから、カーティカ以外のマドゥラ族女官だけでなく他の女官も混ざっておるのです…今、淋の森はいつもの夕方の普通の淋の森の状態にしておくべきなのです…)




