南洋残酷ものがたり〜缶詰王女奮戦記〜・10
「かにビィイイイイイイイイイイイイイイイイイム!」
またしても、蟹の両目から放たれる青い光線。
しかし今度は、イブセマスジーーーーーーーーーーーーーーーッという発射音が轟きます。
そして、須磨虎全域に降り注ぐ黒い雨。
これが、中和光線というものだそうです…。
ええ、本邦初公開とかいう、ベラ子陛下の蟹衣装姿。
しかし本人は、ダサ可愛いとも思えるその衣装とは裏腹の事を叫びます。
「全くもう…こんな恐ろしい光線、封印です封印!」
「マリアリーゼ陛下がやらかした際の怖さというのがよく分かりました…」
ええ、この蟹光線…それも特定の政治思想を無理からに植え付けて強制労働に赴かせるという恐怖のバージョンを浴びた身としては、こんなもん何が何でも金輪際使ってくれるなとしか言いようがありません。
そうです…資本主義者に搾取され使い捨てられる労働者の幻覚を見るのみならず、学生運動とやらや赤い政治活動に身をやつして収入の一割を強制的に上納させられるという恐怖を味わったのですよ、この中井ティアラも。
「マリ公…あれは聖院の白マリやろけどな、あの道頓堀から発掘された、未来永劫大阪を呪う恐ろしい人形を持ち出すとか、お前も大概な前科持ちやねんからな…」
腰に両手を当て、青筋立てて宣言されるのはマリアリーゼ陛下並びにベラ子陛下の実のお母様にして、聖院初代聖母であらせられるという高木ジーナ・NB下院議員様。
連邦宙兵隊の中将様で、痴女皇国派遣部隊の指揮官でもあるそうなのですが、それ以前に態度がすごく大きい方です…ですが、この場では好都合。
「ちなみに、この中和蟹光線を浴びると山椒魚が太るそうです」
「副作用、あるんじゃねぇか…あと聞くけど、その山椒魚、労働力として使用する気は」
「ありません。戦争になっても困りますので」
「古典SFを知らん人にはわからんネタやめい…」
「はいはい。とりあえずこれで、蟹光線の効果は中和されたはずです…エマちゃん、どう?」
でまぁ、ベラ子陛下の実の娘さんにして痴女皇国国土局建設部長で、ヨイトマケやドカタスタイルでお見かけする事が多い方です…本当の正体はインマヌエル型救世主兵器M-IKLA-22とかいう代物らしく、ベラ子陛下とジーナ様の娘さんという形を取って現れたと聞かされました、ご本人から。
廃地でゾンビ化技術を持った呪術師を島ごと消毒してくだんの呪術を使えなくしたり、はたまた、かんぽの大平原を切り開いた際に連邦世界から違法開墾大豆畑をそっくり土地ごと瞬間的に移植するようなとんでもないことを平然と出来る方です。
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(うちは「その後の状況や、設計図を形にした理想」をシミュレートしついでに結果を取り替えてるような事してるだけですけどな)
と謙遜しておられますが、普通はそういうこと、できません。
鉄道建設にしても細かい路線はともかく、大まかな部分はこの方が「ほぼ一瞬で完成させた」からこそ、灸場やかんぽ大平原の開発が迅速に進んだのです。
そう…痴女皇国が進出して何かを始めた地域には、その滞在時期に程度差はあれど「必ずお越しになられている方」なのです。
で、必然的に開発や開拓地域をうろついていたり担当だったりする私とも顔合わせが多いと。
ただ…室見局長、灸場の時のような悪乗りは困りますよ、とエマ子部長の上司をじろりと睨んでおきます。
この人は下半身でベラ子陛下と仲良しなので、下半身の行動は類友なのです。
従って、ベラ子陛下のしつこい求愛や後宮入りを断っている私としては、国土局長の立場である上半身とだけ仲良くさせて頂きたいのです。
ええ、室見局長の逸話…当時の黒薔薇騎士団長だった現・痴女皇国統括騎士団長のダリアさんをその下半身で咥え込むわ後に私の友人で聖隷白薔薇三銃士の同僚でもあるジニアを産ませたとか、女官長時代に全女官の下半身と仲良くなったとかを知っていると、余計に。
(ううううううううう)
(ううううううううう)
ええ、そこで唸っているエロ皇帝とエロ女官長…室見局長は緊急の空席の際に女官長として権限を行使できる人でもあるのです…ちょっと反省しましょうか。
そして、R18版をご存知ない方に申し上げておきますとですね、私は今回知りましたけど、以前に痴女皇国内務局皇帝室長兼秘書課長…つまりはマリア様やベラ子陛下他、痴女皇国皇室の方々の日常生活の面倒と指導監督をなさっておられたという高木中将。
室見局長とは、大変に下半身の仲がよろしかったそうですね。
(ううううううううう)
ええ、後ろめたい事がありそうな人は唸らせるに限ります。
ですが…イザベル陛下に聞いていた「彼女は絶対に怒らせるな」という黒薔薇騎士のジョスリーヌ・メルランという方、私はあまり接点がなかったのですが、この方も室見局長や高木ジーナ閣下とは下半身のお友達…そして、何と私の育ての親の一人であるスペイン女王のイザベル南欧支部長陛下。
この方と子作りする寸前まで籠絡されていたそうです。
室見局長に言わせれば、痴女皇国世界の新幹線車両をフランス製…中身は日本製に等しいそうですけど…にしたのは現地事情を勘案しているというお話なのですが、私は絶対にこの人が怪しいと思っていますから。
(ふふふ、ジュンファム…それがどうかしたのかね?)
(こらーティアラ、コープシェフの気に触ることを言うなー。コープシェフはどんな手段を使ってでも目的を達成することを痴女皇国でも許されている人よ…黒薔薇騎士団の実質二重団長制度、知ってるでしょ?)
知らん。
しかし、黒薔薇騎士団の人を派遣してもらうことも多い支部に目下のところはずっぷりどっぷり浸かっていて、その政策支援をやっているのがカリブ海派遣理由であるこの中井ティアラ、その派遣元の団長にあらぬ喧嘩を売るのもまずい話でしょう。
しかもですねぇ、もはや私を仇のように思っているそこの缶詰王女と仲良しのようなのですよっ。
マルハの黒薔薇資格付与があっさり通ったのも、このジョスリーヌ団長のOKが出たからなのでしょう。
(必要があったから施工に協力したまでだ。ティアラ、君だって制限を外してもらえれば百万卒かつ黒薔薇資格者なのだぞ?)
ただ、私の場合はそれをすると、ベラ子陛下が来るのですよ。いらん下半身の親密なお突き合いのために。
(ふむ。パスタオンナ被害者友の会会員でもあったな。ならば君は我々の同志だ。同志は無下にはしないのが私の方針だ…よかろうティアラ、ついでに明かしておくと私は祖国であるフランス共和国と痴女皇国の仲を取り持ち、痴女皇国の技術や資源によって共和国への利益誘導を図りつつも痴女皇国に協力する工作要員の一人だ。つまりは公認の二重スパイのような存在でもあるのだ)
と、はっきり申されます。
ですが…その恩恵は今回のマドゥラ事変、そして須磨虎事変と後に名付けられるであろう一件ではっきりしました。
あれからの須磨虎、フランス共和国に所属するというクレマンソーなるテンプレス級空母の同型艦が来たのです。
そして、その空母から展開した兵士の活動によって、広大な須磨虎の原住民を一晩で一人残らず若返らせるか大人に変えてしまっていましたから…。
(マドゥラの時もすごかったわよ。わざと逃された島外の男性以外は、残らず一人卒女官化されてしまったのだから…)
ええ、連邦世界の軍人…それも選りすぐりの特殊部隊としての教育を受けた方々を痴女種にすると、どれほど迅速に恐ろしい結果を残せるか、私も知ってしまいました。
そして…今回ジャワ島、すなわち南洋島に現れた妖怪と同類が須磨虎に生き残っていたそうですが、それらは全て退治されてしまったのです…。
更には元来、連邦政府や関連軍事組織の人間が操縦室に立ち入ることを制限しているというNB由来の軍用機であるスケアクロウの操作を一部担当できるほどに、この人は痴女皇国の皇族や幹部と仲がよいそうです。
(ま、言うなれば私は痴女皇国の軍事顧問でもあるのだ。口の利き方に気をつけろなどと大人気ないことは、軍人出身者でない君には言わん。しかし、優秀なシェフにしてイタマエたる君の父親の職場は上下関係に厳しいんじゃないかな?)
などと、痛烈な皮肉すら。
(ティアラちゃん…このカエル女には直接絡まない方がいいのです…この女を泣かせたいならばあたしにチクるのですよ…)
ぬぐぐぐぐぐ。
確かに、この方を泣かすのはベラ子陛下くらいでないと難しいのはわかっております。
しかし、それをなるべく避けたいという矛盾。
(世の中には世渡りという言葉があるそうよ、ティアラ。言っとくけど私はベラ子陛下ともコープシェフとも密接な肉体関係を結んではいないわよ?)
ぐぎぎぎぎぎ。
そう、このオランダ女はその統治区域の重要性を最大活用して、痴女皇国本国の支援を必然化しているのです。
(これが政治ってもんでしょうねぇ)などと鼻高々に言いやがるし。
(だから、あんたは王女だから…)
(メフラウは平民から成り上がったわよ。それに王女だからと言って、その地位を安堵してもらえるわけがないのは旧・南洋王朝の王家の人間の現状を見ればはっきりしているでしょ?)
そう、この女がメフラウと言っているオリューレ局長には茸島時代、私もお世話になっています。
(仕方のない子供だな。まぁいい…イザベル陛下のお気に入りである君だ。無下にはできん。ティアラ、君はプランセス・マルハレータとは似て異なる立場なのをまず理解すべきだ。このプランセスには後がないのだ…もはや南洋王国をその手中に収め、球根詐欺国を平定した妹君と姉妹で南洋王国の開拓体制を構築して痴女皇国に貢献するしかないのだよ…)
なぜにイザベル陛下を…と考えて思い当たりました。
そう…イザベル陛下のお名前をフランス語読みするとエリザベート・デ・ヴァロワ…フランス王家のご出身なのです…。
(ま、イザベル陛下を本国がどう扱っているかは機密事項だが…ただ、陛下はスペインのシンカンセン開通に先立って、何度か我がフランス共和国を訪ねておられる。むろん目的は鉄道建設に関係した諸々だ。そして連邦世界のヴァンセンヌやブローニュの大掃除、いわゆるヲカマ作戦に従事頂いた一人でもあるのだ…ティアラ、わかるかね。君は人脈というものに留意すべきなのだよ)
では、なぜ政治で痴女皇国に関与なさらないのでしょう。
(ティアラ…コープシェフは職業軍人というものよ。やろうと思えばやれるだけで、軍人の方がいいという選択をしている人なの)
(軍人でも政治家やらされとるうちへの嫌味か…)
(わわわわわ!ジーナ閣下は別でしょ…)
(うちは傷ついた。NBで苦労を重ね、TGVのノックダウン生産工場の立ち上げや従業員確保にとどまらず、ルノーとおっさん自動車の合弁会会社設立に製造工場立ち上げ、あげくタレスにAMXにダッソーに…)
(小官をいじめないで下さいよ…)
(そう思うのやったらジョスリン。NB島流しで辛酸を舐め苦労を重ねておるこのうちへの対応、何をすべきか。痴女皇国、そして痴女宮にも長い貴官であれば、このうちが皇帝室長を任じられて娘どものお尻を蹴っていた時代の思い出が心安らかに浮かぶはずやねんけどなぁ)
(小官用のアルルカンはクレマンソーに搭載しております…)
(とまぁティアラちゃん。軍人とは階級に支配されるものでな。マルハちゃんもそこは理解しておくように)
…あー、ジーナさんはこういう人ですよねー。
(まぁ、あんたにしてみたらネチネチやられんのが一番にこたえる話やろ。化け物に乗っ取られかけた件はともかくとしても、うちからアドバイスしたる。これはベラ子にも言うとんねんけどな、自分でなんでもかんでもすんな。あんたの場合は不得手を誰かに庇うてもらう方が理にかなっとるやろ)
(まぁ、うちの母はあのアルトさんを従えていた…いえ、今も飼い慣らしている人物です。その手腕を全て真似ろとは言いませんけど、参考にしてもいいと思いますよ)
とは、ベラ子陛下のお話。
「それとマルハちゃん。この盆踊り期間が終われば、ティアラちゃんは再度カリブに戻りますから、マルハちゃんとは直接の接点がなくなるでしょう。そして、ジョスリンやマルハちゃん自身が言っていた通りで、ティアラちゃんとマルハちゃんは歩む道が全く異なっています。オリューレさんの茸島時代の教え子という以外の直接の関係性はなくなるようなものですけどね…)
まぁ、お互いを気にすんなということでしょう。
で。
「点数稼ぎに協力したげるわよ。明日朝はジョクジャ宮殿の朝礼日なんだけど、参加すんの?」
と、にっくきマルハに言われます。
「メフラウにも許可もらってます。あとはティアラ次第。それと…ベラ子陛下も視察を希望しておられます。ですので明日は…ベラ子陛下と室見局長ですね、朝礼視察希望者。コープシェフとジーナ閣下はこの後で何かをなさる分、明日のこれはドゥーハン、と」
「あのエロ儀式かよ…」
「ただ、あなたにはその後…本来はカルノとメフラウがやっていた朝の巡回を見せておく方がいいだろうと言われています。この巡回の効率を上げるためには、朝の儀式の後が一番いいのよ」
ええそうです。
直接には見ていませんが、オリューレ局長から映像は見せてもらいました。
その時々によってやってる内容は変わりますけど、基本的には新人歓迎会プラス朝礼です。
ただ…下半身で行う朝礼なんですよね…。
「この儀式で漏れた淫気を王宮東側の少年少女居住地区に導いて精気収集成績を上げるのと、そして宮殿勤務を希望する者をファッケネンするのよ…あそこの子たちにとっては、我々の朝礼の影響を受けて人生を決める、重要な儀式なのよ…」
ああ、メフラウから聞きました。
自分の人生を自分で決める、せめてもの機会を与えるのと…そして隣の芝生が青く見えるかどうかを試す場であると…。
王宮でのあれこれを横で見れる…東側住宅の備品である映像表示モニタでは朝礼光景が映し出されるのですね…少年少女の中には、作業員や農場労働者などのいわゆる一般国民の生活を拒む者、たまに現れるそうです。
そして、王宮側では朝の朝礼の痴態を少年少女に見せるのみならず、王宮内での出来事はある程度まで東側で住んでいると見える聞こえるようにしているそうです。
で、実のところは王宮入りすれば厳しい女官教育が待ち構えているのですけど、その結果として女官生活を満喫しているようにだけ見える女の子と…そして一部の男の子にとっては、厳しい人生の選択が待ち受けているのだとも。
ですから、カルノと局長は、王宮勤務希望の男女の自宅を訪問してメリットデメリットをきちんと説明した上で、それでも良いならばと、強い希望を示した少女をそのままウサギ号という小型自動車の後席に乗せてそのまま王宮に、時にはボロブドゥール寺院に連れて行ってしまう事もやっていたとか。
で、局長とカルノが仮死状態保管措置を取られている現在、この仕事はなんと、マルハが一人でやっているとか。
(宮殿騎士や、いてるならディードにも頼んでるわよ)
(つまりティアラちゃん…マルハちゃんはこの朝のスカウトの実態を見せておくことで、先日の灸場視察の返礼をしたいと思っているのです…逆に、南洋王国の女官生産工程とその付随業務を見せておくことで、ティアラちゃんのお仕事のヒントになればというお礼返しなのです…)
ええ、ベラ子陛下の口調はいつものそれですが、相手の善意は善意できっちり受けておけという事でしょう。
言うなれば、真面目なお説教の部類。
(ティアラ。暴君には抗う権利もあるのだ…あの赤化光線ほどではないが、我が共和国も本当のところはともかく、一応は暴君を打倒して民衆の政治を作った歴史がある国だ。まぁ…その反動で、完全に赤くはないが都合よくア○の独裁政治を部分的に取り入れた面はあるんだがな)
と、ジョスリーヌ団長が入れ知恵して下さいます。
(人が真面目に話をしておる時にっ)
(その善意の裏にティアラをかどわかす下心がないと言えるのですかぁっ)
背後ではりせんムチと実弾が飛び交っておりますが、いいのでしょうか。
(普通ならこれを喰らえば人は死ぬ。だが、このパスタ女相手にはこんなもの、オマツリのギンダマデッポウのようなものだ…それに、私は無効な攻撃を行う無駄な人間ではない…)
ええ、ベラ子陛下のはりせんムチをブロックしているだけでも凄いとは思うのですが、なんか陛下の挙動がおかしくなってきました。
具体的には、陛下が団長の射撃を回避する行動、ムラが出始めているのです。
(こ、このカエル女…インポタケ粉末弾をっ!)
え。
よく見たらジョスリーヌ団長の発射した弾丸、ベラ子陛下に当たる直前で勝手に弾けています。
(ふふふふふ、ティアラ、今からこのパスタ女が言動一致の行動をするかよく見ておくのだ…人は本音で生きる生物でもあるのだ…)
ちょ、ちょっと待って下さいよ!
それ、私に来るんですよ? とばっちり…。
「ティアラ、人は嫌なことでもする必要があるのよ…」
「マルハに言われとうない…ぎゃあああああ陛下、敵はあっちですあっち!」
「なるほど、カエル女もやりますね…私と争うと見せかけてティアラちゃんをさらわせるとは…」
(ふふふふふ、あのティアラが泣く顔を合法的に見せて欲しいのよ!それにはベラ子陛下を動かすのが確実なの!)
て、てめぇえええええええ!
…やっぱり許さんからね!
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で。
翌朝。
ええ。
詳しくは言いませんし言えません。
ジョクジャ宮殿の花離宮名物という花開きとか花飾りの儀式とかいう狂った新人女官配属歓迎会、私もきっちり味見とか開通という言葉で表されること、やる側に回らされました。
まぁ、おかげで昨晩はベラ子陛下に「明日はこれに誘われてるでしょうがぁっ」と説教ぶっこめましたので、私の貞操は守られたのですけど…。
で、この儀式では、痴女皇国で改良されたケシの花を使います。
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そして、私は今回初めてタマン・サリという南洋国王専用離宮の中を知ることになったのですが、この離宮部分は聖院学院の茸島分校が一時期そうだったように、完全な箱型をしていません。
その中庭を囲むように建物が配置されています。
で、中庭には大きなプールが存在します。
このプール、正面の王居なる建物…今はマルハが使っているそうですが、かつてのオリューレ局長やカルノの執務室だの、この二人に加えてマルハやディード、さらにはアニサやベテハリの王宮側居室までがここにあります。
その二階の執務室から直接にプールへ降りて来れる坂道が設けられている他、プールサイドには植木鉢があって花が植えられています。
ええそうですよ、この花は全てその、ケシの変種…アヘアヘンやヘロヘロインなどといった発情性物質の原料となる樹液を出すしろものなのです…。
「チンポピーの品種はメフラウが決めたんだけど、この花の指定自体は痴女宮本宮だから…メフラウは反対していたからね…」
ああ、皆まで言うなとしか。
特に、その花の名前を言うのを私は避けてたのにこの王女はぁっ。
そして私はプールで体を洗った後、マルハについていくように言われます。
正面の離宮付き女官舎から地下に降りる坂道を通っていくと、その先は警備の改札を介して地下の駐車場につながっているとの説明を受けます。
このジョクジャ宮殿、灸場のカバーニャ要塞監獄の半分くらいの面積があるそうですけど…その大半は敷地と道路や濠に回されており、建物だけで言えば台風対策を兼ねた平家構造または非・高層建築構造が主体というのもあって小ぢんまりした印象です。
(灸場はあそこで大量の罪人を捌いているでしょう。だから規模や効率を比較するならボロブドゥールを参考にすべきよ)と、マルハにちくりと言われます。
しかし…オリューレ局長が細部に至るまで仕様やデザインをチェックされたというだけはあり、カルノと局長が日頃使う通路にはおよそ階段というものがないなど、欧州系の建築とはまた違う趣味性があるようです。
で、今回は恐らく、誘いに乗って王宮勤務を希望する少年少女は現れないだろうということもあって、見学を兼ねたマルハと私の護衛としてジョスリーヌ団長が同行される模様。
…のはずなのですが、なんでベラ子陛下まで。
「あたしもここをちゃんと見るのは初めてなのですっ!」
さよですか…。
ですが、マルハはすたすたと歩いて行くと、警備改札すぐそばに停められた小さな車のドアを開きます。
「この車で視察をするのは、メフラウの意志を引き継いだ私の義務でもあるのです…もし、ベラ子陛下と団長が狭いと仰せであれば、申し訳ないのですがセコいや号をお貸ししますので、後方を同行願えますか…」
ええ、一切の文句は言わせないぞという強い意志で、マルハは宣言します。
そして、そこまで言い切る理由を私は知っています。
この車で、局長は運転を練習することを兼ねてカルノと二人して出かけることが多かったと聞いているのです。
言うなれば、このウサギ号という白い小さな車は、マルハにとっても局長とカルノの思い出が詰まった宝石箱。
この車を受け継いで仕事で走らせるのが自分の責務であると、マルハは言っているのです。
ぶっすーとした表情のベラ子陛下と、それなら仕方ないなという顔で後ろに乗り込んだジョスリーヌ団長を乗せたそのウサギ号ですが、マルハと私の身長をなるべく縮めて座席を前に出すことで対応。
「この車で早朝のジョクジャ宮殿東側街区を走るのが日課のようなものだったメフラウとカルノですが、私が同行することも多かったのです。ええ…宮殿勤務を希望するのは大抵は女性だけ。だから、あと一人を乗せればそれで用は足りたのですよ…」
そして、二人をイチャイチャさせるために、敢えて局長とカルノを後ろに乗せて自分が運転に徹するする事もあったと語るマルハですが。
「カルノとメフラウに残された時間が少ないかも知れないということで、私にも配慮する心はあったのです。そして、二人の行為によって東側住民の少年少女を励起させる効果も期待できましたから…」
慣れた手つきでその、緑多い住宅街…灸場のハバナ西側街区はもとより、カランバカのそれよりも余裕ある区割りの街区の中、ウサギ号を走らせて行くマルハ。
「セコいや号や壊され号が使えるようになっても、二人はこの車を好んでいました。そう…まさにこの車こそが、二人が育んだ愛の時間の象徴でもあるのです…私も、この車の隣に乗せる人物が現れるかどうかはともかく、この車を末長くこの用途に使うことを強く強く希望しています。いつか、メフラウとカルノがこの車に再び乗る日のためにも…」
マルハの目にも涙。
そう…この独り言に近いマルハの告白は、明らかにベラ子陛下、そして本宮の人々に向けたもの。
何とかしてカルノの治療と復帰を願うその心は、余すところなく私にも読める状態にしています、マルハが。
そう…この車を知る者には、このウサギ号こそが南洋王国…そして南洋行政局の象徴でもあったようなのです。
「ボロブドゥールに行くときもこれでしたからね…」
「極論を言おう。プランセスはマダム・オリューレとギャルソン・カルノのためにこのラ・ラパンなるクワドリシクルとジョクジャ宮殿…そして南洋王国を維持することを決意し、二代目南洋国王と行政局長の地位を志願したのだ…彼女たちの復帰までの時間を稼ぐために…」
そうです。
こいつ…マルハレータは、本当に「ただ、それだけのために」南洋王国を自分が統治すると言い出しているのです…。
それ以外の一切を望まないかのようなその、決意。
「それ故に、この私もプランセス、いやレーヌ・マルハレータに力を貸しているのだ…私とて、決して国家間利益だけで動いている訳じゃないんだよ、ティアラ…私にも聖女認定は出ている。しかも…どうやら、あのジャンヌ・ダルクの血統のようでな。私はどうやら、自分が認めた主君や神に仕える運命にあるのかも知れん…」
(ティアラ…ジョスリンは決して単なる冷酷な冷血女ではありませんよ…)
と、イザベル陛下にも言われる始末。
「私は、名目的にもカルノの正室で王妃。二人がこうなった後はたとえ暫定と言えども女王と局長への就任、アニサの賛同を得て本宮内務局に申請済みです。ベテハリも含めて、ボロブドゥールの地下に眠る三人を守るためにも私の努力は必須でしょう…」
そう、ここでベテハリの復帰を諦めることは、ベテハリを可愛がりアニサともども育ててきた一員であるベラ子陛下にとっても、非常な悔恨となるでしょう。
あなたはそれでいいのですか。
無言のうちに、この女はベラ子陛下にすら圧力をかけているのです。
…確かに、カリブで私に啖呵を切るだけのことはあります、このアマ。
しかも、私と違ってベラ子陛下に特段の寵愛を向けられているわけでもないのです。
むしろ、向けられようにも接点がなかった立場。
更には、特段にベラ子陛下に媚びようともしていません。
(これが政治ってもんよ。それに、私が殊更に色仕掛けまでをする必要がないように、メフラウは南洋行政局のシスティームを組み上げていてくれたの…)
そう、この女はオリューレ局長の築いた全てを活用しているのです…。
灸場、そして海賊共和国は米大陸統括本部管轄ということもあって、比較的潤沢に本宮の支援や協力を得てその体制を作り国としての体裁を整えて来ました。
しかし、南洋行政局は茸島時代から、オリューレ局長、そしてディードリアーネ警備本部長が主体となって諸々を組み上げ構築して行く体制だったのです。
(慈母寺の事もあったから、大規模な人員支援を得ることが難しかったのもあるのよ…だから本宮に見捨てられたとかではなく、あくまでも機密保持のためにも南洋行政局主体で事を進める必要があったの)
と謙遜される局長ですが。
「茸島の神学部やインポタケ栽培施設は本宮やファインテックの事業と密接に関連しています。慈母寺とは宗教制度も異なりますから、あの一体についてはアンヌマリー、そしていずれはジャンヌ任せとなるでしょう…しかし、それ以外の茸島の一帯は全て、メフラウが行政制度を組み上げた当時から大きく変わってはいません。むしろあそこが安定していることこそが、他の島を平定して統治する力の源でもあるのです…」
ええ、認めますよ。
こいつ…マルハレータは生まれながらの政治家であり、王の立場だって。
ですから、私は完璧にこいつを真似したり追いかけるのは逆に危険でもあると言えるでしょう。
しかし、こいつが局長の仕事を引き継いでやっていることは、灸場にもある程度は応用が効く。
局長もそれがわかっているからこそ、ジョクジャ宮殿の朝礼とセットでこの東側街区を見る事を奨めて来られたのです、強く。
見れば、朝の出勤なのでしょうか。
自転車や徒歩で家を出て行く少年…そして場合によっては少女も同行しています。
この少年少女は北街区の工場や市場、そして何より近隣の農場などで働いて一般の南洋王国住民としての生活の基礎を学ぶのが第一の目標にされているそうです。
いわば、一般市民としてのエリート育成環境がこの東側街区であると教わります。
その目的自体は、ハバナ西街区とほぼ、同一。
その少年少女たちに手を振って挨拶するマルハ。
ええ、こいつは王妃…そして女王として、確実にこの少年少女たちに認識されています。
向こうの敬礼の姿勢や態度でそれが理解できますから。
「ティアラ…君はいずれ、灸場を…そして中米を離れるかどうかで今後が変わるだろう。君も聖隷騎士団員ならば、いつまでも灸場に関われまい…君が成果を上げるべき場所は灸場だけではないのだぞ…それを理解したまえ」
ええ、ジョスリーヌ団長のご指摘の通り。
私はいずれはエンリケの親離れのためにも、灸場を離れる必要があるでしょう。
(尻出帝国の支援の話も来てますからねぇ…切実は切実なのですよ…)とは、ベラ子陛下にも言われておりますし。
ただ…今後はマドゥラ族の牧畜技術、特に牛に関する件を重視した通商局の意向もあって、北米大陸やアルゼンチンにマドゥラ女性を移住させる話もあるようです。
ですから、マルハとは完全に縁が切れてしまうわけでもないようですね。
差し当たっては私の立場では、局長とカルノを常に見ていることはこれからも難しいでしょう。
悔しくはありますが、マルハに任せざるを得ないと思います…。
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そして再び、アジスチプト飛行場。
ベラ子陛下の飛行時間稼ぎということで、私はスケアクロウに乗って灸場に戻る事になるようです。
「このVAB装甲車は君の管轄下でも威力を発揮するだろう。短い区間であれば海上航行も可能だ、せいぜい活用してくれ」
と、ジョスリーヌ団長から預かった青い装甲車が後部貨物室に積み込まれた状態です。
それと…マルハからは、廃地他の牧畜可能地での雇用を依頼された、マドゥラ族の女性数名を預かりました。
この、カウガールとしか言いようのないスタイル抜群ですがアジア系の顔立ちの女性と、こちらの地元男性の交配によって生まれた子供たちで、中米地区の男女の容姿を更に磨き上げることも預けられた目的の一つだそうです。
「私から渡せるのはこれくらいでしかありません。あとはあなたが見聞した内容…そしてメフラウと共に生活した時の経験や知識が全てでしょう。健闘を祈ります」
ディードリアーネ橙騎士団長、ジョスリーヌ黒薔薇欧州分団長、そして…ボロブドゥールから来てくれたアニサと…何よりマルハが見送る中、私はスケアクロウに乗り込みます。
このスケアクロウ13号機は聖院で使われていた機材でもあり、痴女皇国への編入から間がないこともあって完全な痴女皇国仕様への更新工事が行われているかを点検する意味もあります、今回の飛行。
ですから、本当はベラ子陛下と同じ飛行機に乗りたくはないのですが…。
(ガマンやシンボウも日本人の美徳でしょ…)
(ベラ子陛下の相手してから言ってよ…)
などとマルハとやりあいつつも、私は指定された客席に腰を下ろします。
この席からは直接に外部を見ることはできませんが、痴女種視覚であればマルハ他とは互いの姿を確認、可能。
「ほな行こか。ティアラちゃん、ナッソーでええんかいな」
「ええ、ナッソー港のスケアクロウ用上陸岸壁で構いません。オマリー陛下にこの、マドゥラ女性をお目通りさせる必要もありますから…」
ええ、ベラ子陛下の右隣にはジーナさん…高木中将が。
「HT013からIT013に変わってもほとんどそのままでいけるはずやねんけどな。うちもライセンス更新のための飛行時間、稼いどかなあかん立場やからちょうどええねんわ」
で、ナビ席にはなぜかまたもや室見局長、航空機関士席とかいう、ベラ子陛下の後ろにはマリアリーゼ陛下が陣取っておられます。
聞けば、このスケアクロウに備わる転送機能を使うための最小限度の乗員数がこの4名であるとか。
まぁ、室見局長についてはご愁傷様であるとしか申せません。
しかし、このメンツであれば確実に、私の貞操は守られるでしょう。
きぃいいいいいいん。
そしてスケアクロウ特有の高周波音が高まり、アジスチプト飛行場の滑走路の上を走り出します。
ええ、明日からはまた、カリブでの日々が始まるのです。
ただ…いずれは再び、いえ二度三度と南米尻出国や他の米大陸各地域を巡る立場となるでしょう。
そうですね…ここ南洋王国、元来は白薔薇三銃士としての受け持ちではアンヌマリーが本当なら担当なのですよ。
ですが彼女も娘のジャンヌの成長を待って、親元へ帰投する予定。
ジニアも東欧から北方帝国南部担当として活動中です。
他の白薔薇三銃士同様、私もそれなりの活動範囲を与えられてはいるのです。
(いいわよねぇ、私はなかなかそのからくり鳥に乗る機会、ないから…)
(乗れば乗ったで大変よ…)
と、手を振っているマルハには返しておきましょう。
見送る人々が小さくなるのを特殊視覚で眺めながら、私は明日からの仕事について思いを馳せます。
ああ、本当ならば局長のそばについておきたいのはやまやま。
(私もカルノも死んだわけではないのですよ…とりあえず自分の仕事をこなしてらっしゃい…)
ええ、この飛行コースだとボロブドゥール寺院の南側上空を通過します。
(それにティアラ、あんたはエンリケくん以外の孫を期待されてるんでしょ…うちにかまけてるヒマはないはずよ…)
ううう、アニサ、あんたはベテハリがいなくなってもいいの?
(もともと痴女種になった時点で男を看取る運命でしょうが私らはっ。それに…あんたは悲しむべき相手をまず見つけてからこの話題に参加しなさいっ)
(わーいアニサちゃん正論ー。だからティアラちゃんは後宮にですねぇ)
(ベラ子の私情入りまくりやろそれ…それにお前、この送迎が終わったらうちとマリ公に同行して本体はNBに戻すからなっ)
(ひぃいいいいいいい)
そうですね、皇帝陛下には皇帝陛下のお仕事をして頂くべきでしょう。
ただ…女王の仕事が否応なく山積みであろうマルハには、同情すべき点も多くありました。
もはや私とマルハでは色々なことで立ち位置は違うと思いますが、彼女の成功を願わずにはいられません。
聖隷少女団改め聖隷騎士団員としても、妹さんのウィレミーナ殿下は管轄内ではあるのですし、そちらの絡みで接点もあるかも知れませんし。
(あいつには少しは苦労させときゃいいのよ。ま、どうしても困ったのなら私を訪ねなさい。球根詐欺王室としては第二王位継承者だから、王家の子種は下賜できるよ)
(最後の手段として考えておくわ、ありがとう)
ええ、私は王やら女王の子種、既に貰い受けてえらい目に遭わされた立場。
この上またぞろ女王とか、果ては痴女皇国皇帝なんぞの子種など頂けばうちの父母に重ねていらん心労を与えてしまうでしょう。
(逃すまじ中井ティアラ)
(その熱意や情熱をもう少し別の方向へですねぇ)
(やかましい。ほれ、カリブの朝に合わせて向こうに着くから転送処理に入るでっ)
(お手数おかけします…)
(まぁ、海賊共和国もナッソーも久々やし、オマリーさんらの顔を見とくのも悪くはないやろ。気にせんといて…)
そう言えば、ジーナさんも海賊共和国の設立には関わっておられたのですよね。
行けばそれなりに歓待して貰えるでしょう。
私も父に、今から戻るから何か作っといてと頼むことにします。
(鶏焼くくらいでええで)
(かーさんそれ山賊焼き)
こないだの一件以降、養殖や量産のめどもついたコンク貝でもご馳走するように頼んでおきましょう。
そして、再びマルハが…そして、局長とカルノがナッソーに遊びに来れるように祈ることにします。
神様、どうか再び二人に愛の日々を。
アーメン。




