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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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南洋残酷ものがたり〜缶詰王女奮戦記〜・7

さて、謁見(えっけん)について。


ちょっとここで脱線がてら、私・マルハレータの生まれた時代の球根詐欺国の王室が使用していた宮殿についてお話しさせて頂きましょう。


まず、公的な宮殿としてアムステルダム宮殿が存在します。


対外…他国王室や重要人物との謁見もここで行います。


そして、王または女王の執務用としてノルトアインデ宮殿がハーグ市内に存在します。


私の時は父王が使用しておりましたけど、王単独で会う人物…特に私的な立場で会見する人物が存在する場合、ここへの案内状が届きます。


で、私らはどこに住んでおりましたのか。


ハーグ市内に存在するハイステンボス…日本の方にはハウステンボスと申し上げるとご理解を頂きやすいそうですけど、私が王女であった時はここが王族の居住宮殿になっておりました。


このハイステンボス、アムステルダム宮殿に比べれば、小さいのですが庭園も整備されており、いい場所でしたよ。


そして、アムステルダムやハーグからは馬車を走らせても1日仕事ですが、主に夏季の避暑に使っておりましたヘット・ローという別荘めいた避暑宮殿が内陸部に存在します。


これ…私ども球根詐欺国では、くだんの球根詐欺で儲けた商人の上がりを追徴課税して巻き上げた銭を建設費用に充てて…いやもとい、増収の一部を投入して建設したそうです。


このヘット・ローについてはフランス王国のオルリー宮殿やヴェルサイユを造成した設計師や建築士を招いて庭園を含めて作らせたので、フランスの様式が大きく取り入れられています。


ここ…私の妹のウィレミーナがものすごく気に入っていて、自分の居宮にしたがっているのです。


ですが、現状では通勤とかいう行為が必要になるため、占領が成功しても常住は厳しいでとか周りに言われているみたいです。


ふん、あそこは私も目ぇ付けとるんじゃいっ。


とまぁ、早くも姉妹で資産争いをしそうな球根詐欺国の今後についてはともかく、謁見です。


このジョクジャ宮殿での謁見手順については、メフラウ・オリューレが眠りにつくはるか前…造成時からその手順が検討され確立されていました。


即ち、基本はここで人に会いません。


特に、平民とは。


なぜならば、南洋王とは南洋慈母宗の開祖であるアニサに認証を受けた者が即位するからです。


そして南洋慈母宗という民衆向けの宗教が存在する以上、平民は困ったことがあれば慈母寺に相談に行くか、その町の代官がいる役場…行政庁舎を訪ねるべきであるとされたからです。


言うなれば、何も南洋王に請願しなくとも、まず南洋王を南洋王であると認めた慈母寺が南洋王国の民衆を導く立場にある訳でして、その慈母寺の依頼で執政と代官任命をやっているのが王宮の立ち位置であるからです。


ですから、民衆が私やメフラウ、そしてカルノに直訴すること自体がまず、異常な行為であり正規の請願なり要望なりを出す道筋としては間違っている訳ではあります。


そして、そんな行政の仕組みの一方の頂点たるジョクジャ宮殿の正面の正殿での謁見は、各国要人や使節が「公式の立場で正装した」メフラウとカルノにお目通りする事を前提としています。


そして、王居一階の謁見室は、カルノの在位時代にはカルノやメフラウを訪ねた人物…即ち痴女皇国関係者との面会の場とされました。


この謁見室が、プールに繋がっていて、来客をそのまま助平接待に引っ張り込める構造になっているのもこれが原因です。


要するにカルノまたはメフラウのような南洋王国王家の人物は、代官たちを統治する立場であって、平民とは直接に接しない立場なのです。


まぁ、物理的にジョクジャカルタ駅を境目にして南側、即ち王宮が所在する一帯は例の助平空間なので一般人を入れたくないということもあるのですけどね。


ですから、王への直訴に及んだクヤンなる怪しい人物の行動、王や王妃に直接話をするか、または何かを検閲(けんえつ)なしに手渡すという行為の是非はともかく、その目的を完遂する意味では正しい行動なのですよねぇ。


ええ。


ジョクジャカルタの平民…いえ、大多数の南洋民は、盆踊りや年始式などの儀式でもない限り、南洋王の姿を直接に拝謁(はいえつ)できる機会は極度に限られているのですから。


ですから、王宮東側の少年少女(おねしょた)居住区、ここは本当に特殊な場所なのですよ。


でまぁ、件の怪しさ全開、何をどう考えても只者ではないクヤンなる自称まじない師との謁見ですけど、仮に会う必要があっても宮殿で会うことは…メフラウなら絶対に避けたでしょう。


よほどの勲功(くんこう)を挙げた平民を表彰するのでなくばまず宮殿には入れるべきではないし、そうした勲功を挙げた平民であれば、むしろボロブドゥールに招いてアニサ臨席の元で顕彰(けんしょう)すべきではと言い出されるはずです。


ですが、初代様は申されます。


おもろいから招け、と。


よしんば本当に死霊魔術師であったとしても、私が対処してやるからと。


(どないして黒薔薇の目をごまかしたのか、あたくしのきょうみはただそれ一点ですわねっ。まぁ、そこまでやれる者なら上手くすればかいじゅうしてしもべにしてやってもようございますわねぇ、ほっほっほっ)


(わかるでしょマルハちゃん…このおばちゃんは、迷惑モードに入った姉以上に迷惑おばちゃんなのですよ…?)


(マリアヴェッラもたいがい、めいわくなち○○をふりまわしておる立場でしょう!)


で、喧嘩を始めようとしている偉い人と、その姪に当たる皇帝陛下との間で飛び交う流れ弾は避けたいので話を進めます。


そして、私が宮殿騎士団長でもある訳ですから、ジョクジャカルタ駅の東西各一箇所にある柵門…関所に現れてその招待状らしきを見せた者、すなわちクヤンを通してやる処置を取り、到着を待ちます。


さて、在外貴賓がジョクジャカルタ駅またはアジスチプトに到着した際の迎えの車の差し回しはもちろん、万一の平民顕彰(けんしょう)をジョクジャ宮殿で行う際にはこちらから車なり牛車なりを回して招いてやるべきでしょうが、今回は状況が状況です。


マドゥラ事変の後でコープシェフ・ジョスリーヌが「こういう物も必要かも分からないから」と置いて行かれた数台の特殊な車のうち、青い色をしたVBRG(Véhicule blindé à roues de la Gendarmerie)なる、如何にも無骨そうなくるま…装甲車が選ばれました。


この見るからに物々しいくるま、フランキレイクの憲兵…ジャンダルメリなる治安担当兵団で使われていたものだそうでして、場合によっては要人かつ犯罪者や、はたまた要人の絡んだ犯罪に絡む証人の輸送に使うこともあったようです。

https://twitter.com/725578cc/status/1686192459163045889?s=20


(取り外すこともできるが、正面の鉄板を下ろすと、暴徒の群れや暴徒が作った垣根に突っ込んで無理やり排除できるようにもなっていてな…)


ええ、こんな恐ろしい使い方をされるくるまが必要だったのはよくわかります。

挿絵(By みてみん)


(あと、その鉄板付きのVXB-170だけでなくVAB…フランス陸軍で使われていた車両と同型車も置いておこう。波が荒れていなければ船のように浮いて川や海を渡る(ハイドロジェット)仕掛け(標準装備)も備わっている。見ての通りの悪路走破性があるし、この南洋の地はもちろんマドゥラやスマトラでも使い道はあるだろう)

挿絵(By みてみん)


そうですね…壊され号やセコいや号とも引けを取らぬ大きな車体の四隅につけられた大型の車輪に、底を擦らないためであろう車体の底の高さ。


私のような素人が見ても、暴徒鎮圧のみならず、荒地や砂地に突っ込んでいく用途を思い起こさせます。


で、このくるまは運転する者が乗る部分と兵士や護送者を乗せる部分が完全に分かれた仕様もあり、今いるのは正にその仕様。


なるほど、このクヤンのような何をするか不明な人物を乗せることも出来るようになっているのですね。


(プランセス…君には明かしておこう。その3号車には敵対勢力に接触させるとまずい人物を護送する際、万一の敵襲に備えて自爆させる機能もある…起爆信号の発信機能は君の聖環に追加されているから、後で別送した爆破手順を履修(りしゅう)しておいてくれ…)


なんて恐ろしい機能が付いているのでしょう。


しかし、敵に渡すとまずい人物を捕虜にしたりなど、真剣に組織や国の存亡を賭けたいくさに身を投じた人物の話です。


それに、綺麗事だけで回らないのは商売の世界とて同じ。


気に入らぬ商売敵のある事ない事を上奏に来たり、利害相反する国の息がかかっているのを隠して儲け話に思える構想を持ち込むなど、自分たちの商いの足を引く者に目を光らせる必要とて存在するのです。


となれば、その機能は活用するのみ。


ただ…今回のクヤンの護送については危険が高いとの事で、その3号車とやらの運転は本宮所属の人物が担当することに。


(何で私がそんな危険なものに!)


(やかましいディード!正式な黒薔薇扱いになったからにはこれくらい付き合え!それに我々の服の自爆機能の存在を忘れたか?)


ええ。


コープシェフに来て頂ける事になりました。


(まぁ仕方あるまい。それに私もビクニ国から手を引く件の後押しにもなるから、その怪しい魔術師の件は願ったり叶ったりだ。せいぜい南洋島の統治を揺るがせない程度の問題児なら私には都合がいいな)


などと申される始末。


どうやら、コープシェフにとっては南洋島での問題解決に助力頂く方が、ご自身の成績や立場に都合よく働くようですね。


私としても南洋行政局での立場が今は微妙なだけに、自治権や地位を取り上げられない程度であればありがたい話です。


(つまり、仮にそのクヤンとやらがあたくしの見立て通りにほんまもんだとすれば、ディード以外にはその方がつごうがよいのですね…ふっふっふっ、マルハレータ、そなたの毎朝のあれはわたくしにも興味深いはなし…そなたの地位を安泰盤石にする手助けをいたしましょう…わたくしの教えるとおりにふるまうのですよ…)


なにとぞよしなにお願いいたします…。


(では、ジョスリン…そなたはクヤンを王居謁見室用の車寄せに連れてくるのですよ…マルハレータ、そなたは謁見室の入り口に少しだけそのおしおをまくのです…それでクヤンが苦しむそぶりを見せればおおあたりですわ…)


なるほど。はなから来るな近寄るな穢らわしいとやらずに、油断させつつ相手を見極めるのですね。


で、ジョクジャ宮殿南側裏口なのですが、ここからは地下駐車場への入り口と騎士の居住棟がすぐ近くにあります。


しかし、それらを避けて宮殿外周のお(ほり)に沿って進む道が存在します。


これは裏口側から入って来た食料やら何やらを女官舎・餐庁舎へ運び込むための搬入車が使うのがほとんどなのですが、お忍びで来た謁見者を王居の謁見室至近に通す道順としても考えられているそうです。


で、お濠と離宮の間…実はかなり離されています。


更に、このお濠の水は宮殿西側の湖から導かれている他、花離宮のプールなど宮殿で使った水を川へと流す役目があるのですが、周辺で火事が起きたり、あるいは宮殿内の火災があった際に町と宮殿双方に炎が及ばぬように配慮して設けられたと。


つまり、このお堀はちょっとした川並みに広いのです。


そして、植え込みも低くはされましたが、椰子と絶林檎をところどころに植えて木と緑と水で囲まれた王宮の演出に一役買っています。


そのゆとりある配置、我が故郷の離宮たるヘット・ローもかくや。

https://twitter.com/725578cc/status/1686125584014008321?s=46&t=TAQozFw7vaaKRW0p6j8SCw


少なくとも、連邦世界のジョクジャ宮殿とその周囲のようなゴミゴミした密集状態とはかけ離れた造作の庭園設計、改めてメフラウの趣味の良さに唸ろうというものです。


そう…いざという時の防衛拠点化や、周囲での災害発生など、さまざまな事態に対応した考えが取り入れられているのは普段から聞かされていましたから。


ですから地震や火災、そしてタイフーンの襲来にも対応した平屋主体の建築も、私には合理性の塊のように映っているのです。


明らかに欧州の宮殿の造作とは違いますが、肌の白い者にも決して侮れないであろう意匠の結晶のごときこのジョクジャ宮殿の建物群、私も大切にしたいのですよ…。


(ふむ。ティアラやアンヌマリーにジニア…そしてアニサとベテハリもカルノも申しておりましたが、オリューレはそなたらを大切にしていたのですね。なるほど、ベルナルディーゼ…あのくそむすめがかばうわけですわ)


(おかーさま。クソ娘は余計ですわよ。しかし、オリューレが身を捧げ丹精込めて築き上げた南洋行政局、その差配をマルハレータに任せるためにもよろしくお願いいたしますわよ…しくじった場合、雅美さんはお母様の離宮自室出入りを禁じるとの事。即ち、味噌汁と納豆はわたくしが頂きましてよ、ほほほほほ!)


(ベルナルディーゼ…母への仕打ちには思えませんわよ…てめぇらにんげんじゃねぇぶったぎってやる事案ですわっ)


(わたくしはともかく母様は神様も神様でしょうがっ)


えっと、厚労局長様。


(もっといい罰がありますよ…初代様をお迎えしてわかったのですが、いけにえの儀式めいたことがことのほかお好みの様子…くふふ、南洋行政局をこの私の采配と頂きました暁には、初代様がお気に召すお楽しみにいくつか案がございます)


(そ、それはつまり…)


(くくく、このまま正式な二代目の南洋王に私を据えて頂きますと、初代様のお好みの場所に仕立てることも可能かと…幸いにして、比丘尼国の巫女様の生産も受託しておりますからには比丘尼国との往来も可能。更には向こうの幼きヘネラール・イエツナはコープシェフに夢中とお聞きしております…ふへへへへへ)


(ぬぬっ、マルハレータ…いやらしい笑みが恐ろしいですわよっ)


(ええぃこのおにぶ娘っ。要はマルハを南洋女王にすれば楽しい儀式やあさごはんをわたくしにささげるとゆうてくれておるのです!かかる美味しい()()()()、不肖このテルナリーゼが乗らぬどうりがありましょうや!)


そう、お客様の望むものを仕入れる才覚も商人の資質。


あきんどの国たる我が生国、そこの王家の娘が商売に疎くていかがしましょうか。


伊達にカリブでティアラ相手にたんかを切ったわけではないのです。


そう、初代様への罰とは、ここでクヤンの正体を暴くことをしくじるだけではなく、私が失脚すれば無理やりにでもベラ子陛下との相乗り状態に戻るんですよそれで良いのですかという現実を突きつける事なのです。


(ふふん、やりますわねこの子…)


(でなくばオリューレが生かして手元に置いときませんわよ…マルハレータ、幸いにしてティアラ、昨日はボロブドゥール泊まりで本日灸場に帰投の予定でしたわね)


(はぁ、二代目様…それが何か…)


(ふふふ、ティアラは昨日の騒ぎを耳にしている上に、朝の日課のらんにんぐとやらで、ボロブドゥールからこのジョクジャを目指して走っておりましてよ。ここで、うちの母とマルハがその、怪しい呪術師に謁見するとか聞けば、あの子の性格上護衛だなんだを買って出るはず…ふっふっふっ、お母様…お分かりですわよね?)


(もちろん。ベルナルディーゼ、ティアラに吹き込むのです…事もあろうにマルハレータはほぼ単身に等しい身で、クヤンと相対すると…)

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