鬼さん江戸へ来る Visite d'Ogre à Tokyo・7
Bonjour Mesdames et messieurs(紳士淑女の皆様)
Démarrez votre moteur(Start Your Engine.)
…じゃなくて、ジョスリーヌ・メルランです。
ええ、ル・マン24時間に皆様を誘うつもりはございません。
フランスの車を応援して頂ければ幸甚の極みではありますが。
…しかし、あの腐れパスタ女め、何を言い出すのやら…。
ええ、例のミコさんオニ混血の件ですよっ。
ビクニ国へと送り込まれたミコさんの検品とか、一体全体、何をやらせようとしとるのやら。
小官は工場の完成品検査係になった覚えはないのです。
ふざけるのも大概にしてくれ、そう申しました。
しかしですねぇ…この完成品検査要員の育成をもって、痴女宮への帰還を承認するとかふざけた話を言われたのですよぉっ。
(ほほほほほ、三河監獄社か監獄国どちらかの労働研修を万卒昇格条件にしておるのに、連邦世界出身者のジョスリンが受けていないのは片手落ちというもの、あたしだって監獄国で働いたことは働いたのですよ?)
嘘はやめた方がいいですよ…ろくに労働してなかったでしょうがっ。
https://ncode.syosetu.com/n6615gx/39/
ええ、ええ…これが嫌がらせやharcèlement de pouvoir…パワハラでなくて何なのでしょうか。
あの女はカリブでcalmar géantすなわちお化けイカにでも食われておれば良かったのに。
マリアリーゼ陛下も、懲罰で海賊式処刑を体験したそうですし、妹君ならばイカに齧られても良いのでは。
(ジョスリンは北海道に連行して熊と戦わせましょう。無論、体力は一般人状態かつ、得物なし)
(小官はプロレスリングやカラテを極める気はありません。人類女性最強を目指す気もありません。そういう変な最強自慢や力自慢はロシア人やイタリア人に任せようとも思うのですが)
(チュニジア系フランス人にかかと落としを決めろ。ジョスリンはそう言いたいのですね)
(ロシア系イタリア人にジャーマンスープレックスであれば承りますが)
(お互い、地上最強女性を目指すのは女らしくないと思いませんか)
(テニスに類人猿が出場する昨今です。女がイカをしばいてイカスミパスタを作っても不思議はな…イカの嘴を投げるのはやめませんか)
(その熊の手は何なのですか)
いやはや全くもって、不毛の極み。
あんな女はローマ時代に遡ってライオンと戦えばよいのです。
とりあえず、私の嘆き、よろしければお聞き下さい…。
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「なぁリンド。私はビヤンクールやソショーに勤める気は全くないし、トゥールーズに勤務する気もないんだが」
「どこですかそこ。というか私はこの時代の人間の上に芋とかソーセージとかビールとか変態とかで散々な括られ方をする土地の出身。どうやら上司が申している地名、工場の所在地であろうことは想像がつくのですが」
「察しのいい部下はいいものだ。だがな、私はミカワ・エタ・キャセラルで働かされるのだろうか」
「ああ、あの監獄の国…なぜ短期間とはいえど、あそこに行って強制労働の男たちに混ざる必要があったのか、今にして理解しました」
「お前…痴女宮本宮の刑務騎士、経験しただろ…矯正部は経験してないのだっけか」
「私は女官向きとされ、警務と刑務のみでしたから…」
「まぁいいだろう。差し当たって私たちは、南洋から送られてくる女たちを如何にビクニ国に受け入れてジンジャに回して行くかの流れを早急に考えねばならんらしい。これを自身の職務とするのに大いに疑問はあるんだが…リンド、お前、これこそ請願の名に値するとは思わないか」
「ジョスリーヌ欧州分団長との連名であれば請願に及ぶにやぶさかではありません。私単独では嫌です。死ぬなら一緒に」
「嫌な断り方だな…」
「まぁまぁ、要は、送られて来た巫女が使い物になるか、確かめればよいのでしょう?」
そこに現れたマダム・オマツ。
「ええマダム。ヒヨコのオスメスを識別するよりは高度な仕事かと」
「どのようなことどもかは想像つきませぬが、少なくとも巫女ならば神事を司ることになりましょう。そして、いちどきに運び込まれる人数、おいくらになりますのやら」
ふむ。
つまり、搬入されるミコの人数で、どこを教育施設に使うかを決めるべきであろうと。
で、私にはそれなりに構想がありました。
まず、イセ。
あの広大なジンジャであれば、教育役の人数さえおれば研修センターの設置は容易でしょう。
しかし、あそこは特殊にも程がある場所であり、ガッコウなんぞを置いてよいものやら。
で、次はオオエヤマ。
あそこはオニやらモノノケの本拠地であり、従来のビクニ国ではオニに巫女を慣らすための場所でもありました。
つまり、あそこのジンジャを大きく拡張してエコールを置くのです。
「旧来はどうしておられたのですか」
「大きな神社に二女三女など、嫁の貰い手のない女をよこすのが通例でしたわね。朝廷に差し出した方が利益を得られそうだと思いついた国主や家臣、そして名主や地頭に商家が妾の子などをよこすのです」
「で、見込みのある巫女はオオエヤマに行かせると…」
「ばてれんから駄洒落宗に改宗なさいますのという疑問はともかく」
差し当たっては、ボロブドゥールでの生産女官はミコ互換。
何が何でも巫女としてビクニ国に持って来る必要はないとなりました。
即ち、逆に言えば出荷されたビクニ国側でのミコ教育の体制が整った連絡がないと、延々と痴女皇国側での必要女官として処理されていってしまうのです。
(ただまぁ、連邦世界の何億もの不要とされる人を最終的に処理してしまうわけですし、なんとなれば女官の志願者を比丘尼国に行かせる手もありますよ)
ともあれ、教育体制については支援を要請されねばビクニ国側の問題、これは変わらないでしょう。
そして、ミコ…日本神道の作法教育については、これこそ私の職務範囲の外と言うべき。
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「なんで私が巫女の制服、それも助平巫女のそれを…」
「分団長、私までもですか…」
ええ、リンドと二人して、朝のオキヨメだの掃除だのから始まる、ミコの実習を受けさせられる羽目に。
そう…ミコさんの仕事とやら、オショウガツにオミクジやオフダを売るだけではなかったのです。
ええ、逆に、比丘尼国の方での実習で良かったのかも知れません。
連邦世界の方のジャポンのミコ実習、臨時雇いならまだしも、本採用のミコは比丘尼国以上に覚えることが多数あるそうです。
そして、やはり我々ではミコの教育には不向き…ジンジャに立ち入っての仕事のための最低限の作法習得はまだしも、ミコを育成するための人材としては不適切だという我々の嘆きに加えてヒエ・ジンジャ側の判断も加わりました。
「なんで私が…旅館の仲居はやりましたけど、巫女さんまでは…ううっ」
「朕が何でまた…」
「何で南洋王国所属のはずの私がっ」
「興子…退位するてゆうてもうたおまえにはすまんねんけど、おまえがあるいみではいちばん作法、しっとるにはしっとるたちばやろ…」
「おかみ様、朕でも卜部か吉田を呼ばねばならぬ話、朕が全てに精通しておる訳でもございませぬ…」
ええ、アンペラトリス・オキコ…後に明正テンノウと呼ばれた女皇帝がヒエ・ジンジャに呼びつけられました。
そして、ニホンジンというだけの理由なのでしょう。
厚労局所轄の第二女官管理室長、マドモアゼル・勅使河原絹枝が。
更には、ヒマと思われたのかどうか知りませんが、マドモアゼル・メルコ。
なんであなたまでもが。
「南洋王国の時点で巫女さんの基礎知識を刷り込めないかという話になったのです…」
「マドモアゼル・メルコ。依頼したいことがあります。聖母教会のそれだけでもうんざりしたのに、この上南洋慈母寺の実習までは絶対に勘弁して欲しい。オリューレ局長にはこのジョスリーヌ・メルランが顔にアオスジを立てて告げていたと伝言を頂きたいのですが」
「それ、多分却下です…ディードリアーネも私も、やらされましたよ…それも、デンパサール慈母寺やジャカルタ慈母寺のような大型寺院じゃなくて、開発途上の小さな村の寺院、敢えて選ばれるんです…」
えええええっ。
嫌な予感、しましたよ。
実はアフリカ戦線には、この南洋島の山間地のような場所がいくつかあったのです。
あと、DGSEの訓練地、申し上げるまでもなくフランスの海外領土も使用します。
詳細は機密抵触事項という毎度のやつが立ちはだかるので全て申せませんが、痴女皇国世界の悪魔島…即ち連邦世界でのディアブル島が所在するフランス領ギアナ、あそこの密林も以下略。
で、ヒルだの毒蛇だの猛獣だの何だのと襲来する環境での実戦、そしてわざわざ困難な状況を設定しての戦闘訓練が当たり前のように行われます。
これが小型TAPPSを着用しての空調が効いた対NBC防護戦闘であればまだしも、通常戦闘服着用だとそれはそれはもう、色々と人の尊厳を損ねる状況に事欠きません。
更に申し上げておきますよ。
ワルトヒルディーネ他、偽穴や灸場の山間地に派遣された黒薔薇騎士団員の記憶、他の黒薔薇も共有しています。
そして、昨今ではオリューレ局長もそうですが、南洋行政局管内の黒薔薇資格者とも記憶共有がかかっています。
ええ…連中のオテラでの体験、そっくりそのまま。
あくまでも我々は軍人ないし騎士だろうと思うのですが。
(痴女皇国でそれが通用すると思っておるのですか、このカエル女さん)
(何ですかパスタ女さん…ってちょっと待って下さいよ陛下。何ですかその似合わん修道服っ)
(似合わないはジョスリンの聖母教会実習時の姿とて似たようなもん。ええ、皇帝であろうと痴女皇国女官である以上、宗教行事からは逃げられんのです。NBに聖母教会を開設する話になった以上、現地の僧職神職を養成する必要が発生しているのです…)
(ミセス・ジョスリーヌ…笑うのは禁句よ…)
えーと、マダム・アグネス。
まさか、慈母寺も。
(ええ。出来れば教会のみで。あの狂ったお寺は遠慮したかったのだけど…)
そうです。パスタ女の視覚情報を通じて、南洋慈母寺の上級尼僧服姿…これのどこが尼なのかという、売春婦ですら遠慮するであろう…タイの置屋も真っ青な状態のマダムがそこに。
更にはジーナ閣下らしい、同様の裸女に限りなく近い姿も遠景に。
(ジョスリン…この映像や画像やけど、絶対に絶対に絶対に月間痴女宮に掲載するなて、ゆっきーと雅美さんに言うといて…)
(閣下のご意向に沿いたいのはやまやまです。しかし、あれについてはマサミ=サンかマドモアゼル・ウガジンの担当。小官では如何ともし難いのです。更に申し上げますが、小官他の格好をご覧頂いておりますでしょうか。これが果たしてジャポンの類似国家の神職として相応しいものか、閣下の忌憚なきご意見を寄せて頂ければ)
(ぶっちゃけ連邦世界での八百万の神様の意見はおかみ様大暴走、これでF/Aやな…)
(女性のテンノウヘイカは流石に除外されたようですが、これ真剣に何とかならんのですか)
ええ、さすがにアンペラトゥール・オキコは普通のものらしきハカマです。ただ、見習いまたは下級職の証明であるらしい赤色のそれに文句を言っておられましたが…。
(ジョスリン。そもそも比丘尼国は女が神職の頂点やろ…精気のためには助平衣装もやむなしという結論がとうに出とるんや…貴官の申し出は恐らく黙殺拒否される、うちにはこれしか言えんのや…)
そ、そんな…。
しかし、比丘尼国の事情に明るいジーナ閣下がここまで言い切るとあっては、諦めてシュギョウに従事しなくてはならないようです…。
ええ、ええ。
ヤッテラレルカコンナモン。
そこで、私は一計を案じました。
(という訳なのですよマダム・マサミ…)
(まぁ、わからなくはありません。あたしだって今から半年くらいロンドン生活なとか1年NBなとか言われたらちょっと考え込むかも)
(その理由の半分くらいは食事であるように見受けましたが)
(というか物価たっけぇのよ、あそこ…)
(地下鉄初乗りセンエンとかいうふざけたあれですね)
(で、ジョスリン…現在、支部系統より痴女皇国本国の支援要請または請願がかかっている箇所について何箇所か、武力行使を要する可能性が高い場所について機密扱いで別途送信しておきます。検討の上で地名だけを返信下さい)
(bien reçu)
でまぁ、数時間後に私の聖環へ送られてきたごく短いメッセージの中身は、いくつかの地名だけ。
しかし、その中の一つを確認した私は内心にんまりします。
(マダム・オリューレ…マドモアゼル・メルコですがなんでまた)
(私とカルノは所定…より多少遅れましたが、欧州から灸場に至る視察を終了し、南洋王国に帰還しています。そしてメル子の副官配置はあくまでも私の留守中の補完を企図してのものだったはず。従って、内務局と厚労局に、該当人物に関する臨時の人事異動には対応可能との連絡を入れていますよ…ジョスリンの言う通りに…)
(ありがとうございます。ま、世の中とは持ちつ持たれつ。動画販売の報酬の入金も確認頂けたようで何よりです)
(あとは…ちょっと厄介な事案かも知れませんが、よろしくお願いしてよ…)
(お任せを。思い返せば厄介な事案ばかりでしたからね、小官の従事作戦は。ま…成果はお約束しましょう)
さて、私がマサミ=サンにお返事した数日後。
リンドと二人してタケボウキで境内の小石だらけの庭に、筋をつけながら掃いていく困難な任務についていた矢先のある朝のことです。
息せき切って早足で歩いてくるマダム・オマツ。
ああ、このミコ服…お作法を守る以前に、通常であれば走るには不向きですからね…。
で、紙に書かれた文らしきを右手に持たれています。
「ええと、じょすりぬ様とりんど様に、そちらのお国のだりや様名で早飛脚の文が。内容は…お二方、喫緊の事態につき黒薔薇騎士または紫薔薇騎士の装備着装の上で、可及的速やかに本宮警務局へ出頭すること。概ね1ヶ月程度の戦闘の可能性を含む出張派遣を内務局長名で任じるので、別紙の派遣地情報を予習した上での出頭を期待する…ですと。お二方、何かいくさにでも行かれますの?」




