番外編・吉原よいとこ一度はおいで 2.9 柴又の虎さん編
「さすがはとらじろう、よくやりました」
姉に頼んで取り寄せてもらった好物のタルタルステーキ…牛や豚の内臓を中心にトリターレにしたものを美味しそうに食べている虎次郎くん。
そう…虎次郎くんは餌に不満があったのです…。
で、新鮮な内臓、特に馬や豚の内臓は本当に〆たてでないと人間以外にも悪性となる微生物を繁殖させてしまいます。
そして血液。
これも、哺乳類のそれは豊富な栄養を含んでおり、ソーセージを作ったりゼリー化して料理の素材に使う利用方法がありますよね。
ただ…そこまで利用価値が判明しているにも関わらず、動物の狩猟後に血抜き処理をして、そのまま海なら海、川なら川に流してしまうこともある理由はなぜなのでしょうか。
「なるほど…確かに狼にせよ狐や鼬、果ては犬猫にせよ、なべて畜生は捕らえた獲物をその場で食いよるからな…」
「臓物も余さず食することで滋養とするよう、本能とやらで覚えておりますとは…」
「烏や百舌鳥、野良犬のように屍肉を食らうものもおるが、五臓のつくりが違うのでしょうなぁ」
「しかし家光様、虎の餌にかかるしきたりがあるとなれば、見世物小屋のあるじでは毎食毎食、豚なら豚を一頭まるごと虎のために捧げねばならぬ話となりましょう…」
「一条殿の申される通り、確かに品川宿の屠肉場の傍でもなくば、とらじらうの餌の都合は難しき話となろうなぁ…べらこ様、あると様、何か良き案はございませんものか」
このお話では、まだ十代後半の若い将軍様たる徳川家光さん、色々とお悩みの事があるようです。
せっかくのイケメンが、若白髪に侵されては台無しといった感もあるくらいの方です。
なにせ、先代の征夷大将軍たる徳川秀忠さんの後を継いで朝廷から征夷大将軍の位を授けてもらってからまだ1年と経過していない上に、お父さんの秀忠さん、家光さんからして祖父の立場である故・タヌキさん同様に駿府城という静岡のお城に隠居しておしまいに。
(何もわしを真似せんでも、可愛い孫の側におってやって欲しいのに…)
(権現様、いえお父上…そんなにも孫の顔が見たいのならば、何も日光のような辺鄙な場所に祀られんでも、江戸にもっと近いところでよろしいではないですか…)
(秀忠…あの界隈、足利由来の由緒ある土地じゃぞ…しかも藤原氏直系の封家なる智秋家が伊香保の湯を含め、上野国を実質治めておるも同じじゃろ…)
あ、痴女皇国世界では若様…智秋敬さんのご先祖様が、群馬県と栃木県の相当部の土地を朝廷から下賜された歴史となっていますよ。
(とにかく、私めのごときは父上のように、死んでなおも神様扱いはご免被りますからな…普通に人として葬ってくれと家光には散々に言うておりまする…)
(秀忠、お前にもこれ、経験してもらうからの…わしは死んで楽が出来ると思うておったが、孫のためにかくも世話を焼く役柄を任じられるとは…おかみ様、必ずや秀忠めと…それから秀頼殿も今や松平姓じゃ、あれも呼んで苦労を分かち合う役柄に任じて下さりませ…)
(秀頼殿まで巻き込んでどうなさるのですか…それならば太閤殿下を)
(お前…死んでなお、わしに猿めと冷めた仲の喧嘩をやれと? まだ信長様か、道三殿なら納得もするが…あ、今川殿は駄目絶対駄目)
(聞けば義元殿は琴に歌詠みと悠々自適であの世でお過ごしとか…)
(転生の番が巡るまでの暇潰しらしい。かといって、あれに政事を手伝わせるわけにもいかんしのぅ…これ、利家殿、鬱憤は慶次郎殿がこっちに来てからお晴らしなされい…いや全く、猿めが存命中の時から赤母衣衆らしくもなく落ち着きなき時があるとは存じておったが、いらいらしておっても慶次郎殿はそうそう早死に致しませぬぞ…あれはもはやおかみ様に、まりや様べらこ様のお気に入りであるからのんびり待つがよかろうものを…)
(しかし家康殿…わしにしてみれば慶次郎めに嫁を寝取られたも同然…ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ、おのれ、おのれ慶次郎…)
(あなた。私はちゃんと、あなたが没して四十九日の喪に服してから慶次郎様の下に身を寄せております。しかも、私の勝手ではなく、おかみ様のお達しですよ。文句はおかみ様にどうぞ)
(おまつ、頼むから慶次郎との仲を見せつけるのだけは…あの慶次郎め以外なら誰でもよいから!)
(冥土から覗き見しておるあなたの根性が気に食わぬだけです。それに、伽子さんが嫉妬深いのですし、英国の国使様の身辺警護の契約が満了となるのを契機に、お江戸は日枝神社に一夢庵を移す予定である件、あなたもご存知でしょう? 私もあの神社境内の日枝慈母観音堂住職を任じられましたのを契機に、慶次郎さんの床番をなるべく伽子さんにお任せしておるのですから…)
っと、死者の方々はともかく、巫女種化した上に、お話の通りに江戸城すぐ側の神社境内に設けられた慈母観音の番役が建前役職となった芳春院様…元・加賀国前田家当主だった前田利家さん夫人の前田まつさんのお言葉ですね。
(べらこさま…この役職も、実は例の中山法華寺事件…智泉院女中詐欺事件に関わっておりますこと、申しておきませんと…それから、日枝神社と江戸城大奥は地下の通路で繋がっております…お読みの方はお察しと思いまするが、もちろん、上様の緊急避難通路としてのお役目だけで使ってはおりませんのも…)
ええ、この、おまつさんの暴露話、よく覚えておいて下さい…恐らく、のくたとかいう大人向け擬音の枠になると思うのですけど、必ずこの日枝神社と江戸城の間の地下通路、話題になるそうです…。
で、この話をしているのは吉原神社の境内です。
前回の最後で、小塚原刑場に放置された犯罪者の死骸を食べて狂犬病に感染した野犬が暴れ狂い、群れをなして吉原を襲おうとしたのをアルトさんが察知した後のことなのですが…。
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ええ、ものの数秒で十匹を越すカーネ…野良犬は虎次郎くんを筆頭とする迎撃にあって片端から張り倒された上で、あたしやアルトさんがドレインして動けなくしてしまったのです。
で、エマ助があたしの元に送りつけて来たハンディ噴霧型チ○ポネックスを使って、犬たちに霧を吸わせました。
目的は、言うまでもなくチン○ネックスの主成分たる駄洒落菌の効果で狂犬病ウィルスを犬たちから強制排除するため。
「見よ、伴天連の秘術で業病に冒された犬もこの通り。更には上様が公方様となった祝いに贈られたこの虎も、本来は犬を退治てしまうところ、色気に欠くる流血沙汰を避けた賢き有り様じゃ」と、密かにいつもの傾奇者衣装に着替えた慶次郎さんが大音声で宣言なさいます。
○ンポネックスについては南方の秘薬との紹介もありましたが、まぁそれはよしとしましょう。
「松平殿、この虎次郎とやら、吉原に元の飼い主を訪ねる前はいずこの世話になっておったのかのう」と、傍の松平信綱さんに聞かせで聞かれる慶次郎さん。
「は、前田慶次郎殿…このとらじらうなる虎、帝釈天の使いとの触れ込みで南方はこれにおわす帝様、べらこ様の治むる巫女のくにより贈られまして、我が江戸城下の近隣にて帝釈天を祀っておりまする、下総国葛飾柴又は題経寺門前にて縁起見世との沙汰を上様がお下しになりまして、題経寺門前の見世物小屋にて善男善女の目にさせておりましたかと」
で、同じくめちゃくちゃに芝居がかった口調で、ノリノリで申される信綱さん。
(事実にござります故に…)
(信綱の申すことに間違いはございませぬ…)
「更には余の下したる沙汰、ここなおかみ様の神託によるものである。その神託にて仏の寺の門前で利益を与えておった虎が狂い犬から吉原色里を守りし奇跡、狗賓の仕業でなくば神仏の加護としか余には思えぬ。信綱、帝釈天題経寺の本山は何処であったか」
「は、先に中山宿にて起きましたる坊主どもの女性不行届騒動に巻き込まれ、あらぬ不評を被り難儀を囲うておりました中山法華寺に存じまするかと」
「ぬう、よりにもよって女色女犯騒動に巻き込まれたあそこか…で、このとらじらうによる奇跡であるが…法華寺の本尊は曼荼羅であったな…」
と、なんであそこがよりによって奇跡を起こしてくれたお寺の本山やねんとばかりに、悩んだふりをしている家光さん。
(ふふふ、日蓮宗や法華宗は単純に仏の像を祀る訳でないのは存じておりまする…)
(ですが、それではこのような椿事が起きた場合に民の信心を集めるのはいささかに不向き。いくら日蓮上人の教えがあるとは申せど、もうちっと何かしら庶民に受けるものを祀るように致せとの達しでもございますからな…)
ええ、関係者一同、おなかの中では悪人顔です。
全員、オペラの役者状態。
「上様、確か法華寺の境内には鬼子母神の像がございましたかと」
「ふむ…確かに鬼子母神はありがたき神であろうが、この場で起き申した件にて祀り上げるにはいささかに不向き」
「いえみつ。それやったら、ほとけさんの像をお前があたえたったらどうや」
と、おかみ様が入れ知恵の演技を。
これ…連邦世界の中山法華経寺の境内に高さ5mを少し切る大きさのパンチさんの像、すなわち大仏様があるのを参考にした計略なのですよ。
で、柴又帝釈天こと題経寺には文字通りに帝釈天像が存在しますけど、日蓮宗の場合は曼荼羅の絵などをご本尊にすることが多いそうですね。
ただ、いくら美しく描かれていても複雑な仏教世界を絵図で表現した曼荼羅と、どんと置かれた仏像では、大衆受けしやすいのはやはり仏像でしょう。
と言う訳で、柴又帝釈天題経寺はともかく、その本山となる法華寺にご褒美をあげて汚名返上のための口実にせぇや、というのがあたしたちの目論みです。
で「今回の虎次郎くんの一件を神仏の加護による奇跡として扱い、幕府から仏像を贈呈してやるから縁起ものとしてお祀りしなさい、あんたとこの配下の帝釈天の加護で吉原は助かったんやぞという事も宣伝してあげるから」という方向で幕府としては交渉しようとしたのですが、ここで問題になったのが、法華寺や智泉院、元々は鎌倉幕府の頃、武士の政治に反発して一言言うのが癖のようなお坊さんが開いた宗派のお寺だった件なのですよ…。
「智泉院の住職の娘たるお美代が先代公方の手つきとなったが為に、父娘にて謀事を為して公方の権威を悪用し、私利私欲を図ろうと思い付きたること不敬の極み。更に、中山法華寺においては元来なれば智泉院の暴走を差し止める立場であったにも関わらず、先代公方の怒りを恐れ幕府に事を知らせるを怠りしも不行届であると言えようぞ。が…」
「上様。上様とて公方様となりしお立場、いかに法華の大本山と言えど、公方の怒りを恐れ取り潰しに怯えるは幕府の権威を示す証でもありましょうや」と、江戸幕府の忍者頭でもある老中の一人、柳生宗矩さんが家光さんをたしなめる「ふり」をします。
「上様…言うなれば中山法華寺も智泉院住職たる日啓と娘、お美代の奸計淫行の被害者。ここであまりに厳しき罰を与えては却って法華の信者のみならず、世の不平を溜める話となりましょう…ここは一つ、虎が逃げ出したのは吉原の危急を救う為であった訳ですから、帝釈天の加護と徳を讃える形で柴又題経寺には仏像を寄進いたすののは如何かと」
(間違っても面倒を見ておった香具師の出す餌が口に合わんからと、虎次郎が逃げた件については内密に…)
(ええ、じじつをしられてはならないのです…)
「信綱、題経寺は何と申しておる」
「は。先立ってべらこ陛下にて遣わされましたる使者の方によりますると、虎の脱走による不行届の叱りを恐れておる様子にございます」
ええ、ダリアさんとペルセポネーゼちゃんに帝釈天まで、行ってもらってます。
(走っても大した距離やおませんけど、最近は楽がしたくて)
(滑空翼を使えばμακρυμύτης καλικάντζαρος…テングに思ってくれるだろうというダリア統括の計略、見事に当たりましたからね…ふふふ)
ええ、例の紫薔薇や黒薔薇の隠密行動用の滑空翼、あれを使ってもらったのです…。
で、あんなので帝釈天の境内に舞い降りたら、絶対に天狗扱いされるだろうという慶次郎さんとダリアさんの予想、ばっちり当たってました…そう、どうせ行くなら神仏の遣いのように見せた方が絶対上手く行くとの助言、慶次郎さんのみならず比丘尼国側や、この国を知る人全員が申されまして…。
「では、余が直々に住職と話をしてみよう」
という訳で、使者となったダリアさんの聖環を使って題経寺の住職様にお話をする家光さん。
「という訳じゃ…住職、お主の懸念もわかるので、ここは一旦仏像を拝領する方向で頼む。ただ…題経寺は中山法華寺が本山であろう。先の女中騒動の渦中にあり、仏徳が枯れたのかと信者からも疑いの目を向けられているその本山に、衆の信心を取り戻す事を考えてやっても良いやも知れぬな」
『ははぁっ…仏像寄進の話、早急に本山と連絡を取り、伝えまする…恐らくは上様のお言葉通り、本山は有り難く幕府の寄進を受け入れ仏像を飾ろうと致すでありましょう。して、本山よりの返答は幕府のどなた様に…』
「寄進許諾の話あらば、余を訪ねよ。宗矩と信綱に命じて城内に話を通しておこうぞ」
『承知致しました…恐らく本山の当代伝主兼住職が直参して御礼申し述べ奉る事になりますかと存じまする…』
「うむ。一歩間違えれば法華寺の取り潰しに話が進む可能性、余でも考えたかも知れぬ…これを契機に幕政を有り難う思うてくれれば良いが…その辺りの余の思い、本山住職に囁いてくれれば重畳である」
『うははははぁっ、上様の温情、必ずや併せ伝えさせて頂きまするっ』
ええ、住職さん、めっちゃぺこぺこしておられますけど。
(それはもう、今回の女中事件に加えて虎騒動、単なる脱走であれば逆に不行き届きが重なった話にもなりかねませぬから…)
(上様のご威光がそれだけ大きい上に、向こうの信者を裏切りかねぬ大逆ではあるのですよ、女中事件…いわば、他の宗派からすれば法華の醜聞を喧伝して自分の檀家に鞍替えさせることができますからな…更にはお美代の親が坊主の件でございます…)
(ええ、宗矩の調べの通りでして…吉原に文句をつけておいて、おのれは女を孕ませるとは何をやっておるかと…いや、娘として育てた事それ自体は真っ当な話であるかと思いますがな、女色を咎める宗派で子作りとか色々突っ込みどころ、余ですらも思いつくのですが…)
要するに仏像を恩着せがましく贈る筋書きなのです…直接、法華寺に仏像を渡せば、今までの「日本は滅びますぞ」という立正安国論な開祖様のお寺には有り難迷惑に受け取られかねません。
あくまでも、今回の虎次郎くんの活躍を仏様や神様の加護の由来であるとしておいて、柴又題経寺からは「うちには過ぎたる申し出でございます…だったらこないだの事件で名を落とした本山の方に寄進を頂けますと…」と殊勝にもお手柄を譲ったというか、仏徳を本山に献上する話に持って行かせたわけです。
「しかし、本当にややこしいんですね、比丘尼国の政治…姉が、あたしに噛ませなかったわけ、よくわかります…」
「加えて、これに大老どもが話に噛めばもっとややこしうなっておったのです…女中事件のせいで、奥が噛んでおるだけに、宗矩や信綱を重用する口実が出来ましたからな」
ええ、まだお若いのに、白髪すら生えそうな勢いで頭を掻かれる家光さん。
その顔には日頃の執務の苦労が滲み出ております。
(わしも、いえみつのかお見たら、せめてほもくらいは認めてやろうかとかおもいなおしたからな…)
(加えて今回は、お父様…秀忠さんの不始末の後片付けのようなもんですからねぇ…)
「ええ、上様の申される通り、今回ばかりは、あの老人どもに余計な嘴を挟めなくする方が話がまとまるかと存じまする」
「で、もう一つ…とばっちりと申せばとばっちりを受ける者共がおりまする…上様、他ならぬ小塚原刑場と穢多が…」
「うむ…信綱、宗矩。今回の狂い犬騒動はまこと刑場の管理を任せておる穢多非人の不始末ともなりかねぬ話。更には穢多とも縁のある河原者の治めるここな吉原にも害を与える大惨事ともなりかねなかったであろう。皆、余の言葉に異議はあろうや」
しーん。
そりゃ、将軍様がここまではっきりきっぱり言い切っておられる上に、この吉原中の全員が今起きたことの顛末を概ね理解している状態です。
異論や異議、出ようはずもありません。
「元来なれば矢野弾左衛門を奉行所に呼びつけ沙汰を下すところであろうが、おかみ様ご臨席の上に、巫女のくにのみかど様までがお越しになっておる中で、弾左衛門めに厳しき沙汰を余が下すもめでたくはない話であろう。ここにあっては庄司甚右衛門、風魔小太郎、両名にて河原のよしみで矢野に申してはくれぬか。次に何かしらあれば、食あたりと同じ沙汰を奉行所が下すやも知れぬので、よしなに図りたし、とな」
要は幕府としては公式的には罰を与えないから、代わりに身分制度の隅っこにいる建前の上に、吉原であわや致死性伝染病を撒き散らされるところだった被害者の甚内さんと小太郎さんが代わりに弾左衛門さんを叱ってくれ。
そして、次に同じようなことをやらかしたら今度は奉行所に呼んで食中毒発生と同じ扱いの処罰を与えるで、とも。
(まぁ実際には、弾左衛門もいい迷惑だとは思いまするがな)
(そこは小太郎殿とわたくし甚右衛門でよしなに…)
(余や信綱も甚右衛門や小太郎の尻の世話になった事もござる手前、そなたらに諸々を任せたく思う…)
なんか、家光さんのとんでもない性癖暴露が聞こえた気もしますが気にしない方向で。
ええ、庄司甚右衛門さんは偽女種状態になったり、元服前の庄司甚内さんモード…つまり色小姓と見られてしまうくらいにえろえろな男の娘状態になれる人ですし、女体化した上で巫女種と偽女種を使い分けられる小太郎さんも、家光さんの性癖に合わせた状態になれること、可能なのです…。
更には、家光さんとほもってる間柄の信綱さんまでもが、吉原の統治者2名によるあなるな性接待を受けている仲なのです…。
(いやいや、そればかりか陰間茶屋に入った新入りはまず、上様へ献上して味見頂くのが吉原陰間の掟…)
(上様の高尚なお楽しみは武家の伝統でもございまする、奥のおなごどもにとやかく申される筋合いはござらんでしょうに…)
(上様の後継を作りたいがための春日局様の言い分も分かり申すが、おなごの伏魔殿を江戸城内に作っていかがしよるのか。今回の智泉院の一件も、身体をほてらせたおなごが色小僧どものおなごあしらいに引っかかって股を開き、生臭坊主のまらに溺れたがため…)
ええ、この場にいる江戸城と吉原関係者の男性陣は正直、江戸城の大奥制度を全力で敵視しています。
で、大奥は大奥で、本来ならばほもを憎むはずです。
しかし、思い出してください。
偽女種さんたち、江戸城に貸し出されているのです。
これには先立って話が出た、智泉院関係者によるポーズズバー事件…少年僧侶や絶倫坊主の方々による江戸城女中候補準強姦に加え就職あっせん詐欺事件が絡んでいるのは、明白。
要は偽女種さんたちの中でとりわけ優秀な数名が、女中さんや奥方様方の性欲処理役として派遣されているのです…。
(むろん、陰間どもが逆に籠絡されては我らも商売あがったり。日替わりで貸し出すようにしております…)
「それはそうと、虎次郎くんの件ですが、姉から入れ知恵が…」と、姉の心話を中継します。
(えっとですね、家光さん…どうせならその虎次郎くん、いわば今はでっかくて聞き分けのいい猫みたいなもんですから、江戸城内で飼うっての、どうですか。将軍様に付き従う飼い猫って感じで。んで、執務の横に虎次郎くんが控えてるだけで、口うるさい大老連中や奥方様には無言の脅しになるでしょう)
えええええ。
(た、確かに城内であれば、この聞き分けの良い虎次郎の本性を知らぬ者には恐ろしい虎にしか見えはせぬ話であり、正直、この虎次郎、余の側におってくれば慰みにもなろうとは考え申しましたが…まりや様、ただ、この虎次郎の餌については難しきところもございましょう…)
(えっとね、さっき、矢野弾左衛門さんの刑場管理の不手際の話をしておられたでしょう。あれ、今後は長期間に渡って首や死体を晒し者にせずに、さっさと山田浅右衛門さんに試し斬りの素材として引き渡すなり、上野永久寺に無縁仏として埋葬するなりしてあげたらいいんじゃないかって入れ知恵するんですよ。そうしたら悪疫業病の元になる腐敗死体も迅速に処分できるでしょう?)
(な、なるほど…流石はまりや様)
(でね、そういう救済策を出しておいてさ、矢野のおっさんにはさ、本来ならば伝染病を出した犯罪ってことで急度叱じゃ済まないって話に持って行くんだよ…確か、食あたりでも過失致死で最悪はお店の取り潰しで店主は斬首死罪だっけ…)
(まぁ、その辺は奉行所の調べ次第ではございますな…誰でも彼でも死罪死罪と首を斬るのも締め付けに思えるとは町奉行に申し付けておりまする。で…なるほど、まりや様のお考えが読め申した。江戸の流行りとして、滋養肉鍋を出す店、増やしておったかと)
(うん。品川宿の畜肉工場あるでしょ。あそこで出た内臓を挽肉にしてもらってさ、さっきベラ子経由で食べさせてたような感じで凍らせておくんだよ。で、厨房の解凍設備で戻してから食べさせるのが第一案。そして、江戸城から品川までは虎次郎の足じゃすぐなんだから、散歩がてら品川に食べさせに行く手もあるんじゃないかな…穢多非人を城内に入れるっての、うるさく言う人もいるんでしょ?)
(まぁ、その辺りは折を見て虎次郎の餌を献上させておるとしても良いでしょう。何せ霊験あらたかな虎とあっては、虎の餌を献上することでご利益にあやかりたいと奏上させれば良き話となりますかと)
(そうそう、矢野さんにはそういう事を吹き込んで神様や仏様や将軍家に恩を着せる奉仕行為をさせるのさ…なんせ、この時代の日本だと、牛豚馬の内臓を食べる文化、薩摩以外は一般的じゃないよね?)
(左様でございます…ええ、特にあの、えのころ飯だけは…だけは…)
(まぁ、あれは肝練りやひえもん取り同様に、さつまの国以外でやるなってお触れにしてもらうとして…浪速三三四国で流行らせた、牛の腸を干して細く切ったのを入れたうどん、あるじゃん。忙しい時にさっさと食べられるからって、大坂の米問屋の丁稚さんに人気の)
(おお、秀頼殿から聞き申してございます。確かに穢多であれば臓物は手に入りやすきもの…ただ、鮮度が問題でございますな…それに、穢多の食い物が果たして上方はまだしも、江戸で流行るかどうか)
(でさぁ、こっちじゃ品を変えて、穢多飯として流行らせんのに良さげなものがあるよ。ほら、慶次郎さんの従者で元・倭寇の金悟洞さん。あの人が博多で屋台の飯屋をやってた時に、大陸風の臓物鍋を出してたはずなんだよ。香辛料で辛めの味付けをしたもの。あれの調理法、慶次郎さん経由でお願いしたら教えてくれると思うからさ、臓物料理を流行させて稼がせるんだ。で、食中毒と仲良しな部位だけにね…あたしたちが提供する洗浄剤や調理法、更には冷蔵庫がないと利用できないからね)
(なるほど、穢多だけで金儲けをしようにも少し難しいものを出させるのですな)
(でね、ここからは悪い話だけど、幕府のお墨付きを得て免状を持たないと臓物料理ができなくしちゃうんだよ…でさ、免状を貰うのに、江戸城にペット…愛玩用のけだものの虎がいて餌に臓物が欲しいとなったらさ、賄賂を考えないかな、誰しも)
(なるほど、金ではなく現物を献上させると…しかも、吉兆を起こした虎であれば虎の利益にあやかろうと致すでしょうな…弾左衛門は穢多と言えど、穢多どもから巻き上げた冥加金などの収入が五万石ほどにはなっておるはず…一貫や二貫の臓物ごとき…しかも、肥料にするかごみとして焼くしかないものでございましょう。いわば、商売のたねにするにもただ同然のもの…)
(そう、儲け話を餌にして、餌を無料でもらうんだよ…ふふふふふ)
(流石はまりや様…おかみ様が比丘尼国巡幸御免手形を出されるだけはございます…)
(更にはさ、その、内臓を洗う洗浄剤を使ってから鍋物の具にするとさ…うちの南洋島で実験的に出したけどさ…勃起力が増し増しになるんだよ…陰間やほもを相手する時にはかどるんだよ…ふふふふふ)
(それは何たる吉報。甚右衛門、小太郎…この話、日本堤の屋台でもその料理を出させる話に持っていき、弾左衛門の儲けだけではなく的屋やお主らの稼ぎ話にも出来ると思わぬか…)
(は、上様の閃きの通りとなりますかと…)
(要はその鍋、精がつくものでございましょう…なれば、食いやすき姿で供すれば売れますかと…)
で、この怪しい儲け話はともかく、あたしには気になることがありました。
そこで、皆さんには聞かれないようにクァンタムリンクで姉に繋いで質問をしてみましょう。
(ねーさん、その鍋…中華風火鍋っぽくしてますけど、要はそれ…ホルモン鍋でしょ?)
(バラすんじゃねぇぞ…)
ええ、当たりでした。
(しかし、ホルモン鍋の由来、元来は内臓は捨てるものであったことから関西弁で放り捨てるもの、即ち「放るもん」であったのではないですか。内臓を食べる欧米の食習慣はともかく、日本人の感性だと、言わばごみのような部位でしょう。そんなクズめいた部位を食すのかと怒ったり避けたりする可能性も考えられますけど)
(だからネーミングにも工夫した。いいかベラ子、吉原はもとより、品川にも陰間茶屋は存在するんだ…つまり、偽女種さんたちの売春もある)
なんか、嫌な予感もしますよ。
(つまりだな、ほもる時には珍珍の硬さも問題なわけだ。そこで、硬くする効能がある薬膳鍋を提供したら爆発的ヒット間違いなしじゃねぇか)
それはいいから、どういう料理名にしたのか教えてくださいよ。
あたしはそれこそが気になるのです。
(営業秘密だ。実際に売り出す前から広めたくねぇんだよ…)
(無理矢理にでも記憶を読みますよ…ほら、せめて読者の方にはお教えしないと)
(しゃあねぇな…掘るのがはかどる鍋、すなわち、掘るもん鍋だ)
ええ、恐らく今はNBでしょうけど、はりせんムチが勝手に伸びて、姉の頭を爽快にはたく音が伝わって来ました。
(男の尻や男の娘の尻を掘るために食べるんだからいいだろ!)
(何度も言いますけど、あたしがそういう駄洒落めいた命名に呆れてどついてるわけじゃないですからね…ねーさんの聖環の自動懲罰機能、動いてませんか?)
(ううううう)
(その設定はアレーゼおばさまです。文句はおばさまにどうぞ…)
はい、姉がしくしくすすり泣く声がしました。
まぁ、正直、比丘尼国は姉の担当ですから、変な名前で、しかもほも行為を助ける料理を流行らせるなんてことも元来はあたしが文句をつける話じゃ、ありません。
しかし、もう一つだけ注意をしたいことがあります。
確かに、ホルモンならば内臓の臭みや癖を緩和するために香辛料を使うのは理解できます。
そして、中国料理の一つたる火鍋。これも、鶏ガラスープを出汁にした区画と、唐辛子ベースの辛いお出汁で作る区画を一つのお鍋に仕切りを入れて作るのはわかります。
ですがね、あまり辛いお鍋にしたら、中米支部…海賊共和国の懲罰用とか罰ゲーム用としても流行のハバネロやジョロキアを使ったお料理、ティアラちゃんのお父さんの中井義文さんが作って現地で流行らせてますけどね、あれ食べたらお尻が腫れて、翌日から数日はあなるをあなれないのですよ?
ほも行為をさせるなら、やおい穴の健康を害する激辛鍋とか…やめといた方が無難だと思うのです!
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マリア「ならどういう味にするんだよ…」
べらこ「普通に醤油と砂糖と割り下、あと少しの唐辛子で十分でしょう…」
てぃあら「ちなみに父はあれを試作した際に、死ぬ思いを味わったそうです…」
よしふみ「いや、スコヴィル値の高い食材は俺も扱ってない訳じゃないんですけど、本場ものはやっぱりキツいですよ…よく中米地域の連中、あんなもん食ってるなと…」
べらこ「ちなみに、痴女宮でも出している泰拳仏象国由来のグリーンカレー、あれと比較してどうなんでしょ」
よしふみ「ええとですね、あれ、タイ原産のピッキーヌっていう小型の唐辛子を使うんですけど、あれのスコヴィル値が最高10万と思ってください。で、タバスコが5万スコヴィル未満です」
べらこ「ふむふむ、タバスコ以上と。では、ハバネロやジョロキアは」
よしふみ「一般向けのハバネロが45万、暴君の度合いが強いレッドサピナ種で60万近いです。で、ジョロキアが100万」
べらこ「確かに、お菓子としても暴君を名乗るだけはありますね…」
よしふみ「製品としてはブート・ジョロキアを使ったデス・ソースが10万スコヴィルだったかな。とりあえず、海賊料理としては殺菌性の高い唐辛子は使いたいんですけど、これだけ辛いもん与えちまうと、仮に無理して食ったとしても、今度は胃腸の健康を害しますからね…」
べらこ「なるほど…お尻が焼けるというのもわかります…」
よしふみ「日本で食べるものには、やっぱり日本で育てた唐辛子を使うのが無難っすよ…」
てぃあら「ガンボやジャンバラヤ、それにメキシカンライスとか、中米系の料理ばっかりなのよ…灸場…お父さん、あれ何とかならない…?」
よしふみ「炊飯器と醤油と鰹節と味噌をナッソーから送った。ティアラも女の子だろ…あとは頑張れ…」
てぃあら「そんなぁあああああ」
いざべる(ティアラ…ベラ子陛下たちが灸場に来た際には、辛い料理を馳走するのです…海綿菓子国や尻出国ばかりにかまける陛下へお仕置きする絶好の機会なのです…)
べらこ「イザベルさん、借金の利率増額」
いざべる「鬼ですか。それはともかく、へーか…カランバカ視察のついでにヨシワラに寄っただけで、陛下やオリューレさんたちの最終視察目的地は灸場なのをお忘れではないでしょうね…」
べらこ「もちろん、承知しています…それと、この後の吉原編、1回程度はアルトさん枠…つまり、R18のノクタ枠で書かれる可能性があるそうです…」
てぃあら「あたしには関係ありませんね。ベラ子陛下が来られる時は偽穴にでも出張しておきましょう」
べらこ「明日輝王国とか淫花帝国の件で灸場に戻されそうな予感もしますけど」
てぃあら「いやああああああ」
あると「というわけで、次回はおそらく、えどじょうの大奥のおはなしのようです…あたくしのおはなしはみせいねん禁止ですが、できればよろしくなのです…」




