表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/296

番外編・吉原よいとこ一度はおいで 2.7 柴又の虎さん編

「がお」


「おおよしよし、とらじろう、おまえはいったいどうしたのですか、ずぶぬれではないですか、かわいそうに。ほれ、あたくしがかわかしてあげましょう」


取り巻く人々が不安そうに見守る中で、虎を恐れるでもなく手をかざして女官種モードの放熱で乾かそうとするアルトさん。


そんなアルトさんの足元にうずくまって、おとなしくクンクン鳴きながら施しを受けている虎さん。


…で、目撃者の一人である忘八さんに話を聞くと、山谷堀を泳いで来たというこの虎さん、一直線に日本堤を駆け上がると門番の忘八さんたちが止める間もなく大門の中に入って来たそうです。


でまぁ、吉原神社の神職の方を通じて虎の抑制を図ろうとしたところ、痴女皇国ゆかりの虎さんだというのが分かって、あたしたちが呼ばれました…。


そして、この虎には見覚えがあります。


いえ、厳密に言えば虎がしている首輪…家畜仕様の特殊聖環に。


では、この虎の正体は。


「この虎は元々痴女島に住んでいた虎でして…おかみ様はご存知と思いますが、智秋記念牧場を開く際に付近の危険な野生動物をよそに逃していたのですけど、その時に何匹かの虎を姉が捕まえまして…」


その当時は修学宮が聖院学院に変わった時期でした。


で、何かを閃いた姉ですけどね、その虎たちに馬のごるし君同様の知能化と眷属化処置を施しまして、子供たちの教育用兼遊び相手を兼ねて牧場番…特に、牧場までの道の番をするのはどうかと持ちかけたのです。


何せ、今でこそトラックやダンケ号といった自動車が牛乳運搬の主力となっておりますが、その時は牧場から積み出される牛乳缶の運搬用として子供でも操作できるようにと導入されたのが、他ならぬ日本各地で林業や農業用に使われている簡易なモノレールが牛乳輸送の主力でして、勢いモノレールの沿線や道沿いの警備は必要でしたから。


(で、積荷が牛乳だけなら無人走行させた上でさ、終点でレールストッパーに当たったのを検知して勝手に停止させることもできるんだけど、牧畜実習の子供たちのアシにもしたいって事で、みかん畑仕様の貨物用の他にもさ、工事現場向けの人を運ぶ座席付きの車両も入れたでしょ…)


ええ、智秋記念牧場の用地確保や施工自体はエマ助がちゃっちゃと終わらせてしまったのは良しとしても、肝心の牧場までの道が…今の酷道1号線でも大概な道なんですけど、ゆっきーこと、あたしのクラスメートで内務局広報部長の宇賀神雪子さんが雅美さんと喧嘩しながら運転を覚えた当時は、もっと酷かったのですよ…。

https://novel18.syosetu.com/n0112gz/55/


(で、実際にモノレールの軌道敷設前に分かったけど、虎はもちろん、おっきいニシキヘビとか豹とか色々いる森の中を子供だけで上り下りさせるってのはどうよって話になったでしょうが…)


(ベラちゃん…りええの言う通りよ…あのボルネオとほぼ同じ生態系のジャングルを抜けて森林限界ぎりぎりちょい上くらいの智秋記念牧場まで行く訳じゃん…そりゃ文教局の立場なら児童の安全確保をベラちゃんとまりりに要請もするわよ…)


ええ、国土局長(パイセン)文教局長(たのきち)がですね、モノレールの沿線警備は是非にも必要だと強硬に言い張ったのです。


そして、警備の必要性には同意した姉ですが、そもそも建設や設備保守費用を下げたいからと簡易なモノレールを敷いたのに、警務騎士を巡回させたり、果ては子供たちの自主性自発性を伸ばすための教育用設備でもあるのに、いちいち騎士が同乗するのも考えものという意見も出て来て頭を抱えていたのです。


で、どないしたもんかいなと悩んだ姉が思い立ったのが大型哺乳類…それもジャングルの中で行動能力を阻害されにくい猫科の肉食獣、すなわち虎や豹を馬のごるし君や松風・野風同様に高知能化して飼い慣らし、警備役として活用することだったのですよ。


(痴女島にもボルネオ雲豹(うんぴょう)ってボルネオ島独自種と同じ豹がいるんだけど、貴重な豹らしいから、ここは虎を使おうと思ってさ…)


「それ以来…牧場と道の番をしてもらっていた虎のうちの一匹なのです…普段は牧場で飼っている家畜を驚かさないようにあまり姿を見せなかったと思いますが…」


ええ、英国の大使ご一行と、女性探検家のイザベラ・バードさんが日本にお越しになる前の準備と探検のための訓練などの事どもがあった一時期、慶次郎さんとおまつさん、そして従者の皆様は智秋記念牧場の一角に日本家屋を建ててそこにお住まい頂いた事がありまして。


で、慶次郎さんがお持ちのお馬さんに、あの黒くて大きな松風(まつかぜ)と、豊臣秀吉様から芸のご褒美に頂いたという、白に近い灰色の毛並みの野風(のかぜ)の二頭がおります。


この二頭が慶次郎さんの下に来た実情を知っている姉、お馬さんたちにとって熱帯気候の痴女島は辛いだろうと配慮をした結果ですね、牛さんや豚さんニワトリさんの飼育に着手していた智秋記念牧場の所在地、すなわち痴女山の中腹であれば、四季が存在しないのはともかく気温や湿度は日本に近いだろうということで一夢庵の分院を建設して、(うまや)もそこに併設した経緯があったんですよ。


で、ボルネオ島と同様に痴女島に住んでいた、ボルネオ虎とかいう品種の虎さんたち。


どちらかというと牧場よりもう少し下の密林を好むということで、酷道1号線とモノレール軌道の周辺に他の危険動物が近づかないように見張り番をしてくれていたのです。


で、虎の管理をどうするかという話になった際に、どこの部局が担当するのかという件が出ました。


なにせ、虎といえども痴女皇国が警備役として雇っているようなものですから、少なくとも業務報償金の代わりに餌をあげた方が良いだろうという意見が出ました。


餌は自分たちで狩りをするからいいよという虎さん側の申し出もありましたけど、他の野生動物の保護の観点からも、ある程度は痴女宮で餌を用意してあげた方が良いのではという意見が出たのです。


(そりゃ、虎ならサルや鳥どころか、下手したらサイや水牛なんかを襲うからな…熱帯の虎は泳ぐから、ワニを捕まえて食うことすらやるぞ。多分、虎次郎くんは柴又から荒川とか隅田川を泳いで吉原に来たはずだ…)


えええええ…餌にしている生き物がことごとく獰猛なのは虎自体の体の大きさからしても仕方ないかも知れません。


ですが、姉が名付けた虎次郎くんというその虎さん、今で言う東京都葛飾区の柴又から吉原まで来たんですよね…姉が荒川や隅田川と言ってましたけど、その途中に大きな川がいくつもありますし、何より直線距離でも10キロ近くはあったのでは。


(野生の虎でも連続して走れないとは言え時速75キロは出すんだぞ…それに、虎次郎くんはあたしらが眷属強化してるからチーターより速い速度で、しかも連続して2時間は絶対に走れるからな…)


まぁ、あたしたちの出す安全速度の半分の速さとしても、川を泳ぐ時間を含めて1時間もかからずに吉原に着くでしょう。それに、虎さんの方でも、聖環補助機能を使えばあたしたち女官の位置をかなり遠くから察知できますから…。


で、虎次郎くんはあたしたちが来ているのを察して、生きながらお寅様として祀られている状態…見世物とも申しますけど…だったのですが、あたしたちにお願い事があって抜け出して来たようなのです。


これは、痴女島での見回り中に虎さんでは対処できない事が起きた場合には、虎さんの簡単な連絡で騎士が出動するようにしていただけではなく、痴女種の眷属化した場合の付与能力と聖環機能によって、ある程度の距離までなら女官の居場所を虎さんの側で察知出来るからこそ、あたしやアルトさんの反応に気付けたのでしょう。


でまぁ、ティーチが心配していた虎の餌なんですけど、まず、食べるお肉の量。


(食事の量もそれなりでしたよね)


(動物園だと成体の虎1頭につき、1日あたり4キロから8キロの生肉を与えてるみたいだな。ただ、虎はライオンと違って集団で暮らすことは殆どないんだ。せいぜい子供がまだ小さい時に親が代わりに狩りをするくらいかな)


そして、これこそティーチが不安そうにしていた件なのですが、餌そのもの自体、単にお肉だけ与えれば良い訳ではなかったのです。


(虎やライオン、豹などの猫科の大型肉食獣は餌として草食動物を好むのはわかるな。で、特にライオンに顕著なんだけど、連中は獲物を倒すと真っ先に腹から食べる傾向がある)


姉曰く、自分で草を食べても消化しきれない肉食獣は、例えばシマウマやガゼールのような草食獣を倒したとすると、消化中の草が詰まった胃袋や腸、そしてビタミンなどの栄養素が詰まった内臓各器官を本能的に優先して食べるのだそうです。


(ライオンはメスが狩りをすると、子供には真っ先にそこを食べさせるんだよ。虎はある程度単独行動するから自分が食べるけどな)


なるほど、食べること自体の凄惨な光景はともかく、子育てを考えているのは何となく同意できます。


で、虎さんたちには新鮮な内臓を食べさせる必要があるということで、食肉用の牛や豚をドレインして屠殺した直後の内臓部を中心に、餌として確保してもらう事の手配を受けることになりました。


(動物園の虎の餌の肉の量が多いのは、内臓を与える代わりでもあるんだよ…流石に全ての動物園で、新鮮な内臓とか、下手すると生きたままの獲物を与えるわけにはいかないだろ…?)


そして、餌…特に内臓が欲しい場合は連絡を受けた屠畜場を管理管轄する部署である警務局で対応してもらう事にしました。


でまぁ、先程述べた虎さんたちのお仕事に話を戻しますと、餌の催促以外にも子供たちに何かあった際に聖環を使ってあたしたちに知らせることも出来るように姉が教え込んだのですが、今も虎の首輪として付けてもらっている特殊聖環を使って連絡してくれる段取りになっていました。


そして、その通信は…警務局に送られます。


つまり、虎さんたちが異常を知らせて来たり、はたまた餌をおねだりされた際の対応部署の長たるアルトさんは、その職務上からも虎さんたちを知っておく必要があったのです。


つまり、この虎さんとアルトさんは顔馴染み。


そりゃまぁ、久しぶりの再会に喜ぶ虎さんが甘えてじゃれるのもわかります。


「ふむ、それで人に慣れておるのか…確かに一夢庵の別院におった時は近くにはおらなんだな」


と、大きな虎がアルトさんに懐いているのを興味深そうに眺める慶次郎さんですが、実のところはご自身も虎を撫でたくてうずうずしている様子です。


「しかし、あると様にじゃれついておる様子を見ておりますと、虎というより、もはや大きな猫といった風情ですわねぇ」


そして、おまつさんも可愛い猫を見るかのように目を細めて喜んでおられますね。


「確かに、家光様が公方様に就任あそばされた祝いの引き出物として贈られたという縁起の由来を聞けば、ご利益のありそうな姿でございますな」と、ついでに虎の姿を見てみようとついて来られた江戸派遣の朝廷貴族…公家の一条昭良(いちじょうあきよし)様。


(この時代の比丘尼国、わけても江戸の民は武家たる徳川家が治めるとあって、武家の風習…縁起担ぎを知っておるのですよ)


(ほれ、べらこ様、我らを取り囲む者共、虎を恐れながらも逃げ惑うまでには及んでおりませんでしょう…あの強そうな虎があそこまであると様に懐かれておることで、あると様の武勇にあやかろうと見ておるのです)


と、庄司甚右衛門さんと風磨小太郎さんからも解説を頂きます。


ええ、ゴロゴロと喉を鳴らして地面に転がり、お腹を見せてアルトさんに撫でてもらっているのを見ますと、慶次郎さんやおまつさんでなくても、果たしてこの虎に虎の自覚はあるのかと言いたくなるでしょう…ただ、あたしもこの虎次郎くんを多少は知っていますし、捕獲された虎の一頭なのは間違いありません。


ええ、痴女島にいてる時はちゃんと虎らしいこと、してましたから…。


「しかし、いくら人慣れしておる風とは申せど虎は虎、このような虎が通りを歩いたひには、確かに人は驚きましょうや」


不安そうな目で虎とアルトさんを見ているのは、お若いですけど役職は江戸幕府老中の、松平信綱(まつだいらのぶつな)さん。


「はっはっはっ、あるとやべらこに、それにわしがおるからにはしんぱいせんでええぞ、のぶつな。で、あるととべらこ…とりあえずこのとらやけどな、吉原じんじゃにつれていけるか。あそこやったらひとめに(さら)さんでええやろ」


とまぁ、おかみ様の提案もありまして、アルトさんとあたしで虎次郎くんを誘導することに。


しかし、虎次郎くん、なんでまたここにいるのか。


「とらじろうはもともと、ちじょ島でぼくじょうの番をしておった子でしょう。そしておかみさま。とらじろうをこちらにつれてくるにあたり、うちのよめに話をしておられましたでしょう?」


「あると…いま、いえみつにはなしを聞いたんやけどな…確かにいえみつが将軍になった祝いに何かいるかと聞いたんはわしや。で、のぶつな…ほれ、中山のてらのぼうずの件があるやろ…」


「は。家光様の元に寄せられた話では柴又(しばまた)題経寺(だいきょうじ)に参詣の客を集める目玉が何かないものか、題経寺の大本山たる中山(なかやま)法華寺(ほっけじ)から相談がごさいましたかと」


でまぁ、幕府の恥になるお話という事で、心話で事情をお聞きしますと、家光さんのほも癖にも関わっていたらしいんですよ…虎をお贈りするに至った経緯…。


(でな、いえみつが女にきょうみをしめさんからゆうて、はーれむをつくる話をしたんはべらこもしっとるやろ)


はい、大奥制度の発端ですね。


(で、しょうぐんの子どもをつくらすわけやから、ちすじやいえがらのええおなごをさがせとなるわな。わしらもてだすけしたんやけど…)


(おかみ様、その先は(それがし)より…で、奥を用意するに当たり、名家の子女を迎えるとしても育ち良きおなごでは常日頃の暮らし、用人(ようにん)側女(そばめ)が支えておりましょうから、奥にも女中が入り用であると春日局(かすがのつぼね)様が家光様に申されたのです)


(春日局様は公方様の乳母勤めをなさった功にて、今は将軍様御局に加え奥女中統領を任じられましたのでは)


(一条様、左様でございまする…)


松平信綱さんのお話を翻訳すると、家光さんの乳母として任命されたのが、美濃(みの)の国の斎藤道三(まむし)という有名な武将の家系にあたる方の斎藤(ふく)さんという女性で、将軍家に迎え入れられた際に春日局というお名前を頂いて改名したそうです。


で、その春日局様が、ええとこのお嬢様ばかり集めているからには自分で自分の事が出来ない可能性があるから、側室の女性陣のお世話係の女中さんも雇わないと、とうてい大奥の日常生活が営めないであろうと主張されたと…痴女皇国の女官寮はともかく離宮・後宮のあるじでもあるあたしにしてみれば、何かこう色々刺さるものがあるのですけど。


(まぁ確かにね…お部屋の掃除や片付けを自分でやる女官苦労記念日の時さ、ベラちゃんのお尻が重くなるっての、瞳さんとかゼアラニーネに聞いてるしね…リミルシューネも怒ってる時あるって聞いてるから注意しとく方がいいわよ…田中家は家族三人で一気にやっちゃえるけどさ、瞳さんとゼアラばかりに振らないようにね…)


(ううう、そもそも言ってみればお妾さんのすくつ(巣窟)のような場所に女中さんを入れるような発想をする人とか、そういう人をお妾さんの頭に据えるような人の顔が見たい気もするんですが…)


(それは春日局様を将軍様(しょうぐんさま)御局(おつぼね)に推挙なさりました崇源院(すうげんいん)様に…)


で、崇源院様って誰ですか。


(で、日本史の成績がイマイチらしいベラちゃんの補佐をと言うことで、必要に応じてどこぞ大学文学部で東洋史学研究を修めた私、田中雅美が説明役に呼ばれるそうです。まず崇源院…お江の方(おごうのかた)こと浅井江(あさいごう)さんは、二台目将軍の徳川秀忠さんの正室、つまり奥様で家光さんの実のお母さん。そして春日局さんについては家光さんの乳母役として有名ね)


日本史の成績の件は余計ですっ。


ただ、伊賀忍者の家系の柳生宗矩(やぎゅうむねのり)さんと春日局さん、そして他ならぬ松平信綱さんの3人が家光さんを支えて徳川政権の基礎を作ったくらいは…くらいは…。


(なんか泥縄で聖環で調べたような物言いよね…)


それはともかく、何で虎…それも痴女皇国が贈った虎がここにいるのかですよ…。


(べらこ様、それが…信綱様も言いにくい話でございましょうから、私が知る範囲で申しましょうか?)


(は。まぁともかく、芳春院様もご存知の通り、奥につきましては我ら男は呼ばれねば来れぬ場所。春日様が入り用と申せばそれは入り用となってしまうのでございまする…)


はぁ、つまり何ですか。春日局さんが経費が必要だの女中さんが必要だのと言えば、予算拠出されてしまうと。


そして、女の牙城たる状態の大奥には、連邦世界の史実通り、将軍様以外の男性は呼ばないと絶対に入って来れないように決められていたみたいです…即ち、大奥の支出、将軍様以外の男性が口やかましくとがめることは難しかったと…。


聞いた? たのきち…皇帝のあたしの出金ですら口やかましく監査される痴女皇国からすると羨ましい限りよっ。


(おだまり。ミラノのブティックとか銀座あたりに行ったら最後、「ベラちゃんのカードを使い過ぎてるけどほんまにご自身の決済やろな?」って感じで絶対に信用照会の電話入れられてるでしょ…あれがなくなったら考えたげます)


(1億くらいまでならいいと思うのよ?)


(普通の人は一桁億円に近い4桁万円の金額を1時間かからずに使わんわいっ)


ちなみにあたしのカード、メディアウォッチの決済機能と連携させてますから実際にはカードレスに近いのですけど、真っ黒のチタン合金で出来たやつです。むろん、決済金額制限は無制限とは申しませんけど、とんでもない額が設定されてはいますよ…。


(あれは贈り物を買うためなのです…)


(その贈り先が誰か言うてみぃっ)


で、なんでたのきちがあたしのカード使用を(とが)めることができるのか。


あたしの痴女皇国での業務報償金の中から、連邦世界のあたしのカード決済口座にお金を回す複雑な手順と経路に関わっているからです…NBの財務省はもちろん、英国のHMS大蔵省やイングランド銀行を経由したルートがあるのですけど…。


ま、まぁ、あたしのお金の使い道はともかくですね。


(で、女中を傭うとしましても、これまた上様のお手つきを考えますると、それなりの女子(おなご)を差配せよと春日局様と崇源院様、果ては中丸様(なかのまるさま)に申し渡されまして…)


(中丸様っていうのは家光さんの正室…奥様で、鷹司孝子(たかつかさたかこ)さんとも言います。つまり公家の五摂家ってのがあったでしょ、あの5つのお家柄の一つの出身で政略結婚で家光さんに嫁いだ人なのよ…)


(は、中丸様は…御台所様(おくさま)であります故に、余計に我ら老中は元より、大老ですら迂闊な事は申せぬお方なのです…)


なんか、信綱さんが汗びっしょりです。


どうも、その時の苦労話があるようですね。


で、ちょうど折よく吉原神社の境内に入りますと、紫色の袴の巫女さんが薄青や赤の巫女服の方々を率いて出迎えて下さいます。


(れんぽう世界の神社とちごて、おなごが神職やっとるからな…)


(へい、おかみ様の言いたいことはわかりますから、巫女さんの階級については機会があれば天の声に解説をさせましょう…)


まぁ、比丘尼国では女性が神社を仕切っていることもあって、連邦世界の神社内の人事階級とは少し違う程度に思っておいて下さい。


そして、本殿手前の拝殿に上がって祈祷を受ける場所で椅子を出されるあたしたち。


虎次郎くんは拝殿の前の石張りの床で丸まり、涼しそうにしていますね。


そこに、呼ばれて来たのか、捨丸さんと骨さんもお越しになられます。


「旦那、ここに行けと言われたんですがね…おおっと何だい、この虎はっ」


拝殿の前にいる虎に驚いて飛び退ろうとする捨丸さんですが。


「捨丸殿、その虎が件の柴又帝釈天の寺から来た虎であろう…そんな霊験あらたかな虎を傷つけようとすると、帝釈天様の罰が当たろうもの…この世に神も仏もあるものかと思う忍びも多いが、わしならば何の理由もなく霊獣の類を害するのは遠慮被るぞ…」と、手裏剣か何かを出そうとした捨丸さんを骨さんが止めています。


で、捨丸さんにじゃれかかる虎次郎くんですが。


「ひええええ、妹姫様かあると様、この虎、止めて下さいよ…」


「はっはっは、その虎は帝釈天ではお寅様と言われて見るだけで縁起を担げるそうじゃ。そんな有難い虎に懐かれておるのだ、験担(げんかつ)ぎと思うがよいであろう」


「そんなぁあああ、旦那も殺生なぁっ」


「まぁ、あたしも手伝いますよ、ほれ、こうして腹を撫でますると」


と、骨さんと捨丸さんが虎次郎くんの遊び相手になっている間にですね。


(今から信綱さんが言うだろう話ってさ…連邦世界と歴史が違う件よ…注意して聞くのよ…)と雅美さんが連絡して来ます。


(まさみにはのぶつなのあたまのなか、わしとてるこをちゅうけいあんてなに使って読ましとるからな)


はぁ。


そして、信綱さんのお話を要約しますと。


現在の千葉県市川(いちかわ)市にあった智泉院というお寺の住職さんが、娘さんを江戸城出入りのお武家様のもとに嫁がせたところ、お武家様が秀忠さんの女中にその美人奥様を推薦。


これ自体は、お殿様に美人を献上する風習があったので不思議ではないと雅美さんとおかみ様から教えて頂きますけど、あたしからすると旦那さんが進んでNTR(ねとられ)ネタのサレ(よめをねとられた)男になってしまうようで不思議ではあります。


ま、それはともかくその美人奥様となったお美代さんとかいう娘さん、秀忠さんのお手つき…つまりエッツとかえっちっていう展開があったことでお武家様も、更にはお美代さんの父親である住職さんも要職に取り立てられる話になったそうです。


(これ、前田のお家も関係しておるのです…その時に生まれたお子、前田の家にも側室として迎えておりますの…利長(むすこ)の嫁の永姫(えいひめ)、子宝に恵まれませんので、白山神社の巫女様のご厄介になって不妊を治そうと致すかと前田家中で話になった際に、秀忠様の愛娘として溶姫(ようひめ)を側室にと紹介されたのですわ…)


(更にはあたしやたのちゃんはもちろん、ベラちゃんにも関わる話なのよっ。史実では十二代目将軍徳川家斉さんがその住職の娘さんをお妾さんにして三人ほど子供を作るんだけどさ、その一人がさっき話が出た溶姫さん。で、庶子(しょし)とはいえど将軍様の娘さんでしょう…前田家の江戸屋敷では溶姫さんのお嫁入りを記念して、お屋敷の入り口に赤い門を建ててお祝いしたのよ…)


(ま、まさかその赤門って…)


あたしの反応を聞くまでもなく、雅美さんの顔が真っ青になってるのがわかります。


ええ…その赤門とはまさしく、雅美さんやたのきちの出身校であり、はたまたあたしが来年には通うであろう、このお話ではどこぞ大学とかどっか大学とか適当に言われている日本の最高学府のあそこです、あそこ…あそこのシンボルたる、本郷学舎の正門になってるあの赤門だそうです…。


な、なんちゅう繋がりがあるんでしょうか。


まぁそれはともかく、痴女皇国世界ではなんで溶姫様は側室だったのでしょう。


(永姫は信長様(ほうかま)の娘なのです…いわば、前田家も徳川家もかつては織田家、それも信長様にお仕えしていた立場でございましょう。で、前田家断絶を恐れた秀忠様が、ならばと側室に溶姫様をお薦めして来られたのですよ…我らも永姫を預かる立場で困ったのですが、当の永姫が前田のお家事情を鑑みて利長に「どの女の子でも良いから、殿の子を産ませるべき」と進言しまして…)


(まぁ、信長公の血筋らしい御仁ではあるわのう、永姫殿…)


(助右衛門が加奈の縁談を進めて加賀に戻す話を致したのもこれあっての話、永姫に加えて溶姫様までもを預かるとなりますと、江戸屋敷はもちろん加賀屋敷の女中を束ねて粗相のないようにする必要がありましたから…)


(つまり、おまつさんや前田家の立場では、信長公の娘さんに失礼があると前田家はそんな不義理をするのかと他の国主様から陰口を言われかねないのよベラちゃん…で、秀忠さんも没落した織田家はともかく、あのノッブの娘さんを無下にも出来ないだろうって前田家の立場を鑑みて、側室というか実質第二夫人としてどうよって溶姫様をお嫁に出したわけよ。その影には、加賀前田家を大変に重視していたタヌキさんからの徳川家の伝統があってね、タヌキさんが織田家中で出世できた件について、おまつさんの亡くなった旦那さん、前田利家公に恩があるわけよ…)


ああ、なるほど…浪速(はんしん)三三四(わるくない)国の大商人だった()()()()()()()屋さんと、三河監獄国との確執や三井戸(すりーうぇる)屋さんとの深いお付き合いの話もあります通り、あの辺の方は恩を受けたら末代まで恩に思う代わりに、一度恨んだら末代まで恨むという気風があるそうですけど、そうした風土で育ったタヌキさんの教えを守っているということでしょう。


(左様、加えまして加賀前田のお家は忘れぬ家と聞き及んでおりまする…互いの施しを忘るることはないであろうと秀忠様も申しておられましたので…)


(おかげでわしも未だに、江戸の前田屋敷には表立っては出入りできぬ建前であるからのう…)


(助右衛門が手を尽くして、裏口からなら入れるようにしてくれただけでも前田の家臣団にしてみれば、とんでもない譲歩であると今も申しておりますからねぇ…本当に前田(うち)の家臣にはなかなか忘れない頭の固いのばかりで…)


ええ、慶次郎さんが利家さんにやらかした氷風呂とか、果ては今でこそ黙認になってますけど、おまつさんと慶次郎さんの密通の仲の件が尾を引いてるんですよ…。


(亭主曰く「あと2.3発ぶん殴っとけばよかった」そうで…)


(ふん、おまつ様…あの時は正直、槍の又左も老いたものよと思いましたが)


(もしも今後、慶次郎様が冥土に来て亭主の会うたが最後、あれはまりや様のはりせんを借りてでも殴るなどと黄泉の平坂の向こうでぼやいておるとか。おかみ様。あれ(ていしゅ)、仏様の方の地獄に回せませんの?)


(おまつ…()()()に話つけたってもええけど、盆と彼岸のたびにうるさなるぞ…)


(ああ、忘れておりました。わたくしが不肖の亭主をはたき返せるならば、お願い致しますわ)


と、おかみ様を前にしてすら堂々と申されるおまつさんですけど。


(まぁ…としいえの件は置いとくとしても、や。のぶつな、そのおみよとかいうのん、何さらしよったんや)


(家光です…これは信綱でも語りづらいであろう話故に、余が致しましょうぞ…お美代は我が父のお手付きとなった事を利しまして、大奥を設けるにあたり女中を選ぶ事に関し、仏託を得る方が良いであろうと父に吹き込んだのです。そしてですな、我が不肖の父で先代の公方とは申せど秀忠はですな…そのお美代の吹き込んだ口車にほいほいと乗ってしまったのですよ…なんで日蓮宗の坊主の家の出の女の讒言を信じるのか…)


(いえみつさま。にちれん宗とやらはそんなにもおきらいなのですか)


(あると様…よくぞお聞き頂いた。ええ、はるか昔、源氏が鎌倉に幕府を開いた後、鬼汗国が比丘尼国を攻めて参った事がございますが、その際にですな「日の本は滅びますぞ」などと辻立ちをして法華経を唱える事を広め信者を増やそうとした坊主めが、他ならぬ日蓮なのです…)


(つまり、おに汗国がくるならくるで、びくにこくのおくにの守りをかためるべきときにですね、よりによっていらんことをいうてまわったぼうさんということですか…あたくしならそんなぼうさん、あたまからちがでるくらいにみがいてさしあげますが)


(可能であれば日蓮上人を蘇らせてでもやって頂きたい話にございます。のう、信綱)


(全く、上様の申される通り。…で、この信綱も頭を抱えたのですがな、日蓮宗について雅美様やべらこ様は多少はご存知の様子。すなわち、あの宗派は皆様がお申しのかげきは(過激派)とやらで、鎌倉北条と言わず足利と言わず、およそ幕府なるものがあるところにその教えを広めて世を引っ掻き回そうと致す、誠に困った宗派でして…)


(ええ、存じてます。で、家光様に信綱様…日蓮上人はその言動があまりに過激なため、天台法華宗と仲違いして日蓮宗の開祖となりましたのが私たちの方の歴史ですが、そちらでは)


( 全 く 同 じ で ご ざ い ま す )


ええ、ハモり具合からして、もんのすごーーーーーーーーーーーく嫌がっておられますね…。


(でぇ…お美代とその父の日啓(にっけい)なる住職、上野寛永寺や芝の増上寺を追い落とし、おのが寺と宗派を遇する事を父の秀忠に吹き込みよったのですよ…)


(ところがですな、智泉院なる寺、中山法華寺の近所にあるだけで分院も分院、こんな小寺の何を一体どうせよという話となったのですが…大老達は大寺たる法華宗の大本山中山法華寺の祈祷受付役をその、智泉院に任じてしまったのです…ですな、家光様)


(いやもう、余の事は竹千代でよい。こんな阿呆(あほう)な話、征夷大将軍として公の場でなんぞ、到底出来るようなものではないぞ…それと、虎の件についておかみ様に相談もあるので、余自ら今、馬でそちらに向かっておる。甚右衛門に小太郎、苦しうないぞ)


えええええ…この家光さんの発言で、小太郎さんと甚内さんの顔色が真っ青になっています。


(それはそうでございます…公方様自ら、この吉原に来るとあっては大ごとも大ごと…)


(いや、わしもかつては風魔衆を率いて豊臣、ひいては徳川様にも敵対した身ですからな…)


(ああ小太郎、お主については柳生より赦免願いが出ておろうからそう、かしこまるな。それにわしとてまだ若い身じゃ、たまには息抜きもさせてくれい…それに、宗矩を連れておるから案ずるな)


どうやら、護衛の忍者の方々は同行しておられるようです。


やがて、息せき切って境内に駆け込んで来られた家光さん。


ふむ…確かにまだ少年と青年の境目くらいの方ですね。


確かにお召し物は上等っぽいのですが、どうもお忍び用の変装衣装をお持ちのようです。それも、何枚も。


(奥から逃げ出して三十郎とですな…)


(とととととと殿!竹千代殿!)


ああ、ほもるためですか…まぁ、それは良いとしましょう。


で、少し遅れて家光さんが乗って来た馬を曳いて、柳生宗矩さんがお越しになられます。


「これはこれはべらこ様にあると様、いつぞやの先代公方様のときにお越しになって以来でございまするか…」


そうです、北欧いけにえ村作戦の前の時期の比丘尼国、それも江戸城であたしとアルトさんは柳生宗矩さんと認識があるのです。


「いやはや、殿が駆けつけてくるのも実を申せば、この話…お美代一味の件はあまり、奥に聞かせる場所でしとうないというものでございましてな。信綱殿、どこまでお話に」


「は、宗矩殿…お美代が父の寺を幕政に絡めようとした辺りでございまする」


で、追加の椅子をご用意頂いた上で、おかみ様の指示のもと、皆で車座になるように椅子を並べ替えてから座り直します。


「えらいさんが多いからの。せきじゅんをいちいちきめてするほどたいそうなはなしでもなかろ」


「ですな…宗矩、水はあるか」と、竹筒水筒を宗矩さんから受け取って飲むと、家光さんは話を始めます。


「でまぁ、お美代と日啓の奸計であるが、信綱と宗矩が東奔西走してくれたおかげで色々と調べが付き申した。寺社奉行なる制度を設けて国主に月番でやらせるかという話にもなりましてな…」


「その、祈祷受付所とやらが問題となったのです。取り入り上手なお美代の話にころりと乗った奥方衆も、いちいち自分たちで女中選びをしておれるかとなりまして…」


「ゆうたら、めんせつをかわりにひきうける寺としてその、ちじょせんいんとかいうてらで女中こうほのした選びをするとかゆうはなしになったんやろ…お前ら、なんでわしにゆわんかったんや…んなもん、神社でみたるがな…」


おかみ様。その間違いだと痴女皇国に悪印象を与えますのでやめてください。


(うちのよめがちじょ皇国をつくってわるいことばかりはじめたときからあくいんしょうの塊…いたいですっ!)


(アルトさん…あたしじゃないです、多分マリアねーさんです…)


ええ、お尻を押さえるアルトさんと、伸びたはりせん鞭が縮む光景が。


「べらこ様、あると様…おかみ様や私が、江戸に来ておるのもまさに、この智泉院事件のせいでもあるのですよ…」


で、苦虫を噛み潰したようなお顔で言われる一条様です。


なるほど。女中さん選び、幕府だけで済ませようとしたんですね。


「うむ…更には、大老どもと奥どもが結託しておったようでな。事の全てを明るみにすれば連座するものは江戸城内にも多数ということで、表向きの調書を上げるしかなかったのであろう、三十郎」


「は。竹千代様…宗矩様と二人して頭を抱えること(おびただ)しき醜聞の数々にございました…」


「でなぁ…こいつらがいいにくそうにしとる理由やねんけどな、要はそのめんせつのときに、ええ点つけてめんせつ結果を書いたるゆうて、めんせつしたぼうずどもがじょちゅう候補のねぇちゃんたちをやな、片端からこましてあんあんとあへらしよったんや…」


えええええ。


いや、ある程度は読めてましたけど…よくそんな嘘くさい話に乗れたものですよ…だって考えてくださいよ、お読みの方、言ってみれば将軍様の専属メイドお手つきありの面接を通してやるからと、性的関係を迫ったんですよ?それもお坊さんが…。


「それがやな、べらこ…そのちじ…ちせんいんの本山の中山でらかなんかあるやろ、そこにも声かけて、すけべい坊主とか若いいけめんぼうずをあつめよったんや…」


はぁ、お坊さんのボーイズバー…坊主だからボーズズバーですか。


(ベラちゃん100点満点の10点。座布団取るわよ…でまぁ、連邦世界の中山法華経寺事件も大体おんなじような流れなんだけど、発覚が遅れたのと、大老や老中も娘さんの就職のためにと関与していてね…)


「こちらではまだ奥を開くか開かぬかという話の最中であって、まさみ様が申されるような、女だけで百近い者共が絡んだ話とはなってはおりませぬ、おりませぬが…」


で、ボーズズバーと化した智泉院では若いお坊さんがお酒や料理を女中候補の方々に振る舞い、さながら乱交パーティーめいた事をしていたようなのですよ…。


「更には本山の中山法華寺の僧侶も少なからず噛んでおったとあっては、全く無罰というわけにもいかぬ」


「ですが竹千代様、この件があったからこそ大老どもの仕切りで政議が遅れる事を防ぐからくりが作れたようなものでしょう…」


「そうであるな…確かに大老たちも智泉院の全てを明るみに晒せば、職を追う必要もあろう。いや、綱紀粛正のためにも罰をせねばならなかったであろうが…」


「結局は、日啓を島流し、お美代は座敷謹慎の上で伊勢送りとなったのでしたか」


で、この女中面接口利き詐欺準強姦事件とでもいうべき智泉院事件、早々と家光さんの代で発覚して大惨事の前に食い止めることになったようですね。


「でまぁ、幕府と中山法華寺は面子を大いに潰される話となったのでございます…」


「んでやな、そもそもそんなまぬけなだまされかたをしよったかすがにはやな、大奥のおんなどもはおまつと同じく、巫女の修行をして、朝廷にかかわりをもたせるようにせぇ、そしておくをしきるかねをむだづかいせんようにしろといえみつにゆうたんや、なぁ」


「左様でございます…」


つまり、連邦世界の江戸幕府が財政難に陥った理由の一つでもある大奥の経費について、大奥を仕切る女中頭の春日局様を巫女種化して朝廷から口を出しやすいようにしたと。


「あと、幕府の勘定方を奥の勘定女中も担う事となりました件がごさいますから、賢きおなごであるのも条件となりまして…」


「まぁ、ぼうずがほすとをやって女をだまして破戒こういをしとった。そこまではええんや…」


「で、出身者に大きく面子を潰された中山法華寺も、また被害者でございます。しかし、さすがは法華の本山、それなりに知恵の回る坊主が我らに話を持ちかけよりましてな。ここはひとつ、上様ゆかりの何がしかを我らに賜ってめでたい祭りの一つでも開く事が出来れば、失態を上塗り出来るのではないかと申しよったのでございます」


「竹千代様の申される通りに存じます。そして、大老様方も乗り気となりまして…ですが、江戸から市川宿は遠き場所。せめてもう少し近いところで何とかならぬかと揉めたのでございます」


「でまぁ、信綱様の話に付け足しますると、表の()()()()()が逃げ出した正にその寺、柴又の帝釈天は庚申のみならず普段より信仰篤き者が集まる善男善女の地であり、中山法華寺の門下ともなるという知恵者の話に我らも乗りまして、帝釈天にて縁起物を祀ろうとなったのですよ」


な、なるほど…女中さん候補の騙されNTR展開もさりながら、更にはボーズズバーに夢中になって通っていた女中さん候補までいたようですから、これは困った話でしょう。


しかも、坊さんに夢中になっていた女中さん候補って、ある程度の家柄の武家の出身の娘さんたちですよね…現代で言うなら、何とか省とかかんとか省とか、それも罪務省級のお堅い省庁勤務の国家公務員の方々の娘さんがホストにハマって買春や乱交に耽っていたようなものではないですか…。


「なるほど、それで痴女皇国からとらをもらって、えんぎのよいことがおきればいいなぁとおもっておられたのですね…」


「左様でございまする。既に瓦版屋どもに命じまして、虎が柴又におることは江戸市中に広めてはおったのです…」


「ふむふむ、ならばえんぎのよいことがおきればひとだすけになるでしょう。はなしは変わりますが、このよしわらのちかくにくびきりをしていたばしょはありませんか」


え。


アルトさんの突然の話に、皆が驚きます。


「確かに…小塚原がございまする…ただ、今では年に何人かの首を切らざるを得ない程度にまで斬首の罪に問うような事どもは減っておりまするが…」


「その、こづかはらとかいうばしょ、ここからとおくありませんか」


「概ね一里にも満たぬ遠さでございますな。方角は(うし)の方になりまする」


「ですか…ではもうしあげます。そのくびきりばでしたいを食べていたのらいぬがおかしくなっています。わたくしたちの間ではきょうけんびょうといわれておりますが、人もかんたんに死んでしまうびょうきがうつってくるったいぬたちがすうひき、このよしわらをめざしていちもくさんにはしっておるようです。なるべく早くたいじしてしまわないと、このいぬたちにおそわれたらみこさんでも簡単になおせませんよ」


-----------------------


べらこ「で、ちょっとお話が」


あると「なんですか、いいところで。とらじろうにもみせばができそうなのに」


べらこ「これこれアルトさん、あたしたちがヤラセをやったように聞こえるじゃないですか」


あると「おかしくなったいぬがいるのはほんとうですよ…」


べらこ「まぁまぁ、で、あたしたちは本当なら吉原の、特に陰間茶屋を視察するはずでした」


あると「ほんらいのもくてきはそうでしたよね」


べらこ「つまり、狂犬病に犯された野犬を退治した後は、をかまさんを見学しなくてはならないのです」


あると「つーまーりー、みせいねんの方にはきかせられないおはなしがあるのですね?」


べらこ「毎度毎度すみません…ええ、もしかするとアルトさんの方…R18に戻って話を進めるかも知れないのです…どっちで行くかはこの下に追記するそうです…」


あると「なるべくならわかいおとこのこでもよめるようにしましょう」


べらこ「あい…」


あると(ええ、べらこ陛下はしょうねんがすきになったらしいので、このあおりはきくのです…ふふふ)


べらこ「あたしは単にクリスおじさまやベテハリ君を愛でているだけです! まぁともかく、もう少しお待ちください…」


------------------------

2023.7.3追記


べらこ「と言う訳で、もうちょっとR15の方でお話は続くそうです…↓またはご覧の画面上下にあります次話へのリンクをお使い下さい…」


https://ncode.syosetu.com/n6615gx/132/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ