ラ・マンチャの女 -Mujer de la mancha- 13
で、セビリア・サンタ=フスタ駅に停車する祝賀記念列車ですが。
もう国許に連絡するだの何だのとパニックに陥ったり、今降りるとか言い出す人も出る中、おごそかにお話をされる方が。
「Certainly, there are many people who suddenly hear such a story and cannot be calm. But this is still Spain. How will you contact your home country or return to it?」
「Certes, il y a beaucoup de gens qui ne peuvent soudainement pas se calmer après avoir entendu une telle histoire.Mais c'est toujours l'Espagne. Comment allez-vous contacter votre pays d'origine ou y retourner?」
「Sicherlich gibt es viele Menschen, die plötzlich eine solche Geschichte hören und nicht ruhig bleiben können. Aber das ist immer noch Spanien. Wie werden Sie Ihr Heimatland kontaktieren oder dorthin zurückkehren?」
(確かにこのような話をいきなり聞かされて平穏でいられない方も少なくはないでしょう。しかし、ここはまだスペインです。どうやって祖国に連絡したり、はたまたお戻りになるのでしょうか)
「Furthermore, the people who made a fuss here are probably in a position where they need to listen to their home country's intentions even if they want to join hands with them. I don't think you're in a position where you can make quick decisions about alliances and subordination like I am.」
「De plus, les gens qui ont fait des histoires ici sont probablement dans une position où ils doivent écouter les intentions de leur pays d'origine même s'ils veulent se joindre à eux. Je ne pense pas que vous soyez dans une position où vous pouvez prendre des décisions rapides sur les alliances et la subordination comme je le suis.」
「Außerdem sind die Leute, die hier viel Aufhebens gemacht haben, wahrscheinlich in der Lage, auf die Absichten ihres Heimatlandes zu hören, selbst wenn sie sich ihnen anschließen wollen. Ich glaube nicht, dass Sie wie ich in der Lage sind, schnelle Entscheidungen über Bündnisse und Unterordnung zu treffen.」
(更に、今ここで騒いだ方は彼女たちと手を結ぶにもいちいち本国の意向を聞く必要がある立場の方でしょう。私のように、同盟や従属を即断できる立場だとは思えません)
「Fortunately, the wife of the Japanese emperor, who is extremely close to them, is present. Perhaps, she is someone who can give her opinion to Her Majesty the Emperor Mariliese.」
「Heureusement, l'épouse de l'empereur japonais, qui leur est extrêmement proche, est présente. Peut-être est-elle quelqu'un qui peut donner son avis à Sa Majesté l'Empereur Mariliese.」
「Glücklicherweise ist die Frau des japanischen Kaisers, die ihnen sehr nahe steht, anwesend. Vielleicht ist sie jemand, der Ihrer Majestät dem Kaiser Mariliese ihre Meinung sagen kann.」
(幸いにして、彼女たちと極めて親しい日本の皇帝夫人が同席しています。恐らく、マリアリーゼ上皇陛下に意見できる存在です)
で、件の皇帝夫人なる方が、英国女王からマイクを受け取って車内放送をお始めになられます。
「私は、かつて戦争に敗れ、武装解除された国から参りました。その当時の皇帝…第124代天皇、裕仁陛下は戦勝国を代表して占領地たる日本に駐留した司令官の下に訪問し、助命嘆願を行いました」
その内容を各国語で翻訳し、同時通訳ならぬ同時心話で個別に送り込むまりり。
「では、件の当代の日本皇帝…天皇陛下は、一体誰を助命しようとして敵国の司令官を訪問したのでしょう…我が夫の遥かなる先祖である方は、自分の処刑の代償に、日本国民の助命…特に、不足していた食料、そして医薬品などの物資の支援を切実に求め訴えました。いかに当時の日本が独自の宗教政策を実施していて、天皇一族を神の子孫であり日本国民が自分たちの皇帝を強く崇拝していたとしても、そのような話は通ったのでしょうか」
「答えは…通りました。その将軍はかつて日本国を訪問した際に、我が国の素晴らしさに感銘を受けていました。そして、当時の日本と戦争をする遥か前から、日本の歴史や風習風俗を調べていて我が国には比較的詳しい人物だったのです。そしてその将軍は、戦争に敗れた日本皇帝の処遇に悩んでいました」
「なぜならば国民の敬愛を集めており、この列車のように、列車で移動すれば沿線に国民が並び国旗を振り手を振って来訪を歓迎される立場だったのです。そして国民を大事に思っていたその皇帝が、聖断として降伏を決定して軍を黙らせた事を知っていた将軍は、こうも考えました」
「この皇帝を処刑してしまえば、どんなに正当な裁判を行なって罪に問うたとしても日本国民は我々に協力などしないだろう。いや、むしろ自らの絶滅と引き換えに、駐留した戦勝国軍を二十四時間攻撃するだろう。最後の一人になっても我々の生命と引き換えに、自らの君主に殉じるのを我々は戦争中に散々目撃したではないか。…何千の例がある自爆攻撃はもちろん、我らへの降伏や捕虜の立場を選択せず自害した例もまた、百や二百では利かない話だ」
「即ち、我が夫の祖先たる裕仁陛下を生かしておく方が日本国民に対する占領政策が有利に働くと考えたのです。また、その将軍は知日家の部類であり、当時の日本の軍人が極めて精強で、皆様からすれば信じられないほど国家に対し殉教的な思考を持っていた事も知っていました。何せ、戦勝国軍の拠点や兵器に対する爆弾での自爆攻撃を躊躇しないのですから…」
ええ、この話を聞いて、そんな都合の良い国民がいるのかという思いを抱いた人もおりました。
そして、再生される特攻機の画像や映像。天皇陛下の肖像に向かって敬礼する当時の国民。
更には、日本全国を巡幸する当時の天皇陛下を歓迎する国民の列、列、列。
「この歓迎ぶりは、実のところ同様に国民に敬愛されていた英国王室の振る舞いを参考にして日本の皇帝家が国民と接していた事も有利に働きました。即ち、若い頃は平民に混ざって学び働き、はたまた軍人として戦い国民の支持を得たのです」
事実は少し違いますが、まぁ、大筋では合致しているでしょう。
そして、この話はオランダで造船を学んだという初代皇帝を有する北方帝国の使者の方には共感を得たようです。
「このような、国家の元首と国民が互いを敬愛する状況は、なかなか実現可能ではないと私も存じております。なぜならば、皆様のお国の未来、ある程度、私は知る立場なのです。しかし、未来を知ったとしても、その未来の通りに全てが勝手に動く訳ではないのです。未来とは、人の努力によって開かれるものです。努力せずにのうのうと未来を待てば、先にあるものは滅び。これを回避するには知恵と努力あるのみなのです」
ええ、この「サボれないよ」発言は多くの方にぶっすりと刺さったようです。
この時代の方々に、ノブレス・オブリージュの概念はまだまだ浸透していません。
しかし、多くの国では自国の文明文化発展に投資を振り向けており、近代的な論理感や倫理観は聖母教会の活動もあって、連邦世界の歴史同等かそれ以上に近代技術や知識を得ようとする傾向が強まっています。
即ち、奥様の演説…一種のお説教を、例え気に入らない内容が含まれていたとしても、これを理解するか、あるいはその日本国とやらと仲良しの私たち痴女皇国と友好提携関係を結ばなくば、取り残されかねない。
車内におられる皆様の考えの趨勢は、もはや友好使節の派遣や提携あるいは貿易といった具体的なアプローチにすら及んでいます。
「しかし、知恵と努力の方向性が間違っていても、それはそれで危ういのです。かつての我が日本国は戦争に進んだからこそ、その戦争に敗れ屈辱的な状況が続いたのです。では、正しい知恵を得るために人はどうすべきなのでしょうか。カエサル一世猊下、どうぞ」
で、マイクを渡されたチェーザレさんですけどね。
「聖母を信仰すれば救われる…と言いたいが、事情は少し複雑だ。なぜならばこの場に二代目聖母として我ら聖母教会が信仰している対象と、初代聖母から生まれた聖女が同席しているのだが…彼女たちの聖託はこうだ。我が聖母教会は盲目的な信者を欲せず。教会にて授けるは美と慈愛、そして知識と健康。これは聖母と聖女の教えを拝して伝導する立場の私が、常日頃から教わっていることでもある」
「我が聖母教は、自らを助ける努力をする者のみに救いの手を差し伸べる。助けてくれの一言も言えぬ、例え言葉に出来ずとも救いの意志を示せぬ者に無理からに救いを与えるのを善しとはしない」
聖母教会が、連邦地球に存在する多くの宗教と異なる印象を与えているのは指摘されていました。
その理由の一つが、今正に示されているこのチェーザレさんの言葉でしょう。
つまり…聖母教会は信仰を押し売りしていないのです…。
(ただ、教会に来たくなるための仕掛けはしてるけどな)
(はいはい。だから売春してるんでしょ。皆まで言わんでええわいっ)
まぁとりあえず、チェーザレさんの言葉で、聖母教会のスタンスがご理解頂けましたでしょうか。
「そして、おのおのがたにも自尊心というものはあるだろう。この列車に乗り合わせた方々のうち、招かれた各国の要人や使節に該当する人であれば、祖国に相応の文明や文化を有しているはずだ。そして、そういう方々であればあるほど、今ここで示された新しい技術・知識…そして、それを受け入れるべき新しい思想や思考を、かえっておいそれと盲目的に信じられるだろうか」
「だが、ここに…正に、今ここに、信じがたい速度で我々を港町カディスに向けて運ぶ箱が存在する。この列車に乗る人々全てがこの事実を受け入れ、自国の発展に利用しようとする進歩的な考えの持ち主であることを私は祈らずにはいられないのだ」
「そして、私も今でこそ人々に聖母教を教え広める側に立っているが、この地位に就くまで十年を要していない。即ち、ピサの大学を出てまだあまり時を経ていない若造の立場なのだ…その私が、なぜ列強の王や指導者、そして要人を前に聖母の教えを説けるのだろうか…」
で、ここでマイクを渡されたらしきベラちゃんが。
「その問いかけに対する答え、痴女皇国二代目皇帝マリアヴェッラ・ボルジア・ワーズワースが返答いたしましょう。で、私も実は、初代聖母から生まれた身ですが、生まれた時から聖母とされた訳ではありません。その成長の過程で救世主を出産したからです。これは、聖母教会の教典にも掲載された事実です。そして、救世主並びに私の姉たる聖女がもたらした未来の技術、これが痴女皇国の持てる力の柱の一つなのです。そしてこの技術は…決して天から降って来た訳ではありません」
(本当はサン=ジェルマンのおっさん由来のオーパーツな文明技術も多いのは内緒で)
(茶化した罰に、演説のシメはまりりにやらせていいわよ、ベラちゃん…)
(もちろんそのつもりですっ。ほほほっ)
「人が考えて作り上げたものであるからこそ、人から生まれ人を由来とする我々聖母教会の女官尼僧が使いこなせるのです。そして、ただの人を人以上に押し上げる技術でもあるのは、このマリアヴェッラが二代目聖母の名に賭けて皆様に確約しましょう」
(これも、嘘は言ってない。ただ…女官種や痴女種化しないと使えねぇもんもある。これも内緒で)
「そして、我々聖母教会は、この技術を駆使して自国を繁栄に導き、いずれは訪れる資源の枯渇や人の居住を許さない環境の到来に対し、私たちと共に対処して頂ける同志を求めます。今、皆様に乗って頂いている鉄道列車は、単に私たちがスペイン王国に与えただけのものではありません。スペイン国内で、これを保守し使いこなす人々を育成することも含めて、お渡しするものです。そして、お望みであれば、他の国にも同じものをもたらす用意があります。…姉さん」
「あーあー、マイクチェック…大丈夫だな。で、不肖の妹から話を引き継いだ痴女皇国初代皇帝にして第21代聖院金衣のマリアリーゼだ。皆さんの中にもあたしを知っておられる方も多いだろうから詳細な自己紹介は省かせてもらう。で、あたしたちの提案は簡単だ。本当ならこの鉄道は…そうだな、今からだと、皆さんが五百年近くの歳月を要して同じようなものを作る可能性があるんだ。だが…そこまで人々がこの星…丸い大地に生きていられるか、あたしには確約できない」
えええええ、とざわめく気配。
「しかし、大地が冷え川や海は凍りついて、生き物の数を大きく減らすことはこの大地にとって何も最初じゃないんだ。人が人として他のもっと原始的な生き物から進化して、今の姿になったという科学的な事実を聖母教会では教えている。あたしたちはまず、決して自分たちの都合で自然現象や物理法則といった、人が作ったものが動く理屈を捻じ曲げようとしてないのに注意して欲しい。ここで嘘をつくと、本当の意味で人は必要な知識を手にすることはできないからね。だから、教皇猊下にも常日頃から言って聞かせてるんだけど、あたしたちの言ってる事を鵜呑みにはすんな。ただし、調べりゃ嘘はついてないことがわかるだろうってね」
「大地が丸く、太陽の周りを一定の周期で回っている。これは聖母教会も認めている、この世界を統べる法則…理屈の一つなのだ…聖女様、引き続きどうぞ」
「あんがと。で、今、教皇猊下が申された話だな、地面の張り付いた球が自転してるってのは、実際に大地を離れるとこう見えるんだ」
そして、車内のディスプレイに表示される、静止衛星軌道から見た地球の姿。更に、画面は引き気味になって公転軌道を示す円形の線が描写されるのが、まりりの送って来た視覚情報でわかります。
ええ、太陽や月、そして地球以外を含む太陽系の図を見せようとしていますね。
そして再び、画面は地球に戻ります。
「この、球が自ら回転する速度は月との関係で絶妙な速さに調整されている。速からず遅からず。これが、物を手から離すと地面に向かって落ちていく力…引力の源だ。そして、この球が回転する軸は、完全に垂直じゃなくて少し傾いている。この傾きによって春夏秋冬や雨季乾季など、暦の進行で暑い寒いが変わる理由だ。じゃ、この軸がもう少し傾いたり、あるいは真っ直ぐに戻るとどうなるか」
ええ、地球環境シミュレーションですね。
氷河期の状況や、そして…初代様がアトランティスやシュメールを治めていた時代の光景が映されます。更には、砂漠の昔の姿と、今に至るまでの砂漠化の推移が早送りで見せられるなど。
「本当に…あたしたちが今、立っている球は絶妙なバランス…星々の力関係で、人類の生存を許す環境が保たれているに過ぎないんだ…これをまず理解してくれ。で、あたしたちもバカじゃないから、この状況が時々変わっていたのを調べて知っている。で、だ…もし、今後、球がくるくる回る軸が、今からもう少し傾いたり、あるいは降り注ぐ光がほんの少しでも弱くなったら…大地はどうなる」
「凍りつき、人は残り少なくなった薪や燃える石、そして燃える水を求め互いに争い、数を大きく減らすでしょう。更には毛皮をまとい、石と木を組み合わせて獲物を狩って生肉を貪る昔に戻る可能性すら示唆されておりますな…」
ええ、欧州各地に大学を設置したり、既存の大学に融資して地理や物理学、天文学などの普及をまりりが進めて来た理由はこれですね。
この、地球環境の定期あるいは不定期の変動、そして人類の進化の歴史が知識としてないと、氷河期というものを理解することはできませんから。
そうです。
今、この場でまりりが突きつけているのは、痴女皇国の世界制覇を進める本当の理由。
そして、私たちやNB側で予想された地球の未来という、過酷な将来なのです。
連邦世界でも、痴女皇国や聖院世界との関連性を持ってしまったがために、影響が出ることが予想された氷河期到来。
そして、各々の世界で、氷河期が襲来する前に、人類生存の道を拓く。
この目的のために、人類の進化を早めているという作業が、今、痴女皇国世界では情報開示されたと思ってください。
「あまりに衝撃的な内容に、皆さんは絶句しているのがあたしにもわかる。まぁ、あたしだって逆の立場でいきなりこんな話されてさ、はいそうですかって信じられん。だからみなさんの気持ちもわかる。でも、多くの人は自分の国に戻った時にさ、他の人にどう説明する?今聞いた話をさっと整理して誰かに喋れる人って、そうそういないよな」
「だから…あたしが今話した内容は聖母教会の聖典外伝として印刷し、本にまとめた。これはカディスに到着した後で、お使いの言葉に合わせてお一人お一人にお土産として渡させてもらおう。そして、列車がカディスに到着した後で必ず起きるだろうことをあたしは予測してるんだ。つまり、みんなが質問してきて収拾がつかなくなる事態だな。うん、ちょっと考えてみればわかるだろ。例えば、ドレイク提督閣下が質問したいことって、他の誰かも聞きたい事なんじゃないかなってさ」
これには、サトウさんとドレイクさんは苦笑しておられます。
まぁ、このお二人はあらかじめ、痴女皇国と接触してますから今の話は決して初めてじゃないのです。
そして、心話中継で周りの他国要人に語りかけられます。
(皆様はその国を代表する、あるいは要職に就かれておられる方々ばかりと見たが、このような事態にあっていたずらに狼狽し、また心を乱して質問を焦るのは果たして、その地位にふさわしい振る舞いなのか。今一度考えて頂きたい。そして、マリアリーゼ陛下…聖女様、更には聖母マリアヴェッラ陛下はこうも申されたであろう。我らと手を結ぶのが早ければ早いほど、良い結果となると。今がまさにその証明ではないかね? 痴女皇国や聖母教会、そしてスペインやイタリア、更には我が英国と親密である国の方は、大なり小なり今、マリアリーゼ陛下が申されたことをあらかじめ何らかの形で多少は知っていたはずだ)
(おおードレイクさんナイス突っ込み。ご褒美は接待用の日本酒でいいかな)
(贈呈用に比丘尼国で作らせておられる短剣で。あれを欲しがる者は多いのですよ…)
で、再度マイクを渡された教皇猊下のお言葉。
「だが皆さん…時間の余裕はまだあるのだ…今すぐこの大地が凍って滅ぶ訳ではないのだ…正しい知識を身につけ、人を導くだけの時間がある。これは私、そして私が率いる聖母教会が信仰の対象としている聖母、そして聖女のお二人が教え説いていることどもであるとして保証させて頂こう」
うんうん。
しかし、チェーザレさんもこういう演説をさせるといい感じですねぇ。
不意に、いけめんはとくという言葉も思いつきましたが、黙っておきましょう…。
人は外観で差別されてはならないのです。
ギャル化粧をしないすっぴん状態が地味子も地味子なこの室見、それゆえに平たい顔とか黄色い肌とか言われてあからさまに避けられたらやはりムカつくのですよ…わかってますかアナさん…。
(しかし、だからと言ってあの顔面工事の施工前と施工後はなぁ…パネルマジックとか指名写真詐欺って言われても仕方ねぇぞ…)
(しばくぞまりり。それより間もなくカディスじゃ。ああ言っててもやはり、皆様は色々思うところ大ゆえにまりりとベラちゃん、そしてチェーザレさんを囲むであろう。更には懐柔接待を企画している人も結構いらっしゃるのではないでしょうか)
(だから晩餐会を兼ねた説明会の場を用意したんだよ…この席にはりええも来させるからな…あ、ベラ子とダリアはアナさんの件があるからな)
へいへい。
まぁ、これで欧州制圧に向けてまた一歩、痴女皇国の戦略が進んだと思えばよいでしょう。
ただねぇ。アナさんが言う通りで、確かにあたしは夜会向きの顔、してないよ。
身体は随分、ダリアが骨を折ってくれたおかげとさ、選択型体型ってのを使えるようになって、それなりに見栄えはするけどさ、顔まで大きくいじりたくないのよ。わかってよ。
(よし。あんたにはあたしのとっておきを渡してやる。あたしの代わりにあの蟹衣装、着てくれ)
(…アホか。それこそ他の国に喧嘩売る話になるからやめい。あんたがあれで暴れまくったせいで、あれ、他国から戦闘服扱いされてるんだよ?)
(しかし、このような会話と事態の深刻さが合致しないのはいかがなものか。シニョーラ室見…その、もう少し威厳をですね)
(叔母上。シニョーラはこの気さくさが売り。でなくばミケーレも懐きはしませぬ。そして…私もですがね)
はぁっはっはっはと笑う声が個室から聞こえたような。
ええ。普段から色々とお付き合いしておくと、本当にいいでしょ?
人は繋がりで生きるもの。
ですから、アナさんにどんな罰が与えられるかはともかく、なるべく減刑になるように私も言っておきます。
それとですね、アナさん。
こう申し上げてはなんですが、自分一人で愛も地位も名声も独り占め、しちゃいけませんよ。
スペイン時代ならいざ知らず、痴女皇国では男や女の独り占めは元来、禁則行為じゃないですか。
精気授受のためにも、好き嫌い選り好みはしてはならない。
これは、まりりもベラちゃんも普段からみんなに教えている話で、聖母教会の聖典にもそれを裏付ける記述、いくつも収録しているはずです。
で、せっかくですから、お囲いのツバメさんの本心…読めてると思いますけど、改めて申しておきますね。
(アナ閣下は私に貢ぎ囲われ、確かに寵愛を注いでは頂きましたが、他の騎士の手前もあるから控えて欲しかったのですよ…ええ、私も確かに、黄色い肌や黒い者が王宮を跳梁跋扈することを苦々しく思うておりました…ですが、だからと言って性急に彼らを排除すれば女王陛下の怒りを買うは必須。せめてアナ様も私も、時期を見てと申しましたが…鉄道建設によって異なる肌色の輩が増長するは必至とお焦りに…)
ええ、これはオリエンテ宮殿で捕まっている、アナさんの愛人役の若ツバメ,いえもとい騎士様ですね。
お分かりですか、そしてアナさんは最初の謀反の時も、同じようにツバメさん囲って色々してたでしょ。
(な…なぜそれを…)
痴女皇国の調査能力を甘く見て頂いては困りますね。
それに、私が元来いた地球でも、アナさんは謀反に失敗してるんですから。
その時の諸々は漫画に小説にドラマと、色々と脚色されてばら撒かれているのです。
(うう、そのような生き恥を…更にはわたくしが死んだ後も、でしょうか…)
(もちろん。だからこそアナさん、せっかく痴女皇国に拾われてやり直すチャンスがあったのに、何でそんな事になったのかって惜しんでる人も決して皆無じゃないんです。ですから、まりりとかベラちゃんの言うことをよく聞いて懲罰内容に従ってください。これは、あなたと…そしてイザベル陛下の上位職である女官長の地位にある人間の言葉として言わせて頂きますね)
ええ。一応、この室見理恵、何かあれば女官長の地位と権限を速攻で与えられ、そっちの仕事を押し付けられる立場でもあるのです。
(理恵さん…うちからも理恵さんが厳罰を望んでないことはよう言い聞かせておきますから、運転運転)
へいへい。ダリアに言われた訳でもありませんが、そっちはそっちでちゃんとやってますからね。
これも、痴女種能力のたまもの。
(その割に剣の腕前がな…)
うっさいわい。
いいことベラちゃん。女は舐められてばかりでもいけないのよ。あたしの訓練相手、手配して。
(舐められてる性生活の国土局長兼女官長資格者様が何か言うておられますが、パイセン…必要あるんですか?)
(たまにベラちゃんやまりりをしばくためには白金衣の必要性を感じるのよ。あれ、剣術や体術もないと着こなせないって言うじゃない)
(ふっ。敵にみすみす武器を与えるアホがどこにおりますか)
(ベラ子…すまん。りええの服装選択に蟹衣装、足しちまった…)
え。
ナニさらすんじゃい、まりり。
しかし、その後が驚愕でした。
(りええ。あれ、某ふもっふなぬいぐるみ型パワードスーツと同じで…実は白金衣機能があるんだ…でなきゃ蟹光線みたいな戦略破壊兵器、実装できねぇだろ…)
するってぇと何か、あれ着たらベラちゃんとも戦えるのね。
よっしゃわかった。
カディス着いたらあれ、着るから。
人に技術や知識を出し惜しみする腐れ皇帝は懲罰。
これは正しい行いよね!
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まりり「あのなぁ。お前らが怪獣大決戦を始めるのはいいけど、イベリア半島を地図から消し去る気か…?」
べらこ「戦うというならば受けて立つまでなのです!」
いざべる「お願いですから、敷いたばかりの鉄の道もろともイスパニアを消し去るのだけは遠慮願いたいのですけど…はっ、そうですわ、アナを生贄に差し出しましょう!」
べらこ「あたしたちは生贄を差し出される悪神なのですか…」
りええ「あたしはいらん。アナさんは熟女枠だし、お好きな方へ」
べらこ「パイセン…いくらギャル化と痴女種特性で若く見えても、中身はどんどんおばちゃん化するんですよ…初代様見てたらわかるでしょ…」
てるこ「理恵ちゃん。あたくしが加勢して差し上げますから、遠慮なくあのカニいしょうとやらを着用なさいませ。マリアヴェッラごとき、地に伏せてみせましょう」
他全員(おばちゃんになるとしつこいっていう事例がまた一つ…)




