ラ・マンチャの女 -Mujer de la mancha- 11
で。
アトーチャ駅の一番列車の前なんですけど。
あのね、まりり。
予定してないゲスト呼ぶのって、どうなのよ。
しかも何。
奥様、痴女皇国世界に単身でのご訪問じゃないの…いいの?
(おい、後ろ見ろ…流石にちゃんと加藤さんがついてくれてるだろ…だいいち痴女皇国側からも護衛はちゃんと手配して出してるぞ。それに時間軸を調整しているから夜にこっそり抜け出してんだよ。皇居にいない時間は向こうじゃほんの1秒未満だってば…)
ええ。
ご立派なスーツ姿の日本人の貴婦人が、テープカットの列の後ろに。
更には、加藤刑事とミケロットさん…ミケーレ・ダ・コレーラ枢機卿が後方に控えていますね。
あ、ミケロットさん…その男性は不気味に見えますけど、我々の味方ですからご心配なく。
それと、まりり曰く、人外の方向で強い人らしいので喧嘩を売っちゃダメですよ。
(いやいや、只者ではないと存じましたので誰何させて頂きましたまで。私めの本来のお勤めは教皇猊下とデステ殿下の護衛ですよ)
(で、室見さんに説明しておきますとですな、そちらの騎士の方も動員されているのに、私ごときの出る幕はないと思ったんですがね。高木さん…マリアリーゼ陛下にちょっとだけ、ほんのちょっとだからと言われて仕方なく。ま、智秋係長には断っておりますし、あくまでも非公式の来訪ということで月間痴女宮への掲載もなしでお願いしますよ…)
ええ、不気味さでは痴女皇国でも有名な加藤さんですが、困った顔をなさっているのは非常に珍しい光景だと思います。あの加藤やすの…。
(こらぁ、加藤さんのフルネームを言うなっ)
(お黙り。まりり…加藤さんめちゃくちゃ困ってんじゃん…ミケーレさんはミケーレさんでチェーザレさんの護衛部隊率いて来てるんだしさ…せめてセキュリティ関係者にはちゃんと話、通しとこうよ…)
(うう、室見様の気遣いが…)
(ミケーレ枢機卿、お邪魔して申し訳ありませんな…まぁそちらの教皇猊下の障害になりそうな者が出た場合、及ばずながらですがお助けさせて頂きますよ)
(ミケロットさん、加藤さんは真剣に助けになるから心配しなくていーよ。強さで言うと…そーだな、色々制限があるんだけど、全部外したらこないだまでのダリアくらいはあるから)
えええええと内心でミケロットさんが驚いてますけど、あのミケロットさんが驚くのも無理はありません。あのパリのをかま作戦の前からダリアがどういう事を出来るか知ってる人だから、余計に驚くんですよ。
あ、ミケロットさんはチェーザレさん…教皇猊下がピサやフィレンツェで学生さんやってた時からの付き合いのお友達ですが、同時にチェーザレさんの懐刀みたいなポジションの人です。
ぶっちゃけ、チェーザレさんに敵対しそうな人間が目についたとして、チェーザレさんやミケロットさんなど「スペイン団」と呼ばれていたお友達の集まりの方々がスペイン語で話を始め出すと、その数日後にはアルノ川に死体が浮くとか、はたまたスラム街で見るも無惨な惨殺死体が発見されるような事がそこそこあったらしいんです…。
そのミケロットさんを内心でビビらせるダリアはともかく、加藤さんは見た目通りに不気味なだけでなく、本当におかみ様やまりりやベラちゃんアルトさんクラスでないと到底抑えられない魔人だそうです。
なにせ、関東大震災を起こすだけでなくて、あの月を引き寄せて日本列島を破壊しようとした人らしいですからねぇ。
まぁ、護衛の中には当のダリアも呼ばれて来てますから大丈夫でしょう。
そして、肝心の護衛対象の奥様ですけどね、一番列車の貴賓乗客として、まりりが女王陛下、そしてデステさんと一緒に個室までエスコートするそうです。
はぁ。
で…開放席の乗客の案内や接待はどうすんのよっ。手順がまた狂うじゃない…。
(兄貴にホスト役を頼んだ。それに、デステさんと途中で入れ替わる予定だぞ)
鬼かぁっ。
(いや、ベラ子も開放席室にいるから。そっちは大丈夫だろ)
でまぁ、我々が乗ってきた貴賓車両。
実はBE10で牽引していました。
そして、編成最後尾にはCC07210型が連結されています。
それも、貴賓車両と色を合わせて、真紅色という呼称の濃厚な茶色に細い白帯赤帯黄帯が入った特別機が。
この車両は高速列車を後から追いかけて来ます。
そして、マドリードに戻る賓客を乗せて帰路につきます。
一方、船で帰国する海外客はカディスからそのままお船へ。
(私は一旦マドリードに戻らせて頂きますよ。翌日にジブラルタルを視察して迎えの船で帰国しますがね)
あら、ドレイク提督もいらっしゃいましたね…。
とまぁ、諸々の手順変更はありますが、一番列車を前にテープカットの儀式を執り行います。
この儀式、先ほども申しました通りで、スペイン国内はもちろん、各地の聖母教会でも中継が入ります。
でまぁ、御料車や供奉車から降り立つ人々を迎え入れるのはスペインと申しますか、痴女皇国南欧支部の所属騎士に加えて本宮からも応援を貰っているんですけど。
まりり、なんで鼓笛隊までいるのよ。
いえ、リハの時もいましたよ。
しかし、そもそも西暦1600年代に存在してはならない楽器まであるような気もします。
(とりあえず気にするな…それを言うとバーデン=バーデンの時のピアノも歴史警察がうるさく騒ぐ対象になるだろ…)
た、確かに…。
https://novel18.syosetu.com/n5728gy/114/
それはそれとして、誘導に従って順番に整列して行く皆様方。誰が誰なのか、まりりが紹介しながら赤カーペットの上のテープを前にして順番に立って行きます。
で、アナさん配下の騎士さんたちが渡すはさみを受け取ったテープカットを担当する人たちですが、列車に近い方から順番に、イザベル陛下・国務大臣閣下とスペイン要人が並んで行きます。そして今回の派遣技術団長となっているJR緑文字社の方、遠藤さんの上司にあたる人だそうですが、テンプレス・レイルウェイズ代表代行と痴女皇国側のトップを兼ねてスーツ姿になったベラちゃんの横に立たれます。
(先頭の機関車にシャンパングラスをぶつけて割るとか、本当は船以外だとあまり縁起のいい行為じゃないらしいのよね…)
で、ここはテープカットで素直に行こうとなりました。
司会進行役のまりりが音声と心話でホームでの式典開始を告げます。
「Gracias por esperar. A partir de ahora celebraremos un acto de salida del tren bala para conmemorar la puesta en marcha oficial de los Reales Ferrocarriles Españoles.」
(それでは皆様お待たせしました。ただいまよりイスパニア王立鉄道の公式営業開始を記念する弾丸列車の出発式を執り行います。どうぞ)
そして、鳴り響く荘厳な音楽。
https://twitter.com/725578cc/status/1621079671038435329?s=20&t=oi1JjBU2oXWgziw_GMzOPQ
イザベルさんを筆頭に、次々と支柱に渡されて目の前に張られたテープを切っていく人たち。
で、ティアラちゃんがはさみを回収して行きます。
そして、わたくし室見、実は遠藤助役と一緒にS1919-01編成の乗務員室扉の前に立っております。
このテープカットの儀式に参加した人はほぼほぼそのまま一番列車に乗り込むのですが、イザベルさんには例の儀式があります。
こちらに向かって来るイザベルさんのドレスが瞬時に、王立鉄道乗務員制服に変わります。
で、遠藤さんが乗務員室のドアを開けて、イザベルさんに一礼して迎え入れます。
そこかしこで鳴る口笛や賞賛の声。
そして、わたくし室見も添乗員として運転台にお邪魔します。
遠藤さんが乗り込んで来られると、助士席に着席頂いて、私は乗務員室扉を閉めてからイザベルさんの後ろに。
で、この運転室、既報の通りTGVそのものと言っていい構造でして、運転室正面窓中央に正規の運転者が座ります。
そして、やや右後ろに指導助役や技術員の方など、添乗が必要な人が座る助士席が存在します。
ではわたくし室見、どこにいるか。
イザベルさんの背後に立ちます。
だいたいの配置はこんな感じで。
いざべる
りええ えんどう
そして、国歌…スペイン国歌の国王行進曲ってもともと歌詞のない曲だそうですね…が鳴り終わると、来賓の皆様方の乗車が済んだ旨、各車両に配置して着席を助ける乗務員役の女官から車掌さんに連絡が入ります。
運転情報支援表示ディスプレイに出発よし表示が出され、正面窓のヘッドアップディスプレイにも色灯信号機表示が出ます。
(アトーチャ駅からしばらくは在来線扱いなのよね…)
(まぁともかく出してもらえ。信号表示も出発なんだろ?)後ろの貴賓車両の個室に陣取るまりりからも心話が。
で、イザベルさんに心話で例のボタンを押して頂くようにお願いします。
(緊張しますわねぇ…では)
安全カバーを開くと、緑色に発光している白ボタンを右手人差し指でぽちっと押されるイザベルさん。
で、まず右足で警笛ペダルをひと踏みして頂きますと、ぼへぇっという感じのフランスの機関車らしいTGV標準警笛が鳴ります。
そしてイザベルさんが押した自動運転装置の発進ボタンに反応して、私の後ろ側の壁の向こうでインバータ装置の起動音がして、列車が動き出します。
更には、すかさずイザベルさんの左横から右足を突き入れて左側警笛ペダルを踏むわたくし室見。
ええ、ドケヨホーンを鳴らすのです。
この場面で鳴らさずして、いつ鳴らすのか。
これを鳴らす依頼も受けておるのです。
どーけーよーどーけーよー○ーろーすーぞーという後付けの偽歌詞が広まったほど、中京圏と鉄ヲタ界隈ではある意味非常に有名なミュージックホーンの音が地下駅に響き渡ります。
ええ、後ろの車内にいるアルストムやフランスの技術関係者の方々が内心頭を抱えてたり、嫌そうにしてる感情も読めますが強行します。
これは日本ではなくテンプレス・レイルウェイズ名義で「鉄道なるものがそもそも全くわかってない時代と土地で走らせるんだからわかりやすい警笛は必要です。しかも威嚇的ではなく、鉄道に親しみを持ってもらえる音源を搭載したいのです」という主旨で主張を尽くして認められたものです。
渋々嫌々承認させたとも申しますが。
で、以前に私がハンドルを握った時と違って、今回はATO…自動列車運転装置を起動しています。
https://ncode.syosetu.com/n6615gx/113/
つまり、ここからセビリア・サンタ=フスタ駅までは自動運転。
そして、プリンシペ・ピオ駅からセビリア方面に直行する線路と合流して少し走りますと、これまた前にお話ししました「穴が地下トンネル構造から山岳トンネル構造に変わる辺り」を通過します。
https://ncode.syosetu.com/n6615gx/114/
この場所の手前の駅で、将来は地下鉄が必要になった場合の在来線区間が終わります。では在来線扱いの列車はと申しますと、その駅で分岐して地上に出て行きますよ。
更に、青四角と黄色三角を組み合わせたLGV…フランス流の高速線路区間専用の閉塞標識が出た場所を通過しますと、S1919-01編成は運転台からポン、という音を発して閉塞方式をTVMに切り替えます。運転席正面のモニタの速度計表示も、高速線用に切り替わって制限速度320、予告360と出して来ます。
さて、ここで運転席にはわたくし室見が交代着席。
では、イザベル陛下には何をして頂くのか。
「A todos los pasajeros.El tren conmemorativo ahora ha entrado en la sección de alta velocidad. A partir de ahora, aceleraremos hacia la velocidad máxima de 360 km.Observe la pantalla de velocidad que se muestra en la cabina.」
(ご乗車の皆様へ。ただいま記念列車は高速運転区間に入りました。これから最高速度360キロに向けて加速して行きます。客室に表示された速度表示に注目してください)
ええ、乗務員室扉横の車掌用マイクを握って、今から最高速度区間に向けて加速するよーという案内を乗車中の来賓の皆様に対して行って頂くのです。
これも実のところ、試乗時に判明した「トンネル区間が多いので車窓の変化に乏しい、今どこを走ってるのかよくわからない上に、一体どれだけ速く走っているのか知るすべがない」などの意見や苦情を反映したがための案内放送。
本当は私かまりりがやれば良いのですが、あくまでもこの鉄道は痴女皇国南欧支部にしてスペイン王国の王立鉄道です。
ですからスペインの真の国家元首のまりりか、次席のベラちゃんがやるという手もありましたが、それではスペイン国民や他国への影響力が低いと、当のまりりが申します。
言うなれば、痴女皇国はスペイン王国のスポンサー兼演出家。国家の象徴の、いわばアイドル役のイザベル陛下の見せ場を作って差し上げるのが筋と、まりりは言いよります。
(ベラ子でさえ、この場でアナウンスしても意味ねぇだろ…ここは不得手でもイザベルさんにやってもらうべきだぜ…)
そして、運転席から速度のカウントダウン実況中継をやることにも。
「345 kilómetros por hora.350,351…Trescientos Sesenta!」
(ただいま時速345キロ、350、351…360キロに達しました!)
瞬間、後ろの客車から一斉に伝わって来る歓喜の声。
スペイン語ってフランス語と同じ…いえ、フランスの方が数字を数えるの、難しいですよね…。
(室見様。あたくし両方喋れますけど、確かに聖院第二公用語でじそくさんびゃくろくじゅっきろーっと申す方が楽は楽。それは否定しませんわ。しませんけど…)
(ええ、ここはスペインです。仕方ないのです…)
そうです、イザベル陛下はもともとおフランス人、それも王家のお生まれ。
何の因果か、政略結婚でスペインに嫁いだ方です。
まぁともかく。
音声だけではあんまりということで、各客室の情報表示モニタ類には速度だけでなく、現在地の地図や地上の様子の映像も併せて映すことに。
その映像の中には、高速本線だとトンネルで通過していくので拝見が叶わないのですけど、美しく整備されたトレドの町や、更にはこれから通過していくコルドバなどの光景も含んでいます。
それらを紹介していくことで、巨額の予算を投じて連邦世界のスペインの諸都市同様に立派な建築物が立ち並ぶ様を来賓にご覧いただき、痴女皇国と手を結ぶことがいかに国益を利するのかをアピールするのが狙いですね。
実際、フランスにドイツ・オーストリアはもちろん北方帝国の使節までもが内密に招かれて後部のプレフェンテ…ビジネスクラス席に座っておられるようですし。
で、これらの映像による観光案内を装ったスペインお国自慢、実は聖母教会の修道院や聖堂施設を大写しにしたりしております。
尼僧たちが働くのみならず、ちょこちょこと「教会内で起きてること」の映像らしきも混ぜているのです…。
「La fuente de energía de este tren es la fuerza vital humana.Para obtener ese poder, el pueblo entrega sus energías a las monjas de la iglesia. Especialmente para los caballeros, sería mucho mejor pasar tiempo con hermosas monjas y tener buena suerte que obligarlas a creer en Dios.」
(この列車を走らせる力の源は人間の生命力です。その力を得るために、国民は教会の修道女と交わって精気を捧げるのです。特に殿方にとっては神を信じろと無理に言うよりも、美しい尼僧と楽しく過ごしてご利益を得る方がはるかによい事でしょう)
えらい事言ってますけど、原稿考えたの誰よ…いいのか、まりり。
(だから聖母教会を呼び込めば、勢い痴女皇国の保有技術を得ることとセットになるって話にしたいんだよ…。実際にイザベルさんに喋ってもらうけどさ、単に鉄道や道路だけじゃねぇ。食料生産はもちろん、医療も無償に近くなるんだぜ…子供を産む時でも生命の危険にさらされなくなるんだ。…医者や産婆さんは失職するけどな…)
その方面の手当ができてるなら、文句は言わないけどねぇ。
更には、イザベルさんはこうも申します。
「Bientôt, le train sera au sol et passera la gare de Ciudad Real. Découvrez la vitesse. Et c'est parce que les pentes devant Ciudad Real plongent profondément dans le fond d'un grand lac artificiel, nommé Vicario Reservoir, bien au-dessus du trou.」
(間もなく列車は地上に出てシウダード・レアル駅を通過します。その速さを体験してください。そして、シウダードレアル手前の坂道は、穴のはるか上にある大きな人工の湖、ビカリオ貯水池と名付けられた湖の底に穴を掘るために深く潜っているからです)
「Le réservoir Vicario a été construit avec le soutien de l'Empire de la tentation. Il existe d'autres lacs artificiels construits au-dessus et au-dessous du sol dans diverses régions d'Espagne. L'année prochaine, l'Espagne pourra nourrir sa population exclusivement avec ses propres produits, sauf échanges diplomatiques.」
(ビカリオ貯水池は痴女皇国の支援を得て建設されました。この他にもスペインの各所でこうした人工の湖を地上、そして地下に建設しております。それらはスペインの農作物生産に大きく寄与しております。来年には外交上の交流の必要性がある場合を除いて、スペインは自国の生産物だけで国民を食べさせていけるでしょう)
この放送が流れた瞬間、後部客席の一部で悪寒や衝撃が走るのが伝わって来ました。
そしてですねぇ、イザベルさん、わざわざフランス語に切り替えて放送、してるんですよ。
なぜか。
(そりゃもちろん、祖国や他の国から小麦やら豚やら牛やらワインやら諸々、買わなくても良くなりましたわよと教えてやるためですわよ。むしろ、わたくしどもは「よそに売れる」だけの生産量がありますよと訴えるのも、この試乗に各国の要人や使節を招いた理由)
ええ、この時代では強大な軍事大国でもあり、ルルド編でも少しだけ雅美さんと私の話に出しましたが、食料自給率が基本的に高い農業国家でもあるフランスへの露骨な嫌味と牽制なんですよ、イザベルさんが祖国の言葉に切り替えてまで、わざわざ喋ってる理由…。
決して、単なる観光案内やお国自慢じゃないのです。
荘厳な大聖堂や整った街並みを見せるのも、南欧支部となったスペインの国力を自慢するだけではありません。
その建設費用の出どころや、更には建築技術。ふんだんに大理石や御影石、そしてガラス…フランスはこの時代、ガラスの一大製造生産国でもありますよ…を取り入れた建物が並ぶ街並みに、郊外に目を移せば麦畑に野菜畑、更にはオレンジやレモン、葡萄畑が山あいに。
荒涼たる砂漠地帯が次第に切り開かれ畑…そして、場所によっては米食文化でもあるスペインのおめ…いえ、おこめ事情をカイゼンするための水稲用の田んぼや、陸稲の畑すらも。
(パイセンは失言罪につき、あとで皇帝自ら懲罰にかけます)
(あたしを罰する前に、ベラちゃんの淫語連呼を自分で罰してよ!)
それはともかく、イザベルさんはもうひとつ、爆弾発言を申し渡しました。
「De là, le train passe Puertollano et entre à nouveau dans une fosse dans les montagnes. Le trou continue jusqu'aux environs de Cordoue. En utilisant cette technologie, par exemple, il serait facile d'étendre un chemin de fer à travers les Pyrénées jusqu'au côté français. En fait, cette fois, une route utilisant un long trou sera achevée de l'Italie à travers les Alpes jusqu'en Suisse. Ce trou peut être étendu jusqu'à Modane en France, Bâle en Suisse, et même en Allemagne.」
(これから列車はプエルトリャーノを過ぎて、再び山の中に分け入り穴に入ります。その穴はコルドバ付近まで延々と続くものです。ええ…この技術を用いた場合、例えばピレネーを越えてフランス側に鉄道を伸ばすことも容易でしょう。実際に今度、イタリアからアルプスを越えてスイスまで長い穴を用いた道が完成します。そしてこの穴はフランスのモダーヌやスイスのバーゼルやドイツまでに伸ばすことも可能なのです)
ええ、爆弾発言も爆弾発言。
マドリード市内ですら、トンネルという穴掘り技術を見せつけられていた皆様の顔が、このイザベルさんの話で真っ青になってるのも、客室付女官を経て確認できます。
あのピレネーやアルプスの山々に穴を開けられる。
そして、客室内のモニタ類に表示させていましたが、ビカリオ貯水池の巨大な威容は、もはや湖と言って差し支えのないものです。
「Bien sûr, pouvoir passer par le fond du réservoir Vicario signifie qu'il est également possible de passer sous la mer. Il est également possible de creuser un trou dans le détroit de Douvres pour relier le continent et l'île.」
(むろん、ビカリオ貯水池のような湖の湖底を通せる穴が掘れるということは、海の下を通る穴も掘れるということです。例えば、ドーバー海峡に穴を掘って大陸と島を陸続きにすることも可能なのですよ…)




