ラ・マンチャの女 -Mujer de la mancha- 9
えええええ。
とりあえず、皆で駅の乗務員詰所に入りますと。
「あ、高木社長に室見専務…今から遠藤助役にはマドリードの高速統合CTCセンターと交信頂きますが、オブザーバーとして同席願えませんでしょうか…」とお願いされます。
仕方ねぇな、という顔をするまりり。
そして、ベラちゃんが呼ばれない理由…実はベラちゃんはテンプレス・レイルウェイズについては取締役扱いです。
それに…この中でテンプレス・レイルウェイズ側で専門的な話ができる順番、私(+エマちゃん)→まりり→ベラちゃん・イザベルさんになってしまいますから…。
(必要があれば経営権はすぐに貰えるそうなんですけどね、とりあえず最低でもスペインとNBの事業の目処が立つまでは、詳しい人間の方がいいからってヒラ取なんですよ?…)
(その代わりファインテックの方は副社長か専務じゃん…あたしも建材部門では経営に噛んでなくもないのよ?)
で、遠藤助役が指令センターの方とお話しする後ろに待機することに。
「臨試高貨か…牽引機の機番わかりますか?」
『721の2。試作2号機ですね』
ふむ。CC07210型精気駆動電気機関車ですね。ちなみにおっとナニーな名称を回避するためにも、出向者はもちろんのこと、私達の方でもナナニーイチ型と呼ぶことが多いです、あれ。
(エマちゃん、原因わかるかな)
で、エマちゃんに遠隔調査を依頼してみましたところ。
(ちょっとお待ちを。…精気充填率62%、発電装置側に異常なし。主機1番から6番まで通電よし、過熱形跡なし…ふんふん。えーとね、ブレーキ制御回路…電気ブレーキ系と空気ブレーキ系のブレンディング制御に使ってる読み替え装置の構成モジュールに異常発見。…これ、アルストム持ちでATP系統だからシーメンスの製造したモジュールですね…一応ブラックボックス扱いですけど、うちやったら直せまっせ)
何ぃいいいいいっ。
思わず、担当者をラッシュ時の文庫か八景のホームに連れて行きたくなるような調査結果には愕然とせざるを得ません。
これやから舶来もんはぁっ。
で、どないしましょという話を始めます。
確かに、エマちゃんが手を出せば一瞬に修理できそうな話です。
しかし、試作2号機はいわば問題洗い出し用でもあります。
ですので、そのおかしくなった回路部の「どこがおかしい・何がおかしい・どうしてこうなった」を分析しなくてはなりません。
更にはアルストム持ちのブラックボックス部ということですが、ここはNBでのライセンス生産時には日本製の互換部品にするかオープンボックス化するはずだとエマちゃんから教えてもらいましたので、アルストムにはちょっと文句を言う必要があるかも知れませんので、なるべくならこのCC07210-2号機、故障した状態でマドリードの基地に戻したいものです。
そして、こういう場合に備えてカディス・セビリア・マドリードの各基地にはなるべく「とりあえず故障車両を含む列車全体をその場から動かす」ための救援機関車をスタンバイさせておくことになっていました。
しかし…。
『セビリアの救援指定機、昨日の不調でマドリードに送り返しているんです…カディスの07210-09を出すのが早そうですが、運転士はマドリードから送り込むしかありませんね…』と、指令室を背景に、担当の指令員の方が申されます。
と、そこで閃くものが。
「仰木さんでしたか。CC07210でしたら、痴女皇国世界のスペインに納品した分はS1919やタルゴの救援走行も想定しておりましたから、密連と柴田式自連の双頭式連結器を装備しています。シャルフェンベルク式密着連結器面を出してS1919の後部に併結すれば現場まで持って行けますよ。あとは現地で故障機の前方に連結すれば、故障機に乗務している方にそのまま運転してもらえると思いますが」
と、指令員氏にご提案をば。
つまり、これの逆です。
この時は非電化のリゾート地最寄り駅まで乗り入れるTGVを客車扱いにしてCC72000型機関車が引っ張りましたけど、今、私が提案したのは真逆…TGVで救援機関車を牽引していくのです。
「遠藤さん、どうでしょう。これならS1919型本来の速度は出せませんけど、少なくとも高速線区間でCC07210型の許容値の250km/hまではいけると思います。あとは現地で故障機もろとも貨物列車編成を牽引させれば問題はないでしょう」
で、ダメ押し。
(エマちゃん、確かこういう逆救援に備えて、やおいとロクキューとナナニーにはS1919とのブレーキ連携システム付けてたわよね)
(ええ、電気連結器に繋ぐアダプターつけられない場合は、信号ケーブル繋ぐか指令経由の連動操縦で対応できまっせ)
よっしゃ。
それだけ聞けばOK。
「で…指令仰木さん、ここにCC07210の指導運転士資格者が2名います。1人は言うまでもなく遠藤運転助役。もう1人は…私です」
つまり、カディスの車両整備線群側線に待機している9号機を引っ張り出してS1919の後部にまで運転して連結できる人間、この場に2名います。
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で。
遠藤さん・まりり・私の三名でカディスの先に留置されているCC07210を引き取りに行くことになりました。
てくてくと線路沿いを歩いて…なんてことはなく、まりりが転送してくれます。
そして内側開きの運転台ドアを開けている間に、遠藤さんが手羽止めを外したり電源スイッチを入れたり云々。
この辺はBD69と物の収納場所やらスイッチの位置が変わるだけで、準備作業自体は大きく違いません。
そして、ここからが以前の米沢編でも少しだけ話が出た連結器の件です。
現在、痴女皇国やNBに入れている車両、もともとの欧州で使用していた原型の鉄道車両と大きく違う連結器を装備しているものがほとんどなのです。
具体的には、皆さんの世界や私の元いた連邦統治下の地球では、相も変わらずネジ式連結器というものを客車や貨車の連結に使用しています。
https://twitter.com/725578cc/status/1615895180183506944?s=20&t=aUsQXbWOb-qoyx_bIHx5Qw
ただ、このネジ式連結器…連結を手作業で行う必要があるのですけど、寄ってくる列車に巻き込まれたり挟まれたり等々、事故が多かったんですよ。
なにせ、連結を完璧にするために装備されているバッファーという衝撃吸収装置。これはリンク式の場合、高速走行させるためには必ず必要になる部品です。
ですが、連結作業員の人がこれに挟まれてしまう事故まで起きているんです、それも一件や二件ではなく…日本の鉄道省が連結器交換に踏み切る決意に及ぶほどに。
更には、その構造上…厳しすぎる急勾配が続くと外れやすくなり、事故も起きています。
そんな訳で当初はネジ式連結器を使っていた日本では大正時代のある日を境に、ほぼ一斉に自動連結器なるものに取り替えました。
そして痴女皇国世界とNBではアメリカ様式の自動連結器と、更にバッファーを残したロシア式に近い形態で、TGV系高速車両機関車とタルゴ客車以外を統一することに。
この自動連結器の動作、大ざっぱに申し上げますと「握手」です。
https://twitter.com/725578cc/status/1615897576297095171?s=20&t=aUsQXbWOb-qoyx_bIHx5Qw
で、TGV系ですが、これ…少し揉めたんですよ。
と申しますのも、欧州でもさすがに旧態依然としたネジ式では作業員の人件費や連結に要する時間ロス、さらには事故のリスクが問題となりました。
ただし、複数の国をまたいで走る列車も少なくない土地柄なので、日本で実施したような一斉交換は複数の国が足並みを揃えなくてはできないお仕事です。
ですので、自国内を走るだけの通勤電車や、それ用の専用設計が許される高速車両から「線路に降りてネジを締めたり緩めたり、果てはホースや電線を繋ぐ作業員を必要としない」電気連結器つき密着連結器が採用され始めたのです。
この連結器は日本でも柴田式密着連結器と電気連結器の組み合わせで、あちこちで見る事ができます。
(ちなみに悪くない社あるじゃん、速度違反常習犯だったとこ。あそこは近年までバンドン式っていう世界でも類例が少ないレアな密着連結器を使ってたんだけど、赤福社と線路がつながったのをきっかけにして、赤福車と同じ柴田式に取り替えてるんだよね)
(どうでもいいけど虎柄社のこと、そろそろ速度違反って言うのやめてやれよ…)
(事実だから仕方ないじゃない…)
でまぁ。
これまた米沢編でもお話に出ましたけど、機関車の引っ張る車両は客車や貨車だけではない場合があります。
そう、今回のように故障した列車が仮にTGVだった場合などです。
お手手にぎにぎする形の連結器と、遊びが少なくて高速運転する車両向きに開発された密着連結器ではその形は全く違います。
で、一部タルゴ客車やTGV系車両が採用しているシャルフェンベルク式密着連結器、日本の車両が使っている柴田式とはまた形が違っていて、互換性はありません。
揉めたのはここです。
柴田式にしたい我が父の会社や他の協力企業。
そして、出来ればTGVのままの設計で行きたいフランス勢。
…ですが、今後を考えると欧州は欧州系で行っておこうという私の判断で、比丘尼国で密着式連結器を使う場合は柴田式、欧州ならばシャルフェンベルク式と、分けておこうとなりました。
そして、CC07210型やセリエ801型のようなタルゴ客車を牽引する必要がある機関車については、連結器の頭部を90度回転させることでどちらの形式の連結にも対応できる双頭連結器を装着することにしました。
https://twitter.com/725578cc/status/1615893501497184257?s=20&t=sSzKdnJQd0_VIq5CVIMksA
これ、比丘尼国に持って行くBD69では密着連結器側、柴田式ですが、欧州用ではシャルフェンベルク式にしていますよ。
で。
軍手をはめた手でロックピンを外して、えいやっと連結器の頭を90度回して、更には密着連結器側に繋がっている空気ブレーキ用の配管を確かめるわたくし室見理恵。
作業服姿でないとためらうお仕事をしております。
更には、線路からえっちらおっちらとステップと握り棒を頼りに運転台に上がるありさま。
ええ、男女同権とか言ってる人にさせてみたい仕事ですよ。
三河監獄社の期間工の男性向け職場…つまり、ラインに入って車を組み立てるための溶接やらをする作業と同じくらい、スッと手を出せる女性を選ぶ仕事だと思いますから。
(りええは意外とガテン系。マリアおぼえた)
(っていうかガテン系でないと鉄道系の男性のお仕事、無理と思うわよ… ほら、助手席側に入って入って)
で、まりりから先に運転台に上がってもらいます。
CC07210の運転席は割と広々としており、BD69のように室内にどかんと暖房蒸気発生器…SGに見せかけた精気発電機本体が居座っているわけではありません。
機械室は運転室後方の隔壁の向こうに隔離されていますよ。
で、聖環で運転者認証を受けてメインキースイッチを入れまして…。
「CTC、こちらナナニー9号機、前の運転台室見です。ATPモード、構内入れ替え。入替信号並びに場内経路閉塞確認。進路、カディス駅2番線。CTC出発承認願います」
『こちらカディスCTC林田、場内出発進行よし。72-9号機、H07編成への連結移動許可します』
と、カディス駅併設のCTC指令センターに無線連絡を入れてから、リバーサーと呼ばれる前進後退切り替えレバーと駐車ブレーキスイッチを操作したあと、右手でマスコンハンドルを前に押します。
ずるっ、とトルクを感じる動きで始動するCC07210。
その姿、機関車だけでも全長20メートル。ジーナさんも動かしているのを見たことがある海上コンテナを積んだ大型トレーラーはもちろん、全長18メートルのBD69やDD51より更に長いのです。
もちろん、トラックと違い、鉄道車両ですからハンドルを切りそこねたり切りすぎてどこかにぶつける危険はありません。
しかし…その出力は、BD69を更に上回る6,000馬力。
単機で4,000t積載貨物列車を時速100キロ以上で牽引して走れるのはもちろん、速度を許容する特急用客車を繋げば時速250キロで本線走行できる性能がある代物です。
「本当は昔のフランスの機関車みたいに円形ハンドルにして欲しかったんですけどねぇ…安全リング、握りっぱなしになりますから…」
「あれは今の時代には厳しいでしょう…」
と、遠藤さんと言い合ってますけど、話題はまさに私が今、操作しているマスコンハンドルと言われるブレーキとアクセルが一体化したそれに尽きます。
ええ、これはこれで、近代化されていても日本製車両のそれとかなり異なるんですよ、運転席はもとより、そこにある各種操作装置類の外観。
https://twitter.com/725578cc/status/1615095013226205184?s=20&t=PFa1SITHQbjatuldVZqHDw
で、そんな高性能機に「何も重りをつないでいない」状態な訳ですから、慎重に慎重に、カディス駅に向かいます。
がたがたがたん、がたがたがたん。これはポイントを渡る時の車輪の音ですけど、3軸台車を車体前後に2つ装着していますので、こんな音になります。
これと同じ車軸の配置の代表的な例は…そうですね、日本だと例えばお召し列車牽引機で知られたEF58 61号機。
あれが動いて継ぎ目やポイントを踏んだ時はこんな音がしま…。
(ゴハチなら前後の先台車従輪がありますから音がまた違いますよ…私は直接音を聞いていませんが、EF62が該当するはずです…あれもナナニーと同じで軸配置Co-Coですから…)と、遠藤さんが心話に引っかかるように考えて間違い訂正をしてくださいます。
ほほほ。
そして、後部の連結器カバーを開けて待機中のS1919型のお尻によっこらせ、と連結してしまいます。
マスコンを非常ブレーキ位置に入れて、S1919側で空気ブレーキの動作を確認してもらいます。
「久々に何かこう、懐かしいものがありますな。今は日本じゃ機関車の無動力回送、貨物さんでも滅多にやりませんからなぁ」などと申される遠藤さん。
なお、今おっしゃられた無動力回送ですが、今のような救援機の送り込みの他、その車庫にいる機関車の数を調整するための回送で本務機…列車を牽引する先頭に立つ機関車の次の位置に連結したりすることがあります。
ですので、このCC07210型や他の機関車も「そういう時のための客車扱いされる」運転モードを備えていますよ。
さて、こっちの機関車は本当なら完全に無人にしてしまっても構わないのですが、なにせこれからは一応、列車の最後尾になる車両です。
誰かが監視要員として添乗する必要がありますね…。
ええ、まりりがじー…っと、私を見ます。
おのれは。
イザベルさんの教習があるやろがいっ。
(コルドバまでは一部か全部、在来線区間を走るんだろうが…あたしを完全な素人に思うな…在来線区間の手動運転までイザベルさんに教える必要はねぇだろうがよ…)
「室見さん…ナナニーの運転操作が出来てこの救援列車も運転可能なのは今、私か室見さんだけです…コルドバまでは連結したこれの後部運転台で監視をお願いします…本務車掌は予定通り石戸にやらせますから…」
ええ、車掌扱いでそのまま、このCC07210に乗ってて欲しいと言われました。
むごい話です。
…復路も運転したかったのに!
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マリア「あかん。絶対にりええはアクセルを開ける」
りええ「ええやんか!」
マリア「最近はダリアの影響なのか不明だが、りええも関西弁を混ぜて話す傾向が出てるな」
りええ「駄洒落混じりよりはいいでしょ!」
マリア「ちなみにダリアの関西弁混じりだが、あれは本人の芸風だ。あれで話すのが気楽でいいらしい」
べらこ「あたしはもう、矯正諦めました…あたしも関西弁、混ざってるんですよね…」
りええ「で、年明けまで更新が持ち越された理由だけどさぁ…」
べらこ「茸島絡みはもちろん、聖院学院に神学部や騎士学科が新設された話をR18枠で連続投下したせいなんですよね…」
りええ「ベラちゃんも暴れてたわよね…」
べらこ「うううううう!」
りええ「そんな訳で、私たちはまだスペインですが、話の主舞台は年末から年明けの欧州中心なんですよ、R18版の方…」
べらこ「何とか追い付かせましょう…」
りええ「なら大人しくしててよ…ちなみにスペイン高速鉄道編は次回で何とか終わらせるようにするそうです…」
みんな「とりあえず、話はまだ全然終わってませんから、今年も聖院世界シリーズをよろしくお願いします…」




