ラ・マンチャの女 -Mujer de la mancha- 8
さて、古くから栄えた港町として連邦世界でも知られるカディスですが、その地形は…。
一言で言うと、天然の出島。
上空から見ると福岡県の西戸崎を鏡に映して反転させたかのような姿ですが、こちらは博多港と違って湾の入り口にある半島の先の島状の地形が港として開かれてきました。
(湾の中のかなりの海岸が遠浅や湿地帯なのよ…帆船の性質以外に、かなりの大規模な浚渫工事をしないと接岸すら無理だから、天然の港が開けそうな場所に桟橋や岸壁が偏ってんのよね)
(まぁ、港に向いた町として近所にプエルト・レアルやプエルト・サンタマリアもあるから無理にカディス湾の奥まで浚渫なり干拓なりする必要もなかったんだろうな)
でまぁ、イザベルさんの案内で我々はカディス駅のすぐそばにある港を見て回っております。
そして、駅を出て半島の北の端にある灯台の辺りまで行くと、多くの船が湾に出入りする光景を眺める事が出来ますし、埠頭に行けば何隻もの大型帆船から積み下ろされる貨物。
更には、引き込み線に停められた貨車に積み込まれる袋やら何やらも。
人力と油圧、そして小型の精気駆動モーターで動く一種のフォークリフトすらも稼働している光景が目に入ります。
(帆船ベースだとどうしても大規模な積み下ろしが難しいんですよね…クレーンをつけようにも帆柱が邪魔になるのはあたしにもわかりますし)
(パレット積みがせいぜいだな。さっさと近代的な貨物船を入れてしまいてぇんだけど、なるべく現地生産って縛りがあるからなぁ)
(それでゆり丸級でも木造船体にしたのよねぇ)
(本当はもっとでかい船入れてぇんだけど、鉄鋼生産が本格化しないとなぁ…)
(連邦世界からお船を輸入する話は、核融合機関が主体になってるから難しいって話なのよねぇ)
(えーと、読者の皆様へ。うちらが精気駆動ヘリカル水流ジェット推進機を使いまくる理由に、連邦世界では大型の船舶用ディーゼル機関製造技術が廃れかけているというのもあったりするのですよ…。いや、本当にバルチラかMANの大型ディーゼルエンジン製造技術は喉から手が出るほど欲しいんだけどねぇ)
と、まりりの悩む理由を教えてもらいます。
(核融合発電だろうが核分裂原子炉だろうが、とにかく電気さえ作れたらアジポッド推進器だろうが水流ジェットだろうが、船を動かす動力装置に供給できるんだよ…)
つまり、発電装置さえあれば後は何とかなる。まりりはそう言いたいようです。
そしてですねぇ。
(連邦世界と読者の皆様のおられる地球との違いで大きいのは貨物船の構造、これもあるんだよ。船体を長大化させすぎると水上船では荒波に巻き込まれて折れたりする事故が発生しやすくなるのはご理解頂けると思うんだけど、波の影響を抑えて航行速度や熱核動力の冷却を安定化させようと思うと、半潜水型が有効だって話になってな…うちらの世界だと貨物船は水面下5mくらいまで潜没して航行できる船が一般的になりつつあるのよ…)
痴女皇国にも一隻、いるよね。前はスケアクロウの倉庫に使ってたやつ。
(あれを増備したいんだけど、さすがに船員育成が問題になるんだよな…とりあえず海事部長に臨時就任したラウラさんの指揮下に置いて、欧米航路で時間の制約が少ないものの運搬に投入している。昨冬のバーデン=バーデン攻略戦の後処理で米大陸から大量の芋や麦を運ばせてたの、これ…連邦世界での船名はきたみ丸にしたけどな)
(何でその名前に…船長がくくくと笑いそうな船にしないでよ?)
(ジャガイモ運ぶんだからいいじゃん…北見が芋の産地だって言うからさ…)
(そういう繋がりかい…そもそも北海道の北見って内陸都市で港なんてないのよ? せめて苫小牧とか室蘭とかにしたげなさいよ…)
などと、まりりと言い合いながら港湾視察を手早く済ませる私たち。
BE10 911と形式番号の表板を刻印された入れ替え機関車が貨車を移動させている光景が目に入りますが、これ実はBD69の兄弟機…DD51とDE10型の関係に近いものがある車両です。
そして、この機関車は国鉄時代の傑作入替機として知られたDE10の精気発電駆動仕様。更には標準軌用台車に履き替えていますよ。
で、このBE10、ローカル線での客車牽引のために暖房用の蒸気発生装置を積んでいたグループを基準に、BD69同様に精気発電機とモーター類を搭載できるよう設計したものです。
そして原型機同様に5軸駆動になっていますが、エンジンがわりのモーター出力は入替運転時1,000キロワットに設定しています。これで原型機DE10とだいたい同じ出力に。
これも私は運転することができますが、あまりやりたくはないんですよね…。
(何でよ。鉄ヲタ理恵ちゃんらしくもない)
(運転台見てよ。入替機だから横向いて座るのよ…運転モードを切り替えたら本線運転できる性能もあるけどさ、長時間乗ってると首が痛くなるのよ?)
ええ、これの原型機DE10、工事のための迂回運転で寝台特急客車を重連で牽引して北上線を走ったこともありますし、旅客や貨物を問わずに本線運用もできる機関車です。
そして、BE10を本線運転モードにするとモーター出力は2.000キロワットまで上がります。
ただ…何もDE10のまんまで作らなくても。
(いや室見さん、HD300だと本線運転に支障を来たすじゃないですか、速度面で…DD200でも結局は横座りになりますから、じゃあ製造の難易度も考えてDE10で行こうとなったとお聞きしましたけど)
そうなんですよねぇ、遠藤さんが言われる通りで、JR紺文字社の入替用ハイブリッド機関車だと本線運転時の最高速度が著しく制限されるのです。
一方、DE10改めBE10ならば、その走り装置はBD69と全く同じではありませんけど、類似品。更には重連総括制御…機関車を二両繋げばBD69に近い性能が出せますので、緊急や臨時の本線運転も…運転者が首を進行方向に向け続けている必要はありますけど、物理的には可能です。
で、このBE10が動いている理由。
港湾労働者の皆様方を含めて関係者の習熟や問題洗い出しのためにも、既に貨物輸送について試験的に開始しているからです。
現在は1日数往復ですが、既にカディスからとアルヘシラス…ジブラルタル湾の対岸の港とマドリードを結ぶ貨物列車を走らせています。この試験走行で貨物輸送や駅での荷捌き、更には貨物列車の組成についての問題点を洗い出して行こうというのが我々の計画。
そして、アンドレ・シトロエンというフランスの実業家がストラスブール支部経由で学業興隆計画を提案してきたのにまりりが乗っかり、英国とフランスで募った軍民双方の有志をローマに集めて大学で研究させた成果も、三河監獄国と連邦世界の監獄社協賛というよりは本業絶賛全面協力のもとで、いずれは世に出て来る発明を使って鉄道輸送の補完を計画している模様。
そう…自動車です。
連邦世界と違って石油の埋蔵量が期待できないことから、これを発明普及させるのはためらっていたというまりりですけど、一方でその利便性は他に代え難いため、監獄社から購入した通称ダンケ号なる箱型の車中心に、痴女皇国世界に輸入した自動車の総数は一千台では効きません。
燃料を私たちが提供する必要がありますのと運転者を教育する必要がありますので、運転と運用は痴女皇国関係者に限っておりますが、既にダンケ号の存在とその利便性は公然の秘密として、痴女皇国世界では欧米を中心に知れ渡っております。
で、生家のアルザス地方付近でそれを見たアンドレという青年実業家の方、友人で技術系学生のピエール・ブーランジェという人を誘って「探究心旺盛な青年に与えて世界を探検するためにこういうものを作りたい。ついては費用と技術の支援を」と、計画書類を添えて願い出たそうです。
で、普通ならこんな願い出は…。
「いけにえ村作戦の時に話をちらっとしたけどさ、欧州各国に広めている学術研究目的の融資や支援枠で応募して来られてんだよなぁ…だから精査は必要、門前払いには出来ねぇんだよ…前にもこのシトローエンの兄さんの話が少しだけ出て、あたしが頭抱えてたのはさ、自動車を早々と世界に与えていいもんかどうか悩んでたからなんだよねぇ」
そして、蒸気機関を研究していた英国陸軍と、他ならぬフランス陸軍からも懲罰覚悟で離隊届けを出してまでこの計画に乗ろうとした男性が…その名はニコラ=ジョゼフ・キュニョーというそうです。
英国の機密であった蒸気機関構想の書類を手に入れたフランス陸軍大臣にそれを見せられた砲兵技術士官の方だそうですが、何せ敵国の資料を手に入れた経緯を探られると英国との関係を不必要に悪化させかねないからと、国を挙げて支援は難しいと言われた模様。
(本当はドレイクさんの屋敷の給仕にわざと盗ませたんだよ、意図的に情報を流すために…)
(で、お屋敷のフランス料理のコックさんに流れた書類は密かにフランス大使館に書類を持ち込まれて大陸に渡ったという訳ですか…)
(ただ、大臣閣下も本当は痴女皇国の仲介で英国と手を結ぶ方がいいとお考えでね…腹心の技術者たるキュニョーを亡命させて、自動車発明プロジェクトに噛ませて欲しいとまで言って来たわけよ。もちろん、自動車の発明に成功すれば裏切り者どころか英雄として国に帰れるだろ。んで、同じ要領でさ、英国からもクロムウェル閣下の口利きと人選で、トレビシックとスチーブンソンという人物をスペインへ亡命扱いで派遣してもらっているんだわ)
ただ、自動車の発明には必ず必要なものがあるじゃん。それをどうすんのよ。
ええ。ゴム…つまり、タイヤが必要ですよね。
最初は木造車輪で行けるとしても、単に走るだけの実験装置ではなく、貨物や人を積んで実用的な走行速度を実現するためにはゴムタイヤの開発は必須でしょう。
(そこで茸島で勤務している毒女三人娘の所属企業さんの技術情報だよ…まぁ、これは監獄社を経由してタイヤメーカーと交渉させるか、あるいはフランスかイタリアを通せば別にあの子達を使う必要はないんだけどな)
なるほど、確かにそのルートならタイヤ製造会社に強く口利きができるよね。
ただ、フランスは絶対に鉄道同様に自動車技術にも強く噛もうとしてくるよ。
まりり、その辺も抜かりはないわよね…。
(何のためにダンケ号だけで数百台入れてんだよ。それにさ、反社作戦の際に逆谷って兄ちゃん、捕まえたろ。あれ、ダンケ号に詳しいからって密かに監獄社で認定工場整備士の資格取らせたんだよな。んで東欧支部に整備工場作ってもらったじゃんか…ありゃ、痴女皇国世界の自動車産業は監獄社と合同でやるよって釘刺しだよ)
(逆谷さんも奥さんと子供さんに再会させたげたんでしょ? まぁ、奥さんを女官化したのはちょっと…)
(その代わりに逆谷くんにも浮気というか聖母教会通い認めさせてやってんじゃねぇか…何年か勤めてくれたら新しい戸籍を用意して日本に戻してやるし、稼いだ金は日本円に両替して持たせてやるって…)
(ただ、奥様も逆谷さんも住めば都って考えに傾きまくってるみたいじゃないですか…どうすんですか…)
(ベラ子陛下。アルテローゼですけど。Sakatani úrは返しませんからね…我が支部だけでダンケ号が何台動いているのやら…あれの整備拠点、我が支部に4つも作られておるのですよ…更には派遣された整備員の方々の慰労まで我々が担当するはめに。いえ、サカタニ氏も夫人も我々の肉体に耽溺しておられる様子ですし、お子様の教育もですね、整備員の方々のご家族用として海外子女向け学校すら監獄社がブカレストにご用意しておしまいに)
えーと、ベラちゃんにあれこれ言ってんのは乳上こと、東欧支部長のアルテローゼさんですね。
実は鉄道の威力をストラスブールで目の当たりにするばかりでなく、まりりに連れ回されて連邦世界…つまり人類の未来の何たるかを知っている部類の人なんですよ、アルテローゼさん。
で、うちの支部にもはよ鉄の道をと強力に要望なさっておられるんです、あたしに向けて…。
何せ、早くから沖縄にあるジーナさん出身の踊り子さんパブの通称「ママの店」にも行かされただけの事はある方です。
その肉体を駆使したお色気肉弾攻勢には私も正直、押しの強さに負けそうになっている部類。
軍勢を率いたものの捕虜として痴女皇国に囚われるわ故郷の国に見捨てられるわと散々な運命を歩んで来られたそうですけどね。
普通はあの、まりりに謀略を仕掛けて反乱を起こすとか考えませんよ。
しかし、乳上はあわや謀反成功にまでこぎつけたのです。
謀反は失敗には終わりましたけど、その手口と度胸を気に入ったまりりが手放さなくなるわ、挙句一軍を任されて自分の故郷を含む東ヨーロッパ一帯を制圧して支部を開くわと。
雅美さんもそうですが、まりりは危ない橋を渡る事を厭わない人物を重用する傾向があります。
そして、例え犯罪者やかつて敵対した人間であっても、有能だとみれば目をかけて使おうとしますね。
いい例がさっきの逆谷さんやカリブで海賊女王お気に入りの料理人になり、性別も男に戻してもらえた中井義文さんです。
(パイセン…それ言い出したらダリアさんもでしょ…あの人こそ、そこらの不良少女なんて目じゃありませんよ…)
(ベラちゃん…うちの嫁になんて事言うのよ…それ言い出したらジョスリンの方が人数では勝ってなくない?)
ええ、むろん、神様の元に送った人の数ですよ。
(マダム室見。そういうよろしくない自慢は止めませんか? 確かに私はdix mille…一万では利かない人数を神の御許に送りましたが、その大多数は核兵器を使用した事が理由です…)
と、ジョスリンが怒っています。
確かに、ぼんぼん人をあの世に送るような印象を与えるような言い方は良くありませんね。
で、これは失礼を…と言いかけた時ですね。
(あんな苦痛を感じる前に相当数の人間を天に召すような死に方をさせる兵器で葬った数など、数の内に入りません! 確かに放射能汚染や火傷等々で苦しんで死ぬ者はそれなりに出るものですけど、不自然なmarquerで数字だけ増えては殺人職人の名折れなのです!)
職人って、ジョスリーヌさんは必殺なんとか人だったんですか…。
(ふふん、フランス時代は愛銃にFN57を支給されていたのですよっ。ああそれなのに連邦関係の仕事をするということでドイツ製の拳銃なんか持たされて!マダム室見、あなたにP90を向けた時のような顔を私がしている理由はお分かりですね?)
ようわかりまへん。
しかし、あの変態的な形の変態サブマシンガンとかいうのですか、変な銃についてだけは覚えています。
あまりに形が変態的なので。
(ベルギー人が泣きますよ…で、FN57という拳銃は、まさにそのP90と同じ弾丸を使うのですが、かなり高性能な防弾チョッキでないと防げないのです。ですので相手がそういうものを着ている時にはですね…)
なるほど。つまり、P90に駄洒落菌弾丸でなく元来の銃弾を詰めると、まりりに撃っても…。
(あたしに鉄砲ダマ効かないの知ってるだろ…しかしジョスリンがあれを支給されてたって事はかなり要職かヤバ仕事の専門家ってこったぜ、りええ)
(そんな銃なの?)
(もともとP90も弾丸の初速が速いんで殺傷能力は高いんだよ。で、P90用の小口径高速弾をまんま使う強力な拳銃を作ったのはいいんだけど一般市民の自衛用には強力すぎるってんで、警察や軍関係者にしか売られなかったんだわ)
(そうなのですよ、マリアリーゼ陛下のおっしゃる通りでして、私はエリートだったのです、エリート)
(危ない仕事のエリートね…)
(しかし最近は危ない仕事と言っても股間の銃しか使わない毎日、いささか面白くないのですよ…マダム・シャルロットですか…聞き分けが悪い方らしいので、ひとつ小官に任せては頂けませんか? なんでしたらマダム・室見の横にいるその大柄な女でも構いませんけど)
(パイセン。あたしは銃などという野暮は言いません。シャルロットさんよりもまずジョスリンをしばきたいので、ちょっと協力してもらえませんか)
ベラちゃん。私に何をせぇと。
(そこに貨車に積まれるはずのとうもろこしの袋がありますよね。ちょっと一本拝借したいのですが)
(イザベルさんに言いなさいよ…これはスペイン農業公社の買取品で…えーと)と、袋に貼られたラベルを読もうと頑張ってみます。うう、第二外国語をフランス語かスペイン語にしておくのでした…。
(Alimento para cerdos…Aliments pour porcsですから、これ、豚の飼料ですわね)と、両方の言語を使えるイザベルさんに教えて頂きます。
(ほほう。Mangime per maialiならば重畳。えいっ)
え。
いきなり目の前にジョスリンが。
ベラちゃん…断りもなくいきなり転送とかやめたげなさいよ…。
思わず腰の拳銃を抜きかけているジョスリンですが、さすがは元特殊部隊員ですね。そのポーズが様になっています。
「マダム室見、これがそのFN57です。もっとも、マリアリーゼ陛下謹製のドレイン弾に変更されていますが」
ほうほう。その握りが何か太そうな銃を見せて頂きます。
「まりり。これ、どういう原理なのよ。前に捨丸さんたちに渡してたと思うけど」
「うーん、実はTGV-Hの精気回生ブレーキと似た理屈なのよ。射線上にある知的生命体から吸引するための生体細胞が弾丸の代わりに仕込まれてる。んで、火薬の炸裂で活性化されると、射線の先にある目標の精気を吸引して、射手に中継ドレインしてくれるんだよ。つまり、射手か射ち手の側に痴女種がいる必要はあるんだわ」
「それは良いとして陛下。何で小官を。そのとうもろこしを小官の下の口に馳走なさりたいのは理解しておりますが」と、さっと拳銃をベラちゃんに向けるジョスリンですけど。
「もちろんそのつもりです。ところでジョスリン、開通式典への招待状はそちらに届いておりますね」
「マダム・マリーに届いておりましたのを確認済みです。そしてなぜ小官までもが呼ばれるのですか」
「もちろん鉄道開通記念式典の警備指揮の打ち合わせです。黒薔薇騎士団欧州派遣分団長の地位に任じられておいて何を言うのですか…」はいはいと向けられた銃の銃口に指を突っ込んでから、ジョスリンに仕舞えというベラちゃんも大概、豪胆ですね。
「パイセン、この吸引銃は致死性ではないのですよ…普通の人が死なない程度に倒れる程度しか吸わないようにされてますから…」
それにしたって銃口を塞ぐなんて、ハードボイルド小説っていうのかしら。塞ぐと効き目があるのはジョスリンの思考でわかるんだけど大胆な事をするわよね…。
「しかし、何も今呼ばれなくとも」と、駅への道すがら歩きながら話をする我々ですが。
あ、ジョスリンの格好は土色っぽい軍服…で合ってるのですよね。
「1er RPIMA…つまり共和国陸軍第一海兵歩兵降下連隊の通常制服です。本当はGIGNという国家憲兵隊が海外に出動してでも作戦を遂行するための部隊の方が私には縁が深いのですけれどね」
どちらも物騒な軍隊という気がしますけど。
で、カディス駅。
私、思うんですけどRENFEのAVEが発着する主要駅って、なんでこう堀割の中に作るのが好きなのでしょうかと。
街を分断したくないのはわかるのですけど、普通に日本のように高架駅にしないのか問い詰めたくなります。
(要は高架橋を作るとお金がかかりますやんか…で、溝を掘る方を選んではるんですよ…)
そして、カディス駅については既に旧市街が存在すると言う事で、もうギリッギリに町に近い位置まで線路を引き込んで、駅を作っています。
そして、ここだけは頭端構造…櫛形のホームを配した行き止まり構造にせざるを得ませんでした。
なにせ、砂洲の先の小島。あまり土壌が安定していないのです。
で、貨物線はカディス駅手前で分岐していくつかの埠頭に向かうようにしております。
連邦世界でのRENFEはカディス手前でジブラルタル通りの地下に入り、サン・セベリアーノ駅から再び地上へ出て地表駅のカディスに滑り込んで行きますが、こちらではこの構造を利用して貨物線は地上へ抜けて港に向かわせるように配線。
そして、旅客列車はそのまま地平に作ったカディス駅を目指します。
この駅構造も、連邦世界では在来線に乗り入れ可能な直通型AVEが入ってくるに相応しく、ガラスを多用した明るい近代的な作りですが、ここは趣味的にマドリード・アトーチャ駅の旧駅を模したドーム構造を採用。
クラシックな作りですが、カディスの街の家々に白い壁が多いことからアトーチャ駅の橙色ではなく、モルタル仕上げのところどころに白い大理石を貼ってカラーコーディネートを図っております。
(イスラム文明に近いものがこの痴女皇国世界にも存在したわけでな…で、カディスはヨーロッパの南の端だろ?直射日光もそれなりだから家屋内の温度上昇を嫌ったんだろうな)
(ふむふむ。まぁ、モスク風の作りにしてスペインの南の玄関っぽくしておけば、旅行者はおおーと思ってくれるでしょう。なにせ、アメリカ大陸やアフリカから船旅を続けて来た人が、ヨーロッパに最初の一歩を記す港だしねぇ)
「なかなかに立派な感じですわねぇ、こうして形になりますと…」と、イザベル陛下も満更でもないご様子。
「そういえば陛下、ジョスリンが銃を抜いても動じられなかったのですけど…」
「ああ、彼女とは顔馴染みでございますし、ジョスリンがどういう性格の女性かはよく存じておりますから」と、意味深な笑みを浮かべられます。
あー…うんうん。
いよっ、この発展家っ。
(あのー、マダム室見…マダムも大概…)
(ジョスリーヌさん。私は女官長権限を未だ持たされていますが、これは非常時に精気を吸引したり配分する職務に就く必要性があるからだと自分でも認識しています。そしてジョスリンも今やくにでは積極的に部下へ精気を支給したり吸い上げる立場では?)
(あうっ、マダムに真面目に返されてしまいました…どうしましょう)
「まぁまぁ。で、実際のところストラスブールを空けて大丈夫なんですか?」
「あまりよろしくはありませんね。陛下にはマリーさんの機嫌を取る仲介をお願いしたく」
(べらこへーかー。なんでジョスリンを連れて行くのですかと申し上げたいところですけど、開通式典まで間がないのですよねぇ…出来ればアンヌマリーを一時的にストラスブールに戻して頂ければありがたいのですけど)
(まーたマリーちゃん無理言って…なんとかしてくださいよっ)
などと言い合う連中を半ば放置して、駅構内に入りますと。
「遠藤助役…運転指令から緊急連絡です。コルドバ近郊上り本線で貨物列車故障停止。当該試高貨5210レは本線で停止中。当該が立ち往生中の付近路線は下り線を単線化して運転継続中。救援列車関係の打ち合わせの為に至急、TRの室見専務や高木社長立会の上でカディス駅乗務員室からリモート参加願いたいとのことです」




