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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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ラ・マンチャの女 -Mujer de la mancha- 1

みなさまこんにちわ、室見理恵(むろみりえ)です。


さて、今回は痴女皇国世界では初の営業となる鉄道…それも新幹線と同等以上になる時速360キロの最高速度で運転する高速鉄道のお話です。


…鉄道に興味のない方、申し訳ありません…ですが、痴女皇国の世界戦略の一環として重要なことが色々と語られる予定ですので、少しの間だけ、お付き合い頂ければと思います。


あ…R15版で許される限りのすけべいな話も入る…かも知れませんよっ。


では…どうぞ。


-----------------------------------------


むぅぅぅう。


ここは、スペイン王国はマドリード市内のオリエンテ宮殿です。


そして、玉座の間ではなく…会合に使われる客間の一つ。


ここで唸っているのが、わたくし室見理恵。


現在は痴女皇国国土局長兼運輸部長とかいう肩書、高校時代の同級生にして痴女皇国上皇のマリアリーゼ陛下から申し渡されて痴女皇国で働く立場です。


で、なんでスペインくんだりに来てるのか。


突貫工事を重ねて開通した鉄道、それも中世欧州にあるまじき高速鉄道の開通式に出席するためです。


で、唸っている理由。


記念すべき始発列車の運転士をどうするかで揉めております。


今回の開業区間はマドリードからセビリアまで。


で、セビリアからカディスまでの在来線ともいうべき路線と、途中のコルドバで分岐してマラガ…そして大英帝国租借地扱いのジブラルタルに向かう、これまた貨物線に近い在来線開通がセットになっています。


私、室見としましては、スペイン王国兼・痴女皇国南欧支部の軍港たるカディスを目指す記念すべき一番列車の乗客として、南欧支部長にしてスペイン女王のイザベル陛下が乗り込む事自体に異論はありません。


しかし、イザベル陛下が運転するとなるとマドリード駅でのテープカット行事の音頭、誰が取るのかとか諸々の問題が出ておりまして、開業を前にオリエンテ宮殿で開かれる対策会議に出席する羽目に。


「室見様、では当初の予定通り…室見様があれを運転なさいますか? 」


「そうさせて頂きたいのはやまやまです。しかし、スペイン王国の国威発揚行事として、可能ならばイザベル陛下に運転させろとか言い出した上皇がおりまして…」と、あたしの隣に座っている女を、ちらり。


ええ、この件について友人まりり…上皇マリアリーゼはこう申しました。


今、私の前にいる貴婦人貴婦人した貴婦人…スペイン王国女王エリザベート・デ・ヴァロイス…そう、このお話では借金女王として知られているであろうイザベル一世陛下の見せ場を作れとか何とか。


「まりり。確かに痴女皇国世界じゃ連邦側の法律は通じないから無免許運転しても、騒ぐのはあたしたちだけだと思うわよ。それに…はっきり言って、あれ…ボタン一個押すだけで勝手に発射してセビリアならセビリア、バルセロナならバルセロナまで行って駅に停まるよ」


「ならいーじゃんか…それに発射って何だよ、何かを飛ばすのかよっ」と、口を尖らせておりますけど。


「あのさぁ…今回の一番列車、どこが終点か思い出してみてよ…セビリアで在来線に入ってカディス行きなのよ? 」と、壁の投影表示器に出ているスペインの地図を指差して告げます。


ええ。大西洋に面した軍港であり貿易港のカディスを目指すことに、今回の路線選定と欧州初の鉄道開通の意味があったのです。


で、大西洋に面してるならば、なんでリスボンを目指す話にしないのって聞いたんですけどね、イザベル陛下もまりりも「あそこはあかんダメ」って言うんですよ…。


ただ、これは確かにイザベルさんやまりりの言い分が正しいと思うべきでしょう。


リスボンの地図を見てもらうと、なぜ大規模な港の開発が難しいかを知ることが出来るかも知れません。


単純に言っちゃうと、リスボンの主要市街地はテージョ川の河口から海を向いて右側の、断崖絶壁の上に発展してるんです。


そして、かろうじて港になりそうな地形がうかがえる河口の対岸との間には、決して狭くないテージョ川が立ちはだかっています。


実際にこの河口にかかる橋、4月25日橋という3km近い長さの橋が完成するまでは存在しなかったそうですね。


更に、テージョ川はその4月25日橋を抜けたあたりで湖のように広がっていて、そこを迂回するのに何キロも川をさかのぼらないと橋をかけられなかったのは容易に想像つきます。もっとも、土木工事技術が進展した後年にはヴァスコ・ダ・ガマ橋という長い橋を建設して通行を容易にしたようですけど。


まぁともかく、痴女皇国世界ではスペイン王国の属国になっているポルトガルで貨物用のお船をつけるのに適した港、大規模な浚渫(しゅんせつ)工事をしてリスボンに作るか、さもなくばもっと北の方に港を作るしかなかったとお考えください。


(だからカディスへの線路を整備するしかなかったんだよなぁ…あそこなら連邦世界でもVTOL機用航空母艦が接岸できるようなでかい港、楽に作れた訳だし…)


(更にはマドリードまでの荷運びの便や、暗黒大陸やらアメリゴ大陸から海を渡って参りますお船の舵取りを考えますと、カディスが一番適しておりましたのですよねぇ…マラガやバレンシア、そしてアルヘシラスに鉄の道を通すまでは、多少の不便はあれど地中海を行くお船もカディスで荷揚げして頂く方が不便がないかと…)


あ、イザベルさんが言われたアルヘシラスというのはジブラルタルから湾を挟んだ反対側の町で、この時代では痴女皇国の支援のもとで大きな港が作られつつあります。


連邦世界だと大型コンテナ船が楽に接岸できそうな港がありますし…。


で、この地図をご覧頂きたいのですが。

挿絵(By みてみん)


実は、これは実際に連邦世界で走っているスペイン国内での高速列車限定の路線図です。


ですが、連邦世界はもとより、皆様の世界でもスペインはフランスやイタリアやドイツなどと同様、新幹線でも在来線に乗り入れて運転することがあります…線路の幅が高速線よりは少し広いので、左右の車輪の間隔を変えることが可能な専用の車両を使いますけどね…。


で、連邦世界における、この線路幅の問題を解消するためにも、痴女皇国世界でのスペイン王国の鉄道、欧州標準とでも言うべきレール幅の1,435mmで建設しております。


そして、建設費を浮かすために、今回の開業区間はマドリードからセビリアまでしか高速線を敷いていません。


そして、セビリア・サンタ=フスタ駅からその先のカディスまでは在来線を走行させることになっています。


「それが何で…」


「セビリアからカディスは在来線でしょ…自動運転でなくて普通に運転する必要あんのよ…E T(よーろっぱきかくの) C S(しんごうそうち)に準拠した支援システムは動くけどね…」


ええそうです。


スペイン王国に導入する高速列車ですが、在来線に直通することもあって、連邦世界の欧州地区の標準規格を多く取り入れたものに仕上がっています。


実際に…フランス共和国とスペイン王国の協力のもと、連邦世界のパリ=リヨン駅近くの車両基地からバルセロナ・サンツ駅まで試運転をさせて頂いた際にも、車内信号装置のモードをSNCFとRENFE AVE用に切り替えるだけでシームレスに走行してくれましたから。


そして、その列車の正式な形式…S1919型となりました。


決まった名前を見せられた瞬間、まりりの頭をはりせんでどついたのは言うまでもありません。


で、このイクイクとかいう語呂合わせ、スペインの人やフランスの人には何がなんでも理解して欲しくないんですけど、実はNBに納入されたクラス369という精気駆動電気列車の痴女皇国世界仕様スペイン版でして、ストラスブール〜ケルン線に入れるTGV-Hという車両とは兄弟仕様。


で、簡単に区別するとこうなります。


スペイン(フランス直通予定)

S1919 機関車2両+客車16両 編成出力15,000Kw


NB(英国本国でも導入予定)

Class369 機関車2両+客車14両 編成出力15,000Kw


ロレーヌ(フランス・ドイツ・スイス・イタリア直通予定)

TGV-H 機関車2両+客車10両 編成出力10,000Kw


で、出力の違いは編成前後の機関車の次にある客車を支える台車にモーターが付くか付かないかで変わるだけです…。


更に、原型にしたのはアルストムという会社がパリとロンドンを結ぶ路線のために作ったクラス373(ゆーろすたー)というもので、前後の機関車が客車18両を挟んだ構造でして、フランスの高速列車TGVの類似品です。


ただし、このクラス373は当初は英国内で高速線が開業していなくて在来線を走る必要があったのと、ロンドンから更に北を目指すことも考えられていましたので、イギリスの規格に合わせて少し狭く作られていました。


ですが、二代目皇帝(どすけべおんな)とその母親(えろおばちゃん)他、割とでかい女が幹部の主流を占める痴女皇国の幹部…わけてもルルド行きの際に狭い狭いと文句タラタラだったベラちゃんジーナさんと、あと雅美さんに狭い座席を与えると何を言い出すかたまったもんじゃないのは予測済み。


何より、旺盛なロンドン=パリ需要を見越して一等車でも飛行機かあんたはと言いたくなるくらいに、狭い狭い詰め込み仕様だったクラス373の客車をそのまま採用するのは、他ならぬ私自身がためらわれます。


せめて、オリジナルのTGV車両くらいの前後の座席の間の余裕幅は欲しい。できれば新幹線になるべく近づけたいということで、TGV用客車のサイズと同じ車両を繋ぐと各方面にすり合わせを行って妥協。


ただ…TGVを上回る高速運転を行うこともあって、2階建てではなく平屋の客車をベースにすることになりましたので、雅美さんがホームで電車を待つ女性のスカートの中を気にすることはできなくなりました。


(理恵ちゃん…あたしにそういう趣味ないから…痴女宮戻ったら滝壺(しばくばしょ)よっ)


はいはい。ただ…この列車の特等席、きっと雅美さんは気に入ってくれると思いますよ。


で、その気に入ってもらえそうな内容なんですけどね。


スペイン仕様はクルブと呼ばれる特等席…ファーストクラスに2両、プレフェンテと称する一等席に該当するビジネスクラスに5両、更にツーリスタという二等エコノミークラスに8両を割いております。


そしてクルブ車の半分に飲食物を用意するサービスコーナーと、プレフェンテとツーリスタ車の間に売店軽食車…以前のルルド編でTGVに乗った際に出てきたバー車が挟まれています。


◆◇◇□□□□□■△△△△△△△△◆


まぁ、大体こんな感じですかね。


そして、クルブ車の特徴…車体横の面積の7割くらいは窓に割かれてるんじゃないでしょうか。


この凶悪な仕様は以前、お話に出たかも知れません。


昔の日本に存在したパーラーカーという一等車の展望開放座席、あれくらいでいいんじゃないかと思ったんですよ。


挿絵(By みてみん)


ですが、モックアップ…つまり、実物大の模型で実際に座ったりして設計が破綻していないかをチェックするための試作品なのですけど、それの画像を見せられた瞬間の私の顔、想像してください。


個室も開放室も、私の父親の勤務先がかつて製造した特急車両…ひじかけの辺りに窓の下縁が来るほどの大きな窓を備えた展望性の高いディーゼルカーを遥かに上回るえげつなさだったのです。


いえ、天皇陛下が乗られるお召し列車でも、大きな窓を備えていたのはありますよ。


ただ、それは沿線で手を振る人々に向かって陛下がお手を振って応えているのが見えやすくするためであって、椅子に腰掛けた太ももの辺りまで外から丸見えなんてものではありませんでした。


そうですよっ。


この特別車両、外から客室の中がほぼ、丸見えに近いくらいに車体の下側まで窓が降りてきてるんですっ。


誰よ、こんな設計を通したのは…。


関係者一同に聞いて回ってもよく把握していなかったようですけど、ダリア経由で調査させた結果、犯人が判明しました。


主犯:ジーナさん。


(アホか! うちはガラス張りの個室とか眺めがええやろなとか思って提案しただけや! あの瑞○みたいなデカい窓なんかええんちゃうんとか考えたくらいやで!)


うそつけ。


露出行為、したかったのはバレてます。


補助犯:ベラちゃん。


(えええええ! パイセン! あたしは冤罪も甚だしいですよ! 茸島の貴賓コテージみたいにおっきな窓だといいなって…)


計画犯:まりり。


(ちょっと待て! あたしは豊川稲荷社の…りええのお父さんに会った時に、かーさんとベラ子の要望とか米沢行った時の○風のスイートの思い出を話しただけだぞ!)


実行犯:エマちゃん。


(日○車輌と近○車輌の人に頼まれて図面引いて強度設計してCADデータ渡しただけですやん! まさか放出新車センターの人らがほんまに形にするとか思ってまへんでしたがな!)


おのれら。


あの窓のせいでクルブ車両の製造コスト、3割か4割くらいハネ上がったのよ。


あれ、ストラスブールとNB納品分ではクルブ繋がないか設計変更、させるからね。


でねぇ…イザベルさんが未練たらたらなのが、実はこの特等(クルブ)車。


そう、この特別車にベラちゃんやまりりと一緒に乗り込む予定だったんですよっ。


ところが、昨今は闘牛も流行り、女闘牛士すら存在するスペイン王国です。


そして、イザベルさんの専属パシリ1号…いえもとい、過去の謀反をタネに生涯副官の地位を申し付けられている眼帯お姉さんのアナ=デ・メンドゥーサさん。


このアナさんの穴をイザベルさんが日夜いじめている話はともかく、眼帯をしてる理由が女剣士として名を馳せたからとあっては、トレードマークのごとく常に腰に下げているサーベルが改めて注目の的に。


そして、スペイン王国軍はアナさんをイメージリーダーとして男女の騎士編成をするに至っています…これ、義侠気風(マチズモ)というそうですけど、騎士道はまだしも、どちらかと言えば男尊女卑の気風が強かった連邦世界のスペインとは少し異なった状況になっています。


そして、寄せられた意見の一つに…新しいものができるのなら、女王陛下がその操縦とやらを行い、国民に新しい時代をアペラシオン(アピール)するのは政策上、効果的ではないかという内容があったんですよっ。


確かに、この提案は「それもそうだな」と考えさせられるものがあります。


そして、スペインという国や国民の性質として、国を挙げて熱狂的にハマりやすいという事が挙げられるかも知れません。


連邦社会でも、闘牛やサッカーは言うに及ばず、奇祭として名を馳せたトマトの投げ合い。


更には、こないだ知ったのですが、昔の日本のアニメですけど、いまだに現地で大人気な作品のコスプレや山車を大々的に繰り出すお祭りまであるらしいですね…。

挿絵(By みてみん)


(まりり…あたしさ、スペインって割とお洒落で体育会的なラテンのノリが爆発してる国だって思ってたのよ? まぁピカソとかダリとか変な人もいるし、ドン=キホーテみたいなのも)


(りええ…ドン=キホーテは小説に出てくる架空の人物だ…まぁ、サルバドール・ダリは変人だったけど、パブロ・ピカソは芸術家としちゃまだ、まともな部類だぞ…描いてる絵がアレな時期があっただけで…)


でまぁ、ラテンのノリで芸術を爆発させるのはともかく、女王陛下自らが新しい乗り物を動かしてその革新性を喧伝(けんでん)する話について、前向きに検討して欲しいという要望が寄せられた結果、あたしたちはいち早くスペインに乗り込んで、痴女皇国の南欧支部対本部国土局という図式でお話し合いをするハメになったわけなんですよっ。


で、実のところは先ほども申しましたけど、列車が高速線の上にある時は、車掌さんのダァ扱いですね…ドアを閉めるのに連動してる安全装置はついてますが、運転席にあるATOスイッチというボタンをぽちっと押すだけで、列車は自動で出発して自動で次の停車駅目指して走り、所定の位置に停まるようにできています。


なお、TGVの運転席…昔はフランスの電気機関車そのもので、このハンドルを回すと動いたりブレーキがかかるようになっていたそうです。

挿絵(By みてみん)


しかし、時代が変わってもう少し場所を取らないようにするかとなりまして、運転台の上の小テーブル両脇の小さなレバーを押し引きしての前進またはブレーキ操作となりました。

挿絵(By みてみん)


今回導入されるTGV系の機関車は基本これで、スイッチ類が大型タッチパネルに統合されるとか、あるいは今は必要ないパンタグラフを上げ下げするレバーがいつでも追加可能なように準備工事という状態になっていたりなどなどの変化はありますが、これに近いと思ってください。


そうそう、運転用のレバー横、右手が届く場所にカバー付きの緑や赤に光るようになっている白いボタンがつけられているのが今回、スペイン仕様で来ています。


このボタンがATOと言われる仕掛けの起動ボタンでして、緑に光っている時に押すと、あらかじめその列車に覚え込ませた運転情報に基づいて、列車は勝手に動き出して走り、次の停車駅の停止位置に停まってくれます。


ですが、在来線と言われる場所では当分、使わない事になりまして…その区間ではレバーを押し引きして動かします。


もちろん、カーブが近づいた時には速度が出過ぎていると、警報が出たり勝手に速度を落とされる…日本の新幹線のATCに近い仕掛けは付けていますけど、それにしても駅を出てからある程度の速度を出せる場所までは手動でレバーを押し引きしてアクセル操作やブレーキ操作を行う必要があります。


(今回は在来線もかなり線形改良してるから、連邦世界のスペインまんまで線路敷いてないんだよね。駅構内さえ運転してくれたらあとは電車側で何とかするから)


(在来線の自動化は厳しいのかよ)


(とりあえず定速制御スイッチ入れたらカーブ手前で勝手に速度が落ちる程度のことはしてくれるよ、60km/h以上って縛りはあるけど)


(車の自動運転レベル縛りとあんま変わんねぇのな…りええ、だったらセビリアからカディスまではあんたが運転すりゃ解決しねぇか?)


(それが一番無難っちゃ無難かなぁ…)


(あとは制服だな。テープカットの時はドレスで、んで運転する時だけ例の瞬間更衣で制服姿になってもらおうよ。で、スポンサー役のベラ子はあたしらと一緒に2両目の貴賓車に乗るのは変更なし。その際の案内はアナさんに務めてもらおう)


と、出発式典の内容を訂正して行くまりり。


(確かに、わたくしがあれを動かす事で、未知の文明に対する不安や不信を和らげ国民の理解を得ることは必要でしょう…借金の額がまた膨らんだのはともかく、海外領土や移住者・派遣者を含めれば今や我が王国の国民は千万を超すに至っております。これも痴女皇国属国となったが故の発展、改めまして感謝申し上げます)


(まーまー、この集まりなんて非公式なもんだし、その辺は気にせずに。それに今回の鉄道事業はこちらも持ちかけた部分があるから、うちも単なる借款だけでなく運営会社の株主になってんだから)


ああ、その辺も世界初といえば世界初でしたね。


まりりが株式会社制度を普及させて民間投資を募る政策を打ち出していますが、今回のスペイン高速鉄道は車両と設備…線路などを、第三セクターめいた組織が保有する方向で設立運営していく事になっています。


そしてその会社の株主比率はスペイン王室と運輸室がそれぞれ20%ずつを持ち合い、聖母記念銀行が更に20%。で、残りのうち10%ずつを何と大英帝国王室と比丘尼国朝廷が持ち、残り20%はローマ教皇庁財務部という保有比率に。


そして、ですねぇ…悪辣(あくらつ)なことに、各国は現金で株式を購入したのかと申しますとですねぇ。


出納(すいとう)部長のディアディリーネさんの実家あるだろ。あそこな…後にドイツでロートシルトって名前で銀行を始めるんだよな…今でも宮廷湯田屋人だけどよ)


ああ、そうですね…たのきちが頑張って鍛えた後輩で、痴女皇国に来た当時の出家名がダイアデレーヤさん。


つまり、彼女の実家は後にロスチャイルドと言われるのね、まりり。


(ま、そーゆーこったな。で、そことボルジアとメディチとパッツィに融資してやる代わりに公社債発行を引き受けさせた。つまり、ベネチアの金と湯田屋の金で作った建前にしとくんだよ。本当は鯖挟国のサッスーン家や、英国のジャーディン・マセソンを噛ませたかったんだけどね)


なるほど。


要は株主になった国、ドイツやイタリアの商会からの融資で株を買ったことにしたみたいです。


そしてロスチャイルド家とイタリア商会御三家は一般公募した社債…つまり国や公的機関が民間からの投資を国債や社債で募る形でそれぞれが貸し付けたお金を回収しようとした建前にしたと。


(で、湯田屋さんちと御三家には裏で痴女皇国が融資。それも満額融資じゃないのに注意ね。もし返済が焦げ付いて商会がこけかけた際にはあたし達が出張って聖母記念銀行が救済する名目で吸収するためだからね…)


この心話はたのきち…文教局長ですけど、古巣の財務局の手伝いもやっている、あたしやまりりの元・同級生だった田野瀬麻里子(もてないおんな)の発言ですね。


(りええ…家族手当、削ろうか…? それと、海や船でスペインはイギリスに幹部船員教育を委託してる立場だから、釣り合いを取るためでもあんのよ?)


なるほど、金を出してやった訳だから鉄道のノウハウをうちらにも教えやがれ下さいとイギリスやイタリアに「言わせる事にするため」でもあるのでしょう。


この辺りのお金の流れで、痴女皇国が全面的に前面に出てあれしろこれしろと押し付けてない型にしたいのも理解は出来ます。


(あとさぁ、まりり。18世紀とか19世紀の人物とか企業、混ざってない…?)


(いつもの事だから気にすんな。ま、そっちはフランス絡みでやってもらうか、北方帝国への商業交渉の際の金融業者をしてもらうかと思ってるんだわ)


(しかし、この路線がよもや北方帝国攻略へ繋がりますとは…)


(だからバーデン=バーデンにはケルンやハノーファーまでを傘下に収めさせたんだよ。強姦作戦をドイツで展開したのは伊達や酔狂じゃないってこった。ま、そこから先にポーランド王国ってのもいるけど、あそこは北方帝国を抑える話なら聞く気のある国だから深く考えなくていいよ)


うわーうわーうわー。


今の時点ですら、あまり出してはならない話という気もしますけどねぇ。


(そもそも南北アメリカ大陸からの食料輸出ってさ、英国に卸してもそこからバルト海が立ちはだかってるじゃん。北米はまだしも、南米からはちょっときついしな。だからジブラルタルと対岸のアルヘシラスを港湾整備したんだよ。スペイン所轄の輸出品で英国が欲しがるものはジブラルタルを経由して本国にも植民地にも送れるように、って配慮さ)


ええ、そうですよ。


ベラちゃんが茸島でクリスさんとか、あと例のインド系美少年のベテハリ君を囲い込んでイチャイチャしてる間に、欧州ではかなり色々進んでたんですよっ。


(理恵さんが厳しすぎます…)


(イチャコラ言われるような事してたのはベラちゃんでしょ…このエロ皇帝は…)


ええ、そうですよ。


R18版…特に、闇堕ちマリアをお読みの方ならよーくご存じでしょう、ベラちゃんの周りのグダグダ。


まぁ、茸島や南洋島など、インドネシアとその周辺に関しての拠点整備は私の率いる国土局の管轄でもありますし、ここをしっかり支配するか、または強い影響力を持つようにしておかないと北方帝国の属国化に向けての戦略にも影響は少なくありませんので、あまり強くは言わないようにしておきましょう。


(その代わりにダリアとジニアの面倒をちゃんと見るのよっ。今の痴女皇国での室見家はダリアが主夫の立場なんだからねっ)


(ひぃいいいいっ)


あ…ジニアが聖院学院茸島分校で幹部候補教程を終えて、そのまま白薔薇騎士団兼・分校教育実習生として赴任していますが、これは実のところ欧州を中心とした聖母教会への派遣司祭女官に対して騎士教程と、そして何より不良少年への処遇を教育するための任務につくとは聞いておりますよ。


ただ、こちらは騎士のお仕事なので、同級生たるアンヌマリーちゃんと中井ティアラちゃんともども、ダリアと…そしてアルトさんが面倒を見てくれるそうですので、あの二人ならそうそう変な事は教えないでしょう。


ともかく、下手するとフランス王国は年内にも痴女皇国の軍門に降り、高速鉄道建設を了承するかも知れない勢いです。


ドイツ…神聖ローマ帝国も、聖母記念銀行の豊富な資金を背景としたバーデン=バーデン辺境大公国の経済戦略によって神聖ローマ帝国の内帑(ないど)長官がバーデン=バーデン大公…フローレシェーネ中欧支部長の臣下に降るありさまです。


そしてマリーさんの指揮するストラスブールの中仏支部、これも年内にはフランス支部またはアルザス=ロレーヌ支部になるのがほぼ、確定。


(本当はこれに合わせてアンヌマリーをこちらに戻したかったのですがねぇ…ただ、茸島や痴女島の話も伺っております。いざとなればジョスリン経由でフランス共和国の人材をお借りすることも可能ですから、ジニアちゃんともども修練かたがた頑張ってもらっていいと思いますわよ)


(アンヌマリーちゃんはかなり出来のいい子みたいだし、聖母教会の管轄部署をどうするかって問題もあるからねぇ…教皇庁で持って貰えたらいいんだけど、チェーザレさんがいる間は管理を任せるのは難しいって話も聞いてるし)


(大丈夫でしてよ。マリアリーゼ陛下やマリアヴェッラ陛下の承認を取り付ける必要はございますけど、いざとなればこのイザベルが教皇に相応しい人材を孕んで差し上げる事も可能)


うっわぁ。


アナさんやイタリア支部のカテリーナさんも大概な事を言う人ですけど、いつの間にこんな豪快な発言が出来るようになったのですかイザベルさん。


(ジョスリンの影響ですわよ…あの方はそういう陰謀、結構お好きだから…ま、次期教皇についてはロレーヌも人を出したいとは考えてはおられる様子。人間の男性が教皇を任じると定めた縛りがなければ話は楽だとは思えるのですが…あ、伝説の女教皇ヨハンナと申される方の話はセニョレ…マダム雅美からお聞きしましたわ)


(男にも地位を与える政策の一環だよ…でないと男性の社会進出が難しくなっちまうだろ…本当に連邦社会のフェミさんたちに聞かせてやりてぇよ。こっちゃ、あんたらと真逆の事で悩んでんだからな…)


そうなのですよ。


まりりの言う通りで、長寿で能力も優れた痴女種が社会の要職につけやすいという、前からの懸念がここに来て出ているのです。


まぁ、とりあえず私の仕事は鉄道や道路、そして痴女皇国の領土開発です。


難しい政治の話はまりりとベラちゃん、そして雅美さんに投げる。


これが業務を円滑に進めるコツというものでしょう。


ほほほほほ。


(りええがたのきちの同類と化している…)


(理恵さん、それはいいんですけど、仮にイザベルさんを記念列車の運転士にするとしても、本当に大丈夫なんですか…)


(あたしが運転台に添乗しとくわよ。マドリードからセビリアまでは470kmだから、360km/hで飛ばしても1時間半ってとこね。何のためにAVEよりトンネル増やして勾配や曲線も緩和したのかってえと、やっぱりスペインどころか世界初だからねぇ…あんなもんが360km/hで走って来るってのを沿線の住民に知らせる事前告知のためにも試運転を重ねてるんだし)


そうそう、その高速線の線路はとっくに出来上がってますよ。同時開通の在来線ともども、試験運転列車を毎日数回、既に走らせている状況です。


そしてこの室見も、どちらの線でもハンドルを握って線見(せんけん)やランカーブ・ダイヤ作成といった本番の営業運転に関わる作業に関与しております。


(機関車を運転できる人が日本には少なくなっちゃったからねぇ…JR各社は貨物以外はほとんど電車だし…)


(あれでJRが人を出したくないのどうこうの話になったんだよなぁ…)


(ま、そもそも電車だと生体発電システムのサイズが制限されるしね。それだけにスペインでも比丘尼国でも電化は準備工事にとどめて、当面は生体発電機列車に限定しようって話になったんだし)


(とりあえず今日の試運転にはイザベルさんもお付き合いするんだろ?)


(うん。その時に実際に運転台に座ってもらって操作実習をする予定。あたしが後ろで指導助役やるから、大丈夫だとは思うんだけどねぇ…)

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