ゴールデンニシン・道南イカづくし物語・6
そんな訳で、精気授受を終えた子どもたちとあたしたち、それに聖院側の万卒騎士数名。
テンプレスの甲板に整列しています。
そして作戦内容の説明…何と、サリーちゃんから受けることに。
で、アルトさん譲りの銀髪を…そうですね、よるはえーつーをぽにてにした、と言えと天の声に強要されましたけど、ショートヘアのアルトさんとはまた違った印象です。
「皆さん、初めまして。聖院騎士の高木サレルフィールと申します。魔法は使いませんけど、サリーちゃんと呼んでください」いやその、battutaの元ネタ分からないと滑るから、サリーちゃん。
で、姉にアイコンタクトしてフォローに回ります。
「えーと、今回の作戦は聖院の皆さんと一緒に悪いおじさんたちを捕まえる事になります。聖院の騎士さんたちを鍛えるためでもありますので、皆さんはサリーさんの指示に従ってがんばりましょう。それと、悪いおじさんたちの中でも黄金が大好きで金に目が眩んでいる特に悪いおじさんについては、こちらの強そうなおさむらいさんたちが特別にこらしめてくれるそうなので、ちゃんと見分けて連れてきてねー」と、保母さんのノリでみんなに説明を。
(もてぎチャンネルのゲスト出演者ヨイショを生で見ている気もします)と、サリーちゃんがぼそっと。あれ…聖院世界サイドだと普通じゃ見れないのではないでしょうか。そっちに繋がってる連邦側だと、あたしはいませんよ。
(そっちの広報部のバックナンバーライブラリに入ってますよ…全編見れます…)恥ずかしいから見ないでっ…恐ろしい話ですけどね…あたしの仕事着…つまり痴女皇国の女官服姿が見たいとかリーダーが言い出しまして、番組スタッフ全員一致でやれやれって話になった事があったんですよ、年明けに…。
で、車に関するクイズを番組内で出したんですけど、正解率を予想する話になって…ええ、罰ゲームとして「寒い中、ベラちゃんのおねーさんがやってるマリアンローズの新作夏コレ水着で1本収録」という恐ろしい企画に付き合いましたけど、それも新型女官服で…まぁ、あたしはそもそもMIDI仕様の義体ですから寒さは問題ありませんけど…。
(見ました。ねーさんはアホですかとしか思えませんでしたが…実はあたしも酔っ払った勢いでですね、痴女皇国の赤薔薇網服でママの店の入ってる一角、猛ダッシュで一周とかやりましたから…ええ、ベラ子ねーさんの事を批判できないと思います…)
聖院側でもやらかしてんのか…。
あと、うちの制服でやらないで。やるなら聖院の制服でやって。
うちの赤薔薇服、中東作戦と沖縄作戦の時に雅美さんと乳上があれ着てみんなに驚かれてたでしょ。
あれで痴女皇国の制服だって関係者に認識されてるからね。
それはともかく、はい、サリーちゃん作戦内容を説明してっ…という訳で作戦の要点を箇条書きにしてみましょう。
・堕天使の皆様と初代様の例の幻覚技で長万部付近を南下しているシャクシャイン軍を幻惑。
・軍勢は女子生徒がドレインして捕獲班に渡す。
・反乱の首魁シャクシャインは慶次郎さんと一騎討ち。見届け人は秀康さん。
・男子は夕食の支度。
とまぁ、こんな流れで進めて行く話をしましたところですね。
「我らとは男女の役柄が全く違う…」と松前藩主の松前公弘さんが絶句しておられます。
「おなごの国故に、おなごがいくさをするのは当たり前であろう。それに松前殿…あの娘御たちを甘く見てはならぬ。うちの大将殿が加護しておらねば、御身は元より、秀康殿やわしでも勝てぬと覚えておくが良かろう」
慶次郎さんの言葉に頷く秀康さん。
「左様左様。なればこそ加勢を頼んだのよ。それに、しゃくしゃいんとか申す奴ばらを討ち取るだけならば、わしらでも決して難しくはないのだ、松前殿」
「あれらは言うなれば狩人よ。狩人なれば、狩りこそ得意も得意じゃ…しかし守りに立たされれば、一転して不得手ないくさに甘んじねばならぬであろう。なまじ狩人だけに、いくさが長引けば兵糧にも苦慮しようものじゃ」
「小田原はまだしも三木や鳥取の酸鼻は避けたいところですな、慶次郎殿」
「左様左様。ただ松前殿…あいぬをみだりに敵に回せば後の治世に禍根を残す話となり、松前氏が蝦夷地の督を任じられる器量を問われる話になりかねぬ。違いまするかな、松平殿」と言ってニヤリと笑う慶次郎さん。
ええ、連邦世界史の松前藩、アイヌの乱やお家騒動などで、幾度か取り潰しになりかけた事もあるそうですね。
ですのでシャクシャインを討伐するだけでなく、今後はアイヌとの外交窓口役を期待したいというのが松前藩に対する要望です。
むろん、秀康さんや慶次郎さん…そしてバードさんには姉から北海道の歴史を予習してもらっています。
で、アイヌ文化の保護にやぶさかでないという幕府の意思を統一してからここに来ております。
そして秀康さんが来ている理由ですが、この時代から既に早々と箱館城…可能ならば五稜郭を築城するための下見も兼ねているとか。理由は北方帝国からの北海道防衛拠点作りですが、とりあえずそれは伏せておくそうです。
「いきなり狩人を百姓仕事に就かせるにはあまりに偲びない。まずは我らで拓殖の道を拓き、飢えずに済ませてやろうではないか。蝦夷は蝦夷で神がおわすならば、蝦夷の神をわしらが崇めるよりは蝦夷民に崇めてもらう方が良かろうと、弟も申しよりますので」松前藩邸での話し合いでは…秀忠さんが書かれたという勅許状を見せながら秀康さんがアイヌの使者と長老らしき方に言われたそうです。
要はアイヌの皆様、地元の神を祀る神職扱いにして非課税にしてやろうと。
ただ、アイヌの方々を含めて松前藩や開拓民を食べさせてあげるだけの農地は切り開かせて欲しい。
そして幕府から渡せる賽銭代わりの穀物には限りがあるから、不足する食料は神様に怒られない程度に毛皮や魚や肉を取るか、指定貿易地で貿易して欲しい。何なら農業のやり方も教えるから。
金属製の狩猟用具や、必要に応じて農機具もそちらに売るから、神様にお伺いを立てながら指定地域の自治を続けてくれ。
秀忠さんの勅許状を要約すると、こんな感じだそうです。
更にはアイヌ語の伝承を後世に伝えるためにも文字は必要だろうから、教育施設を作るので神事や儀式、伝承を伝えるための教育を受けて欲しいとまで伝えられています。
これ、連邦世界史での江戸時代のアイヌの扱いに比べてみても、かなり優遇されているのではないでしょうか。
実は秀忠さんとお父様…つまりタヌキさんには姉が入れ知恵しています。
つまり、琉球文化とアイヌ文化は貴重なものであり、保存のためには日本の朝廷や幕府のみならず、痴女皇国からも国費を補助してやってよい。だが無駄遣いは許さないから監査役を派遣するよと琉球王国には言い渡しています。
それと中原龍皇国と揉める位置にありますから、琉球特有の巫女さん達は比丘尼国の巫女さん準拠で巫女種化することで、安易な侵略を防がせるぞとおかみ様が半ば無理矢理やっておしまいに。
(さつまにおさめさせるのとどっちがましやと聞いた。そくとうやったな…)
まぁ、黒火山芋侍国が比丘尼国でも殺魔らしいのはともかくですね…聞けばアレーゼおばさまが南北米大陸で実施されている融和政策を参考にしたのだとか。
で、おばさまの方針を伝えるという事は…当然、おばさまの上の方の考えも反映しているわけでして…。
(ほっかいどうのかみさんらは、わしらの出雲の客分あつかいや。で、えぞのかみさんにもうちらの位階を出したるから、えぞは日の本の領分にさしてくれ。これではなしつけた)
おかみ様がそう言うのも無理はありません。
(べらこにはわかりづらいかもしれんがな、まりやとおまえはもともとはんぶんは婢女のせかいのもんやろ。あっちのほっかいどうがひとがおらんでこまっとるん、理由わかるか)
確かに過疎化が問題になっていますね。理恵パイセンの得意分野で話をしますと…。
(根室本線は釧路本線になりますた。宗谷本線はかろうじて稚内までつながってる状態。もう札幌都市圏以外は大変で、保守コストを下げるためにも、札幌から旭川の架線も外してうちの生体発電機積んだ列車を走らせようかって話が出るくらいひどい状況ですね)
と、読者の方向け解説を頂きました。
その北海道の鉄道経営をしている黄緑文字の会社、こちらの世界では緑文字社の子会社化しているそうです…。
(あんなもん、あとさき考えんでかいはつしたらそうもなるわいな…。おまえらもにほんせいふから、子づくりはもちろんやな、ほっかいどうとしこくをなんとかできんかいわれとるやろ)
ええ。姉や母様の方面からですけど。
(あと十年待てやと。えどびらきがおわったら、あまってるおとこをまわせるんやけどて、子どもらには言うたってんねんけどなぁ)
三河監獄国の囚人数調整の件もありますしねぇ…。
さて、とりあえずテンプレスに積まれた我々、長万部上空に移動。
かにめしという思考が流れて来ましたが、そもそもこの時代の北海道にお米…つまり稲というものが存在するのか。
してもちゃんと実をつけてくれるのか。
更にはカニさんを海底から引き上げる地引網や底引網を作る技術や、それで漁をする技術があるのか。
そこを突くと、食い意地の張った鉄ヲタが黙る気配が。
(りええ。言っとくが今、噴火湾の海底をあたしにさらえさせようとするのは却下だ…蟹の旬はとっくに過ぎてるんだよ…今採ってきても、身の痩せた奴になるぞ…)
(ならせめてイカにしてよ!)
(その件は後で話す。スケアクロウに積んで来た荷物の中に、アイヌの皆様や松前藩の収入を助ける物を積んでいるからな)
で、パイセンの手元に何やら小さな箱が転送されています。
赤い紙を巻かれた木箱のようですが。
(りええ、あんたならそれが何か一瞬で理解したと思うが、それを松前公弘さんに見せてくれ。で、りええが食ってから勧めろ)と、指示を受けているようです。
そして何だ何だと、一夢庵組や秀康さんたちとわいのわいのやっているようです。姉も追加で箱を幾つか渡して試食させているようですが、とりあえず何をしているかは後で説明があるようです。
しかし…やる気があるのでしょうか…一応はこれから戦闘があるんですよ。
(うちの毎度だ。如何にして倒すかじゃなくて、如何にして手加減するか、毎度の流れだな)
はいはい。
で。
あたしは何をすれば。
(今回はベラ子ねーさんはオブザーバー兼監視役で。それと、そちらのマリアねーさん、新兵器の運用付き添いがあるでしょ)
ああ、あれね…。
「あれとは何だよあれとは。駄洒落弾の高コストを解消するために開発した画期的な新兵器だぞっ」
見れば悟洞さんに、バレットM82という大型ライフルを渡していますけど…。
「これが新兵器だよ。痴女種のドレイン能力を普通の人にも使えるようにした吸引銃だ」
はぁ…。
「何だよその目はっ。このバレット型で弾倉1つにつき100人は吸えるんだぞ。しかも普通の銃じゃないからマズルブラストや発射音はなし、狙撃にはうってつけだろ?」
「妹姫様、わしらは忍び道具を渡されたんですが」と、忍者装束の捨丸さんが背中から忍び刀を抜いて見せてくれます。
あれ? この刀って…刃が…。
「ベラ子。ちょっとそれ、捨丸さんに当ててもらえ」へいへい。
とりあえず峰側で捨丸さんにあたしの腰にちょん、と刀身を当てて頂きましたが…。
あーなるほど、これで斬りかかられた場合、普通の人なら致死量一歩手前まで吸われますね。
「死ぬ一撃をお見舞いできなくても良いそうです。最近は忍び仕事もないから普段だと出番はなさそうですがね」と、まんざらでもない顔で申されます。
「相手にとにかく当てるか、かするだけでも良いそうでして…それに捨丸さん、あんたも短筒を預かってるだろ」と、カエル女が死ぬほど嫌な顔をしながら所持しているドイツ製拳銃と同型らしきものを懐から取り出す骨さん。
「これも向けた相手を撃つだけで力が抜けてくれるんですな。いやはや、もっと早くにこれがあればどれほど仕事が捗ったか」
(駿府の公方様や、太閤様のお命を頂戴する話を互いに持ちかけられていたのは内密に願いますよ…)と骨さんが密かに念じてくれます。
実際には難しいからと断っていたそうですけど、そんな恐ろしい話を頼まれるくらいに凄腕の忍者だったと思って頂ければ。
(なお捨丸さんや骨さんに質問が行かないのは痴女種だからでもありますが、記憶を見てこの人たちは本当に本物の忍者だと女子生徒他、みんな感動しているからですね)
(サリーちゃん…今はあらかた迷彩服着てるけど、うちの制服見ても眉一つ動かさないからね。悟り開いてるのかってくらいに動じないからね)
(理恵さん。ベラ子ねーさんは惚れられてますよ。ただ…女としてじゃなくて男勝りでむっちゃ強いからというのが何とも)
(サリーさん…戦国時代の人だから強さが基本なんですよ…一夢庵のみんな、おまつさんに頭が上がらないでしょ…貫禄が大事なんです…)
あたし、貫禄あるのかな。
(逆らおうという気はありませんな)
(戯れに留めた方が良い付き合い方もありまして)
(倭寇稼業でも生き残る要領があるのだが…。強い相手とは正面から向かい合うのは馬鹿者のする事だ。ま、旦那とか隙のない人間には通じない手ではあるが)
悟洞さん、それを今ストラスブール…南蛮にいる不肖の部下のカエル女に言って聞かせてもらえませんか。
さて、そんなやり取りの間に長万部上空。
TYPE-AHE迷彩に身を包んだ女生徒部隊、サリーちゃんの指示に従って、残雪も少なからず残る北の森林に姉が順次転送して行きます。
(噴火湾を船で渡る発想はなかったんですかね)
(おめー、無茶言ってやんなよ…鉄器を和人から買ってたような連中、自前で斧やノコギリやカンナとかノミを用意出来ねぇだろ…皮や木材を組み合わせた簡易船が関の山だよ…)
(確か、馬も我らが冬前に放したものを手に入れているくらいのはずでございます。二本の脚で道を歩むか、橇を使うくらいかと)と、松前様からも説明が。
なるほど…和人が慣れない深雪が残る間に攻略を考えたようですね。ソリなら雪がある方が都合のよい乗り物ですし。
「ベラ子。ちょっとまずいモノを武器にしてる可能性がある。あいつら…冬眠に入らなかった野良ヒグマをシカ肉やらで釣って集落にけしかけてやがる。松前にもその手で熊を突入させるつもりだったようだ。何頭かいるから、悟洞さんに狙撃してもらうわ。渡した銃もドレインレベルを調整して熊用にしたが…万一仕損じた場合、お前に頼むからちょっと待機しておいてくれ」




