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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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ゴールデンニシン・道南イカづくし物語・5

さてさて、ここは舞台が変わって松前藩の藩邸…お屋敷の広間です。


二代目藩主の松前公広(まつまえきんひろ)と名乗られたお殿様と会談する秀康さん、そして慶次郎さん。


で、痴女皇国側からは母様と姉様が出席中。


では、あたしは何をしとんのかと申しますとですね。


「はーい一人ずつこれ持って行ってねー」


はい。福祉女官の方に混じって保母さんをしております。


スケアクロウのリアハッチを開けて、並んでいる子供たちにお弁当代わりのレーションキットを配ってます。そして野外で食べさせようという趣向ですよ。


そして子どもたち10人に1人くらいの割合で、保母さんがついてレーションの加熱方法やジュースや紅茶コーヒーの作り方などを教えるようにしています。


そうそう、保母さんと子どもたちの格好ですけど、あたしたちと同じ、宙兵隊仕様の汎用作業着がベースです。


さすがに比丘尼国と言えども、うちの女官服を見慣れてない場所では()()はまずいとなりまして…いけにえ村作戦の前に米沢まで出かけて慶次郎さんをスカウトした時も、母様がこれを着ていましたね。


ですが、柄が…だからType-AHE冬季迷彩仕様はやめましょうよ…。


(じゃあ従来のOMEKOマーク柄あるだろ、うちの国章。あれでいいか)


やめい。


あれ、痴女皇国(うち)が使ってるせいで、どういう意味か理解してる人が増えてるんですよ? こっちの世界でも…。


でまぁ、子どもたちの相手をしつつも、姉の中継で話を聞いていますと…。


どうやら藩主様は松前藩と親しいアイヌの族長を招いて、秀康さんや姉に事情を説明しているようです。


そして、話の中でわかったこと。


・シャクシャインは金採掘権利を狙って他部族の領地を巧みに切り取り奪っていた


・「和人(シャモ)たちは金が出ないのを我らのせいにして罪をなすりつけようとしている」と言い回させて反抗心を煽っている


・既に兵力は二千を超え、日高からウパシサマムペ(長万部)までの道央を手中に収め、セタナ(瀬棚)に迫っている


・次はこの松前を攻めるのは間違いない


とまぁ、どうやら一攫千金…本当に金を掴むための情報やら権利を巡って争っていたようです。


それと…肝心の金が出ない件っ。


思い当たる節がありますので関係者に聞いてみましょうっ。


(エマちゃん。北海道っていくつか金山あったよね…正直に答えなさいっ)


(あい…とっくの昔に掘り倒しました…特に鴻之舞(こうのまい)は心霊スポットにしないようにと徹底的にやれってマリアねーさんが…)


はい、予想通りでした。例の信用資産確保の件で、北海道の金鉱はあらかた掘り尽くしていたそうです。


(ねーさん…金が出ない件、さすがにうちにも責任があるのでは? それに何でアイヌの方々、金が出るのを知ってたり、あげく金に価値があるのを知ってるのかですね)と、姉を問い詰めますと。


(うちらが金鉱脈をさらえる前から砂金が出てた。あと、昔から内地と交易はしてたんだよ…その時の交易品の一つが金だったんで、アイヌ側も価値はわかってたんだよ…)と、あたしだけのせいじゃないと言いたげに言うねーさん。


全く、困ったものです。


確かに痴女皇国の資産蓄積以前に、金銀や宝石はもとより実用的な鉱物資源を巡る紛争を抑制するために、私たちは資源管理に邁進(まいしん)していました。


ですが、最初から()()ならばともかく、探している途中に横取りしてしまったが故に揉めているのは、いわば想定外。


さらに、勝手に殺し合っていろとばかりに同族あるいは異民族間での武力闘争を見過ごすのも聖院倫理としてはよろしくない話でしょう。


(比丘尼国のなかでも、かってにころしあっとけとはいえんからな。まぁ、ひとがむやみに減るのもよろしくはないはなしや。ましてや…あいぬのもん。おまえらわかっとるやろけど、かりだけではいずれおまえらはほろびるからな。どこかでこめなりいもなりまめなり、なにかを育ててつくらなあかん)


つまり、比丘尼国…有り体に言えばおかみ様か江戸幕府が介入を依頼される必要はあるとは思いますが、痴女皇国としてはアイヌと松前藩の紛争を停止させる責任があるのでは、とあたしは言いたい訳です。


(まぁ確かにそうなんだけどさぁ…)いまいち乗り気ではないねーさん。なぜに。


(強姦作戦でうちの主戦力を片端から欧州に行かせてる。おまけにダリアは出産後の急速な寿命減少を防ぐためにも昏睡状態から起こすのはまずいときた。それとな…)


ふむ。一気にドレイン昏倒が難しい理由がある、と。


(カムイの皆様からのリクエストだ。そう遠くない未来に和人…シサムウタラが農地を欲して蝦夷地を開拓する流れになるのは理解しているが、我々を信仰するアイヌが駆逐されるのも困る。将来は混血や融和で和人の中に混ざって行くだろうが、我等の信仰基盤を急激に減らす事がないように穏便に処理してもらえないか。これなんだよ…)


(ふむふむなるほど)


(で、今セタナ…りええ向けにわかりやすく言うと、国鉄瀬棚線の終点だった瀬棚の辺りに陣を築いているシャクシャインとその配下は約二千人だ。数字だけ見てたらドレインで終わるよな)


(ええ。極論すればパイセンどころか、ゆっきーでもしばくのは充分に可能ですね)


(だけどな、その後でうちの常套手段あるだろ…罪人コースはちょっと困るって言われてんだ。あくまでもアイヌとして北海道から出さないか、内地の神様の管轄外に移住させるように計らってくれと言うのが依頼だ)


(ちょっと難しい話ですね)


(そして、もう一つ難しい話がある。アイヌは基本的に狩猟民族だ。フキや木の実などを採集して保存食に加工することはあるが、農耕はしないに等しい生活を営んでいるんだ。これがどういう意味かわかるか、ベラ子)


(ふむ…それって食料は基本的に狩りをしないと手に入らないって事ですよね。そして狩りが得意ということは、武器の扱いにも慣れている…つまりは、その二千人は北海道の山林に慣れていて人間同士の戦闘にも長けている、こうですか…ねーさん)


(ご明察だ。そして…連邦世界では黄金の代価に鉄砲などを買って武装していたが、こっちじゃ鉄砲そのものをあまり普及させていないだろ。ただ…その代わりにちょっとばかり厄介な装備を持っててな)


(何でしょう)


(弓矢だ。それも、トリカブトなどの植物性毒と有毒魚類…主にエイの毒を混合した毒を塗った矢や小刀を使っての夜戦を得意としてるんだ。集団で戦うにしても日本の武士の戦いじゃなくて、忍者同士のゲリラ戦に近い戦い方を仕掛けてくると思ってくれ)


(でも、バラージドレインでカタが付きそうな気もしますが)


(出来れば、シャクシャイン一味には神の裁定である事を思い知らせて欲しいのと、アイヌの神々…カムイにとっては自分たちを信仰する対象のアイヌを北海道から連れ出さないでもらいたいという要望があるんだよ)


(ああ…確かに、普通の日本の方だとアイヌの神様には敬意は払っても、日常的に信仰するには風習の違いもあるから厳しいでしょうね…)


(んだ。だから信仰祈念を献上するアイヌを、単純にうちの罪人扱いするのはなしだ。月形(つきがた)網走(あばしり)に罪人監獄を作ったげる方法もあるんだけどな。三河監獄国に、監獄社の北海道工場の位置まんまで飛び地領土作ってもらうとか)


(なるほどわかりました。作戦を考えるのは…ねーさん、慶次郎さんからは大将扱いですよね?頑張ってください!ほほほほほ!)


(…てってめぇベラ子、あたしに押し付ける気かよ!)


(マリ公。あんた、ベラ子に早苗の面倒とか子供の引率役指しとるん忘れたか…今回は残念ながらベラ子の仕事にするわけにも行かんやろ…)


(しかしかーさん、となるとどうするよ。いくさのプロの慶次郎さんたちに頼む手もあるけど、流石に土地勘がない上に本州とは植生や動物の分布が違う北海道だぜ。なるべくダリアは起こしたくはないんだよなぁ)


(そうそう、アイヌの人たちの武装が狩猟用由来というのはわかったんですけど、集団戦用の武器…刀や槍は持ってないんですか)


(それがだな…和人から買ってたんだよ…刀剣を鍛造する鍛冶技術をアイヌは持ってなかったんだ)


(じゃ、日本刀とあまり差はないんですか、作りとかサイズとか)


(ただ、今まさに起きている事と絡むんだけど、連邦歴史ではシャクシャインの乱を始めとするアイヌと和人の紛争をきっかけに、アイヌへの刀狩りが実施されるんだ。で、狩猟刀や儀式用の宝刀以外はアイヌが持ちたくても持てなくなる。例えばクトネシリカ…虎杖丸ってのはアイヌ伝説によく出てくる刀なんだけど、これだって宝剣という記述があるだけみたいなもんだな)


(ベラちゃんベラちゃん、昔はアイヌ同士で殺し合いとかはあまり起きる話じゃなかったのよ…部族間の調停を図る掟があってね…本当に、シャクシャインが猛勢を振るうまでは大きな戦争はアイヌでは起きなかったと思っていいわよ。例えば…そうね、帯広にあるチョマトーって小さな沼というか池があるんだけど、アイヌ語では血まみれの沼って意味なの。1800年頃に部族間紛争が起きた際に負けた側が飛び込んだからとも、そこで勝った側が血に濡れた武具を洗ったからとも言われているわね)


(1800年代って西暦ですよね…)


(うん、だから本当にシャクシャインが勢力を拡大したり、あるいは和人…幕府と揉めるまでは、東北はまだしも北海道では大きな戦争や紛争、逆に記録されるほど(おお)ごとだったと思っていいわね)と、雅美さんがこっそり入れ知恵をしてくれます。


(ふむふむ。となると、武器も戦争も本州から持ち込まれた文明や文化だと思った方が良さそうですね…確かに、北海道の神様がアイヌを隔離したくなるのも理解はできます。ただ…アイヌの神様もおかみ様も理解しておられる通り、狩猟生活ではいずれ滅びるか…比丘尼国から切り離すにしても、いずれは北方帝国か龍皇国がちょっかいをかけてくる立地ですよねぇ…)


これはあたしも世界史で習った内容や、雅美さんや姉の記憶知識から得た情報をもとにして自分でも考えてみた事なんですけど、ロシア…ソ連や、第二次世界大戦後の中国とソ連の仲などを諸々考えますと、ユーラシア大陸の方から、北海道を含めて日本に手を伸ばしてくる可能性は常にあると思うのです。


そして、こちらの比丘尼国でも事情は同じです。


まぁ…七代目金衣の方が暴れたりした話でもお分かりの通り、比丘尼国に手を出した国は泣かすだけでは済まない扱いをしていたようですけどね…。


(せやからあいぬのかむいの連中は、うまいてはないもんかいなとなやんどるわけよ。まぁ、そのいくさをはじめたしゃくはちしゃいんか何かしらんけど、そいつがええか悪いかはべつにしてやな、これをきっかけにわしらとのむすびつきを強めたいとは考えてくれておるようやな。けいじろうに力をかしてくれたのも、ゆくゆくは()()()となかよくせなあかんとおもってたからみたいやぞ)


なるほどなるほど。


ただ、おかみさま…シャクシャインですよ、その首魁(しゅかい)の名前…。


(それとベラ子。ちょっと悪いがシャクシャインの捕獲は夕方までに何とかして欲しいんだ。ほれ、生徒の定例行事があるだろ。あれで精気を女子に充填して、戦力にしたい)


へ。


ここ、北海道でしょ。


どこにそんな事させる場所があるんですか。


(そう言うだろうと思って、前線基地を都合することにした。上見ろ上)


え。


見れば、藩邸…というか、松前の町の上空を覆うような影が。


(やっほーベラちゃーん。黒マリが貸せ貸せってうるさいからさぁ…うちのテンプレス持って来たわよ…今からぎりぎりまで降ろすけど、たぶんエレベーターが使える高さまでの降下は無理ね…とりあえずそっちの保母さんに心話して整列できた子たちから順番に転送収容したげる。テンプレスの兵員居住室を使えば100人くらいは何とかなるわよ。あとベラちゃんと…北欧3人組と飯島さんは提督室を使っていいけど、汚さないでねっ)


はぁ。


まぁともかく、聖院姉…白マリと呼ばれている方の姉の誘導に従ってテンプレスの艦内に入れてもらいます。


しかし、うちのテンプレス2世を出せば済むのに何でまた聖院のテンプレスを来させたのか。


(今回は聖院側の野戦訓練も兼ねたい。ベラ子も知っての通り、聖院には黒薔薇や紫薔薇騎士団に該当する秘密作戦や強行偵察の専門部隊を作ってないんだけど、将来的には特殊作戦に対応した騎士を育てたいって言われててな。で…今の段階ではそう言う荒事に向いてるのがサリーだってんで、あたしの副官につけて欲しいって言われてな)


ふむふむ、確かにサリーちゃんならその辺は適性はあるでしょう。


何と言っても、聖院かーさまとアルトさんの娘さんです。


(ベラ子陛下、いえベラ子ねーさん…とりあえずこちらで黒マリアねーさんとシャクシャインの軍勢の状況を偵察する方向で動きます。そうですね…14時30分までには収容した聖院学院生徒を含めて精気授受を済ませて頂ければ。15時に作戦開始、1時間で終わらせようと思います…)


えええええ。


そんなに早くカタがつくものでしょうか。


あと…サリーちゃんとあたしでは、あたしの方が年下…。


(聖院時間と痴女皇国の時間差もあるでしょう。それに聖院にねーさんが来ていた時期ならベラ子さんサリーさんで済んでいましたが、もはや痴女皇国の頂点になったんでしょう? あたしからしても姉扱いするだけの経験も実績も積んでると思いますよ。高校の基準ではあたしが先輩になると思いますけど、まぁ…実際に彼我を比較するとベラ子ねーさんと呼ぶ方があたしにはしっくり来るんです。諦めて受け入れてくらはい)


(へいへい。で、今回来てるのは白ねーさんとサリーちゃんだけなのかな)


(ですね。こっちのアルトかーさんは今、痴女宮から動かせないでしょう。で、うちの方のダリアさんも聖院からは動かされへんので…まぁ、どれだけ狩りに特化したアイヌの人らでも、2,000人を1時間で鎮圧できなきゃ聖院でも痴女皇国でも何をやってんだって話になりかねないと思うんです)


…そうは言っても、例の金の漫画だとアイヌの人たち、かなり強いみたいよ…。


(そこでそちらの前田慶次郎さんのお供の忍者の人たちの力を借りたい訳ですよ。なにせ痕跡を消して移動することにかけては、忍者の皆さんもお手の物でしょう。言ってみればプロの狩人VSプロの偵察工作員の戦闘を、うちらが支援して戦うことになると思いますよ)

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