授業と窮地と家庭事情
現在進行形で連載している小説が行き詰まった際に、息抜きに書いた短編です。
気軽に頭空っぽで読む事をおすすめします。
どうしよう、今めっちゃお腹が痛い。
開始から5分も経っていない給食終わりの5時限目、突然の腹痛に襲われる。
どっと皮膚から溢れ出る冷や汗を垂らしながら、
1つ2つと腹痛のせいでノイズが走る頭で心当たりを冷静に探す。
そうして記憶を遡ってゆくと、1つ、琴線に触れる。
わかったぞ……!あの時の牛乳……!
そう、今日の給食の牛乳は文字通り一味違った。
渡される前からその違和感を覚えていたが正体が分からず深くは考えなかった。
しかし、こうして学生生活の崖際に立ったことにより、その違和感の正体を暴く。
あの牛乳……他と違っていつにも増して膨らんでいた!
さて、皆さんはご存知かと思うが紙パックの牛乳は賞味期限が迫るにつれて、
内部で菌が繁殖しガスを発生させ膨らんでゆく。
これが何を示すかと言うと、
今まさにその賞味期限が迫った古い牛乳を渡されていたのである。
通常、未来ある学生たちの健康を守る為、学食の新メニューとその試作に切磋琢磨と腕を奮っている売店のおばさんがこんな致命的な見落としをする筈が無い。
行く度に後ろに並んでいる人が居なければ数分の雑談を繰り広げる自分には分かる。
然し、現実は非道で、その起こりえない見落としで今まさに窮地に立たされている。
何故そんな見落としがあったのかを考える。
そうして数秒も考えなくとも心当たりが幾つか出てくる。
1つ目、数週間前に息子の夜遊びが酷いと相談を持ち掛けられたことがあった事。
2つ目、1週間前から、いつもなら優しい笑顔と共に牛乳を渡してくれた顔が徐々に曇ってゆき、少しの涙痕が見えた事。
3つ目、2日前の薬指に指輪が見えなかった事。
これらを鑑みると、自ずと答えが見えてくる。
詰まる所、売店のおばさんは……まて、今その話は関係ない。
1つのドラマが生まれそうになった思考を既の所で止め、
現在進行形で迫ってくる津波をどう乗り越えるかが先だ。
そういえば、こうして思考を張り巡らせて何分経っている?
長らく推理をしていたのだ、きっと10分は経っているだろう。
さすれば自然と授業の終わりも近くなっているだろう。
そう考えながら、右斜め正面にある時計を見る。
嘘だろ、まだ思考を初めて1分しか経っていないじゃないか!
体感5分、実時間1分、この差がどれほどの差を生んでいるか分かるだろうか?
学校の授業時間は平均一限辺り45分とちょっとと言われている。
それを知った上で今の5時限目開始から約6分しか経っていないのである。
つまり、あと39分間、漏らさず腹痛に耐えなければならない。
そんなの出鱈目だっ……!出来る筈がないっ……!
こうして心に鼻の鋭いギャンブルおじさんが芽生える程の絶望を覚える。
もはやどうする事も出来ないのか?自分にはもうどうしようもないのか?
……っ!
その時、矢木に電流走るっ……!
先生に言うしかない。先生トイレに行きたいですと言うしかない。
もう手立てがこれしか残っていない。
しかし何たる事か、今日の5時間目は英語、そして先生は日本語をそのままの意味で捉えると有名はジョニー先生。
前に見た事がある、
こうして自分の様に窮地に立たされた者が「先生トイレ!」と言った時に、
「センセイハトイレデハアリマセン」
と典型的なカタコト日本語を交えながら笑顔で答えた所を。
あの時は可哀想に、と他人事に笑っていたが今、
こうして窮地に立たされると話が変わってくる。
また同じ台詞を言えばもう一度あの笑顔を見る事になるだろう。
その時にはジョニー先生は日本語が少し通じない面白い先生から、
トイレに流してやりたいクソ野郎に早変わりだ。
あってはいけない、これでも少なからずlikeの方に好意を寄せている数少ない先生の1人だ、
そんな人をトイレに顔を突っ込ませて流したくなる程のクソ野郎には変えたくはない。
ならばどうするか?簡単な事だ、一言「先生、トイレに行きたいです。」と言うだけだ。
これだったらジョニー先生も一言一句違わず意味も通じるだろう。
言うしかない、一言も間違えず言うんだ自分。
「先生!トイレ!」
オーブッダよ、何たる事か。
徐ろに立ち上がり、あれよこれよと考えた台詞を間違えてしまった。
そして返ってくる答えはもちろん
「先生ハトイレではアリマセン」
オー!どうした事か!
彼は日本語が上手くなる代わりに学習能力を失っているのか?
fu〇kin'!クソティーチャー!てめぇの帰国便は便器だ!
うっ……!
怒りによって肛門が緩んでしまう、
同時に刹那の安楽と名状し難い異臭が腹とケツを支配する。
異臭がクラス全体を包み込むまでの数秒の間、もはや恥と雪辱で死にたくなり、起こってしまった非情な現実から自己防衛的に無を習得し悟りを開く。
心境滅却すれば糞もまたフレーバーな香り、かの有名な人もそう言っていた気がする。
そうして響き渡る侮蔑に満ちた笑い声と悲鳴がクラス中を包み込んだ。
あぁ、なんとも不毛な事か。
たかが糞を漏らしたくらいでわーきゃーと、
こんな事、宇宙全体で見ればとても矮小なる事か。
星空を見るのです、一つ一つを見れば星屑、然し纏まって形を成せばそれは星座とゆう大きな意味を持つのです。そして見るのです、あれが私の北斗死地星、
私が社会的に死ぬ様を象った星座です。何とも儚く美しく汚い矛盾した星座なんでしょう。
さて、私はもう此処には居れませんね。
先生、私は早退します。なに、お腹の調子が些か不都合でね。
この薔薇の匂いは早退する私のからの囁かなお詫びです。
どうぞ、その鼻孔に焼き付けて下さい。
次回、「売店おばさんの家庭事情」
次回もバラムツバラムツ!