第六十二話 現実世界への送還
王宮に潜入し、現実世界から連れてこられた人々は全員逃す事に成功した。
次は俺たちの能力を使ってこの人々を現実世界に送り返さないといけない。 まずは実際に現実世界をイメージしながら空間転移をしていたルパートさんに、転移穴の開き方を聞く事にした。
「ルパートさん、彼らを元の世界に送り返そうと思うのですが、別世界への転移穴の開き方を教えてもらえませんか?」
「ああ、何度もやったから体に染みついているよ。 ただ王宮の装置なしでできるのかは疑問だけど」
「やはりあの塔のような建造物はルパートさんがおっしゃってた装置だったんですね」
「ああ、あの中に入ると見知らぬ土地の情景が頭に入り込んできて、僕たちはそこに転移穴を開くイメージをしていた。 ただ異世界に転移穴を開くとなると精神的な負荷がついて回るから、長い時間開き続けるのはお勧めしない」
「なるほど…… 少し相談してみます」
やはり現実世界をイメージしながら転移穴を開くという事には変わりないのか。 この世界に初めて来たとき、俺は現実世界をイメージしながら転移を試みてみたが、何も起きなかった。 何がいけなかったんだ?
とりあえず、こういうことは物知りそうなレナに相談してみるのが良いかもしれない。
「なあ、レナ」
「はい、何でしょうか」
「今現実世界へ転移穴を開こうとしているんだけど、開く場所のイメージはできているのに何故かうまく行かないんだ。 何故だか分かるか?」
「私は空間転移持ちではありませんので詳しいことは分かりませんが、向こうの世界にレン様の身体があるからというのは関係ないでしょうか」
「俺が現実世界に転移すると、世界に俺が二人存在してしまうって事か。 だとすれば俺が転移穴を開くのは無理だな……」
転移穴を開くのに大きな壁が立ち塞がってしまった。
現実世界をイメージできる俺が転移穴を開けないんじゃどうしようもない。
「レン様、私が知っているレン様の世界の光景をどなたかに共有するっていうのではダメでしょうか」
「え、次元超越ってそんなことできるのか?」
「はい、セリカさんの精神を向こうの世界が見える位置に誘うくらいでしたら。 向こうの世界のセリカさんがどこに居るかは分かりませんので、憑依して移動……などはできませんが」
「便利な能力だな…… 俺も今度次元超越使ってみよう。 それじゃあ早速試してみよう。 セリカ!」
名前を呼ぶとセリカはニョキッと地面から生えるように突然現れた。
「お呼ばれしました! 話は聞いてました、レナさんが見せてくれる景色に私が転移穴を開けば良いんですね?」
「その通りだ、説明の手間が省けて助かる」
レナがセリカに近づき、頭の上に手を乗せる。
「それでは、いきますよ」
レナの言葉を皮切りに、沈黙の時間が始まった。
おそらく彼女達は今現実世界へ精神を移動させているんだろう。
俺は転移穴が開いた時のために、王宮から脱出した人々に状況を説明し、移動する準備をする様話しておいた。
——数分後、セリカの口がパクパクと動くのが見えた。 その瞬間、目の前に転移穴が開いた。
中を確認すると、そこは間違いなく現実世界だった。
「皆さん、準備はいいですか? この穴を通って現実世界に戻ってください」
待機していた人々はぞろぞろと穴の前に集まり、一人づつ穴を通って行った。
その途中、何人もの人々が俺の顔を見て感謝の言葉を伝えてくれた。
全員が通り終わると、開いていた穴はゆっくりと萎み、消えた。
転移穴が消えると、静止していたレナとセリカが動き始めた。
「ぷはぁ!! こんな距離の転移穴を開き続けるのは流石に大変ですね……」
「でもお陰様で全員元の世界に送り返すことが出来たよ。 ありがとうな、セリカ」
「へへっ、これぐらいよゆーです!」
セリカは少し頬を赤らめながら満遍の笑みで答えた。
「そういえば、そっちのチームの潜入では何か得られるものはあったか?」
「はい、牢屋に捕らえられていた空間転移持ちは脱出できました。 二階のベッドで休んでいます。 収穫といえばそれくらいでしょうか」
レナが落ち着いて言い払う。
「レナさんのお母さんの事も少し分かったじゃないですか!」
「それは……」
「お、それも大事な情報じゃないか。 どうだったんだ?」
「私の母があの王宮に居たというのは事実のようです。 ただ、少し前に王宮を去ったとか」
「それは残念だったな…… まだ王宮に居れば会うことも、連れ出すこともできたかもしれないのに」
「私としてはこの件については全く気にしていません。 皆さんも気にしないでください」
レナがいつも通り冷たく言い放つ。 母親に対面したとしてもこんな感じなんだろうか。
そうこう話していると、頭の中にまた声が響く。
「蓮、早く起きなさい!!」
そういえばもう日付が変わってから結構な時間が経っている。
早く寝て向こうに戻らないといけない。
「じゃあ、今日は俺そろそろ寝るわ」
「慣れないことをしたので疲れました! 私も寝ます!」
「おやすみ」
二回は捕らえられていた空間転移持ちで埋まっていたので、俺は一階のソファの上に横たわり、一日を終えた。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマーク登録や評価をよろしくお願いします。
小説を書き続ける励みになります!
(下側の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして下さると、死ぬほど喜びます!)




