第三話 西の都、ウィンドピア
6月14日新連載です。
今後一日一回の更新を予定しています。
この小説はカクヨムにも掲載しています。
兵士たちから逃げるため、能力"空間転移"を使い辿り着いたのは高さが数十メートルはある崖の上だった。
体から一気に血の気が引くのを感じる。
「うわっ、危ない! 下手したら落ちてたぞ、これ!」
「えへへ、すぐにイメージできるのがここだったもんで……」
セリカは涙を袖で拭きながら言った。
「レンさん死んじゃうかと思いました。 どうやってあの兵隊さんを倒したんですか?」
「ああ、あの兵士の”高速振動"っていう能力を真似してみたんだ。 脳に強い衝撃が加わると脳震盪を起きて意識を失うってこと」
言っていることが分からない様で、セリカは首を傾げた。
「のーしんとーってのがよく分かりませんが、レンさんは”空間転移"が能力なのでは? 2つの能力を使える人なんて今まで聞いたことないですよ!」
「多分他人の能力をコピーするのが俺の能力なんだと思う、この世界風に言うと能力吸収ってところかな」
「そんな能力ずるいですよ! チートです!」
自分の能力を羨ましがられたのは人生で初めてで少し気持ちがいい。
「と、とりあえずはお互い無事で良かったな! あいつらいきなりセリカを連れて行こうなんて、何か心当たりはあるのか?」
「いえ、全く…...でも兵隊さんたち、転移穴がどうとか言ってましたよね」
「言ってたな、それがヒントなのかもしれない。 どこかで情報収集出来たら良いんだけどな」
「それだったらあそこがピッタリですよ!」
セリカは崖の下を指さした。
「西の都、ウィンドピアです!」
崖の下を覗くと少し遠くに大きな街が見える。
距離があるにも関わらず、街の中央で巨大な風車が回っているのが分かる。
「あれが西の都か…… 行ってみるか」
大きな街で聞き込みをすれば、セリカが連れ去られかけた理由や元の世界に帰る方法が分かるかもしれない。
少し距離があるし、空間転移をもう一度試してみる。
目的地はウィンドピアの外れの草原だ。
スッと目を閉じる。先程の感覚を思い出す。
目を開くと時空穴が出現していた。
まだ2回目だが、自分でも信じられないくらいに簡単にできてしまう。
「行こう、セリカ」
またセリカを抱え、転移穴に入る。
西の都 ウィンドピアは中世ヨーロッパ風の建物が並ぶ、景観が美しい街だ。
大きな道路に沿って濁りのない川が流れていて、子供たちが水遊びをしている。
ここにいると異世界に来ていることなど忘れて、観光しに来ている様な気持ちになってしまう。
街をいく人々の様子は、意外にもあまり現実世界と変わらない。
エルフやリザードマンもいるのかと思ったが、見渡す限りでは人間しかいない。
「ここが西の都ってことは、北、東、南にも都があるのか?」
「はい、王都を中心に、東西南北に都があります。それぞれ首長を一族で継いでらっしゃって、とんでもない能力の持ち主なんだとか!」
なるほど、偉い奴はそれ相応の能力を持っているってことか。
「とりあえず、今は情報収集だ」
そこからは能力”空間転移"について、手当たり次第に聞いた。
——もう何時間たっただろうか、もう殆ど日は暮れ、町を歩く人もまばらになっていく。
カァーカァーと真っ白い鳥が鳴いているが、この世界におけるカラス的な存在なんだろう。
相当な人数に話しかけてみたが、空間転移は相当なレア能力らしく、知っている人はいなかった。
セリカには内緒で俺にとっての現実世界についても情報を集めていたが、そちらも成果なしだ。
「くそ、やはりそう簡単にはいかないか......」
「そうですねぇ..... お腹が空きました……」
すっかりくたびれた俺とセリカは石造りの階段に腰をかける。
するとコツコツと足音をたてながら、前から金髪の少女がこちらに向かって歩いてくる。
野性的でありながら気品も兼ね備えた顔立ちで、やたら胸が大きい。
そしてそれを強調する様な露出度の高い刺激的な服を着ている。
——正直目のやり場に困る。
「アンタらかい?珍しい能力について聞いて回ってる怪しげな男と幼女ってのは!」
「ああ、少し語弊があるけどそうだ。 とある事情で情報を集めていてな」
「ウチは情報屋でね、力になれると思うんだよ。話だけでも聞いて行かないかい?」
「情報屋ってくらいだから何か見返りが必要なんだろ? 生憎俺は無一文だ」
なんせ俺は今日この異世界に来たばかりなんだ、金なんて持ってるわけがない。
服装だって寝間着、あれ……?
よく見ると俺は寝間着ではなく、この世界の人が着ている様な服を着ている。
今までのゴタゴタで全く気づかなかった。
ゴソゴソとポケットを漁ると"お小遣い"と書かれた一枚のメモと硬貨が数枚出てきた。
数えてみると金色の硬貨が1枚と銀色の硬貨が3枚ある。
「アンタ結構持ってるじゃないか、今回は銀貨2枚でまけとくよ!」
「銀貨2枚? セリカ、これって価値的にどうなんだ?」
「銀貨2枚もあれば都の高級レストランで美味しいものが食べられますよ! ちなみに金貨1枚と銀貨10枚、銀貨1枚と銅貨100枚が同じ価値になります!」
すると日本円で換算すると大体数万円ってところか。
何でそんな大金がポケットに入っているんだ。
それはそうと情報は必要だ、高くてもただ背に腹は変えられない。
「良いだろう、けど価値相応の情報なんだろうな」
「ウチの情報網舐めんなよ〜? それじゃあ契約成立って事で!ウチはシエラ、よろしくな!お客さん!」
「俺はレン、有用な情報を頼む」
シエラと握手をする。
どことなく距離感が近い。
女耐性が極端に低い俺にとっては厄介な相手だ。
「私だってもう少ししたら......」
セリカは隣でぶつぶつと何かを言っている。
「じゃあうちの事務所に案内するから着いてきてね〜」
俺たちはシエラの事務所に向かった。
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