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悪食暴食の感覚喰らい  作者: 陸海恋華
8/8

女神と魔王と一人の男と


彼、讐花(しゅうか)は死んだ。それは、そうあの場にいる讐花自身を含めた全員が思ったことだ。しかし神は、いや魔王は、それを許さなかった。



  ***



「───────────────」


 讐花は、不意に聞こえてきた音に覚醒し始める。


「──────────、───」


 それは次第に声だと理解する。そして、気怠さを感じることから、マグマによって溶けたと思っていた自分の体が、まだある事も理解した。


「お────────、──か」


 だんだんと大きくなる声は、女性っぽい声だった。しかも若い。目を開けたいが、体が思うようにいかない。


「起きなさいよ、讐花」


 そして完全に聞き取れた声。讐花(しゅうか)も、起きたいと思うが、やはりピクリとも動かなかった。それに痺れを切らしたのか......


「もう!いい加減に起きなさいよ、このバカ讐花!!」


 声の主がそんなことを言う。その直後重たい体に衝撃が奔る。その痛みで反射的に、讐花は目を開いた。


「知らない、天井だ」

「あ!起きた」


 オタクなら一度は言ってみたいセリフを言う讐花。それに反応して声に主が姿を見せた。


「誰、だ?」


 讐花(しゅうか)の目に映ったのは、赤い髪が印象的な、讐花と同年齢ぐらいの少女だった。髪と同じ赤い瞳が、讐花を見つめていた。


「私?私はね~」


 もったいぶってそう言う少女は、讐花からくるくると回りながら数歩分離れ、まるで「にしし」と聞こえんばかりの笑顔で言った。


「フレイ!フレイ=ディグラス、だよ!」

「そうか。俺の名前は......知っているよな」


 なんとか起き上がれるようになった讐花。起き上がりながらそう言う讐花にフレイは答えた。


「うん!知ってるよ。讐花っていうんだよね?ママが言ってた」

「そうだ......ん?ママってどういう───」

「ん?起きたのか?」

「あ、ママ!」


 フレアが言うママという存在に疑問を抱き質問しようとする。がそれは、突如現れたフレアのママによって遮られた。


「元気そうでなによりだ、讐花」


 フレアを全体的に成長させたような彼女は、讐花(しゅうか)をじろじろと見る。


「私の名は、ノファリア=ディグラム。私はこの火山に住む───」

「ま、まさか......」


 フレイアルはそこで言葉を切った。讐花はその言葉だけで、なんとなく予想がついた。


「───魔王が一人、〝炎魔王〟のノファリアだ」

「......やっぱりか」


 讐花の予想は見事に的中してしまう。まさか自分を助けたのが、倒すべき相手である魔王だなんて、この世界の住人だったら発狂するか死を覚悟するだろう。


「それで、魔王がなぜ俺を助けた?」


 何もなかったかのように質問する。その体は少し震えていた。その理由はノファリア、彼女が放つ雰囲気にあった。


「む?平然としているな。私が怖くないのか?」


 圧倒的な強者が持つ、覇気のようなオーラが、讐花に近づいたことで更に強くなる。それで気付いたのか、フレイアルは笑みを作る。


「ふふっ、そういうことか。まあ仕方ない.........ほら、これならどうだ?」


 覇気を抑えるノファリアは、再び讐花を見た。


「怖くはない。恐怖、というよりは畏怖、のほうが正しい。体が勝手に震えるから」

「そうか。悪い気はしないな」


 自分がかなわない相手だと認識されることが嬉しかったのか、再び笑みを零すノファリア。


「それはそれとして、移動するぞ」


 それも束の間、踵を返してしまう。讐花(しゅうか)はそれについていく。寝ていた部屋は一面ごつごつした銅色の岩肌だったが、出てみると大理石のような岩に変わる。その光景が少し続いた後、讐花は広間のような場所へ着いた。


 王城の、まるで謁見の間を連想させるその場所。記憶と同じ場所に玉座があり、王と同じようにノフェリアは、頬杖をついた。


「さて異世界より召喚されし聖徒、神喰讐花(かみぐらしゅうか)よ。私が助けたのは一つ、頼みがあるからだ。その前に、昔話をしよう」


 ノファリアは淡々と語り始めた。


「昔、この世界には全を司る女神と、炎・水・地・雷・光・闇の五柱(いつはしら)の神、数多の天使がいた。生命を生み出し、種を創り、知識を与え、世界を魔力で満たし、魔法を教えた。しかし、安寧を願っていた彼女らは知らなかった。行き過ぎた力と知識は、要らぬことを招くことを」


 ノファリアが話し始めたのは、この世界の始まり。本による知識で、讐花(しゅうか)も少しは知っていたが、ノファリアの言う話はそれとは異なっていた。


「異なる世界を知った人族は、それを呼び出そうとし、人族の六割を贄に一人の男を召喚した。男は人ならざる力をもって召喚され、混乱のあまりにその場にいた全員を殺めた。そして男は気付いた。力は殺めることでもっと強くなると」


 ぽたっと、何かが零れる音がする。隣を見ると、フレイの拳から血が垂れていた。よくわからないが、何か深い関わりがあるのだろう。


「元々、男は力に貪欲だった。結果、男は目に入った生命を殺し、世界の生き物は男だけとなった。既に神の領域の力に、神は男を恐れ殺そうとしたが出来ず、封印した。その失敗を生かし、魔法のない世界を再び創った。安寧が戻ったと思われていた」


 ノフェリアは天井を見る。彼女の脳裏に映っているのは何だろうか。


「男は生きていた。封印の中で神に対する憎しみや憎悪を糧に、更に強くなって。天使は無残に殺され、五柱や女神も敗れた。なんとか、男の力を消すことは出来たが、男は彼女らの力のほとんどを奪った。男は女神から奪った(権力)を使い、神へと至り、女神は邪神、()()()()()()()()()()()()()()()()

「なっ!?......」


 讐花(しゅうか)は驚きの声を漏らす。自分達が倒そうとしていたのが、神だった。目の前にいる魔王ノファリアが、神だったということに。そして、話を聞いて讐花はその男が誰かを悟った。


「神へと至った男は世界を変えた。自身がいたときのように世界に魔力を満たし、神を御業と称し人族に転移者を呼び、魔族と争いをさせた。それからは人族の歴史どおりだ。そして今回、君達が召喚された訳だ」


どうして召喚を繰り返すのか。自分達を転移させたのは、何が目的なのか。そんな疑問が頭を満たす。


「とまあ、こんなとこだ。お願いというのは他でもない。女神を助け、あの神を殺してほしい」


 お願いがすんなりと耳を通る。しかし、脳が理解するためには、少し時間を要した。


(神を殺す?女神でも殺せなかった神を俺が?どうやって───)


 人が神に敵うはずない。そんなもっともなことを思った時、まるで心でも読んでいるかのように、ノファリアが口を開いた。


「確かにお前でも神は殺せん。だがな讐花(しゅうか)、お前には喰らう者(イーター)があるではないか」


そう言ってノファリアは右腕を指す。それ反応して讐花(しゅうか)が咄嗟に隠す。喰らう者(イーター)のことは、見せはしたが話したことなど一度もない。それにもかかわらず、ノファリアが知っていることに思わず、つまり反射的に隠してしまったのだ。


「喰らえ。獣が獲物を喰らうかの如く凄惨に。食せ。人が栄養を摂取するため食事の如く冷酷に」


 口を獰猛に開き、目の奥に無慈悲な炎を宿した顔。その矛盾したはずの表情は、讐花をほんの少しの間、無自覚に見惚れさせた。


「だ、だがそれでも。俺は何も出来ず殺されるだろう。力が、経験が、何もかもが足りない」


 それを振り払い、無理だと主張する。


「そうだな。それも一理あるだろう......」


 ノファリアは上を見た。空はなく、岩肌が彼女の視界を埋める。


「まあ、今日のところはこれまでとしよう。外はもう暗い」


 ノファリアが玉座から立ち上がる。同時に隣にいたフレアが前に立った。


「部屋、案内するよ!」


 その声には少し元気がなかった。何か言おうとするが言葉が見当たらない。だだついていくことしか出来なかった。


「ここだよ!」


 案内された部屋の中は、飾り気のないベットと机が置いてあった。


「食事が出来たら、呼びに来ますから」


 最後にそう言い残して、どこかへ行ってしまう。


「............神を殺せ、か」


 ベットに腰掛け、そう呟く。


「出来るのか?俺に......」


 右手を見る讐花(しゅうか)。頭の中では、この世界の真実が反響していた。


「......眠い」


 考える内にだんだん眠気が讐花(しゅうか)に募る。そして、程なくして倒れるように眠るのだった。


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