表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪食暴食の感覚喰らい  作者: 陸海恋華
7/8

傾く天秤

 ガラガラと音を立て、床が崩れる。転落して、背中感じる熱気がじりじりと全身を焼き、火山岩で出来た天井が視界を埋め尽くす。手を伸ばすも、もう戻れない。


(まだ一か月も経っていない。まだあの手料理を食べていないのに......ようやく希望を手に入れたのに。このまま、俺はここで死ぬしかないのか......)


 走馬灯がこれほど厄介だとは、と思う讐花(しゅうか)。引き伸ばされた残り間もないこの時間が、自分に未練を与えるのが苦痛でしかないと考える。そして、諦めの雫が目尻から滑り落ちた。


 そうしてあっさりと訪れた終わりに、讐花(しゅうか)は沈んでいった。


 ここは【ギルリス大火山】。讐花(しゅうか)達が実戦訓練として訪れた、魔物が巣食う場所の一つ。


「どうして、こうなった......」


 同じ班で、近くにいた勇輝が讐花(しゅうか)の落ちてったマグマの池を見ながら、そう呟いた。その傍には天芽と糸紡がおり、二人も勇輝と同じ思いだった。


 事の始まりは昨日、訓練前日の自由行動が許されたあの時まで遡る。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【ギルリス大火山】の麓で、生徒達はその日の予定を決めるために話し合っていた。それは勇輝、天芽、糸紡も同じで、讐花(しゅうか)も誘うために探していると...


「お取込みのところ申し訳ありません。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


 丁寧な物言いで話しかけてきた者がいた。魔法師団のローブ身に纏い、手を前に添えて、綺麗なお辞儀をするのは、魔法師団副団長のリクスだ。


三人は顔を見合わせ肯くと、代表して勇輝が「いいですよ」と言う。


「単刀直入に申し上げます。明日の訓練、そこで聖徒カミグラ様を倒して貰いたいのです」

「「「え?」」」


 リクスから言われた一言に、三人は耳を疑う。リクスは「理由を説明します」と再び話始める。


「カミグラ様のステータスはご存知ですか?」

「...ええ、ステータスの殆どが分からなかったのは、あの場にいた全員が知っています」


 讐花(しゅうか)の黒く塗り潰されたあのステータス。見た目の印象が変わり、彼はどんな能力があるのかと少し注目されていたためか、誰もがそのステータスを憶えている。その記憶が脳裏に浮かんだのか、天芽が答えた。


「そうです。その原因を考えたところ、カミグラ様が魔物という可能性があります。根拠は、先日の修練場で魔法を消したことに-」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 勇輝が、さっきから言っている意味が分からない、と言わんばかりに話を中断させる。


讐花(しゅうか)君が魔物?彼は俺達と同じ人間で、クラスメイトですよ?」


 「嘘いわないで下さい!」という自分の意見を瞳にうっすらと宿らせ、勇輝はリクスを睨む。


「ユウキ様、それは私も知っています。しかし、カミグラ様が魔物だと考えるのには、訳があります」

「訳、ですか?」

「はい。カミグラ様が魔法を消したのは、本来魔物や魔族、魔王にしか使えない〝固有魔法〟を使ったと考えられます」

「〝固有魔法〟ってなんですか?」


 糸縫が疑問を口にする。まだ異世界に来てから間もないので、分からないことも多い。


「我々が魔法を使う際、媒体となるアーティファクトが必要です。しかし魔物や魔族、魔王は魔力操作が人族よりも高いため、それを必要としません。が魔法の汎用性は低く一個体に一つか二つの魔法しか使えません。それが〝固有魔法〟です」

「でもそれじゃ讐花(しゅうか)さんも使えないですよね?」

「そうね」

「そうだよな」


 糸縫の疑問は最もで、勇輝と天芽も首を傾げる。少し下を向きながら、リクスは話始める。


「確かに人族には〝固有魔法〟を使えません。ですが例外があります。魔族や魔王に魅入られ、魔物へ堕ちた存在...我々は〝堕人(おちびと)〟と呼んでいます」

「おち、びと?」

「眷属となり魔族、魔王に無意識のまま尽くすようになる彼らは、見た目には何も変化がなく、魔力が変化し体に負担かけて、最後には塵になって消えてしまう。何も残らない〝堕人〟を止めるには......」


 そこで一度言葉を切り、そして断言した。


「その生命活動を止める、即ち殺すしかありません」


 リクスは「皆様の英断、期待しております」と言い残すと、踵を返し何処かへ去っていった。


「.........どうするの?勇輝さん」


 リクスが見えなくなると、糸縫が重たげに口を開く。


「......まだ、彼がそうと決まった訳ではないわ。けど、もし本当だった場合は...」

「俺が、いや俺達が、止めてあげるしかないのか...」




 訓練当日。


「さて皆さん!準備はいいですか?ここから中は-」


 フェイル少年が、今から訓練とはいえ戦いに行く雰囲気とは思えない声で【ギルリス大火山】の説明をしていた。


「「「ふあぁ~~」」」

「どうした、寝不足か?」


 話は班ごとに集まって聞いていたため、すぐ近くにいた讐花(しゅうか)が心配する。


「え!?いや、何でもないよ、な?」

「う、うんうん!」

「えぇ」

「......ならいいんだが」


 慌てて答える三人に、「本当に大丈夫か?」という目を一瞬向けるが、またすぐにフェイル少年の話を聞き始めた。


 まさか、讐花(しゅうか)のことで眠れなかったなんて、とてもじゃないが言えない。三人は、気づかれないようにそっと息を吐くのだった。


 「では渡された物をしまったら、順に中へ入りますよ」


 話を聞き終わり、班に一人、魔法師団の者が就くと、讐花(しゅうか)達は【ギルリス大火山】の中へ入っていく。


 入ってすぐはそんなに暑くはなかったが、十分程進むと地面を熱したような暑さになり、全員がダラダラと垂れてくる汗を拭う。


 その時、道の脇に転がっている球体が動く。先頭にいた生徒の一人がそれに驚く。


「え?う、動いた!?」


 球体、否、その生物は、言うなればアルマジロだった。


「お、ファイアアーマード(火を武装した者)ですね」


勇輝達に混じっていた筈のフェイル少年が、初めてとなる魔物との遭遇を察知したのか、近くに来てアルマジロの解説を始めた。ご丁寧に生徒全体に聞こえる声で。


「ファイアアーマードの甲羅は鉄と同等に硬く、その上赤熱化しています。攻撃方法は転がって突進してくるだけなので対処は簡単です......えいっ」

「グゥゥゥゥ!?」


 解説の隙に丸まろうとするファイアーアーマードに、可愛らしい掛け声で魔法を使う。地面を動かして土に埋める。


「では、初めての実戦訓練の始まりです!......ほら、きますよ?」


 前と後ろから次々と出てくるファイアーアーマードA、B、C、D.........Z。それぞれが生徒を見るなり突進してくる。


 隊列を組み、前衛が前に出る。


「前衛の皆さん!試しにその剣を当てて下さい。当てるだけでいいです!」


 それだけでいけるのか?という疑問を抱きながら、武器を構える前衛。目の前まで接近してきたファイアーアーマードAに刃を当てる。


「「「グッ!?」」」

「「「「え?」」」」


 すると、拍子抜けになる程あっさりと斬れるファイアーアーマードA。ベチャッという生々しい音を立てて、ファイアーアーマードAだったものは動かなくなる。


-う、うぉえぇぇぇ...


 内臓が曝け出され、グロテスクな光景に生徒の何人かが吐いてしまう。その中には勇輝もおり、斬った時の感触を思い出したのか動かなくなる。


 それに構わず、残ったファイアーアーマード達は迫ってくる。その直線状には、勇輝が捉えられていた。


「勇輝さん!」

「.........チッ」


 避けられない勇輝に、叫ぶフェイル少年。チラリと讐花(しゅうか)のほうを見る。讐花(しゅうか)は舌打ちしすると、〝喰らう者(イーター)〟を出す。


「喰らえ」


 ファイアーアーマード達に黒い靄が纏わり付き、その硬い甲羅すらも紙のように喰らっていく。一分も経たない内に、火山に住むアルマジロは跡形もなくなった。


「す、凄い......」


 生徒の一人が、そう声を漏らす。


「......」


 讐花(しゅうか)の右腕に纏わる黒い靄、〝喰らう者(イーター)〟を勇輝はじっと見つめる。そして同時に、リクスに言われたことを思い出していた。


(...堕人になった者は戻らない。その行動を止めるには、俺は-)

「どうした、大丈夫か?」

「......え?」


 考えるのに夢中になっていたためか、讐花(しゅうか)が右手を差し伸べ心配することに、間を置いてしまう。


「大丈夫、そっちは?」

「大丈夫だ」


 勇輝が立ち上がると、また奥へ進み始める。二十分程進むと、少し開けた場所に出た。目の前には五つに道が分かれており、生徒は立ち尽くす。


 彼らは思った。それは即ち、


-何処を進めばいい!?


 それを感じ取ったのか、フェイル少年が前に出る。


「分かれ道は全て、次の広場にまで繋がっています。右にいく程道のりは短くなりますが、その分難易度も高くなります」


 低難易度の長い分かれ道か、高難易度の短い分かれ道。何処を進むのか簡単には決められない。


 フェイル少年は、「こほんっ」とわざとらしい咳をする。


「今回は、班でこのどれかを進んで終わりにします!ラストスパートです、頑張って行きましょう!」

「「「「「はい!!」」」」」


 終わりが見え、喜びを滲ませて返事をする。未だ続く暑さと、初めてとなる戦闘訓練による精神疲労で、疲れてきている前衛に限らず、後衛の生徒も同じくらいに喜ぶ。


 話合いの結果、大半は一番左を選び、少数が一番右を選ぶ。そして讐花(しゅうか)達は、真ん中の道を選んだ。


「では、次の広間で会いましょう!」


 そうして生徒達は別れていった。




 真ん中を進んだ讐花(しゅうか)達は、ごつごつとして道を走っていた。真ん中を選んだ理由は、魔物の強さと右と左での距離の差が分からなかったためだ。


 程なくして、小さな小部屋らしき場所に出る。道がまた二つに分かれており、中央にはマグマが溢れ返る穴がある。

 

 讐花(しゅうか)に就いていたフェイル少年が、不思議そうな顔をする。


「おかしいですね?こんな場所、記憶にないですけど......」


 見知らぬ場所を調べるため、隅々まで観察するフェイル少年。片方の分かれ道の前に立ったその時、


「-へっ!?」


 変な触手が、フェイル少年の脚に絡み付いていた。


「うわあぁぁぁぁぁ~~!!」

「!?どうしたんですか!!」


 勇輝がその叫び声によって振り向いたときにはもう、フェイル少年はいなかった。


「っ!?」


 すぐに追い掛けようする。しかしその前に、讐花(しゅうか)が勇輝を止める。


「......まて」

「どいてくれ!フェイルさんを助けないと!」

「......いってはだめだ」


 たどたどしい言葉で進むのを拒む讐花(しゅうか)。再び、リクスに教えられたことを思い出す。


「......それは、君が魔物の仲間だからかい?」

「は?...」


 今度は、誰も止めることはなかった。


 友達を手にかけたくはない。しかし、無意識のまま友達が罪に、悪事に手を染めて欲しくもない。均衡を保っていた勇輝の心の天秤が、少しづつ後者へと傾いていく。歪に形を変えながら。


 何かを決めたように、呟いた。


「すまない、讐花(しゅうか)君」

「は?---っ!?」


 勇輝が剣に手をかけ、讐花(しゅうか)へ振り抜く。讐花(しゅうか)はそれを、屈むことで回避する。


 その際、長く纏めていた髪が切れ、パラパラと空を舞う。


「勇輝!!」

「勇輝君!!」


 天芽と糸縫が叫ぶ。しかし、勇輝が止まることはなかった。


「ごふっ!?」

「守れ...............ない」


 勇輝は讐花(しゅうか)の腹へ拳を入れ、膝を着かせる。今度こそ斬ろうと大振りの攻撃するが、それは叶わなかった。


「がっ!?」


 友達を殺すことに、無意識に躊躇したのか、刃は讐花(しゅうか)ではなく地面に叩きつけられた。その衝撃で、讐花(しゅうか)は吹き飛ばされる。


 その先にはマグマの池があった。


「危ない!!」


 天芽が必死に叫ぶ。そのおかげか、讐花(しゅうか)は体勢を戻し、ギリギリ崖際で止まる。


 讐花(しゅうか)はほっとし、胸をなで下ろす。しかし、それは些か軽率だった。


「あっ!?」


 ガラガラと音を立て、立っていた足場が崩れる。讐花(しゅうか)は手を伸ばすも、届くことはなかった。


 そしてそのまま、讐花(しゅうか)は沈んでいった。

 

 静寂が訪れる。誰も口を開くことはなく、落ちてったマグマの池を眺めた。


「あ...ああ...」


 しばらくして、勇輝が自分の手を見て、ついさっきのことを思い出す。手には、魔物のときとは異なる、重く苦しい何かが残っていた。


「どうして、こうなった......」

「勇輝......」

「すまない...すまない、すまなかった......」


 そして、沈んでいったであろう讐花(しゅうか)に向かって泣いた。天芽と糸縫も、涙を流して下を向いた。


 そんな悲しみに満たされた場所に、


「いやぁ~、一瞬何ごとかと思いましたが、ただの魔物でした。って、あれ?皆さん何してるんですか?それに、讐花(しゅうか)さんはどうしたんですか?」


 皮肉な程に明るいフェイル少年の声が響いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ