訓練前日
遅くなってすみません
それから一週間後。讐花達は【ギルリス大火山】の麓にある、【セオン】という街を訪れていた。
「え~これから一日、皆さんには明日に備え、この街で過ごしてもらいます。街散策するもよし!宿のベッドでごろごろ、お風呂でぬくぬくするもよし!自分で技に磨きをかけるのもよし!ですので、どうぞ自由にくつろいでください」
「「「「「やった~~~!!」」」」」
丸一日の自由行動に、生徒は手を上げて喜ぶ。ここ最近訓練漬けで、最初は息巻いていた生徒達もそうでない生徒も、夜遅くまで訓練してその後はまるで死んだ魚のような目をしながらベッドにダイブするという毎日を過ごしていたため、何もない時間がなかったのである。そのおかげで全員の実力は上がったのだが、生徒は力よりも自由が欲しいらしい。
そして讐花はというと......
「まずはここの料理を食べ、いや料理の調理過程を見せてもらうほうが先か。となるとレストランや宿とかを当たってみよう。そしてその後は......」
料理のことで一杯だった。
讐花はフェイル少年から〝喰らう者〟を連発出来るようにと言われ、試したところ、終わりが見えなかったので、持続時間や射程距離などを調べることに費やした。が、それでも時間が余ったので、王城の厨房を借りてひたすらに料理をしていた。その時、〝調理師〟の職を持った料理人と共に作ったのだが、その料理が何処にいったのかは讐花の秘密。
そんな訓練とは言えない訓練していた讐花は、自分の嗅覚に身を任せ、街を歩き始める。
この街、セオンは火山の麓ということもあり、温泉が沢山存在している。街には何本もの湯気がたちのぼり、温泉独特の匂いを満たしていた。他にも、その温泉を求めて商人達が競い合って、商業もそれなりに盛んだ。
街の中心に商人達が温泉目的の客目的に店を出し、それが集まった市場のような場所からは、宣伝や売り込みの声が飛び交い、活気に溢れている。
そこから少し離れた所の隅のベンチに、讐花は座っていた。
「......お、結構うまいな」
片方には袋を、もう片方には串を持って。どうやら、何かを食べていたらしい。
讐花は串を袋に戻し、別の物を取り出した。それは日本で言うところの、焼き鳥だった。
まだ熱いのか湯気を立て、食欲をそそらせるタレの匂いがするそれを、讐花はおいしそうに食べていく。
そして、10本くらい食べた讐花は、あることに気付く。
「......」
「...どうした?俺に何か用か?」
子供はいたのだ。緋のフードを被っている子供は讐花を、いや、讐花の持っている焼き鳥の袋を見て放さなかった。そのことを理解したのか、讐花は子供に渋々訊いてみる。
「...食べたいのか?」
その問に頭を縦に振る子供。その仕草に、讐花は袋から焼き鳥を1本取り出し、子供に渡そうとする。
「ほら」
が子供は受け取らない。変わりに袋を指差す。焼き鳥が全部欲しいらしい。
「......さすがに全部は-」
「だめ?」
「...ぐっ............ほらよ」
「食べきらないだろう?」と言い切る前に、子供が悲しそうな声を漏らす。と同時に上目使いで讐花を見た。子供の上目使いに流石の讐花も負けたのか、袋を渡す。
「.........これ」
袋を受け取った子供は、讐花にある物を見せた。
「ネックレス?なんでこんな物?」
「......子供の恩返し?」
ルビーのような宝石に鎖が付いた簡素なネックレス。それを子供は疑問形の言葉と共に讐花に渡すと、踵を返して人混みの中に消えていってしまう。
「ちょ!?おい!」
子供を追いかようと立ち上がるも、既に姿は見当たらず追いかけることも出来ず、再び座り込む讐花。
「......使い方間違ってるだろ......」
そう呟いて讐花はまた店を回るのだった。
その後、焼きそばもどきの店を見つけて何だかんだあって店主と勝負することになった讐花が、その手際と味で伝説になるのだがそれはまた別の話。