異世界転移と分からない能力
視界を眩い光が満たしていく。爆ぜる音が耳を苛んでいく。永遠に続くかと思われたそれは、徐々に勢いを失っていった。
「う...」
変わりに、視界は薄暗さを感じさせる色が見え始め、小さくゴオゥゥという音を耳に運んでくる。次第にそこは広間と分かる。
「...ここは?」
目が慣れたのか、周りを見渡す讐花。自分の周りにいる他の生徒、正面に見える扉、そして、讐花達を囲むように息を切らして座りこんでいる人々を見る。
「......」
讐花に緊張がはしる。しっかりと人々見据え、少しでも動きやすいよう中腰になる。そこに...
「...ん?ここは?」
後ろから声が響いた。目をこすりながら起き上がるその声の主は天芽だ。
「おおぉ、成功だ!」
「神よ...」
「私達は救われる!」
彼女の声で讐花達の存在に気付いたのか、次々と喜びの声を上げる。若干、不穏な言葉が聞こえた気がするが、讐花はスルーした。
「...う、何だったんだ、あれは」
「......な、何の騒ぎ?」
その声によって一人、また一人と目を覚ましていく。そして、見覚えの無い所に動揺を表していく。
「ここどこだ!?教室じゃないぞ!?」
「嘘、誘拐!?」
現状を呑み込めず、ある生徒は蹲り、ある生徒は近くの生徒を掴んで疑問を呟き、またある生徒は今にも癇癪を起こしそうになっている。
「皆、落ち着きなさい!」
そこに、生徒会長の仮面を被った天芽が一喝。生徒全員が彼女に注目する。天芽は、近くにいた一人だけフードを被っていた人に近寄り、声を掛けた。
「済みません、私達はある中学校の生徒ですが、ここは何処ですか?」
「聖徒様、やはり聖徒様なのですね!」
「?確かに私達は生徒ですが...それより、ここは一体...」
「はい!それに関しては...」
会話自体は出来ていたが、その中で多少のズレ?が生じていた。フードの人は天芽と会話を続け、話がついたのか、天芽と一緒に生徒へ近付く。
「皆、この人が案内をしてくれるそうよ」
「よ、宜しくお願いします!」
フードの人はそう言って勢いよく頭を下げた。その勢いでフードが取れ、素顔が露わになる。それに生徒達は、驚きを見せた。
「わぁ、可愛い」
「うん、綺麗」
「男、だよな?」
「いいや、女じゃね?」
何故なら、黒髪銀眼の美少年だったから。女子は口を押さえて震え、男子は隣同士で何かを話合っている。
「それでは、僕について来て下さい」
美少年はそれに全く気が付く様子もなく、広間を出ようとする。讐花も最初は訝しんだものの、彼についていく。そして、天芽を先頭に生徒達も広間を後にした。
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煌びやかな装飾がされた廊下を生徒達は歩く。同じ風景がかれこれ数十分続いているため、彼らの足取りは重い。讐花も、この変わり栄えのしない時間に少し疲れたように顔を顰めるが、無言で歩いている。皆が皆、一秒でも早く着いて欲しいと思った。
そんな生徒達の心情に気が付いていた天芽が「あと、どの位で着くか聞いてみるか」と考え始めた時、やっと変化が起きた。
「あ、フェイル君。そちらの方々は?」
「神が遣わしてくれた、聖徒様達です」
人が現れたのだ。それは日本の戦士達が、紳士達が、そして男子達が夢見て止まない事の一つである、美少女メイドさんだった。メイドさんは、フェイルと呼ばれた美少年と話し始めた。
男子生徒はメイドさんを見て、目を瞬かせ、まじまじと見つめていた。そして女子生徒は例に漏れず、男子生徒に絶対零度の如き冷たさを放っていた。
そんな中、例外が二人いた...
「メイドさんは見ないのか?」
「興味ないです」
「君も男だろう、本当に興味ないのか?」
「俺は料理にしか興味ないですし、食べる事しか好きではありませんよ、会長」
そう、讐花と天芽だ。メイドさんには目もくれず、明後日の方向を向いていた。
「それに、誰かは分かりませんが、あの手紙の話が本当なら、他を見ている余裕は俺にはないんですよ」
そう言って廊下の先を指差す。よく見ると、大きな扉があり、左右に騎士らしき人物が立っているのが見える。
天芽は、讐花の指した方向を見て「ふふっ」と笑い、振り返るとフェイル少年に訊いた。
「会話中に済まない。私達は疲れているので、早く案内してくれると助かるのだが」
「ふぇ!?あ!す、すみません!」
メイドさんと会話していたせいか、変な声を出して驚き、案内を中断していた事を謝るフェイル少年。
「すみません、僕は聖徒様達をご案内するので、また今度続きを」
「えぇ、がんばりなさい、フェイル君」
フェイル少年はメイドさんとの会話を止め、案内を再開した。向かう先はあの大きな扉の元。広間の扉の二倍近くはあり、そこからは誰かを守る騎士の意思ようなものが感じられた。
「大丈夫ですよ、国王様はいい人ですから!」
フェイル少年は笑顔でそう言う。そして、片方の騎士に何かを言うと、何処かへ行ってしまう。と同時に、扉が開き始める。
「「では、お入りください、聖徒様」」
騎士に促され、生徒達は中へ入る。讐花は、嫌そうにするが、天芽に掴まれて渋々入っていった。
中には大勢の人が道を造っていた。ある人は期待を、またある人は畏怖を目に灯しながら。その終わりには玉座があり、その前に男が立っていた。
「よく来てくれた!聖徒達よ!」
その言葉に込められている覇気から、その人物が国王だということを理解する。
「皆の者よく聞け!神は我らに救いに手を差し伸べた。それが彼ら、聖徒達である!」
その言葉に周りの人々が叫びだす。その叫びからは伝わってきた感情は、喜びだった。
「もう守りに徹するだけの我らではなくなった。これからは神の導きに従い、魔王から平和を取り戻すのだ!」
国王は左手を掲げ、宣言した。声の音量が増し、空気をびりびりと振動させる。
讐花は、聞こえてきた不穏なワードを記憶から吐き出すかのように、ため息をした。
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讐花達は一枚の紙と針を片手に、ある部屋に来ていた。その部屋の床には、幾何学模様-魔法陣が描かれており、淡く発光していた。
あの後、国王から話をされた。それは実にテンプレな、ファンタジーではありきたりな内容だった。
『単刀直入に言おう。其方達に魔王を倒してほしい』
『どういう事ですか?』
『まずこの世界、ルフィールには我々人族の他に、古種族、魔人族、亜人族が存在し、均衡を保ちながら生活していた。しかし、魔人族は二千年程前に世界を我が物にしようと、特異な現象を起こす事が出来る獣-魔物と呼んでいる生物を嗾けて来たのだ。』
生徒達は真剣に話を聞く。讐花も今回はちゃんと聞いている。
『苦戦を強いられた祖先。そんな時、神は其方達の様な使い、聖徒を使わした。その者は、卓越した剣の技術や、まるで未来を見て考えているかのような戦略で、魔物をたおしていった。そして魔人族の企みは失敗に終わり、聖徒は人族の英雄となった。それから魔人族は鳴りを潜め、当時解らなかった魔物の特異現象を人族でも使えるように〝魔力〟を使った〝魔法〟を発明し、人族は発展した。』
国王はそこで話を切り、顔を歪めた。
『が二年前また、魔人族が攻めて来たのだ。前回と異なるのは、魔物を従えていた存在である〝魔王〟がいた事だった。〝魔王〟がいた事で魔物は人のように動き、人族は追い詰められていった。そこで私は、隣国のホラリア聖教国と同盟を結び、聖徒を呼び出す〝召喚の祈り〟を始めてもらった。そして日に日に被害が大きくなる中、今日、其方達が召喚された。神より使わされた其方達には、我らの数倍の力がある筈だ。どうか我らを、我らの世界を救って欲しい』
と、頭を下げたのだ。大の大人、それも一国の王に頭を下げられては、生徒達も無下には出来なかった。讐花だけが、「ようは、戦争しろってことだろ」と言っていた。彼には今、余裕がないのである!
そして現在、讐花達は己に秘めている力を確かめるところだった。
「それでは皆さん、針で指を刺し、紙に血を垂らして下さい」
そう言ったのはフェイル少年である。あの一件の後、生徒達の世話係の筆頭の一人に選ばれた彼は、数日間で大分生徒達と親密になっていた。
そんなフェイル少年の仁徳故か、多少怖がりながらも次々と血を垂らしていく。
讐花も紙に血を垂らしていく。すると、白かった紙に文字が浮かんできた。
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名前:神喰讐花 年齢:17歳 種族:人族、◆◆◆ レベル:1
天職:◆◆
筋力:◆◆◆
体力:◆◆◆
敏捷:◆◆◆
魔力:◆◆◆
耐性(物理):◆◆◆
耐性(魔法):◆◆◆
技能:悪食、◆◆、言語変化
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大半が黒く塗り潰されて見えない、自身の能力が。
どうもはじめまして、陸海恋華です。さて私の妄想を綴っているこの「悪食暴食の感覚喰らい」ですが、初心者なため雑な部分や曖昧な部分が御座います。また、投稿ペースは不定期になると思いますので、どうか暖かい目で見守ってくてると有り難いです。