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悪食暴食の感覚喰らい  作者: 陸海恋華
1/8

プロローグ 前編

人にはそれぞれ好きな事がある。

 "漫画" 人にはそれぞれ好きな事がある。

 "漫画"が好き。"運動"が好き。"家事"が好き。

大なり小なり様々な好きな事がある。

 そんな中、彼は"食べる事"が好きだった。




「はい、完成しました」

「嘘!?早すぎない!」

 日本のとある高校の一部屋から、愉しげな二つ声が聞こえてくる。

 人気の無い廊下に響いて来たその声は、場所と相まって凄く印象的だ。

 その声の主である男女は、今は男、年的に少年が作った物を、少女がまじまじ見ている。

 少年ー神喰讐花は、黒髪をマッシュベースに束感を効かせたショートヘアーに、高校生にしては平均的な身長をして、少し太った体型をした少年。

 現在はエプロンと三角巾を身に着けている。

 そして讐花の作った物を見ている彼女は逆神天芽さかがみあまめ

 腰に届くぐらいの、所謂いわゆるスーパーロングの艶やかな黒髪、切れ長の目に薄い桜色の唇が、整って並んでいる美少女だ。

 纏う雰囲気は凛としていて、どこか生徒会長を彷彿とさせる。

 実際彼女は、この高校の生徒会長をしている。

 そんな彼女にも、出来ない事があった。

 頭脳明晰ずのうめいせきで成績優秀、スポーツ万能な彼女だが、"それ"だけは出来なかった。

「ほ、本当だ、出来てる」

「料理だけは負けられませんから。...それより会長のはどうですか?」

「...いや、まだ出来てないわ」

 そう言って天芽は自分の作っていた方へ振り返る。

 そこには、とてもこの世の物とは思えない"何か"があった。

 その"何か"を作ったのが彼女と誰かが知ったとしたら幻滅、あるいは倒れてしまう位、"何か"はこの世の物とは思えない物だった。

 彼女が唯一出来ない事、それは料理。

 彼女は料理が出来なかった。

 それも、壊滅的に。

「あの頃と比べたら、大分良くなりましたね」

「う......あの頃はすみません」

 二人が言うあの頃とは天芽が讐花に料理を教えて欲しいと言いにきた日の事、もっと正確に言うと、天芽が両親と一緒に讐花の自宅に来て、讐花と讐花の両親の目の前で料理を教えて欲しいと頭を下げた日の事だった。

 勿論神喰家は驚いた。

 讐花の両親は驚きのあまり「うわっ!?どうしよう、讐が逆神家の皆様に毒を!」「落ち着いて、あなた。毒を盛られたのは私達よ!」「はっ!そうか!!」等と言い出し、家に入ってしまった。

 讐花自身も、訳が分からずその場で硬直してしまった。

 その後、何とか現実に戻って来た讐花と、逆神家の皆で讐花の両親を説明・説得をして、讐花が天芽に教えるという事で場を収めた。

 そして始まった、一回目の料理教室が。

 初めてという事もあり、まずは天芽の料理の腕前を確かめる事になった。

 しかしそれがいけなかった。

 そこはまるで、地獄絵図だった。

 鼻を刺すような異臭が部屋に充満し、部屋にいた神喰家の三人が倒れ、近所にまで影響を及ぼした。

 軽く事件になったその日以降、料理教室は高校の一部屋でするようになって、今に至る。

 今ではその異臭も無くなり、時間はかかるが人前に出せるレベルの料理を作れるぐらいにまで天芽は上達した。

 その事を思い出したのか、二人は何処どこか懐かしそうに目を細める。

「ねぇ讐君、私も上手くなったでしょう?」

前の自分と今を比べたのか、そんな事を言う天芽。

 それに対して讐花は、

「まだまだですね」

 冗談と、

「讐君!」

「冗談ですよ、俺からしたらまだまだですけど、もう十分上手いと言えるでしょう。後、讐君は止めてください会長」

 本音で返した。

 更に、呼び方を変えるよう言う讐花。

「会長呼びを止めてくれたらね」

 負けんとばかりに、天芽も言い返す。

「無理ですね」

 讐花は即答で言葉を返し、

「即答!?...どうしたら名前で呼んでくれる?」

「讐君呼びを止めてくれたらです」

「無理、他には?」

「.........料理で俺を越えたらですね」

 別の条件を提示する。

「!......ふふっ、じゃあこれからも宜しく《よろしく》ね?」

 本当に言ってくれるとは思っていなかったのか、目を瞬かせ驚く天芽。

 そして、微笑みながら返事を返す。

 讐花はこう言った、「料理で自分を越えたら」と。

 その言葉から、「料理で自分を越えて欲しい」と天芽はそう言われた気がしたのだ。

 もしかしたら思い違いかもしれない。

 だが少なくとも、彼女にはそう聞こえたのだ。

「ええ、俺からも宜しくお願いします」

 讐花はスッと手を前に出す。

「あ、だけどこの関係が終わるまでだよ、讐君」

 それに天芽はそう言って、讐花の手を取る。

「止めてくださいって言いましたよね、俺」

「あはは、御免ごめんね?」

「......まあ、今回は許します」

「ねぇ知ってる?私、生徒会長だよ」

「俺にとっては唯の手のかかる教え子です」

「ちょっと酷くないそれ!」

 讐花は思った、無意識に。

 そして呟く、誰にも聞こえない位小さな声で。

「もっと、こんな時間が続くと良いな」

 それは讐花の小さな我が儘。

 しかし、讐花は知らない。




 その願いが幻想で終わる事を。

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