第八話 死とは
第八話になります。
序章のところから読みにくいところがあったと思います。
駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。
AM9:10
優は夢でも見ているのかと思った。
・昨夜自分の頭上に落ちてきたトランク、
・中から飛び出してきた刀、
・幽体離脱、
・突然襲って来たドラゴン、
・助けてくれた彼女、センナ。
そして今、センナに連れられて壁に開いた穴から見たこともない光景が広がっている。
中はまるでトンネルのような構造だが、壁にも天井にも明かりがない。
しかし、中は全く暗くはないのだ。
トンネルのずっと先、おそらく出口だろう。大きな真っ白い光がトンネルの中を照らしていた。
でも不思議とその光は眩しくない。こんなに大きなトンネルをあの光だけで照らす程の強い光なのに、直接見ていられる。
なぜかは分からないがこの道を歩くことに恐怖心がなかった。
センナの話が本当なら今自分は死後の世界に向かっている。
死ぬことは恐ろしく思うのに、何故かトンネルに入った途端気持ちが鎮まったのだ。
例えるなら、外出した時に当たり前の様に帰り道に向かって進んでいる、そんな感じだ。
優は不思議に思う。
(どうして俺はこんなに落ち着いているんだろう、でもこの先に行くことに抵抗がない、まるでこの先に何があるか知っているみたいだ)
心の中で考え事をしていたせいか、のほほんとした顔になっていたのだろう。優の手を引っ張りながら歩いているセンナが振り返り、微笑んだ。
「大丈夫だよ、優!」
「えっ?」
「貴方がこの道に恐怖を感じないのは不思議なことじゃないわ」
「どういうことだ?」
センナは再び前を向きながら、やさしい声で優に語りかけた。
「さっきも言ったけど、人も動物もいつかは死ぬの。死を恐れる人は沢山いるわ。死後のことは生きている人には分からないから。でもね、死の間際になると生物はまるで悟ったかのように死を受け入れるの。どうしてだと思う?」
いきなりの質問だが、優は考えた。死の間際になると、人は何を考えるんだろう。やっぱりまだ死にたくないって思うんじゃないかな。
でも、世の中には自殺をする人も多いということを前にTVで見た。
自分には分からないが、自ら死のうとする者もいる。その人たちは死の間際に何を思ったのか。
優が出した答えはーー
「解放される……」
「えっ!?」
「死への恐怖から、生きる苦痛から、解放される悦びなんじゃないかな?」
「あ、……」
センナは言葉に詰まった。てっきり『分からない』とか『死にたくない』とかありきたりな事を言うのだと思った。しかし優は自分なりの答えを出したのだ。
生きている人間達の中に今の優の言葉を否定出来る者がいるだろうか、
センナは思う。見た目から、チャラくて、ふざけた人間ではないとは思っていた。でもそれだけではない。
優は真っ直ぐなのだ!真面目で、ちょっとおっちょこちょいだけど、根は優しい。そして、物事について真剣に考える事が出来る人間なのだと。
「ふふっ」
「え?」
いきなりセンナは笑いだしたことに優は驚き自分がおかしなことを言ったのだと思った。慌てふためきながら訂正しようとする。
「ご、ごめん! 今のなし! 忘れてくれ!」
「え、どうして?」
「俺変なこと言ったろ!? センナ笑い出すし」
センナもこの時、自分が笑ったから急に恥ずかしくなったのだと分かった。そして、綺麗な笑顔で思った事を伝えた。
「ううん、違うよ! 今の優の言葉、カッコよかったなぁって♡」
「はい!?」
「びっくりしちゃった! 普通、そんな答え出てこないよ。優はすごいね」
「え、そうかなぁ」
自分なりに考えて自然と出た答えなのだが、どうやらセンナに高評価だったらしい。優は分かりやすい程に照れていた。
「今の優の言葉、皆にも聞かせてあげよっと!」
「えっ!?」
流石に言いふらされるとは思わなかった優は慌てて止めようとする。
「そ、それは止めようよ!」
「え、どうして?」
「いや、だって質問するってことは答えあるんだろ。センナ笑ったってことは答え違うわけだし。不正解の回答言いふらされて良い気はしないよ」
「あ、そういうこと。うぅんとね。不正解でもあるけど、全然違うとも言えないと思う。優の回答特殊だったから、曖昧だけどごめんね。でも、多分間違ってないと思うな。優の答え!」
「そうかなぁ、『生意気ぃ』とか言われそうなんだけど」
「そんなこと言わないよ! 立派な答えだもん」
「まぁ良いや、それより答えは何なの?」
「うん! あのね、生物は死ぬときに感謝をするんだよ」
「感謝……」
優もまた意表を突かれるような答えが来て言葉に詰まった。
「今までお世話になった人に、ありがとうってね。でも、それだけじゃない。先に死んでいったお母さんお父さん、お祖父ちゃんお婆ちゃん、自分を育ててくれた人にも人生で最大の感謝をするのは、この時なの」
それから間が空いて、センナは空いた手を自分の胸に当てて言った。
「そして、最後に感謝するのは自分の体。沢山の人と出会えたのも、大好きな人と一緒にいられたのも、楽しい思い出を作れたのも、みんな体があってこそ。だからこそ、自分の体にも精一杯感謝するんだよ」
「…………」
センナの言葉を聞いていた優は今まで感じたことのない感覚を味わう。彼女と出会うまで、いや、あのトランクが落ちてこなければ、自分は一生この思いを感じることが出来なかったかもしれない。
優は無意識に目を瞑り、自分の手を胸に当てた。
これまでの人生……友達と楽しく遊んだ時、親に怒られた時、剣道で厳しい練習に必死に耐えていた時、試合で勝った時、つまらない人生だと思ったが、思えばいろんな思いをしてきた。
それを味わうことが出来たのは、自分を産んでくれた両親への感謝、ケンカしながらも、仲良くしてくれた友人たちへの感謝、厳しくも、自分の成長を手助けしてくれた学校や習い事の先生への感謝、そして、それら全てを体験することが出来たのは、自分の体のおかげなのだと、このとき初めて、彼は自分自身の体に生まれて初めて感謝をした。
(ありがとう、本当にありがとう……)
優は涙を流している。彼自身がそれに気付かないほどに感銘に浸っているのだ。
(優、やっぱり貴方は凄いよ! 一般の人は私の言葉を理解できても、すぐには納得しない。でも貴方は、物事を真正面から向き合うことが出来る。それはとても素敵なこと。きっと、目の前で苦しんでいる人がいたら、その人の気持ちになって考えたり出来るんだろうな。だからこそ、天牙はきっと貴方を……)
優が泣いている姿を、センナは優しい眼差しで見つめていた。
感慨に浸る二人を出口の光が温かく照らしていた。
―――――――――同時刻―――――――――
現世の空は再び突如現れた分厚い雲に覆われていた。そして、無人だった優の部屋には一人の男の姿、いや鬼の【リガード】の姿があった。
「畜生! どうなってんだ!? 何処にもいねぇじゃねぇかあのガキはよぉぉっ!」
リガードは焦っている。大見えきって自分一人でここに来て、『目的を果たせませんでした!』では、今度こそ殺されてしまう。なんとしても優を探し出そうとしていた。
「部屋にあるのはあの時のガキの死体だけ、中身がいねーな、まぁ死んでんだから当たり前なんだが……いなきゃ困るんだよっ!」
リガードは優の死体を蹴ろうとしたが、足は優の体をすり抜けた。現世の物に干渉することは出来ない、それはリガードにとっても同じことだった。
「ど、どうすれば……いや待てよ、あの時あの場にはあの邪魔な女もいた。死者を現世に置いて行く訳がねぇよな。だとすれば、ガキは向こうの世界だ!」
そう結論付けたリガードは、表に待たせていたドラゴンに跨り、雲の中へ、優の元へ向かった。
読んで頂きありがとうございました。
新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」
と思われる所もあると思います。
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トンネルの話は、臨死体験の実話を元に作ってみました。
死後にトンネルの中を通ったという説は一番多かったので!