第五話 生存確認
第五話になります。
序章のところから読みにくいところがあったと思います。
駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。
「本当に良かった、やっと会えた……」
優は動くことが出来なかった。
自分が何故霊体であるのか、センナに聞かれたことを答えただけであるのに、今その彼女が自分に抱きつき、涙を流しているのだ。
センナが何故泣いているのか、何を待っていたのか、まるで分からなかったが優はとりあえず落ち着かせることに専念した。
AM8:20
「落ち着いたかな?」
「え、は!? ごめんなさい! 私ったらつい……」
自分から抱きついてきたことにセンナ自身気付いていなかったようだ。彼女は慌てて体を離した。
「それで、何でセンナは泣いていたの? 何を待っていたんだ?」
「私、いえ私達はずっと、それこそ何千年もの間待っていたの! 剣聖様、貴方を……」
「うぅぅん……」
「剣聖様?」
センナの話を聞いた優は腕を組み考えるような素振りをした。そして……
「うぅん、何言ってるかさっぱり分からねぇ」
「アハハハ……」
センナにとってはとても感動的なシーンだったのだが、優の一言によって雰囲気はぶち壊された。
「まぁ、詳しい話は、ここよりも神帝教会の方でできると思うわ! さぁ、行きましょう!」
「行くって何処に?」
「もちろん! 神帝教会、我らの世界に!」
「そっちの世界って、あの世……だよな?」
「ええ、そうだけど?」
「嫌だぁぁ! 俺まだ死にたくないぃぃぃっっ!」
「もう死んでるわよ?」
「だから死んでないって!」
自分が死んだことを未だ認めようとしない青年は、駄々をこねる様に近くの電柱にしがみつきそこを離れようとしなかった。
しかしセンナとしても、何千年もの間待ち続けた剣聖を漸く見つけられたのだ。なんとしても神帝教会に連れて行こうと思っている。
優の様子を見ていたセンナは……
「仕方ないわね、なら確認に行きましょう」
「確認?」
「はい! 貴方様の体が死体なら、当然貴方様は死んでいる、であれば、死者の世界に行くのも当然です」
「う、」
たしかにセンナの言葉は正論だった。どうしようかと悩んだ優だったが……
「分かった! センナなら見てもらえばはっきり分かると思うし、そうしよう」
「では、案内よろしくお願いします」
「ああ、付いてきてくれ」
話がまとまると、優を先頭に二人は空を飛び優の家に向かった。
道中、優の顔は暗かった。先程センナから、幽体離脱はありえないと聞かされた手前、とても不安なのだ。
それを斜め後ろから見ていたセンナは、優の気持ちを察して言葉をかけた。
「あのね、優! 人も動物も植物も、いつかは必ず死んでいくの! でもね、それで終わりじゃ無いんだよ! 生前に何を成したのか、それは死後の世界ではあまり関係ないけれど、大事なのは何かを成すために、どこまで自分を成長させられたか……己の魂の成長、それこそが生きる本当の意味!」
「なら、何も成し遂げていない俺は何も成長していない。大学にも行けず、剣道も中途半端に辞めて、それからは無駄な時間ばかり過ごしていた俺はきっと禄な人間じゃない……」
「優……」
慰めるつもりだったが、逆に落ち込ませてしまった。気不味い雰囲気のなか、二人は優の家についた。
霊体の二人は、直接優の部屋の壁を擦り抜けて中に入った。
「お邪魔します」
「いいよ! 今母さん仕事で居ないから、そもそも霊体の声は生きているものには聞こえないだろ」
「そうだけど、マナーは大事だから」
中に入った優は、ずっと床に倒れている自分の体を指さした。
「それだよ、俺の体……」
「うん、じゃあちょっと見せてね」
そう言うとセンナは優の体に近くに座ると、
鼻と口に手のひらを当てたり、優の倒れている体を真剣な表情で見ていた。一方優は、自分の体を見られるのは、変な気分だなぁと思い落ち着かない様子だった。
AM8:35
センナは近くに座っている優の方に向き直った。優は、それをドキドキしながら見ていたが、ふと、センナの表情が驚いているように見えた。
「分かったわ! 優」
「ど、どうだった?」
「とてもびっくりしたわぁ」
「え、ということはっ!?」
優は思った。
(やっぱり自分は死んでいないのだ! センナはありえないと言っていたが、やっぱりこれは幽体離脱なのだ!)と、希望に満ち溢れた顔をした。
「貴方は……」
「俺は……」
「……死んでいるわ」
「ズコォォォッ!」
思いっきりズッコケた優は、霊体のため床を擦り抜け、一階に落ちていった。
「最後まで聞いて! 信じられないのはここからなの」
「え!?」
センナの声で、一階から天井を擦り抜け、優は首だけ床から出てきた。
「貴方の体は、温かすぎるの」
「温かすぎる……?」
「そうよ、亡くなられた人の体はドンドン冷たくなっていくもの! 更には、死後硬直と言われる現象も起こる。優、貴方今日エアコンをつけずに霊体になったでしょ?」
「あ!」
そうなのだ、朝起きてからトランクの騒動まで待ったなしの流れだったため、エアコンをつけず、12月の真冬の部屋に体を一時間以上も放置していたのである。
「人間の体温は、その人が亡くなってから、少しずつ下がっていくの! 私が貴方と出会ってから、もうすぐ一時間経つわ」
「そういえば、俺が幽霊になってからは、もう一時間経ってるな」
「やっぱり、死後一時間ではそれ程急に体温は下がらないんだけど、今の貴方のは、生者の体温そのもの……もっと分からないのは、貴方は息をしていないのよ!」
「息していない!? 死んでるじゃん!」
「だから死んでるんだって!」
息をしていない体、だが一向に体温が下がる傾向がない体、生物学上ありえない状況だった。
センナはこの状況をなんとか解明するために考え込んでいた。
そこへ優は、ひらめいた! っとばかりに拳を手のひらにポンっと当てた。
「そうだセンナ! 俺、この体に今の体を重ねてみる!」
「重ねる?」
「ああ! だってさ、今の状況って死んでいるはずなのに死後の現象が起こっているってことだろ? てことはやっぱり幽体離脱なんだよ! 俺は死んでないんだ!」
「言ったでしょ、幽体離脱なんてありえないって」
「でも、今もありえない現象が起きているだろ?」
「そ、それは……」
実際センナもこの状況をどう捉えて良いか分からなかったため、何も言い返せなかった。
「んじゃ、とりあえずやってみる!」
そう言うと優は己の霊体の体を、倒れている体に重ね合わせた。センナは不安そうに近くで見ていた。
「す、優?」
呼びかけても応答がない……
「ねぇ、優ってば!」
「ふふふっ」
「え!?」
「戻ったぁぁぁ!」
「きゃあぁぁぁぁぁっっっ!」
パッチィンッッッ!
驚いた勢いで本日二度目の大きなビンタ音が響いた。
読んで頂きありがとうございました。
新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」
と思われる所もあると思います。
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ずっこけて床擦り抜ける、それはずっこけと言うのだろうか・・・