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生者と死者の掛け持ち剣聖  作者: ☥周幸来
第三章 トーナメント編
51/64

第五十話 霧の中で

第五十話になります。

序章のところからココまで読みにくいところがあったと思います。

駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。


絵描きの方募集中です。もし、『この作品の絵を書いても良いよ』という方がいらっしゃいましたら、「感想ページ」か「TwitterのDM」か、「【なろう】のメッセージ機能」にてご一報下さい。

よろしくお願いします。

「此処は……何処だ?」


 気が付くと、()()()はそこに立っていた。

 辺り一面を真っ白な霧に包まれて何も見えない。

 足元は水溜まりの上を立っているのか、足を僅かに動かすだけで波紋が生まれ、霧の向こうにまで広がってゆく。


「俺は、たしか……。あれ、なにしてたんだっけ?」


 意識がはっきりしていない。優は自分が今まで何をしていたのか、いつからここに居るのか分からなくなっていた。

 霧に視界を遮られていては方向も分からない。アレスは行く当てもなく、ただただその場に佇んでいる。


()()()()()も持たぬ者が、アレを手にする……か」


「……誰だ?」


 聞いたこともない声。今の言葉が自分に向けて言われたのかさえ分からなかったが、アレスは聞こえてきた声に答えるように呼び掛けた。


 すると、正面の霧の向こう側から人型の影が映り始めた。

 しかし、その額を見ると、アレスはまるで魂を揺さぶられたかのように意識が呼び起こされた!


「お前その角……レース・ノワレか!」


「…………」


「おい! 何か答えろ!」


 いくらアレスが呼び掛けても、影は一言も返すことはない。

 アレスは朦朧(もうろう)とした意識から覚醒したばかりの頭で今の自分の現状を把握する。


(センナがいない……そういえば俺、センナを守るためにあの老災とか言う奴と戦っていたんだ。じゃあ、なんでここには誰も居ないんだ? センナはどうなった? 無事なのか?)


 アレスの中では、自分の身を案じるよりも仲間(センナ)の事が心配で仕方なかった。

 正面の影を警戒しながらもう一度辺りを見回すが、やはり陰で何も見えず、完全に孤立していた。

 自分が握っていた『黒刀』もいつの間にか彼の手元から離れ、どこにも見当たらなかった。


(どうする……走って逃げるか? いや、レース・ノワレには特殊な能力があるはずだ。むやみに背中なんて見せたらすぐに殺される)


 アレスは体の向きを正面の影から一切逸らさず、ゆっくりと後ろに下がる。

 少しでも距離を取ろうと考えたのだ。影が動きを見せればいつでも行動を起こせるように最大限にまで警戒心を掻き立てながら、少しずつ、着実に距離を離してゆく。


「名は何という?」


「は?」


 再び、何の前触れもなく声が聞こえてきた。やはり聞いたことがない。少し年老いた男の声だが、とても透き通っていて少し距離が離れても尚、しっかりとアレスの耳に響き渡ってきた。


「なんだ? 名もないのか」


「あ、あるに決まってんだろ! 俺は『荒野 優』だ」


 なかなか答えないアレスの様子に名前がないと判断したのか、声の主は勝手に話を進めようとした。アレスにとって初対面の相手に、いきなり名前がないなどと言われるのは流石に我慢ならないものだった。

 動揺していたために少しばかり早い口調で自分の名前を答えると、影は両腕をゆっくりと持ち上げた。


「っ!」


 何か攻撃を仕掛けてくると判断したアレスは、緊張で全身に余分な力が入ったことを実感した。自分の体が固まってゆく中で、少しでも早く逃げなければと体を逸らし、全速力で逃げようとする、が……。


「ふむぅ……」


「腕を組むだけかい!」


 正確にはアレスが勝手に警戒しすぎただけなのだが、彼は先ほどまで、本当に命を懸けた戦いを繰り広げていたのだ。

 心の奥底に根付いた恐怖が未だ消えないまま、額に角を生やした得体の知れない影と遭遇してしまったのだ。警戒心が大袈裟に働いてしまうのは、仕方のない事なのかもしれない。


 影は腕を組みながら、再び黙り込んでしまった。

 シルエットのため分かり難いが、僅かに視線が下がっているようだ。その姿から、何か考え事をしているのではないかとアレスは思った。


「なぁ。俺は名前言ったんだから()()()も名前を教えてくれねぇか? 出来れば此処が何処なのかも」


「此処は、|《・》()()()()|》《・》()()()()()()()()()()()だ」


「……ごめん、ツッコミどころ多すぎるからちょっと待って」


 自分の名前も名乗らず、場所を答えたかと思いきや、自分と顔も分からない相手の中と言われていったい誰が理解できようか。

 中という事は、精神世界という事だろうか。しかしそれならば自分だけが中に居なくてはおかしくはないだろうか。

 自分の心の中に、自分以外の、まったく知らない存在が居る。これほど不気味な話はそうそうないだろう。

 アレスは影への警戒を続けながらも、ソレ(かげ)が発した言葉の意味を考え、簡単なことから質問してゆく事にした。


「アンタは()()、だよな?」


「……いかにも」


 少しの間が空いてから、影は静かな声で答えた。


「なら、俺の名前は『アレス』で良いよ。『あれのすぐる』じゃ言い難いだろ」


「……」


 影はまた黙ってしまった。いきなり呼び方を変えたことで驚いていているのだろうか。

 アレスには影の本心は分からなかったが、この時間は(アレス)にとっても有難かった。

 この霧に囲まれた世界に一人迷い込み、話を続けていても一向に姿を見せようとしない影。不明な点は幾つもあった。

 ここまでの流れで、相手には自分を襲う気配が全くない事をアレスは感じていた。最初から影が自分を襲うつもりだったなら、自分の名前を聞く必要がない筈だ。

 『リガード』という男も、『老災』の爺さんも、アレスの名を聞くことなく襲ってきた。

 彼らにとって名前など知る必要がないのだ。アレスがただの生者でも死者でもないと分かった時点で、一方的に攻撃を仕掛けてくる。


 目の前の影には、はっきりと角が生えている。普通の人間である事は間違いないだろう。

 しかしアレスは、ソレからは一切の殺意を感じなかった。

 先ほどまで戦っていたグレオラからは、身体中の鳥肌を立ちあがり、『これから自分は殺される』と思わされるほど心に深く突き刺さる冷たい殺気を常に感じていた。

 警戒を解くつもりは全くない。だが、微塵も殺気を感じないどころか、何気なく普通に会話を行えているという事が、アレスの緊張を俄かに和らげていった。


「アレス……か。ふふっ。知らぬとはいえ、我に向かって『その名』を名乗るとはな」


(笑った?)


 聞こえてきた声は、先ほどよりも少しばかり明かく感じられた。

 何故かはわからない。声の主は『アレス』という名が面白く、楽しいという感情を笑い声を含んだ言葉から伝わってきた。


「良かろう。ではアレス、次にまた此処に来るまでに『答え』を聞かせて貰おう」


「は? 答え? なんの?」


 また理解できない事を唐突に言われてしまい、優はキョトンと呆気に取られてしまった。

 何についての『答え』なのかを聞こうとするが、あたりの霧がより一層濃さを増してしまい影が見えなくなってしまった。

 それどころか、あまりに視界が悪さに遂には自分の足や手も見えなくなってしまった。目の前が白一色に染まる。


「おい! 結局アンタの名前聞いてねぇぞ! いったい誰なんだ!?」


「我の名か……。『()()()』とでも名乗っておこう。では約束だぞアレス。次会った時には『答え』を。()()()()()()()()()()


「は? どういうことだ。おい!」


 アレスの声も虚しく、その後霧の中から声が聞こえてくることはなかった。



AM6:50


「っる、っぐる! 優! 起きなさぁい!」


「ぐふっ!? いったぁぁぁっ!」


 いつの間にか()は意識を失い床に伏していた。

 眠っている中で自分を呼ぶ声に意識をゆっくり覚醒させていると、頭に強い衝撃が走り一気に目を覚まさせられた。


「……あれ、母さん?」


 目の前には、一目でわかるほど酷くご立腹な雰囲気を漂わせている優の母が居た。

 右手には丸めて筒状にした雑誌が握られている。さっきはそれで叩かれたようだ。

 母は怒っている感情を隠そうともせずに一歩一歩進むたびにドンッドンッと床を鳴らしながら優に歩み寄ってくる。


「何が『あれ、』よ! ()()()()()()()()()()()()()()()()のは良いけどそんな臭くなるまでしなくて良いじゃない! さっさと風呂入って着替えて来なさい!」


「……はい?」


「返事は!」


 一切の発言を許さない厳しい視線と共に、持っている雑誌を手で鳴らしながら近寄ってくる。

 今素直に従わなければいったいどうなるか……。


「は、はいぃぃぃぃぃ!」


 考えることも恐ろしかった優は、逃げる足取りで風呂場に直行したのだった。

読んで頂きありがとうございました。

新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」

と思われる所もあると思います。

感想を見られるのが嫌でしたら、TwitterのDMでも

募集していますので、遠慮なくお申し出下さい。


新章突入です! これからもより一層楽しんで頂けるように精進していきますので、よろしくお願いします。

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