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生者と死者の掛け持ち剣聖  作者: ☥周幸来
第ニ章 覚醒編
44/64

第四十三話 大軍勢

第四十三話になります。

序章のところからココまで読みにくいところがあったと思います。

駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。


休載期間が予想遥かに伸びてしまい本当に申し訳ありませんでした。

前話のあとがきに記した通り、この話からストーリーを加速させていきます。

これからも読者の皆様にさらに楽しんで頂けるように精進していきますので、どうかよろしくお願いします。

AM5:30


「グッドモーニング優ぅ!」


「うわっ!? 寒!」


 冬の夜は全身が震えあがるほど冷たく、光がなければ満足に前を見ることも出来ないほど暗い。一度沈んだ太陽は午前五時を過ぎて尚その姿を見せず、町は暗闇に染まっている。

 そんな早朝に、優の部屋では一人の男の高らかな声が響いていた。

 挨拶と共に布団をはぎ取られた優は凍てつくような寒さに体を縮める。


「何するんだよ武羅怒さん?」


「昨日寝る前に言っただろう、早めに出発すると」


「早めって……まだ五時半じゃないか! あんなデカい声出したら皆起きちまうよ」


 ケータイで時間を確認すると、優は抗議の眼差しで武羅怒を見る。彼が言うのは当然の事だろう。早朝にあれほどの大声を出せば隣の部屋で寝ている母に聞かれてしまう。ご近所の方にも至極迷惑だ。

 しかし、武羅怒を見た優は考えを直ぐに改めることになった。


(いつもの格好に戻ってる。そうか、『死者』に戻ったのか……あれ?)


 昨夜の事。部屋の数から千奈と美姫はリビング、芽瑠守と武羅怒は優の部屋で寝る事になった。一軒家とはいえ、一部屋に男三人で寝るというのはかなり狭く感じた。

 芽瑠守の寝巻は何も違和感を感じさせないごく普通の黒いパジャマだった。しかし武羅怒の寝巻は忘れたくても忘れられない強烈なインパクトがある『ネグリジェ』だった。


 ところが今は神帝教会で見かけた時と同じようにメイド服に身を包んでいる。死後の世界に戻るために『カモフィアーズ』を取り外したのだろうと優は判断した。

 しかしここで彼は、一つの重大な事を思い出してしまった。


「あれ、()()()さん……。俺はどうやって死者になるの?」


「ナッハッハッハー! それはなぁ……」


「ま、まさか!?」


 ブラドが訝し気に含み笑いをしながらじりじりと優の方へ近づいて行く。

 その行動だけで優は、ブラドに対し底知れない恐怖心を感じた。

 優は以前にもセンナに肉体から霊体に戻されたことがあった。あの一件は(すぐる)にとって一つのトラウマになっている。

 自分を()()()()のだ。恐怖を感じる事もトラウマになることも寧ろ自然なことといえるだろう。

 徐々に近づいて来る巨漢(ブラド)にもの恐ろしさを感じ取る優はベッドに尻もちをつきながらも距離を縮ませまいと後ろへ下がる。しかし、程なくして壁に退路を断たれてしまった。


 第三者から見れば、小柄なウサギが大柄なトラに今にも食べられてしまいそうな光景だ。

 ブラドはベッドには上がらずに手前で停止し、両手で指をポキポキと音を鳴らしながら呟く。


「安心せい! すぐに()()()()


「完全に悪役の台詞じゃねぇかぁ!」


「ナッハッハッハー! 歯ぁ食いしばr」


グワァァァッッッ!


「「っ!?」」


 ブラドが優に向かって拳を向けようとした瞬間、聞き覚えのある耳をつんざくような音が窓から響いてきた。

 優はあまりに突然の事に慌てて耳を塞ぐ。そうでもしなければ鼓膜を直接揺さぶられてしまいそうだったからだ。

 ブラドは耳を塞いではいないが、状況を把握しようと窓を見る。


「隊長! 今のは!?」


 外から聞こえた巨大な咆哮が鳴り止んだと同時にセンナとミキ、メルスが一階から駆け上って来た。

 三人とも神帝教会で見た時と同じ格好をしている。どうやら全員死者『カモフィアーズ』を外しているようだ。

 あたふたした様子で訪ねてきたセンナの質問に対し、ブラドは何も答えず代わりに窓の外を指さした。

 センナ達は沈黙の指示に従うように一斉に窓際に向かう。優もつられる様に窓から外の様子を伺うと、外に広がっていたのは……。


「な、なんだ!? あの赤い光は」


 町は暗雲により星空という微かな光すら断たれ完全な暗闇に染まっている。たとえ日が昇ってもこの雲は太陽の光も妨げられるだろう。

 しかし、そんな暗闇の中でまるで暗い海の中を泳ぎ回る魚のように幾つもの怪しく輝く赤い光が空中をたどたどしく飛び回っている。

 あまりにも不気味な光景に優は言葉を失う。


(さっきの声、聞き覚えがある。忘れもしない、あれは間違いなく!)


グワァァァッッッ!


グワァァァッッッ!


グワァァァッッッ!


「ドラゴンの声だ!……まさか、これ全部!?」


 町中からドラゴンのけたたましい咆哮が聞こえる。

 優はこの時町のあちこちに広がっている光の正体を悟った。光は今も尚空を泳ぐかのようにうねりながら飛び回っている。その光と丁度重なる位置から咆哮は聞こえた。


 優はこれまで二度ドラゴンを見たことがある。どちらもおそらく同じドラゴンだったかは(すぐる)には分からないが、二度見たドラゴンはどちらも両目が怪しく赤い光を放っていた。

 まさしく今彼の目の前で動き回っている光と同じ色だった。

 光の数はとても数えきれるようなものではなかった。つまり今町中の空に居るのは……。


「ドラゴンの大群!?」


「センナ! ミキ! メルス! 戦闘準備」


「「「了解!」」」


 優が外の光景に目を奪われている間にブラドはセンナ達に次々と指示を与える。


「ミキとメルスは俺と共に真っ向から敵を迎撃する」


「「了解」」


「センナ、お前はその間に優をこの場から出来る限り遠くまで連れて行け。絶対に優を()()()!」


「了解」


「は? なんだよそれ、どういうことだ!?」


 優はブラドの言う言葉の意味が全く分からなかった。殺すなというのであればまだ分からなくはなかった。優は初めてドラゴンに襲われた時、アレ(ドラゴン)も霊体だという事を知った。これほどの数のドラゴンが襲ってくれば、町に被害はなくても霊体に触れる自分はひとたまりもないだろう。


 しかし、『渡すな』とはどいう事だろうか? それではまるで……。


「優、奴等の狙いはお前の中の()()だ」


「っ!」


「どこで情報が漏れたのかは分からねぇが、これほどの大軍勢がいきなり、それも現世に押し寄せて来るには必ず理由がある。今一番可能性として考えられるのは」


「俺の中にある天牙を奪い取る事……」


 ブラドは大きな手で優の両肩をがっしりと握りしめ正面から優の眼を見つめる。

 その眼差しはいつもの優しい雰囲気とはかけ離れた、別人のように険しい物だった。


「いいか、優。俺たちが陽動になって敵の注意を引く。その間にセンナと一緒に一刻も早くここから離れて身を隠すんだ。今回の戦い、お前の中にある天牙も、お前の()()も奪われる訳にはいかねぇ!」


「え、なんで?」


「もしお前の生身を奪われた場合、奴等はソレ(生身)を交渉に天牙を渡せと言ってくるだろう。しかし、神帝教会の上層部はお前一人の身体より天牙を絶対に選ぶ。そうなればお前の身体は破壊されお前は本当の死者になる」


「……ある意味俺にとって最悪のケースだな」


 天牙が敵に奪われれば、神帝教会にとってそれ以上に最悪のケースなど存在しない。天牙のためならば一人の青年の命など天秤にすらかけないだろう。

 しかし、本当の死者になるという事は優個人としてはもっとも最悪のケースなのだ。

 死ねば六道の世界に行き天牙の修行が存分に出来るかもしれない。

 しかし優は、まだ生者としてやりたい事が沢山あるのだ。死者になるというのは優個人としては何としても避けたい事だった。


「そうならない為に今はとにかく逃げるんだ! 生身だから空を飛ぶことも壁をすり抜けることも出来ねぇが、気合で逃げ切れ! それしかお前が生き残る方法はない!」


「わ、分かった」


「安心して優、貴方は私が必ず守るわ」


 横からはセンナが優に向かって片手を胸に当て宣言する。その声はどこまでも真剣味を帯びており、敵に狙われるという優の恐怖心を緩和していった。彼女の言葉は守る対象である優や、陽動として戦う仲間たち、そして護衛役として戦う自分自身への決心を表す言葉だった。


「ありがとう。よろしくな、センナ」


「うん♡」


「よし! 第七部隊、作戦開始!」


「「「「了解!」」」」


―――誰もがこの時知らなかった。戦いのゆく末が思わぬ方向へ進んでしまうことを―――

読んで頂きありがとうございました。

新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」

と思われる所もあると思います。

感想を見られるのが嫌でしたら、TwitterのDMでも

募集していますので、遠慮なくお申し出下さい。


長期休載を頂いたので、本日はもう一話更新させて頂きます。

時間は夜頃の予定です。

宜しければ読みに来てやって下さい。

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