第三十三話 模擬戦:アレスVSメルス【一】
第三十三話になります。
序章のところからココまで読みにくいところがあったと思います。
駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。
―――時を遡る―――
PM3:50
「なに……これ」
「さ、さぁ……」
アレスとセンナ、ミキはブラドに指定された修練場にたどり着いたのだが、室内の様子に三人は固まり、その場に立ち尽くしていた。
修練場は単にトレーニングを行うためだけでなく、アレスたちのように模擬戦をすることも想定してとても広く設計されている。さらには、個々の実力を間近で測るという名目で、観客席も用意されている。
今アレスたちの目の前には、観客席を埋め尽くさんばかりの人が溢れかえっていた。空いている席は全く見られない。立ち見の観戦者までいるのだ。耳を澄ますと、観客席から聞こえてくる話題は剣聖の事ばかりだ。どこからか今回の模擬戦の事が広まり、一気にここまでの人を集めてしまったようだ。
ここに集まっている人々の殆どが、『伝説の剣聖』の力を見に来ている。それはアレスにとってはとても大きなプレッシャーである。ここで敗北すれば彼を批判するのはここにいる人間だけではとどまらないだろう。
センナとミキも、まさかこんな事態になっているとは思っていなかったため、言葉を失ってる。
「おう、来たかアレス!」
「「「っ!」」」
既に部屋の中にいたブラドが、入り口で立ち尽くしているアレス達に気付き声をかける。
しかし、『アレス』という言葉を聞いた途端、部屋中が一気に静まり、沢山の視線がアレスに集中する。隣にいたセンナとミキは、数えきれないような視線に押しつぶされそうになり、辛うじて飲まれないように息を飲んだ。皆が見ているのはアレスだが、彼の傍に居るだけで、何かに威圧されるかのようなプレッシャーを錯覚させられるほど、彼は注目を浴びていた。
(アレス、こんな視線の中で模擬戦なんて……え?)
センナはアレスの事を気にかけ横目で彼を見るが、彼の表情はとても落ち着いたものだった。肩に力も入っておらず、非常に落ち着いている。緊張していなかったことに安心できたセンナだが、彼の落ち着きようが、逆に不思議で仕方なった。
「アレス、落ち着いてるね……?」
センナが問うとアレスは口元を上げ、余裕の笑みで答えた。
「まぁな。俺、小さい頃から剣道やっていたから。試合とかも結構出てるし。まぁ全国には出られなかったけどな」
アレスはこのような場所で注目を浴びるのは初めてではなかった。むしろ、浪人して剣道を辞めた時以来の感覚に、彼は緊張よりも懐かしみの感情に浸っている。
隣にいる彼から伝わってくる落ち着いた雰囲気が、センナとミキの緊張さえも解きほぐしていった。
「おぉい! いつまでそんなとこに突っ立ているんだ? 早く来いよぉ!」
部屋の中央より、ブラドが手招きしている。彼の傍には、ビエラ、ルドウと顔なじみが揃っている。メルスはまだ来ていないようだ。今度は三人揃って落ち着いた表情で前へ歩みだした。
「いやぁ、すまんすまん。どこからかこの模擬戦の事が広まってしまったみたいでな。見ての通りだ」
「アレスの事もまだ公表にはしていない筈なのに……誰かがわざと情報を?」
「分からん。だがセンナ、そこまで気にする必要ないだろう。当の本人がこの様子ならな!」
「うわっ!」
ブラドはアレスの頭を鷲掴みにして髪の毛をわしゃわしゃと撫で始めた。ブラドの表情はとても明るいものだ。彼もひょっとしたら、この観戦者の数にアレスが飲み込まれてしまうのではないかと心配していたのかもしれない。
アレスはなんとか強引にブラドの腕を引き剥がせたが、髪はもうぐしゃぐしゃだ。手をくし代わりに髪を梳かし整える。
「「「おぉぉっ!」」」
突如、観客席から嵐のような大歓声が上がった。入口の方を見てみると、メルスが姿を現している。アレスの時はさも物珍しそうに観察する人間と怪しむように疑問視する人間の2パターン居た。しかし、メルスの時は観戦者の誰もが期待を寄せるかのように声援を送っている。
流石のアレスも、自分と彼との歓待の差に愕然としてしまう。
「うわぁぁ……。メルスってスゲェ人気なんだなぁ」
「当然よ!」
無意識に口からこぼれ出たアレスの言葉に応じたのはミキだ。観戦者たちの反応は至極当然の事であると態度で表現するかのように淡々と話していく。
「さっきも言ったけど、メルスは剣聖の最有力候補だったの。皆もメルスに望みを懸けているのよ」
「なるほど。でも流石にこれは完全にアウェーだよなぁ……」
「ナッハッハッハー! 気にするなアレスゥ。試合中の応援は禁止しているから集中できる筈だ」
(へぇ、試合中は静かなんだ……)
剣道に関しては、基本は静かだが禁止するまでではなかった。たとえ綺麗に技が決まらなくても踏み込みが良ければ歓声が上がることはあるし、応援もしてくれる。
模擬戦は剣道の試合ではないのだからルールが一緒じゃなくても全くおかしくはないのだが、小学校から習っていただけにアレスの心の中には少しの違和感が残った。
「アレス!」
「はい? ……うわっと!?」
ビエラがアレスに向かってポイっと木刀を投げる。アレスは動揺しながらも、危なげに木刀をキャッチした。
「それが今回使用する武器であり、未覚醒者が使う得物でもある。見習い戦士たちはソレを常時携行する決まりになっている」
「へぇ……」
つまりアレスは己の力を覚醒させるまでの間、常にこの木刀を装備していなければならないということだ。しかしふと、アレスは気になることがあった。それは以前、センナに質問をした時のことだ。
―――更に時を遡る―――
PM1:50
「センナ、杖を持っていないけど良いの?」
「えっ?……あぁ、私の杖の事ね。大丈夫よ、ちゃんと持ってるから」
「……持ってるって……」(手ぶらじゃん!)
PM3:55
(あの時に言っていたセンナの言葉……あの時彼女は間違いなく何も持っていなかった。でも武器を常に持っているのは見習いだけなんてことがあるのか? それに彼女が言った言葉の意味の説明がつかないし。うぅん…………)
(そんなに考え込まんでも、いずれ理解できる時が来るじゃろう。それより小僧! お主は試合に集中したほうが良いんじゃねぇのか?)
(うん。たしかにそうだな! 兎にも角にも今は試合に集中、集中……って!)
「またかよ!」
「ふえぇぇっ!? どうしたのアレス?」
いきなりアレスが大きな声を上げたことにより、近くにいたセンナとミキが驚いてしまった。
言わずもがな、今彼の心の中に干渉してきたのはルドウである。びっくりさせてしまった事に謝罪をし、ミキに怒鳴られているアレスの姿を、いたずらの成功した悪ガキのような笑みで見つめていた。
「そろそろ試合を開始する。両者前へ!」
ビエラが二人の間に立ち、声高らかに指示をだす。いよいよ始まるのだ。彼女の言葉に修練場は一気に静まり返る。試合中は応援が禁止という決まりもあるのだろうが、期待を寄せらていれるメルスと剣聖の可能性を秘めていると言われるアレスの戦いをしっかりと目に焼き付けたいと言わんばかりに、強く突き刺さるかのような視線が二人に集中する。
―――現在に至る―――
PM4:00
「ルールは簡単、どちらかの意識が途絶えるか、降参したほうの負け。また、アレスは未覚醒者。公平を期すため、メルスは能力の使用を禁止する。その他、私の判断でオーバーアタックを行った者はその時点で失格とする。両者、異論はないな?」
「「…………」」
既に戦う構えを整えているアレスとメルスは沈黙を以って答える。喋らなかったのはそれだけ集中している証に他ならなかった。確認を取ったビエラは右腕を天へ高らかに上げる。
「勝負…………始め!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
合図とともに彼女の右腕が振り下ろされた。それに一コンマ遅れて勢いよく飛び出したのはアレスだ。声高に前へ、真っすぐメルスを自分の攻撃可能な範囲に入れるために近づいて行く。
しかし………
「ぐはっ!」
(なんだっ!?)
気付けばアレスは反対側の壁まで吹き飛ばされていた。その時間僅か1秒足らず。まるで一瞬の出来事のように感じるほどあっという間だった。何が起きたのか、アレス自身認識出来ていない。ただ壁に打ち付けられた背中の痛みを感じないほどに、急激に胸部に鋭く鉛のように重い痛みが駆け巡る。
(うぅ、苦しい……。意識がとぶぅ)
―――試合が始まって僅か数秒、アレスの敗北は眼前に迫っていた―――
読んで頂きありがとうございました。
新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」
と思われる所もあると思います。
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仮にも相手は神低教会一番の期待を寄せられた戦士ですから……。




