第三十話 第七部隊
第三十話になります。
序章のところからココまで読みにくいところがあったと思います。
駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。
PM3;05
ブラドに引きずられながらアレスは先ほど彼の言っていた言葉の意味を考えていた。
自分にとって譲れないもの、守りたいものが脅かされそうになったとき、ただそれを見ているだけか、それとも違うのか。
(黙って見ていることが出来る時点で譲れないものではないよな……でもブラドさんが言っていることは多分、相手が『レース・ノワレ』だった時に俺が立ち向かえるかどうかということなんだ。でも、俺にはまだなんの力もない、そんな俺にいったい何が出来るっていうんだ……?)
たとえ立ち向かうことが出来たとしても、なにも出来ずに無残にやられるだけ……それはただの自殺行為だとアレスは思っている。
だからこそ彼には分からない。本当に守りたいものが壊されそうになったとき、自分がどういった行動を起こすのか……。
ブラドはいつまでも考え込むように俯いて動かないアレスの姿にしびれを切らしたように、歩いていた足を止め、振り向きざまに言う。
「おいアレスゥ、おまえどんだけ考え込んでんだ!? 言っただろ、いつ覚醒できるかは人それぞれだって」
「分かっているさ、でも俺の力は伝説の『剣聖』の力かもしれないんだろ!? だったら早く身につけたほうが……」
「ったく、若い奴はすぐに結果を求めたがるんだよなぁ。そう言うのを『生き急ぐ』っていうんだぞ。お前にはぴったりの言葉だろうが」
「………」
ブラドの言葉は、生者であるアレスに向かってだからこそ言えるのだと、アレス自身分かってはいた。ブラドやセンナ達には『生きる』につながる言葉はご法度であるとアレスは無意識に思っていたのだが、ここでみんなと共に過ごしているうちに、その意識もだいぶ薄れてきていた。
ブラドたちは死者とは思えないほど明るいのだ。むしろこの優しくて温かい彼らとの時間は、アレスの心をどんどん癒していった。
見た目の年齢は自分とそれほどまでに離れていないように見えるが、ブラドやセンナの自分に対する態度は、まるで父親や姉のように、どこか彼らの方が年上なのだと自覚させられる。しかし、自分が年下扱いされることにアレスは全く苦ではなかった。
むしろ、家族が増えたかのようにすら思えるほどに彼はブラドたちに心を開いていた。
急に黙りだしたアレスの姿にブラドは声をかける。
「ん? どうした、いきなりだまって」
「……いや、何でもない。それより早く行こうぜ! 第七部隊の部屋」
「なんだぁ? いきなり元気になりやがった。変な奴だな。まぁ良い、部屋はもうすぐそこだ」
ブラドが真っ直ぐに指を指す。その動きにつられるようにアレスは指先の方を見ると、一つの部屋の扉があった。扉の上には『第七部隊』と書かれている。
ブラドとセンナが、アレスを向い入れるように振り向きながら扉の前に立った。全自動の様で二人が前に立つと扉はひとりでにゆっくりと開き始めた。
「「ようこそ、第七部隊へ!」」
二人がアレスを中へ招き入れる。アレスは新しい地に足をつけるように真っ直ぐ足を動かした。部屋の中はまるでミーティングルームだ。部屋の真ん中に大きな円状の形をしているテーブルがあり、それを囲むように五人分の席が設けられていた。
天井には部屋全体を照らすのに十分な電光灯が設置されており、眩い光を放っている。扉の反対側には横に広がった窓から暖かい太陽の光が部屋を照らすのを手伝っている。
五人の席のうち、二つの席は既に埋まっていた。二人ともアレスの顔見知りだ。
「やっぱり、入隊したのね!」
そのうちの一人、ドラゴンに襲われた後に別れたっきりであったミキが席から立ち上がりアレスに詰め寄ってきた。
「メルスからだいたいの話は聞いているわ! 入隊するってことは戦う覚悟はできているのよね、優?」
「ああ、その話なんだけど」
「ちょっと待ったぁぁっ!」
「「っっ!」」
いきなりブラドが会話に割り込んできたことに驚く二人だが、ブラドはそんな二人の前に仁王立ちをし、ただでさえメイド服で圧倒的な存在感があるのに対し、二人の目の前で胸を張り、両サイドの腰に手を当てた。筋肉質な体をしているため、分厚い胸板がこれでもかというほど存在を主張している。
「いかんなぁミキ、これからの大切な仲間の名前を間違えては」
「え? だってこいつの名前は『荒野 優』ですよね?」
「いや、それは長いから却下した。今日から名前は『アレス』だ!」
(名前を却下ってなんだぁ……)
もはやアレスは名前の事に関してはツッコミを入れるだけ無駄だと理解しているので、何も言わなかったが、心までツッコミをしないこと、表情に表さないことは不可能だった……。
「あぁ、そういうことか。確かに苗字ありだとめんどくさいものね」
「え?」
「あれ、知らなかったの? 死者には名前はあっても苗字はないのよ。私はただの『ミキ』。隊長はただの『ブラド』みたいにね」
「そうか! だからアレスかぁ」
ここにきてようやくアレスはなぜブラドやビエラが自分の名前が長いと言っていたのか理解した。
苗字がないということは、二人には自分の名前が『あれの すぐる』ではなく、『あれのすぐる』と一つに繋げてしまっていたのだ。
ならば長いと感じるのも無理はない。たいていの人は苗字と名前を一つにしたら長くなるのは当然だ。
だからって人の名前を勝手に改名していいのかはアレスにはかなり微妙だったのだが……
(もう、今更訂正入れんのもなんだから、アレスでもいいや)
慣れとは恐ろしいものである。彼は既に自分をアレスと呼ばれることにほとんど何も感じてはいなかった。
「ところで、この部隊って四人だけなのか? 紹介したいって言ってたけど、全員俺知ってるぞ?」
「いや、あともう一人いるんだが?」
ブラドもそのもう一人を探すように部屋を見渡すが、そこにはアレスを含め五人しかいなかった。
「あぁ、彼女ならもう一つ席が必要だからって椅子を取りに行きましたよ」
ミキがブラドの疑問に答えるように言う。
「え、それって俺の分の椅子か? なんか悪いなぁ」
「気にしなくて良いと思うわよ。彼女なら離れた倉庫から椅子取ってくるのも一瞬だし」
「え? それってどういう」
「うわわっ! どいてくださいぃぃっ!」
「……へ?」
幼い少女のような声がアレスの頭上から聞こえてきた。
何かと思いアレスが上を見上げた瞬間……
ゴキッ!!!
椅子の台座がきれいにヘッドショットした。
「ぐはぁぁぁっっっ」
アレスの虚しい悲鳴が部屋中にこだまする。彼はそのまま崩れるように倒れていった。
「あぁらま」
「ア、アレスっ!」
「……ヴラカス」
「ナッハッハッハー! 紹介しようアレスゥ! 彼女が我がメンバーの……あれ?」
「隊長……気絶してます……」
―――ついに、第七部隊が勢ぞろいした―――
読んで頂きありがとうございました。
新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」
と思われる所もあると思います。
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逆に死者の体じゃなかったら、頭蓋骨危なかったかな……シャレにならない(汗)