第二十六話 一時の休息
第二十六話になります。
序章のところからココまで読みにくいところがあったと思います。
駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。
PM1:35
センナに連れられながら、優は再び広く白い廊下を歩いている。
ルドウ博士は、ビエラと話があるのか部屋に残り、ブラドたちとは途中まで一緒だったのだが、自分たちがいないほうがゆっくり考えられると思ってくれたのか、分かれ道で何も言わずに別れた。
別れ際、メルスは優に見向きもせずにさっさと行ってしまった。自分はとことん嫌われているんだなぁと、優は思わず苦笑いをした。
ブラドは優の肩をポンッと叩き、そのまま去って行った。メルスの事をフォローするつもりだったのか、それともゆっくり考えろというエールのつもりだったのか、優には分からない。
ただブラドという男は、部下の事をしっかり考える男であると、これまでの経緯からそう思えた。センナが落ち込んでいるときには励まし、メルスがキレているときもやんわりとなだめていた。こういう人は上司としても部下としても非常に頼り甲斐があるというものだ!
メイド服を着ていなければなぁ……
世の中には『残念な人』というものがあるが、ブラドもその類であるだろうと優は思っている。あんな格好の人がいきなり目の前に現れれば、中身がどんなに良い人であろうと『変質者』だ。
なぜあんな格好をしているのか優は終始気になっていたが、色々な事が重なって、聞く暇がなかったのだ。
今はセンナと二人で歩いているが、並んではいない。センナが何処かへ連れて行きたがっているようだ。部屋を出た時に『ついてきて』と言われてから、ずっと黙ったまま優を先導するように前を歩いている。今センナがどんな表情をしているのか優には見えない。
それ以前に優には考えなければならないことがあるはずだ。ルドウ博士の気遣いで一時間考える時間を与えてくれた。部屋を出たのが01:30、次に集まるのは02:30だ。移動している間に5分流れ、刻一刻と約束の時間は迫っている。しかし、現在に至るまでいろんなことが重なりすぎていたために、彼はすっかり疲弊していた。
この世界に来てから、落ち着く時間は果たしてあっただろうか……。そう思わされるほど沢山の、それも本来であれば既にパニックに陥っていてもおかしくないほどの過酷な思いまでしてきたのだ。
廊下を歩きながらではあるが、優はようやく落ち着く時間を手に入れることが出来た。これからまた悩まなければならないと分かっているからこそ、彼は少しの間でも頭を休ませて置こうとしている。
(ひょっとしてセンナも、俺に気遣って何も言わないのかな………)
確かめようと思えば確かめられるのだが、この静かな時間は優にとってありがたかったので、黙ったままついていくことにした。
―――同時刻―――
「ビエちゃんや、小僧はなんて答えるじゃろうなぁ?」
「………」
総隊長の部屋の中、ビエラが広い部屋の奥に用意してある自分の席でコーヒーを飲んでいた。
机を挟んだ反対側には、部屋に残ったルドウ博士が同じくコーヒーを飲んでいる。
言わずもがな、ビエちゃんとはビエラの事だ。もし優がそんな呼び方をすれば、待ったなしで鞭叩きの刑だろう。
しかし、ルドウの呼び方に対し、ビエラは何も反応することはなかった。
持っていたコーヒーカップを机の上に置き、腕を組み瞳を閉じてじっくりと考えているようだ。
ルドウは何も言わない。持っているコーヒーカップから漂ってくるふわっとした香りを鼻で楽しんだ後、誘われるように再び口をつけた。
その状態から1分経っただろうか……ビエラはゆっくりと瞼を上げ口を開いた。
「……アレスに見どころがあることは認めている。だが、戦場に立てば、見どころだけで解決することはない」
「正論じゃな」
「お前の仮説通り、死者のアレスの体に天牙がある可能性は高いだろう……。だが、ブラドの仮説はどうだ? 十分にあり得ると思うか?」
今度はルドウが腕を組み、目を閉じて考える。しかし彼はすぐに答えた。
「……結論は出せないじゃろうなぁ。そもそも天牙が誰かの中に入ること自体、前例がない。この先何が起ころうとも、不思議ではないじゃろうよ」
「………」
ルドウの言葉に対し、ビエラは何も言うことはなかった。
PM1:50
「ついたわ! ここよ」
センナに連れられた優は、総隊長の部屋を出てから20分かけてようやく目的地にたどり着いた。あれから優達は城の外に出て、その隣に建っていた施設に来ていた。
その施設は、見た目からすると高層マンションの様だった。しかも、同じの二つのマンションが横並びになっている。優達は向かって左側のマンションの中に入った。
二人は一緒にエレベーターに乗った。(あの世にエレベーターなんてあるんだぁ……)と優は心の中で思いながら上の階に上がる。エレベーターを降りるとロータリーを歩き、一つの部屋についた。
……もうだいたい予想はついているがこの部屋は……
「なぁセンナ、ここって……」
「私の部屋よ!」
(やっぱりかぁ、センナっていつもこうなのかなぁ……)
正直優は気が引けていた。センナとは短い間だが随分親しくなれたとは思う。だがしかしだ。優とセンナは出会ってまだ日が浅い。
センナが一人暮らしをしているのかは知らないが、もしそうだった場合、二人っきりの状態で部屋に招き入れるなど少し無防備すぎるのではないだろうか。
もっとも、優はセンナに手を出すつもりなど毛頭なかった。たとえあったとしても、センナのあの強力な力の前では何も出来ないだろうとも優は思っていた。
(……あれ、そういえばセンナあの杖を持っていないな……)
センナが戦う時、いつも杖を持っていることは優も知っていた。あの杖を使ってセンナは水を操っているのだろうと予想もしている。
おそらくセンナにとって、とても大切なものだろう……。それを手放していいのだろうか?
(もしかして忘れたっ!?)と思った優は部屋の鍵を開けようとしているセンナに聞いてみた。
「センナ、杖を持っていないけど良いの?」
「えっ?……あぁ、私の杖の事ね。大丈夫よ、ちゃんと持ってるから」
「……持ってるって……」(手ぶらじゃん!)
優はセンナの言っていることが全く理解できなかったが、彼女はそんなことはお構いなしに扉を開け、優を招待した。
「さぁどうぞ、中に入って!」
「お、お邪魔します……」
「言わなくて良いわよ? 私一人暮らしだから、家には誰もいないし」
「そうだけど、マナーは大事だから」
「アハハ! なんか前に同じようなことあったよね」
そういえばそうだった。優の家にセンナを招き入れた時も、ほとんど同じようなやり取りをした。たいして時間は経っていない筈なのに、もう懐かしい様な感じがする。そう思えるほどたくさんの事が短い間に起こったからだろう。
優もそれを思い出して、口元をあげながら答えた。
「今回は、立場が逆だけどな」
「うふふ、そうね。私は貴方と違って、ちゃぁんともてなすけどね!」
「いやあの時は仕方ないだろ! それどころじゃなかったって言うか……」
「ふふっ」
「っ!」
センナの言葉に慌てながら何か良い言葉はないかと頭の中で模索していた優だか、センナの笑い声が聞こえた気がして、彼女を見た。すると、手で口元を押さえ笑い声を聞き取られないようにしている姿が目に入った。
「俺で遊んだなぁ!」
ようやく自分がからかわれてたことに気付き、少しムキになった。
センナはまだ笑いをこらえている顔で優をなだめようとする。
「ごめんなさい。あんまりに慌てるから、つい……」
「ク、………」
「だいたい、現世では霊体の体は擦り抜けるから、もてなすなんて出来る訳ないのに……プッ」
先ほどの優の姿を思い出しているのだろう。まだ笑いを我慢している。
もっとも、笑っていることは優にはバレバレだったのだが………。
「っもう知らん!」
「あん、拗ねないでよぉ。オレンジジュース出してあげるから♡」
「どんな励まし方だ! 完全に子ども扱いじゃねぇかぁぁっ!」
第三者が見れば、玄関で一体何をしているのだとツッコミを入れられても全くおかしくないのだが、幸か不幸か近くには誰も訪れなかった。
「まぁまぁ、廊下を真っ直ぐ行ったらリビングだから来て。お茶沸かしてくるわ」
「お、おう……」
優は何とも釈然としない感じではあったが、いつまでもここにいる訳にはいかないと思いなおし、廊下を真っすぐ進んだ。
突き当りの扉を開けると、マンションにしてはそこそこ広いリビングに出た。
扉の反対側は、薄いカーテンを敷かれたテラス窓から太陽の光が漏れ出して、照明を点けていない部屋を照らしている。その向こうにはベランダもあるようだ。
窓の少し手前、向かって左側には壁に貼り付けるタイプのテレビ、右側には3∼4人は座れそうなソファーとミニテーブルがある。
扉の手前側には大きめのダイニングテーブルがあり、その真ん中には色とりどりの綺麗な花を生けた花瓶が置いてある。
このリビングは、決して物が散らかっているわけでもなく、それでいて寂しさも感じさせない。開放的かつ落ち着いた雰囲気を醸し出している。センナの高いセンスがうかがえた。
「おまたせ~」
リビングと玄関をつなぐ扉以外にもパネルドアがあり、おそらくその先がキッチンだろう。
センナが中からとても良い香りのする二つのコーヒーカップとお茶菓子をトレイに乗せて出てきた。
(コ、コーヒー……)
センナは流れるような動きでテーブルにコーヒーカップとお茶菓子を並べていく。優は椅子に座りながらそれを黙って見ていた。
準備ができると、センナは優の向かいの席に腰を下ろした。
「さぁどうぞ、優」
「あぁ……いただきますぅ……」
「召し上がれ♡ コーヒーだけだけどね……」
「………」
「……ん? どうしたの優?」
『いただきます』と言ったのに、優の手がなかなか伸びない。黙ったままコーヒーを見つめている。
それを見ていたセンナは(もしかしてっ!?)と思い、慌てて尋ねた。
「えっ!? ひょっとして優、コーヒー飲めなかったの!?」
「飲めないわけじゃないよ、コーヒー牛乳ならギリ飲めるし……」
(ギリって……)
そう、優はコーヒーが苦手なのだ。コーヒー牛乳の味はコーヒーとは程遠いのだが、香りがコーヒーに近いために、鼻をつままなければ飲めないほどのコーヒー嫌いだった。
人によっては子供っぽいと引く人もいるだろう。しかし、センナという人間は違った。
「ごめんね、苦手なもの出しちゃって!」
「えっ!? いや言わなかった俺が悪いんだからセンナが謝る必要はないよ」
「ううん、聞かなった私も悪いわ。それによくよく考えたら、さっき私『お茶を沸かす』って言っちゃったし……」
「センナ……」
「本当にごめんね。紅茶なら飲めるかな?」
「お、おう……」
「じゃあすぐに淹れ直して来るね!」
センナはそそくさと自分と優のコーヒーカップをトレイに戻し、再びキッチンに行ってしまった。
……優は正直、笑われると思っていた。しかしセンナはそんな素振りを一切見せず、それどころか謝罪までしてきた。過保護と言う人もいるだろう。
優は何か悪いことをしたように気まずくなった。
程なくして、これまた良い香りのする紅茶が入ったティーカップを二つ持ってきた。
「えへへ。悪いことしちゃったから、ちょっとお高いお茶葉開けちゃった!」
「えっ!?」
センナは全く悪くないのに、と優は思っているが、センナは全くの逆の考えだ。
お詫びのつもりなのだろう。ゆっくりと口に入れた紅茶からは優しくも上品な味が口いっぱいに広がった。
「どうかな、おいしい……?」
「うん、すごくおいしいよ!」
「よかったぁぁっ!」
パッと花が咲いたようにセンナは綺麗な顔をほころばせた。それは、優が思わず見とれるほど実に美しい笑顔だった。
「………さて、どうかな優?」
「え?」
笑顔だったセンナの顔が次第に戻っていったと思いきや、今度は真剣な表情に変わりだしている。
きっと、例の事だろうと優の顔もつられるように真剣になる。
「ここに来てからロクに休めなかったでしょ? ちょっとはリラックスできたかな……?」
やっぱりだ。センナは優を休ませようと移動時間は話しかけず、この場に着いてもすぐに話を振らなかったのだ。
「ありがとうセンナ、気を遣ってくれて。だいぶ落ち着けたよ」
「そう、よかったぁ。でも時間は限られているからこれ以上は……」
「分かってる。……実は、おおかた答えは決まっているんだ」
「えっ!? そうなの!?」
今度はセンナが驚いた。誰もが絶対に悩む話の筈なのに、優はもう答えを決めていると言った。
優はゆっくりと続きを話す。
「いくつかセンナに聞きたいことがあるんだ。それを聞いたらはっきり答えが出ると思う」
「分かったわ。何でも聞いて!」
「うん、じゃあまずは………」
PM2:30
「集まったな……」
場所は総隊長の部屋。約束の時間が訪れ、既に優、センナ、ブラド、ルドウ、ビエラが揃っていた。
メルスは来ていないが、彼はもともと今回の話し合いには呼ばれていなかったようだ。
「アレス、答えは決まったか?」
「はい!」
「よし、それでは聞かせてもらおう……」
ビエラの言葉に優ははっきりと答える。その瞳は真っ直ぐにビエラを捉えていた。
全員の視線が優に集まる。
「俺は………」
―――彼の答えを聞き、全員に衝撃が走る!―――
読んで頂きありがとうございました。
新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」
と思われる所もあると思います。
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申し訳ございません!
前話に次が一章最終話とお伝えしましたが、作成している途中に八千文字を超えてしまい、『これは二つにわけなければ……』と思い、勝手に変更させて頂きました。
本当に申し訳ございません!
次がラストです!今度こそラストです!!
どうか、見に来てやってください!!!