第二十三話 伝説
第二十三話になります。
序章のところからココまで読みにくいところがあったと思います。
駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。
「これから話す伝説はもう四千年以上の大昔と言われているわ」
「言われている?」
「流石に四千年前は私もここにいなかったから」
センナが苦笑いをしながら答えた。
優は彼女がいつ頃にこの世界に来たのかは分からない。しかし四千年という長い年月は優には予想をすることも出来ないほど、途方もない時間だった。
分からないことはそれだけではない。
先程センナは、普通の死者に特別な力は無いと言った。ならばリガード達はなぜあの姿になったのか、センナ達はなぜあんな力を持っているのか、不明な点はいくつもある。
きっとセンナの言う伝説に答えが隠されていると思い、優は真剣に彼女の話に集中する。
「四千年前、悲劇は突然起こったわ。六道の最下層に一人の罪人が送られて来たの」
「その最下層にはどれくらいの罪で落ちるんだ?」
「現世でも正当防衛という言葉があるでしょ。やむを得ない理由、例えば相手を殺さなければ自分が殺されていたとき。まぁそんな場面戦場くらいしかほんとはあってはならないんだけど」
「うん……」
「でも、ただ人を殺したいだけとか、むかついたからとか、そんな身勝手な理由での人殺しは裁かれて当然。下から二番目の層に落ちるわ」
「それで下から二番目!?」
優が驚くのは当然だろう。人の命を奪うことは絶対に許されないことである。
たとえ偶然の事故で亡くなった命であろうと殺してしまったことには変わりない。優にとってはこれだけで最下層に落ちるレベルだと考えていた。
しかし実際は二番目だった。ならば何をすれば罪人になるのだろうか。
「最下層に落ちる者は共通点が一つだけあるわ」
「共通点?」
「自分に対する圧倒的な自信」
「……どういうことだ?」
「最下層に落ちた人間たちは口を揃えてこう言うわ。『自分が一体なにをしたって』」
「え……」
優は言葉を失った。自分が一体何をしたって、まさか自分が罪を犯したことを分かっていないのだろうか。もし本当にそうなのであれば彼にとってはとても信じられない話だ。
人の命を奪っておいてそれを罪とも思わず自分が下の層に落とされたことに不満を抱いているということなのだろうか。
「小さい子供の頃は、親に我儘を言ったりしたことは誰にでもあったことだと思うんだけど、彼らは違う。たとえ老人になろうとも自分に対し過剰な自信、神にでもなったつもりなのだろうかと思わせるほど、己の行動を正当化しているの」
「………」
もはや優にはついていけない話だ。彼だって子供の頃には我儘を言ったことはあるが、人殺しを正当化? 自分を神? それほどの事を思ったことはなかった。
とても理解できない。罪悪感というものはないのだろうか。自分がすること全てが正しいなんて何の根拠があって成立するのだろうか。
たしかに身勝手な人はどこの国にもいるだろう。先ほどのセンナの質問から、優自身が思ったように人それぞれが己の意見を持ち、それが相手とかみ合わないということはよくあることである。
中には他人の意見を聞こうとせず自分の意見を無理にでも押し通そうという人も確かにいる。
人間もまた群れの中で生きる。集団行動をすることがあればいろんな人と出会うのだ。自分とそりが合わない人なんていくらでもいるだろう。
だが犯罪を、殺人を犯してまでそれを罪とも思わない人間がいるというのだろうか。
センナはさらに話を進めていく。
「最下層に落ちる人間は、殺人すらもまるで日常茶飯事のように何度も繰り返すの。例えば、自分が少しでも気に食わないと思えばその場で刃物を持って刺し殺したり、気が向いたから近くにいた人を殴り殺したり」
もはや会話についていく気力すらも失いそうだった。何かのホラー映画のシナリオと言ってくれたほうがまだ良いとすら思えてくる。
何をどうしたら『コイツ気に食わないから殺そう』みたいな考えが生まれてくるのだろうか。
優は想像することを半ば諦め、会話を聞くことのみに集中することにした。
「送られてきた一人の罪人は特に極悪非道な男で、僅か十歳になるころにはすでに最下層に落ちることが内定していたわ」
それはつまり、十歳で最下層に落ちるほどの罪を犯したということだ。十歳ということは日本ではまだ小学生だ。これから沢山の事を学び、将来に華を咲かせられる年齢だ。
一体どんな教育を受けたら最下層に落ちるほどの罪をその若さで犯せられるのだろうか。
「どんな人間も限りある命、その男の死因は不明だけどそれでも男は命を落とし死者になった。でも、そのものが六道の最下層に送られてきてから、そこの死者達の魂が突然変化を起こしたの」
「変化?」
「その男が最下層の人殺し集団の殺人衝動を煽ったんでしょうね。最下層の死者たちは死んで尚罪を犯そうとした。でもその度にその層の監視役や当時の神帝教会に阻まれ何もできなかった。死者達には我慢ならなかったんだと思うわ。人を殺せないことに苛立ちを覚えた死者達は発狂し始めた」
「発狂!? ってことは……」
死者の体は精神バランスによって保たれている。もしも発狂など自分の感情を抑えられないことがあれば精神のバランスが崩れ魂が壊れてしまう。そうなれば二度と意識は戻らない。
霊体の体である優自身は、よく覚えていた。優の反応は当然だと言わんばかりにセンナは頷きながら会話を続ける。
「誰もがもう駄目だと思ったわ。死者達はもう消えると。でも、実際はそうはならなかった」
「どうなったんだ?」
「体がどんどん変化して、あるものは額に角を生やした鬼のような姿に。またある者は巨大化をして全身漆黒のドラゴンのような姿になった」
「っ! それって!?」
「そうよ。優が現世で見たリガードとそのドラゴンも同じよ。それがレース・ノワレとドラゴンの正体。それからというもの、まさに最悪の事態が六道を襲った」
「最悪の事態……」
「最下層の多くの死者達は未知の変化を遂げ、強力な力を得た。最下層の監視役を壊しつくすほどの力。直ぐに神帝教会から精鋭部隊が送られたけれど、止めることはおろか、誰も帰ってはこなかった」
全滅したというのだろうか。一人ひとりがどれ程の実力だったかは分からない。それでも精鋭部隊と言うからには相当な実力者が揃っていたはずだ。それをたった一人で全滅させた。
話をしているセンナの表情がどんどん曇ってきている。当時はまだセンナがいなかったということから、優と同じくその時のことを想像しているのだろう。
しかし、センナは優と違って神帝教会に務めている。自分の職業を、持っている力を理解しているからこそ、その男の力がより正確に理解出来てしまうのだろう。
センナは無意識に片手で反対の腕を掴んだ。その姿はまるで自分の中の恐怖を苦し紛れに握りしめているようだった。
「ようやく人を殺せることに死者達は大笑いをしながら悦んだそうよ。その中でも最も愉しんでいたのはやはりあの男だった。その感情が男をさらなる化け物へと変貌させていった。男は同じ層にいた人々と監視役の全員を壊しつくした後、自らの力で上の層へと登って行った」
「そんなことできるのか!?」
「不可能よ! ほかの層に移るには神帝教会の許しを得てから専用の道を通って行かなければならない。空間そのものが違うもの。でも男は空間が違うことなんてまるで関係ないように上の層に登ってはその層の人々を壊しつくして、終わったらまた次の層へ……」
なんということだ。それでは誰も助からない。それほどたくさんの人を壊し続ける人間……いや、優にとってその男はもはや同じ人間とは思えなかった。
人とはどんな形であろうと支え合いながら生きていく生き物のはずだ。だがこの男は見ず知らずの人であろうが何であろうが、ただひたすらに襲い続ける。
センナの言うようにそれに喜びを感じているのであれば、ただ楽しいから壊しているのだ。
極悪非道、確かにセンナはそう言った。しかしそんな言葉ではもう表現しきれないのではないだろうか。優は会ったこともないその男に言い知れぬ恐怖を感じていた。
当時の人々はそれ以上の、測り知れないほどの凄まじい恐怖に怯えていたはずだ。
層が違っても全く安心できないのだから。人によってはその恐怖で感情のバランスが崩れてしまった人もいたのではないだろうか。
「神帝教会も何人もの戦士を送ったけれど、誰も歯が立たず、犠牲者が増える一方だった。誰もが絶望したそうよ」
誰にも止められない化け物。考えただけでもゾッとする。そんなのが刻一刻と自分に近づいてくると思ったら、はたして自分は正気を保っていられるだろうか。
……いや、多分不可能だ。冷静に考えてもそうだろう。その時冷静を保てたとしても、男が自分のいる層にたどり着けばどのみち壊されてしまう。冷静でいようがいまいが意識のある時間が延びるだけなのだから。
「男がとうとう六道の最上階に辿りついたとき、神帝教会ですらもう駄目だと思ったわ」
「え、それって……」
最上階にたどり着いたということは、そこから下にいる人たちは皆壊されてしまったということなのだろうか。
死者の人口は現世とは比べ物にならない筈だ。それが最上階の層を残して全滅したというのであれば、男は一体どれだけの人々の魂を壊したというのだろうか。
優の体は小さく震え始めている。想像なんてしていない。
話を聞いているだけでも体が反応してしまうのだ。自分の中に、顔すら見たこともない男に恐怖を抱いているのだと、優自身に教えているかのように。
「もう神帝教会の戦士たちの誰もが戦う意思をなくしている中、一人の男が襲われている最上階の層で犯罪者に立ち向かったの」
「もしかして、その人が」
「そう、四千年後の現代にまでその名が語り継がれるほどの最強の戦士、『剣聖』よ」
「でもその剣聖ってよく言う二つ名だよな。本名は?」
「それが、誰にも分からないの」
「えっ?」
「名前はおろか、どこの部隊なのかも、そもそも神帝教会の戦士だったのかもわからなの」
「なんじゃそりゃ……」
どこの部隊か分からないとはどういうことだろうか。死者にはもともと特別な力なんて存在しない。イレギュラーなその犯罪者を除けば神帝教会だけのはずだ。
なのに神帝教会の戦士でないならば、その男は何者だというのだ。
「ただ、その戦士はとても強かった。誰も敵わなかった犯罪者と互角に渡り合えるほどに。神帝教会も彼が何者なのかを突きとめることよりも、ただただ彼が勝つことを祈り続けた。二人は三日三晩一度も休むこともなく戦い続けた。しかし決着はついたわ」
「剣聖様が勝ってめでたしめでたし! だろ?」
途中までは絶望的な話だったが、ここまでくればありきたりな話だ。
結局最後には悪は滅びる、ストーリーのお約束というもの。優も結果の分かった話を聞くかのように、先程までの恐怖心が消え、半ば安心したかのように肩の力を抜きながら、センナに確認した。
センナはゆっくりと口を開き答えた。
「消えたのは剣聖、勝者は犯罪者よ!」
「………ふぅ………
………なんじゃそりゃぁぁぁぁっっっ!」
部屋中に優の声が響き渡った。
読んで頂きありがとうございました。
新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」
と思われる所もあると思います。
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以上、伝説でした!
「神帝教会の戦士たちはなぜ特別な力を持っているのか」という疑問を抱いている方もおられると思います。追々明かしていきますので、よろしければまた見に来てください。