第二十二話 優の答え【二】
第二十二話になります。
序章のところからココまで読みにくいところがあったと思います。
駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。
「人間が知恵を得てしまったから」
優は自分の答えを笑ってもいいと言った。しかし誰も笑うことはおろか、口を出すこともしなかった。空気が張り詰めていくような冷たい静寂が部屋を覆う。
センナは優の答えに対し表情一つ変えることはなかった。優の答えが正解なのかどうかは分からない。しかし全くの的外れなら、その場で回答を止めていた筈だ。そうではなく、続きを促すようにじっと黙っている。
優もセンナが先を話すことを待っているのだと感じ取り、話を進めた。
「センナは言ったよね。人間同士のわだかまりは大きな災いを呼ぶって」
「ええ、その通りよ」
「だから、思ったんだ。なぜ人間同士だと災いを呼ぶのかって。そして分かった。人間が他の生き物とは根本的に戦う目的が違うからなんだって」
「戦う目的?」
「動物同士のケンカなら、基本的に何かを壊されることはないだろ。肉食動物が草食動物を襲う時も自分のツメやキバで戦う。命を奪う等は変わらないのかもしれない。でもそれは、ほかの生き物の命を奪わなければ、自分が生きていけないから。動物は関係のないものまで破壊したり、奪ったりはしないんじゃないかって。でも人間同士の争いは『やり方』も『理由』も『出る被害』も、比べ物にならない」
「「「………」」」
三人は確信した。
優は『人間の恐ろしさ』正確には『人間という生き物』を他の生き物と比べることによって理解をしようとしたのだと。そしてそれは、センナが最も考えてほしかった部分でもあった。
動物と比べる。人によっては動物や虫なんかと一緒にするなと考える人も少なくはないだろう。しかし、具体的に動物と人間とでは何が違うのか、ましてやどちらが善なのかは分からないものだ。
『出るはずのない答え』。そう思ったとき、人は考えることを諦めてしまう。
センナが優にした質問にしても、決して正しい回答などだれにも分からないだろう。
しかし優は諦めることも逃げることもせず、必死に考えたのだ。
たとえこの後、彼がどんなことを言ってもそれを完全に否定することはできないだろうと三人は感じていた。
「戦争をしなくたって当然のように人間は生きていける。もちろん人間も生きるために他の生き物の命を奪い、その肉を食べる。そうしなくては生きていけないから。でも実際は生きることとは関係なく人々は命を奪う」
動物同士で争うこともないわけではない。しかし動物同士の争いではたかが知れている。
人が武器を持ち、戦争が起きれば、どれ程の被害が起きるか。それは歴史が物語っている。
武器を作り、それを持って戦うという知恵を持ってしまったからこそ、人間は今では容易く命を奪えるようになったのだと。
優の答えを聞いてもセンナは依然黙ったままだ。それは、彼の話に呆れたとかそういうわけではない。
まだ優の話には続きがあり、自分が求めている、本当に答えてほしいことを言っていないからだった。
「なぜ人間が命を奪い合ってまで戦いの道を選ぶのか。それは人間には考える力が、知恵があるからだ。他の場所から奪うことでより快適な生活ができる。自分たちが住みやすくなる。そういった考えを持つことが出来る人間だからこそ、自分が生きる目的以外にも戦う道を選んでしまうんじゃないかな。そして、一度起こった戦争は人々に大きな傷を残す」
人は生きる喜びだけでは満足せず、より快適に住めるための術を考える。そして人は他の場所から奪うことを思いついた。土地を、富を、食料を、ひたすら武力で奪い続けた。
そうして始まったのが戦争。しかし戦争によって得ることがあっても、それは失ったものに比べれば、とても少なく命よりも価値はないものだろう。命よりも大切なものなんてこの世にないのだから。
そして失った命に代用なんてない。一人ひとりに家族がいて、家族にとってその人はこの世にたった一人だけなのだから。
それを奪った相手に対し、人は許すことは出来ない。『恨み』の感情が生まれ、それがさらなる災いのきっかけになると優は考えた。
優はまだ成人したばかり、世界の物事を考えるには若すぎるのかもしれない。
だがそれでも彼は、答えを出した。その答えは『人である以上誰もが抱いている何かを欲する欲望』。
人の命、ましてや戦争になど行きたくなかったであろう人々の命さえも奪う結果を引き起こしてしまったということを。
人の欲望には『枷』というものがあるのかもしれない。ならばその枷が外れてしまったら、人とはどれ程恐ろしい生き物なのであろうか。
その欲望が最も強い生き物こそが、人間なのである。
高い知性があるからこそ、様々なことが思い浮かび、それを実行できる。
知恵をつけた人間だからこそ、より良い方向に知恵を働かせなければならない筈だ。しかし世の中には善人ばかりではない。
だからこそ争いが起こるのだと、戦争をしてきた人類の歴史が証明していた。
優は心の中で、その恐怖をかみしめた。
その気持ちが、言葉から、苦しそうに歪んだ表情から伝わってきた。センナはゆっくりと彼に歩み寄っていく。
「ありがとう、優。ちゃんと伝わったよ。あなたの気持ち。ごめんね、辛いこと考えさせちゃって」
センナはゆっくりと両手を開き、その細い腕を優の背中に回して優しく包んだ。
センナに抱きしめられて優は一瞬驚いたが、その場所はとても心地よくて、心の中にある恐怖が溶けていくようだった。自然と体から力が抜けて、甘えるように目をつぶる。
センナはゆっくりと優を放した。
その時間はあっという間だったが、優の心を癒すには十分だった。
「優、貴方の答えはとても立派なものよ。私は貴方の答えを否定もしないし笑いもしない。というより、正解に近い回答だったわ」
「えっ!?」
驚いた。まさか自分の答えが正解に近いとは思わなかったのだ。
「その人がどんな人間だったか、それは生き様で決まるの。レース・ノワレ達は生前、己の欲望を満たすために、他人の命を奪い続けた者達の成れの果てなの」
「てことは、アイツらは!」
「そうよ。生きているときに、『殺人』や『強盗』、子供への『虐待』行為だって他人のことを考えない愚かな思い上がりがすること。そうやって己の欲望を満たすつもりが、逆に欲に溺れていく人間は次第に魂が汚れきってしまうの」
「あのリガードとかいう奴も……」
「レース・ノワレは己の罪を要に魂が形をなしているわ」
「要?」
「死者の体は、感情によってバランスを保たれているって言ったでしょ。でも彼らは違う。現世で犯した罪を再現することで、快楽を感じ、心のバランスを保っている」
「罪?」
「殺人をした人間なら、相手の命を奪うことのみに悦びを感じ、強盗なら盗むこと。生前の記憶を失っても罪は消えない。己の過ちが死後に己の『鎖』になる」
(なら、リガードも生前は犯罪者だったってことか。そして、あの子も……)
優の頭の中には傘をさした少女の姿が浮かんでいた。角が生えていたことからレース・ノワレに間違いない。
しかし、あんな小さな子が犯罪者なのだろうかと優は複雑な感情を抱いていた。
「レース・ノワレ達は己の罪を死んで尚続けようとする。それを監視して死者の魂達を管理するのが、この場所『ディアキリスティス』なの」
「つまりここでは、魂を見張っているということ?」
「そうよ。と言っても私達は間接的にだけどね」
「間接的?」
「あなた達の言う死後の世界は六つの道に別れていて、それを『六道』と呼ぶの。生前に良い行いをしてきた人はより高い階層へ、悪いことばかりしてきた人はより低い階層へ、同レベルの魂が集うようになっているの」
「す、すげぇ………」
死後の世界が六つもあると聞かされて優は驚いた。それもそうだろう。一般的には現世では死後の世界とは『あの世』か『天国と地獄』のどちらかという認識が強い。しかし実際はどちらでもなかったのだから。
「六つの世界にはそれぞれに見張り役が居て、その報告を元に何かトラブルが起きたら私達『神帝教会』の人間が動くという仕組みなの」
「センナ達は軍隊なのか?」
「そう思うのは無理ないけど、本当は違うわ。私達は管理所に務める管理人。この世界のバランスを保つ者なの」
「どういうことだ?」
「当たり前のことだけど、普通の死者には、特別な力は宿らないわ」
「そ、そりゃそうだろうな」
誰もがこんな強力な力を持つことが出来たら、世界のバランスなんてあっという間に崩れてしまうだろう。優はその光景をイメージして苦笑いをした。
「だから私達は死者達と戦うことはない。トラブルを起こした魂を下の層に運ぶのが基本的な私達の仕事なの」
「なるほど」
大まかにだが、優にも分かってきた。普段はレース・ノワレ達とのように戦うことはなく、この世界で秩序を乱すようなことをすれば、せっかく最初は高い階層に居た者も、下へ落とされるということなのだろう。
自分も死んだとき、悪い行いをすればセンナ達に連れて行かれるのだと思うと、他人事のようには思えなかった。
「レース・ノワレのメンバーも、本当はなんの力も持たない普通の死者だったの。酷い犯罪を犯した者達は最下層の世界へ落ちることになる。でも、最下層の犯罪者達には当時の神帝教会には予想もつかなかった変化が起きたの」
「変化?」
「そうよ。ここからが神帝教会の伝説、『剣聖』にまつわる話」
―――これから語られる物語に優は大きく関わることになるのだった。―――
読んで頂きありがとうございました。
新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」
と思われる所もあると思います。
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まだ伝説に直接入れなくてすみません。
次話より剣聖の伝説に触れていきます。




