第十三話 新たな脅威
第十三話になります。
序章のところからココまで読みにくいところがあったと思います。
駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。
pm11:20
「お、おい! ちょと待て!」
尚も金色髪の青年は自分に向かって剣を振り下ろそうとする。勢いをつけているため、もう止まることはないだろう。
あれが本物の剣なのか、それとも特撮などに使われる偽物なのか。真剣を見たこともない優には分かるはずもない。
しかし、もし本物だった場合、自分はバッサリと斬られてしまう。
体を斬られるのも当然恐ろしいことだが、それ以上に、優はあの白い部屋でのセンナの話を思い出していた。
『自分の体が穴だらけになったり、体中を斬り刻まれたり、首だけになる可能性だってある。その時人は、自分の姿に恐怖して、パニックになるの。そうなれば感情は大混乱を起こして、精神バランスが崩れて形を保てなくなる。魂が壊れてしまうの』
ミキに撃たれたときも、耐え難い激痛が体中を駆け巡った。もし体を真っ二つにされたら、いったいどれ程の痛みなのか想像することも出来ない。
だが、死者の体は平常心を保っていれば魂が崩れることはないらしい。どういう仕組みなのかさっぱり分からないが、おそらく斬られた体も、時間が経てば自然に治るのだろう。
あの剣を躱す術がない以上、優はそれに賭けるしかなかった。
どんな痛みにも耐えられるように、目を強く瞑り、拳を力いっぱい握りしめ、下くちびるを血が出るほど噛み締めて、襲ってくる激痛に備えた。
ガキンッ!
鈍い金属音が目の前で聞こえた。痛みはない。剣は当たっていないのだろうか。この距離で外すなんてあり得るのだろうか。優は恐る恐る瞼を開ける。すると自分の真ん前にミキが立ち塞がり、持っていた銃を盾に剣を受け止めていた。
「み、ミキ!」
「ったくもう! 男ってのはどいつもこいつもバカばっかりね。コラ!メルス! アンタどこ狙ってんのよ!こんな分かりやすく敵味方ハッキリしてるのに、どう間違うのよぉ!」
「ミキ、お前こそ何故そいつを庇う?」
「アンタが斬ろうとしたからでしょうが!」
「違う、試そうとしただけだ」
「試すってアンタ……」
「センナの言うことが本当なら、コイツは剣聖なのだろう? ならば、その力を見せてもろおうと思っただけだ」
「後にしなさいよ! 敵が真正面にいるのに何考えてんのよ!」
金色髪の青年は引く気がないらしく、激しい鍔迫り合いが続いている。優にはどうすることも出来ない。それが分かっているからこそ、ただ見守る事しか出来なかった。しかし、
(剣聖……だと!?)
二人のやり取りを見ていたのは優だけではない。リガードもまた、場について行けず、仲間割れをしている三人の近くで立ち尽くしていた。
しかし、リガードにとって、最も聞きずてならない言葉がミキと青年の会話に混ざっていた。『剣聖』というワードを耳にしたとき、リガードは度肝を抜かれたように目を見開き、優を見た。
(あのガキが剣聖? あんなに弱そうなのに? イヤそれだけじゃねぇ。この至近距離でも、あのガキからはまったくオーラが感じられねぇ。ハッタリか? だが、念の為に報告はするべきか……落ち着け。俺の任務はあのガキを連れてくること。まずはそれを最優先に……っ!)
自分に差し迫って来る危機感を敏感に感知してリガードは考えることを中断し、上を向く。そこには杖の先から大量の水を出現させ、攻撃体制を整えているセンナの姿があった。センナは杖をドラゴンとリガードの方に向ける。すると、杖につられるように水がリガード達の方へ飛んでいき、退路を断つように取り囲んだ。
(しまった、逃げ場が!)
「終わりよ! 『ブルー・カタストロフィー』」
全方位から大量の水が押し寄せ、リガードをドラゴンごと飲み込んだ。
水は意思を持っているかのように、球体の形になりリガード達を閉じ込めていた。
さながら水の牢獄のようだ。
中ではドラゴンが苦しそうにもがいているが、体の自由が利かないようで、ほとんど動けていない。
一方リガードの方は、わずかに苦しそうではあるが、まだその顔には余裕の色が見える。
(これくらいでは倒せないか……だったら!)
「ハァァッ!」
センナの声に答えるように、杖の先が青い光を発し、激しく輝いた。
それに呼応してリガード達を覆っていた大量の水の球体がどんどん収縮していく。
中にいるリガードも、一気に苦しそうな表情に変わった。
(『ブルー・カタストロフィー』とは青き結末。私は全ての水を操ることで、高潮・津波・渦潮、あらゆる水害を起こすことが出来る。それだけじゃない、水を宙に浮かせ、通常ではありえない水の地獄を作ることも出来る。コレはその一つ、水の牢獄の中に閉じ込めたターゲットを全方位から押し潰すように水圧をかける技。その力は私がオーラを消費すればするほど、比例して強くなる。全身が潰れていく恐怖と激痛の中で、平常心を保つことは出来ない。何も抵抗出来ず、水の中で魂が壊れる『悲劇の末路』。このまま消えて無くなりなさい!)
優達から見ても、状況は圧倒的に有利だった。リガードも抵抗が出来ないらしく、苦しみながらもだえている。このままいけば勝てる! 優はこの時、勝ちを確信していた。しかし戦局とは、そう簡単には決まるものではない。
「『グラウィタス』」
「っ!」
突然、リガード達を覆っていた水の形が崩れ始めた。センナは異変に気付き、杖を使って直ぐに水を制御しようとする。
しかし水はどんどん崩れ、ドラゴンの巨体が外に出始めていた。
(なに、急に水が重く……まさか、重力!?)
どんどん重くなっていく水に、とうとうセンナは完全にコントロール出来なくなった。
大量の水は凄まじい勢いで地面へ落下し、激しい水しぶきを上げる。
漸く開放されたドラゴンは、衰弱しているようだ。静かに翼を羽ばたかせ、今の高度を保つので精一杯に見える。
背中に乗っているリガードも膝を付き、辛そうに咳き込みながら荒い呼吸を整えようとしていた。
「リガード……見つけた……」
「「「っ!」」」
優達は目を見開き、全身を強張らせた。とてものんびりとした声、聞いたこともない声、敵か味方かも分からない声、それが自分たちのすぐ近くで聞こえた。
優達は声のした方をゆっくりと見る。
そこには、塀の端っこに座り込み、傘を指している女の子の姿があった。
最初からそこにいた? イヤ、それならば最初にこの場所を見渡したときに気づいた筈だ。
いつからそこに居たのか、それは誰にも分からなかった。
女の子はわざと隠しているのか、開いている傘のせいで顔がまるで見えない。体格から察するに10代前半ほどの少女のようだった。
(いつの間に!)
「誰、アンタ!」
最も早く動いたのはミキ。素早く銃を構え照準を合わせる。
もういつでも撃てる状態だ!
しかし女の子は微動だにしない。
躱せるか、それとも防げるとでも思っているのだろうか。
無反応の態度にミキは苛立ちながらも、畳み掛ける。
「答えたくないならそれでも良いわ。でも、変なことしたらすぐにブッ放すからね!」
「……うるさい……」
「えっ……ぐはぁっ!」
何が起きていたのかまったく分からない。銃を構えていたミキがいきなり体制を崩し、倒れるように地面に這いつくばる。
それだけではない、倒れるミキの体が地面にめり込んでいくように沈んでいく。
ミキ自身が脱出を試みるも、体が重すぎて全然動けていない。
(何これ!? 体が重い。このままじゃ、潰されちゃう……)
「ミキ! 大丈夫か!?」
優が慌ててミキの肩を掴み起こそうとするが、ミキの体は重すぎて持ち上がるどころか沈む一方だ。周りの地面にもひびが入っていく。
「お前こんなに重かったのか!?」
「んな訳ないでしょ! このバカァ!」
尚も優は力いっぱい持ち上げようと必死になるが、ミキの体はどんどん沈んでゆく。
「警告する。これ以上続けるなら容赦しない」
金色髪の青年が優達と女の子の間に割って入る。持っている剣先を女の子に向け、攻撃宣言をする。
その姿に女の子は傘を動かし青年を見た。
優は漸く見えた女の子の顔に驚き、唾を飲み込む。
鮮やかな桔梗色の髪に同じく桔梗色の瞳、それだけならば非常に可愛らしい少女だが、彼女の額には小さな角が二本生えていた。
このことから、リガードの仲間であることがはっきりと証明された。
少女はしばらく青年を見た後、左手をミキに向けて指を鳴らした。
パチンッ
「……えっ体が……」
突然体の重みが消えたようだ。ミキはゆっくりと体を起こし、その場に座り込んだ。
青年は横目でそれを確認すると、剣を下ろした。
(ミキの体を重くしたのは間違いなくこの少女。心を読んでくるあのセクハラ博士やセンナが言っていた、デュナミスと言う能力だとすると、ミキの体を重くしたこと、センナの水が急におかしくなったのも、水を重くしたと仮定すれば納得がいく。となれば、物質の質量を重くすることが出来るのだろうか)
優はこれまでの事象から冷静に、より正確に推測していた。
しかし、それを邪魔するかのように、漸く呼吸を整えたリガードが声を荒げた。
「おい、イラ! テメェ何でここにいるんだ!? 来ねぇって言ってたじゃねぇか!」
「リガードが遅いから……お祖父様が迎えに行けって……」
「要らねぇよ! 今すぐあのガキ連れ帰って」
「ムリ……」
「ハァッ!?」
リガードは顔を歪ませ、他人から見ても苛立ちを抑えきれていないことがはっきりと分かる。
分かりやす過ぎる程に感情をさらけ出している。
それに対し、『イラ』と呼ばれた少女はまったくの無表情、仲間である筈なのに、まったくリガードの言葉には無関心。
冷たく感じるほど至極冷静だった。
「相手が悪すぎる……それに時間を掛ければさらに人が集まってくる……」
「そ、そんなもん全員俺がぶっ壊して」
「撤退する……」
リガードの言葉を最後まで聞くこともなく、ほとんど一方的に少女が会話を進めていた。
少女は傘をたたみ、立ち上がる。
片手をドラゴンに向けると、ドラゴンは急に体の制御が利かなくなったのか、激しく翼を動かすが、どういう訳かドラゴンは体勢がひっくり返り、背中が下になった!
背に乗っていたリガードは再び膝を付きドラゴンにしがみつく。
ドラゴンはそのまま仰向けの状態で空高く、雲の中まで上がっていった。
優がその光景に視線を奪われている間、少女は優を見ていた。
(やっぱり……変な感じがする……何かある)
しかし少女はそれ以上に考えるようなことはしなかった。
素早く膝を曲げ、塀を踏み台にジャンプした。
凄まじい脚力なのか、もの凄いスピードで雲の中へ消えた。
その後、雲は散り散りになって消えゆく。
少女が現れてから、ずっと警戒しながら事の行く末を見守っていたセンナは、肩から力を抜いて息を吐き、懐から機器を出した。
「こちら第七部隊所属センナ、応答願います!」
『こちら神帝教会司令支部、どうぞ』
「レース・ノワレが撤退しました。任務を終了します」
『了解、お疲れ様でした』
任務は終わったが、センナの表情は暗かった。
二度に渡りドラゴンと遭遇して尚、倒すことも捕らえることも出来ず逃してしまったのだ。やるせない気持ちが心を満たす。
そんなセンナの姿を、晴れた太陽が優しく照らしていた。
読んで頂きありがとうございました。
新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」
と思われる所もあると思います。
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これで、一章の半分は終わったと思います(多分)。
未熟な所が沢山ありますが、少しずつでも良い作品を作れるよう努力しておりますので、これかもどうかよろしくお願いします。