第十二話 絶望の再来
第十ニ話になります。
序章のところから読みにくいところがあったと思います。
駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。
AM11:00
優は別の意味でパニックになっていた。
なんの前触れもなくいきなり自分の体を解剖すると言われたのだから、無理もないだろう。
顔を真っ青にして、どういうことかを聞いている。
「どういうことだよ! 解剖って……」
「落ち着いて、ちゃんと説明するから……って優にはもう話しているはずだけど?」
「いや解剖するなんて初耳だよ!? びっくりだよ!?」
「言ったじゃない、霊体になったらもう生身には戻れない。なのに貴方は戻れた。生命の生き返りなんてありえないものだって」
「あぁ、その話か。確かにそれは聞いたけど、だからってなんで解剖?」
「小僧は生命の理をいともたやすく乗り越えおった。だからこそ天才博士である儂は、お主を調べたいんじゃよ。老人の頼みだと思って、いっちょ解剖させてくれんか?」
「駄目に決まってんだろ!なに『冥土の土産をくれぇ』みたいに言ってんだよ! あんたももう死んでんだろうが!」
「ハッハッハ、お主上手いこと言うの」
「上手くねぇよ!……って自分で言っちゃってるし、もう訳分かんねぇぇぇっっ!」
「だから落ち着いて! 貴方の体を解剖するといっても、生命活動に支障は出させないし、後遺症や傷痕も残さない。この世界でも人体について研究は行われているの。そのトップに立つのがルドウ博士よ」
「そう! 儂こそ天才博士の」
「ハイハイ、その流れはもう良いから」
「な、ミキちゃん……相変わらず冷たいのぉ」
拗ねるように頭をガクリと下げたまま博士はミキに近付こうとする。いや、それだけではない。博士の右手がさり気なくミキのお尻に伸びていき……
「イタァァァッッ!」
ミキのげんこつを喰らい、たんこぶが出来ていた。
優はこの光景に唖然としていたがセンナを見てみると、この光景に無反応だった。どうやらこの展開は珍しいことではないらしい。
毎回こういうやり取りをしているという事は、その度に博士はミキの、いやひょっとしたら他の女性にも同じことを……
(このセクハラジジィィ)
(誰がセクハラジジィじゃぁぁぁ)
ふと、博士を見てみるとジト目になって優を見ている。
そうだった、ヴレポ・カルディアという力で人の心の中で話せるのだった。
しかし、実際セクハラしようとしてしばかれているのだから、間違いではないだろう、と思い優は博士の視線をスルーした。
「まぁ、後遺症や傷痕が残らないのは嬉しいけど、どうしても解剖やらなくちゃ駄目なのか?」
自分の体を解剖するというのは誰にとっても不安であり、恐怖であろう。
尋ねる優は気付いていないが、恐怖の色がその瞳の中に光っていた。
センナは優の気持ちを十分に理解している。だからこそ、解剖の理由を包み隠さず全て話し、真正面で頼み込むと決めていたのだ。
そして、優がどうしても嫌だと言うなら、こちらは無理強い出来ないとも思っていた。
「聞いて、優……」
センナの目は真剣そのものだった。優はまだ心の中に不安な感情を残しているが、話だけはしっかりと聞くべきだと思い、センナの方に体ごと向いた。
「今回の解剖の理由は、大まかに二つ。一つ目はさっき話した通り、貴方が何故再び生身に……生者に戻れたのか調べるため。そして二つ目は貴方の言っていた、自分を貫いた黒い刀のこと、」
「黒い、刀?」
いろんな出来事が起こり、優は刀の存在をすっかり忘れていた。
夜中にいきなり落ちて来たトランク、アレを開けた途端中身が光り輝きだし、飛び出してきた黒い刀に刺されたせいで、今自分はここにいる。
走馬灯のように思い出した過去に優は無意識に刺された胸を押さえる。
「あぁ、たしかに俺はトランクを開けたら黒い刀に刺され、気付いたら霊体になってた。俺も不思議に思ってあの後刀を探したけど、どこにもなかったぞ」
「ええ、分かってる。だから私達は貴方の話を元に仮説を立てたの」
どうして仮説を立てた結果、自分の体を解剖するということになったのだろうか。そう思うとまた怖くなり、優は不安な表情で話を聞いていた。
「刀は消えたんじゃない! 貴方の体の中にある」
「はぁっ!?」
優は目が飛び出るほど大きく瞳を開き、驚いた。刀は決して短くはなかった。
いや本来なら短い刀でも体内に入る訳ないのだが、それでも百歩譲ってとても短い刀なら理解しよう。
しかし、自分の頭の先から腰の辺りまで届きそうな程長い刀が体の中に入るなんてあり得ないではないか。
優は驚きのあまり言葉も出なかった。
「優が言いたいことは分かるわ。でもね、あの刀はとても特殊な物なの」
「特殊? どういう事だ」
「うん、あの刀はね」
ピピピピッ! ピピピピッ!
「「「「っ!」」」」
センナの言葉は続けられなかった。正確には、突然部屋中にけたたましく鳴り響く警報のような音によって遮られたのだ。
優は何事かとベッドから立ち上がり周りを見渡す。その間にセンナは懐から機器を取り出していた。現世で使っていたものと同じ物だ。
「こちら第七部隊所属センナ、応答願います!」
『こちら神帝教会司令支部、どうぞ』
あの時と同じようにセンナはどこかに連絡をとっていた。
機器から若い女性のような、しかしどこか機械の電子音のような声も聞こえていた。
「警報を確認しました。現在の状況を教えて下さい」
『了解! 現在、ディアキリスティス上空に暗雲が出現。レース・ノワレだと思われます。第七部隊、出動及び迎撃をお願いします』
「了解」
センナは機器を懐に戻し、駆け出した。その間際にミキにアイコンタクトをとり、彼女もそれを理解したようにセンナの後ろを走り出す。
優はこの状況にまったくついていけなかったが、異常事態が起きている事だけは理解していた。慌てて、センナとミキのあとを追おうとする。
「おい、待て小僧!」
「っ!」
走り出そうとする優を呼び止める博士。目は閉じていたが、顔は真剣だ。
「センちゃん達を追う気か?」
「あぁそうだ!」
「行ってどうする? 何か出来ると思うのか?」
「出来るなんて思ってない。でもやらなければならない事があるなら、俺はそれをするだけさ!」
そう言うと、再び優は走り出し部屋を出ていった。
(やれやれ、中々融通の利かん小僧じゃのう。じゃが、ある意味これは好都合。このタイミングで奴らが押しかけてきたのは、トランクの中身が空じゃったから。そしてセンちゃんの話では、小僧は奴らに接触しとる。ならば奴らの狙いは十中八九あの小僧じゃ! 小僧の姿を見れば、真っ先に襲って来るじゃろう。センちゃんは信じとるようじゃが、もし本当に小僧が例の伝説の剣聖ならば、この窮地を如何に脱するのか。見せてもらうぞ小僧……)
薄く笑うルドウ博士の目は半目に開き、その隙間から白目が垣間見えていた。
部屋の外に出ると、広い廊下が続いていた。
右か、左か、優には分かるはずもない。だが優は一切臆さずただ勘任せに走り続けた。
しばらく走ると正面に扉が見えた。優は勢いに任せて扉を開くと、広場のような場所に出た。
空を見上げると、現世で見た分厚い雲が広がっている。
もっとよく見える所はないかと周りを見渡すと、ガラス張りの扉があった。そこを開くと直ぐ手前には塀があり、そこから街を一望出来た。
優は今いる場所がどこなのか理解した。
(ここって、あの大きな城の中だったのか!)
グワァァァァッッッ!
聞き覚えのある鳴き声に、優は空を見上げる。そこには、杖を持ったセンナの姿と、それと向かい合うように対峙する漆黒のドラゴン。そして、その背中に股がっているのは、あのときの鬼リガードであった。
「立ち去りなさい! ここは神の国、闘いなどあってはなりません!」
「うるせぇ! クタバレェェ!」
ドラゴンが口を開け、中から赤い光が見える。忘れもしない!自分を襲ったあの巨大な炎の玉をセンナに撃とうとしているのだ。
「センナ、危ない!」
叫んだ優の声に反応したのは、センナではなく、リガードだった。彼は優を見つけると口の端を上げてほくそ笑んだ。
(見つけたぞ! やっぱりここに居たか、ガキ!)
ドンッ!
ドラゴンの口から炎の玉が放たれようとした瞬間、優のすぐ近くで銃声が響いた。銃弾はドラゴンの口の中に入った。
銃弾が当たった炎の玉は、ドラゴンの口の中で爆発する。
「す、スゲェェ! って今のは?」
優は銃声のした方を見ると、柱の陰に大きなスナイパーライフルを持ったミキが隠れていた。
「ミキ! 今のお前が撃ったのか?」
「シィィ! 黙って」
「へ? 声小さいよ。なんだって?」
「だから黙って!」
「なぁにぃ?」
「黙ってって言ってるでしょうがっっっ!」
「そこか!」
どこから狙撃されたのか探していたリガードは優の様子を見て、柱の陰に誰かいることに気付いた。
結果的に、優が居場所を教えてしまったのだ。
リガードが柱の方を指差すとドラゴンが吠えながら向かってきた。
「バカ! アンタのせいで気付かれたじゃない!」
「アハハ、ゴメンゴメン」
「ゴメンで済むかぁぁぁっっ!」
グワァァァァッッッ!
口喧嘩をしている間にも、ドラゴンがどんどん接近して来る。
ミキは優のいる所に飛び移り、優を庇うように前に立ち銃を構える。
しかし、たとえ命中しても逃げられないほど、ドラゴンは近づいていた。
(ダメ、間に合わない……)
もう残り僅かの距離を一気にドラゴンが詰める。優はもう駄目だと思い恐怖で目を瞑る。その時、ドラゴンと二人の間に金色の光が走った。
「くっ!」
「な、何だこの光」
あまりの眩しさに、優は直接前を見ることが出来なかった。
「のわっっっ!」
グワァァァァッッッ!
リガードとドラゴンの悲鳴にも聞こえる声がしたかと思いきや、金色の光が消えた。優が前を見ると、いつの間にか自分達の間に一人の男が立っていた。
ポニーテールに纏められている長い金色の髪が美しくなびき、肌は透き通るように白い。
俗に言う、美青年そのものだった。
しかも両手には彼の髪の色と同じように金色の剣が握られている。あの剣でドラゴンを薙ぎ払ったのだろう。
「チ、『金色の覇者』か」
リガードがさも憎たらしそうな表情でその青年を睨む。どうやら敵ではないらしい。優がほっとしたのも束の間、青年は優の方を振り向くと持っている剣を向けた。
「ヴラカス……」
そう言うと、青年はいきなり剣を振りかぶり、なんとドラゴンではなく、優の方に斬りかかって来た!
「なんでだぁぁぁぁぁっっっ!」
読んで頂きありがとうございました。
新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」
と思われる所もあると思います。
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イケメンキャラ登場です。どんな顔かは皆さんのご想像にお任せします。(すみません、挿絵出来たら良いんですが、自分絵心皆無なんです……)