第十一話 死者の体
第十一話になります。
序章のところから読みにくいところがあったと思います。
駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。
AM10:50
「す、優、落ち着いて! 悪い子じゃないから」
「嘘だぁぁ! だって撃ったもの! 撃ち殺そうとしてたもの!」
自分を撃ち抜いたのが目の前の女だと知り、優はこれ以上にないほど恐怖を感じ、警戒していた。
当然の反応だろう。目の前に自分を殺そうと攻撃してきた犯人がいるのだ。毅然としていられる訳がない。
センナはそんな優の姿に苦笑いをしながら宥めようとし、老人は面倒くさそうに首を左右に振っている。肝心のピンク色の女の子は優の反応に流石に罪悪感を感じたらしく、少し気まずそうな顔だ。
「ほらミキ! 勘違いしたのは貴方なんだから、謝りなさい」
「うぅ……ご、ごめんなさい……」
センナに言われ、若干頬を赤く染めながら頭を下げた。
その姿は、悪いことをして叱られたあとの子供のようだった。かなり意地っ張りな性格だが、根は素直なのかもしれない。
彼女のことを知るにはまだあまりにも情報不足だろう。しかし、悪い人間ではないと思い、優はこれ以上何かを言うこともなく、真っ直ぐにピンク髪の女の子の方を向いた。
「うん、分かった! 許すよ」
優の言葉に三人は驚いた。いくら勘違いとはいえ、自分を撃ち抜いた相手に対し、ここまで簡単に許せるものなのかと。
それはそうだろう。なにかの間違いでうっかり撃ってしまいました〜では済まない話だ。なのに、何故この男はこうも簡単に許すことができるのか。
ピンク髪の女は、優を怪しむような表情で尋ねた。
「ほ、本当に良いの? 私が言うのもなんだけど、アンタを撃ったんだよ?」
「撃たれたのは痛かったけど、結局俺、生きてるし」
「いえ、死んでるわよ」
「いや、死んでるわよ」
「いや、死んどるぞ」
「えっ!?」
三人が当たり前のように口を揃えて、俺は死んでいると言ってきた。
なにかさっきも同じようなやり取りがあったような感じがするが、優は思い出せなかった。
不意を突かれたように固まり何も言わなくなった優を見て、ピンク色の女は先ほどよりも長く、深く、肺の中身を絞り出すようにため息をついた。
「ホントにバカね、ここは死者の世界よ!」
「え、ああ!そういうことか……」
今の自分は霊体、つまり生身がないから死んだ人間なんだと理解する。
生きている時と同じように体を持ち、人と話をしたり、痛みを味わうことから、優は今自分が幽霊であることを忘れていた。
(死んだ後のことなんて今まで考えたことなかったけど、意識もあれば銃で撃たれたときに痛みもあった。生きている感じしかしないんだよなぁ)
(最初は誰でもそうじゃろうな。しかしな小僧、生身があるかないかでは大きな違いがあるんじゃぞ)
(大きな違い? それって……ん?)
また人の心に……優はジト目になって老人を見るが、相変わらず目を瞑っているため何を考えているのか、まるで分からない。なのに、しつこいほど自分の心の中に入ってくる。回数としては少ないだろうが、優はうんざりしていた。
「なぁおい! さっきから何なんだ!?」
「ふぇ、何がじゃ?」
「何がじゃ、じゃねぇだろ!? 人の心の中に何度も何度も」
「なんじゃ、そんなことか。別にたいしたことではない。それが儂のデュナミスじゃからのぉ」
「でゅなみす?……何それ?」
「はぁぁっ。やっぱりバカね、大バカだわ」
「仕方ねーだろ! 初めて聞くんだし」
聞いたことのない言葉に首を傾げる優を見て、ピンク髪の女はあざ笑うように言った。優はその態度に腹が立った。
言葉の意味が理解できないのはこの国に来たのが今が初めてだからだ。知らないのはむしろ自然である。
しかし、それを馬鹿にされたことに対し、噛み付くように反論する。
ところが、そんなもの痛くも痒くもないという風にピンク髪の女は余裕の表情だ。その態度に優は、さらにムキになる。
そんな二人を見かねて、センナが二人の間に割って入った。
「まぁまぁ。デュナミスって言うのはね、その人の能力ってことよ」
「能力?」
「そう!私達戦士は特有の能力を持っているの。例えば優、貴方を殺したときに水を使ったでしょ。あれが私の水を操る能力、エレンホス・ネロ」
「えれんほす・ねろ……」
「そして、貴方の心に話しかけたのは博士の能力、ヴレポ・カルディア」
「ゔれぼ・かるでぃあ……」
「あんた、付いてこれてないでしょ!」
「うるせぇ!」
「いきなり全部覚えるのは無理よね。日本人なんだし」
「ヘ?」
優は今の言葉に疑問を抱く。日本人なら無理……なら、外人なら分かるということか?
そういえばカルディアという言葉には聞き覚えがある。どこで聞いたかは思い出せないが、少なくとも初めて聞くような単語ではない。
ということは、あの世特有の言葉ではなく、現世の言葉を使っているということなのだろうか。
「なぁ、それってどこかの国の言葉なのか?」
「えっ?」
「ほら、さっき日本人だから無理って」
「あぁ、う〜ん、そうだね。優になら話しても大丈夫だろうし。でもね優、教える前に一つ約束して」
「なに?」
センナはとても真剣な顔になった。とても大切なことなのだろう。優も緊張をした顔つきになる。
「これから話すことは、絶対に現世では話さないこと。約束して」
「え、そんなこと?」
「これはとても大切なことよ。この話が現世で広まったら、下手をすれば文明に影響が出てしまうかもしれない」
「っ!……」
文明に影響と言われ、どれほど大事なのか優には想像することすら出来なかったが、とんでもないことだけは理解した。緊張した顔で話を聞こうとしたが、老人がここで待ったをかける。
「まぁ、待ちなやセンちゃんや」
「博士?」
「今のコヤツが話を聞いたら、パニックを起こしかねん。そしたらコヤツはお終いじゃ!」
「お、お終い!?」
「確かにそうですね、そこからお話しましょう」
「どういうことだ? お終いって……」
「落ち着いて。これから話すことも大切なことよ。だから、真剣に聞いてね」
「わ、分かった」
「じゃあ話すね! 今の優は肉体がないでしょ? つまり、今の貴方は霊体なの」
「うん、それはなんとなく理解してるよ」
「霊体の貴方の体は生身とは勝手が違うのも、分かるわよね?」
「空を飛べたり、壁をすり抜けたりとかだろ?」
「勿論それもあるわ! でもね、それだけじゃない。良いことばかりではないの」
「教えてくれ、何があるんだ?」
何か悪いことがある。それを感じ取った優は緊張した顔の奥にある『怖い』という感情を心の中で押し殺すようにして聞いた。
「ここに来たとき、貴方撃たれたよね?」
「あぁ、凄く痛かった!」
「そう。そこからが問題なの」
「え!? どういうことだ?」
「貴方は左胸、正確には生身の心臓のある場所を撃ち抜かれたの。生者ならほとんど即死よ」
「即死……」
自分は即死されかけたのかと思い、無意識に優は自分の左胸に触れる。
服越しでも穴が空いていないことは分かるが、それでも心はゾッとする。
しかし、それでも今自分に意識があることに対し、優は安堵することも出来た。
「そう考えると、良く俺助かったなぁ。爺さんが助けてくれたのか?」
「そんな訳なかろう、医者じゃあるまいし」
「え、違うの?」
「小僧、さっきから儂がなんと呼ばれたか聞いとらんかったのか?」
「博士……だろ?」
「そうじゃ、儂こそ天才博士のルドウじゃよ」
「自分で天才って……まぁいいや、俺は荒野 優!よろしく」
「名前くらいセンちゃんから聞いとるわい」
「変なタイミングで自己紹介になっちゃったわね……。でもそれならミキ! 貴方も自己紹介」
「え、私も!?」
「もちろんよ、まだしてないでしょ!」
「うぅ、分かったわよ! 私の名前はミキ。覚えておきなさい!」
「お、おう……よろしくな」
自己紹介の時までデカい態度、まるでどこかのわがままお姫様のようだ。優は苦笑いをしながら返事をしたが、内心かなり引いていた。
(こいつとは仲良く出来そうにねぇなぁ……)
(そう言うな小僧! こう見えてミキちゃん可愛いところもあるんじゃぞぉ!)
(そうなのか!……って)
「また俺の心の中に!」
「え!? 優、どうかしたの?」
「あ、いや……なんでもない」
「そう……」
この博士の前ではろくに考えることも出来ない。優は横目で博士を恨めしそうに睨むが、目を瞑っている本人は何食わぬ顔だ。かえってこっちの腹が立つ。
センナも優の様子を見て、博士がなにかちょっかいを出したのだろうと察していた。
心の中でため息をつき、逸れた話題を戻す。
「コホンッ! じゃあ話を戻すね。撃たれた優の傷は誰も治療なんてしていない。優の体が勝手に治ったの」
「か、勝手に!? そんなわけ」
勝手に体が撃たれた傷を治したというのか! とても信じられない。
聞いたこともないその事実に優は思いっきり驚いた。この反応を予想していたようにセンナは、冷静に優をなだめる。
「順を追って説明するから、よく聞いて。まず、この世界にお医者さんは存在しないの。肉体のない私達は病気になることもないし、傷の手当ても必要ないから」
「必要ない……」
「そうよ。なんで傷が勝手に治るのか。それは私達死者の体は魂で出来ているからなの」
「たましい?」
「そう。そして魂で出来た体はその人の精神、つまり感情によってバランスが保たれているの。例えば、優のように狙撃をされたって、消えることはない。他にも刃物で体をザックリ斬られたりしても、その人が平常心でいれば壊れることはないわ」
「平常心……」
「これはとても難しい事なの! 自分の体が穴だらけになったり、体中を斬り刻まれたり、首だけになる可能性だってある。その時人は、自分の姿に恐怖して、パニックになるの。そうなれば感情は大混乱を起こして、精神バランスが崩れて形を保てなくなる。魂が壊れてしまうの。そうしたらもう、二度と意識は戻らない。永遠に……」
「永遠に……」
今まで、死んだらそれで終わりだと思っていた。というより、死についてあまり考えたこともなかった。
しかし、改めて永遠に意識が戻らないという言葉に強い恐怖を感じる。
――今の自分が亡くなってしまう――
それを想像するだけで体が震え上がった。両手で体を抱きしめて恐怖心を感情から追い出そうとするが、逆に大きくなっていき、呼吸まで荒くなっていく。
優の様子に、三人は(これは不味い!)っと思い、必死に呼びかける。
「コレ! しっかりせんか小僧!」
「ちょっとちょっと、何一人でパニックになりかけてんのよ!」
「優、だめ!」
センナは飛びつくように抱きついた。このままでは、優は恐怖心に心を囚われ魂が壊れてしまう。目の前で優という存在が、永遠に消えてしまう。
それを防ぐために、ただただ必死に優の体を抱きしめる。
結果的にまたセンナの胸に頭が埋まる形になってしまったが、二人共それどころではなかった。
センナは落ち着かせるように、それこそ愛しい我が子を抱く母親の様に、彼の頭を優しく撫でる。その行為に優は心から安心し、次第に恐怖心が消えていった。
優の肩の力が抜けたのを確認し、三人ともホッとする。
しばらくして、センナはゆっくりと体を離した。
「もう大丈夫みたいだね……」
「あぁ、ありがとうセンナ」
「どういたしまして♡」
「まったく、ヒヤヒヤさせおるわい」
「ほんとよ〜、どんだけ感受性強いのよコイツ」
「まぁまぁ良いじゃない、落ち着いたんだから」
「本当にありがとうセンナ」
「うん! それでね優、体の話ついでに貴方に伝えなきゃいけないことがあるの」
「うん、何?」
「現世にあるあなたの体ね」
「うん……」
「解剖することになったわ」
「そっか、かいぼう……って、えぇぇぇぇっっっ!!!」
せっかく落ち着いたのに、再びパニックになったのだった。
読んで頂きありがとうございました。
新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」
と思われる所もあると思います。
感想を見られるのが嫌でしたら、TwitterのDMでも募集していますので、遠慮なくお申し出下さい。
皆さんは永遠に消えることに恐怖を感じますか?
自分は正直とても怖いです・・・