第十話 生者のいない世界
第十話になります。
序章のところから読みにくいところがあったと思います。
駄目出しでも勿論構いませんので、感想を頂けたら幸いです。
AM10:40
(俺は、いったいどうなったんだ? スゲー綺麗な王国みたいな所に感動して、それをセンナに伝えようとしたんだ。そうしたら、いきなり何かが俺の胸を貫いて……)
(何かじゃないわい! そりゃあミキちゃんの『メガ・スコペフティス』じゃ)
(すこぺ……なんだって!?)
優は困惑した。今、自分は誰かと会話していたのだろうか。聞いたこともない老人の声だった。
自分が撃たれたところまでははっきり覚えているが、その後、誰かと話をした記憶が一切ない。そもそも今、自分は目を瞑り横になっている。
体の感覚から、おそらくベッドの上であることも予想出来るし、まだ起き上がってはいない。だったら会話している訳もないし、今の声は一体……
(何をごちゃごちゃと考えておるんじゃ! ホレ、さっさと起きんかい)
「ぐへぇっ!」
いきなり腹部を棒のような物で叩かれ、優は飛び起きた。知らない部屋だ。
優の部屋より少し広いくらいで、部屋全体が真っ白。
真ん中に自分の寝ているベッドがぽつんとあるだけで、他には何もない。
いや、何もないわけではない。ベッドの横、つまり自分の真横に杖を持ち、長く白いひげを生やし目を閉じている老男がいた。
(なんだこの爺さん。会ったことないし、何で目を閉じているんだ?)
(目を閉じていたら何か悪いのかの?)
(いやそういうわけじゃないけど……え!?)
また優は驚いた。今、彼は声を出していた訳ではない。心の中で目の前の老人が何者なのか考えていたのだ。
その心の中に自分以外の声が聞こえてきたのだ。
それは、他人の心の中に自分以外の人間が干渉したということになる。驚くのは当然だろう。
「はぁ、喧しい小僧じゃわい。少しは静かに出来んのかいのぉ」
「あ、ごめんなさい……いやそうじゃねぇだろ!? 爺さん何なんだ! 今俺の心の中に」
二度に渡り自分の心の中に侵入されたような感覚だ。人の心の中に入るなんてことが可能なのだろうか、しかし、今ここには自分とこの老人しかいない。であれば、おそらくこの老人の仕業なのだろう。何者なのか分からない以上、優は警戒をするしかなかった。そこへ……
「博士ぇ、何か聞こえましたけど?」
部屋のどこかから声が聞こえた。この声に聞き覚えがある。というより、この世界で聞き覚えのある声の主なんて一人しかいない。
「せ、センナ! どこにいるんだ!?」
「あ、優! 起きたんだね!」
聞こえてきたセンナの声には安堵の気持ちが感じとれた。心配をかけてしまったという申し訳ない気持ちになる。
何もない白い壁が突如動き出し、横へスライドする。まるで隠し扉のような構造に優は驚いた。
向こうからセンナともう一人、ピンク色の髪をツインテールにくくり、同じくピンク色のメガネをかけている、自分より年下、おそらく16〜17歳位の女の子がいた。
「良かったぁぁ! 大丈夫みたいだね、優」
「え、だいじょうぶ……あっ!?」
今更ながらに自分が撃たれたであろう左胸を確認した。しかし、そこに穴は空いていなかった。優は安堵のため息を吐いた。
その姿を見てピンク髪の女の子が呆れ果てるのを隠そうともしない態度で言う。
「呆れた、今更確認とかどんだけ鈍いのコイツ」
ムカッ!?
(初対面に対してそれはないだろう。というか誰なんだこの女、年上に対してタメ口なのも失礼なやつだなぁ)
「ほほう、ミキちゃんを相手に年上気取りか。ハッハッハ、こいつは愉快じゃ」
老人はとても楽しそうに笑い出す。一方優は、また自分の心の中を読まれたことを理解し気味悪がっていた。
自分の心とは、即ちプライベート空間のようなものだ。しかも心の中には自分以外に誰も立ち入れないはず。そこにズカズカと入ってこられては、気味が悪いに決まっている。
「ハァッ!? 私がアンタより年下!? そんなわけないでしょ。アンタバカじゃないの?」
「なっバカとは何だよバカとは! だってお前どう見たって高校生くらいじゃねーか。俺は先輩だ」
「ほらやっぱりバカね、大バカだわ」
「年上をバカ呼ばわりすんな!」
「私の方が年上ですぅぅ、アンタ歳いくつよ」
「聞いて驚け! 若く見えても俺は二十歳。もう大人だ!」
腰に手を当て胸を張り、思いっきりドヤ顔で言う優。その姿を見た三人は……
「ぷ、アハハハッ」
「うふふっ」
「ハァァッハッハッハァ!」
こっちはこっちで思いっきり笑っていた。特にピンク髪の女は相当面白かったらしい。お腹に手を当て頬を赤くし、目には薄っすらと涙まで浮かべている。
優は何を笑われたのかさっぱり分からない。口をポカンと開けて三人を見ていた。
「はぁぁやっぱりバカね、超大バカだわ」
「まぁまぁええじゃないかミキちゃんや、これも若さの特権じゃよ」
「え、なに? まさかコイツ俺より年上なの?」
「当たり前よ! まぁ歳を数えるの止めてから、もう何百年経つのか私も分かってないんだけど」
(気のせいか? 今、何百年とか聞こえた気がしたが)
「気のせいではない。本当にそう言ったんじゃよ」
「いやそんな訳ねぇだろ! 何百年も生きてて何でこんなに若いんだよ!?」
「生きてないわよ! 死んでるの」
「は!?」
「どんだけバカなの!? ここが現世だと思ってるの?」
その言葉で優は思い出す。センナに連れられて自分は、あの世の世界に来ているのだと。
「じゃあ、何百年ていうのは……」
「おっと小僧、そこから先は野暮ってもんじゃ!」
優は理解した。何百年というのは死後何百年経過しているということなのだ。
ひょっとしたらあの世では年を取らず、死んだときの姿のままなのかもしれない。
だとすれば自分よりも若いときに命を落とし、ここで何千年もいるということ。歳の話をするべきではなかった。
急に気まずくなり何も言えなくなってしまった。それを察したピンク髪の女は優にデコピンを喰らわせる。
「イテッ! 何するんだ!?」
「なぁに暗い顔してんのよ」
「いや、だってさ……」
「別にアンタが悪い事した訳じゃないんだから」
「お、おう」
分かりにくいが、彼女なりに慰めてくれているのだろう。
そう感じた優は暗い気持ちを心の隅へ追いやった。それを見ていたセンナが、タイミングを見計らったように咳払いをした。
「コホンッ。話が纏まったところで、ミキ。来たら謝るんじゃなかったの?」
「うぅっ……」
「あやまる? 何で!?」
いきなり謝ると言われても、優には全く心当たりがなかった。
優にとっては今が初対面なのだ。それに対し、センナは言いにくそうに苦笑いしながら答えた。
「あはは。優、覚えてる? ここへ来て直ぐの事」
「長いトンネル出たら王国があって、感動してたら誰かに撃たれて……まさか」
今このタイミングでこの話題を持ち出すということは……最悪の考えがあたまをよぎり、ゆっくりと恐ろしいものを見るような顔でピンク髪の女を見る。
「ふん! 別にアンタが侵入者なのは間違ってないんだから」
「お前が撃ったのかぁぁぁぁぁっっっ!?」
読んで頂きありがとうございました。
新人作なので、「明らかに書き方おかしいだろ」
と思われる所もあると思います。
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自分を撃ち殺そうとした相手が当たり前のように目の前にいたら、そりゃビビリますよね。