1話
転生したと気がつくのにそう時間は要さなかった。
不自由な手足と言葉も発せない喉、そして隣の寝台で何やらボーッと空を眺めている赤ん坊。どうやら双子として生まれたらしい。
ここはどこなのか。地球なのか、はたまたそれ以外の星なのか。体の特徴からして火星人何てことはないだろうけれども。
いや、違う。場所や環境など問題ではない。重要なのはどう生きるかだった。前世で嫌と言うほど思い知ったというのに。
昔、ソクラテスは言った。
「善く生きろ」と。
小学生の頃に知ったこの言葉に、当時の私はひどく感銘を受けたものだ。特段、周囲に間違った人間がいたわけではない、というか別に理由などない。単に子供が良い事・悪い事どちらに生きるべきかと考え、大人が本越しに善い事だと答えた。ただそれだけだ。
ただそれだけが、人生の指針となったのだ。
道のりは長かった。何度も膝をつきかけた。何度も悩み苦しんだ。しかし決して諦めなかった。
結果、得たものは何だったか。罵倒とナイフと弾丸と、あと少しの命だったか。
善く生きたが、良くはならなかった。
だから今世こそは、思い通りに生きるのだ。求め、探し、囚われず。己に成って生きるのだ。