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第三話『出逢いにゃん』

 第三話『出逢いにゃん』


 ある日のことにゃ。

『湖の広場』

 子ネコは今まで入ったことがにゃい。

 でっかい湖が横たわっている、と耳にしていたからにゃ。

『入った途端、おぼれるでしゅの』と怖れを抱いていたからにゃ。

 でもにゃ。どういうわけか、今日は好奇心がうずくのにゃ。

 行ってみたくにゃったのにゃ。

『入ってみたい』という衝動に駆られたのにゃん。

 気がついたら、とうに足は歩を進めていたのにゃん。


 目的地までは思いの他、時間がかかったのにゃ。

 草原に戯れ、花を愛で、蝶を追い駆け、にゃどの道草を食ったせい。

『こちらへおいで』と声をかけられているようで、ついつい身体が向いてしまうのにゃ。

「これでは着けないかもでしゅの」

 焦り、みたいにゃ思いを抱くも、自分ではどうにもにゃらにゃい子ネコにゃん。


 木々に囲まれた湖の広場。子ネコは外側を、ぐるり、と一回りにゃ。

「やっぱり、あそこでしゅの」

 途中一カ所にゃけ他とは違って、『さぁお入りなさい』とでもいうように、

 木と木の間が大っきく空いているところがあったのにゃ。

「もう一度回っても引き返しても、距離にそれほどの違いはなさそうでしゅの」

 あれこれ考えた末、子ネコはそのまま前へと歩を進めたのにゃん。。


「やっと、入り口まで辿り着いたでしゅの」

 ほっ、としたのも束の間、思いがけにゃい事態にゃん。

「はて? これって、なんなのでしゅの?」

 子ネコが目にしたものは、茶色地に黒の縞模様、という柄の、

 もわんもわん、とした毛皮の物体にゃ。

 入るのを邪魔せん、とばかりに、大地に張りついていたのにゃん。

 つんつん。

 前足でつついてみても、てんでダメ。にゃんの反応もにゃし、ってことでにゃ。

 子ネコは思い切って毛皮の上に乗ってみたのにゃん。

 むっくり。

 突然、毛皮が前足で地面を突いて、上半身を起こしたのにゃ。

 くるっ、と後ろを振り返った顔。

 驚いた自分の顔。

 子ネコは不覚にも見合ってしまったのにゃ。

(喋らないと気まずいでしゅの)

 寝ぼけマナコの相手に、子ネコは勇気を奮ったのにゃ。

「あなたは誰でしゅの?」

「ウチ? ウチはミアンにゃ」

 名乗ったあとは、ふわあぁぁんにゃ、と口をでぇっかく開いて大あくび。

「春眠暁を覚えず……いんにゃ。もう夏にゃん」

 にゃにやらひとりごとを呟いたあとはにゃ。

 前を向いて元の通り。うつ伏せの寝姿にゃ。

「やれやれ。こんなところに居たわん」

 湖の広場から声とともに飛び出してきたのは翅人型の妖精。

 ぱたぱたと動かしている翅も身体も白っぽいのにゃん。

「どっかで力尽きておネムっているんじゃないかなぁ、とは思っていたけど……」

 視線の先にあるのはミアンの顔にゃ。ミアンしか見ていにゃい。

 にゃもんで子ネコに注意を払うこともにゃく、くるっ、と背を向けてにゃ。

 ミアンの肩に下り立ったのにゃん。

「まさかここまで来て、ぶっ倒れるなんてね。呆れてものがいえないわん」

「おや、ミーにゃん」

 ミアンが振り向いたもんで、ミーにゃんは驚いたのにゃ。

「あれっ。起きているわん。へぇ、奇特なこともあるわん」

「この子ネコに助けてもらったのにゃ」

「子ネコ? そういえば、誰か居たような……」

 妖精は後ろを振り返ったのにゃ。

「ああ、この子のことね。ふぅぅん」

 興味深げにゃ目つきで、じろじろ、と子ネコを見つめたのにゃ。

「ねぇ。ひょっとして、『ネコの生る木』から生まれたんじゃない?」

(ずばりでしゅの、すっごいでしゅの)

 子ネコは俄然がぜん、話しかけたくにゃったのにゃ。

(でもなんていったら……そうでしゅの)

 試しにいってみたのにゃ。

「ええと、神様でしゅの?」

「えっ。アタシが神様?」

 妖精は自分を指差したまま、ぶんぶん、と首を横に振ったのにゃ。

「とぉんでもない。

 アタシはミーナ。イオラの木に咲く花の妖精よ。お姫様なのわん」

 妖精に続いて毛皮の物体も自己紹介にゃん。

「ウチは化けネコのミアンにゃ」

 化けネコ、と聴いたもんで、あらためて子ネコはふたりを見つめたのにゃ。

(花の妖精と化けネコ。妙ちくりんな組み合わせでしゅの。

 ……でもぉ)

 仲良く寄り添うふたりの姿。子ネコにはにゃんとにゃく羨ましく思えたのにゃ。

 喋り合ったり。ふざけ合ったり。じゃれ合ったり。

 いつしか二つの笑顔の間に収まっている自分を思い浮かべていたのにゃ。

「これもにゃにかの縁にゃ。どうにゃん? ウチらと」

 ミアンの言葉を継ぐように、ミーナことミーにゃんも、

「お友だちにならないわん?」と声をかけてきたのにゃ。

 ふたりの誘いが決め手とにゃった。子ネコは迷うことにゃく、

「よろしくお願いしますでしゅの」と頭を、ぺこり。

 友にゃちの契りを結んにゃのにゃん。


 湖の広場へと、初めて足を踏み入れた子ネコ。

 二つの『森一番』を目にしたのにゃ。

 一つ目は、エメラルドグリーンに輝く湖『彩花さいか』。

(すっごいでしゅ。噂通りの大きな水溜りでしゅのぉ)

 でもって二つ目が、湖のほとりにそびえ立つイオラの木にゃ。

(これはまた……。一番上って、どうなっているでしゅの?)

 子ネコが圧倒されるのも無理はにゃい。

 最長老というにゃけあって、他のどの木よりも太く大っきいのにゃ。

 黒褐色のごつごつした木肌が、鎧のようにゃ重厚感を漂わせるのにゃ。

 でもって、ついでにいえばにゃ。

 木とおんにゃじ名前の精霊、イオラにゃんが宿っているのにゃ。

 イオラにゃん、ミーにゃん、ミアン、の三にんが一緒に暮らす棲み家、

『精霊の間』へと通じる入口でもあるのにゃ。

 ……とまぁ不思議さ、ばりばりの霊木にゃのにゃん。


 ふたりに連れられ、子ネコも『精霊の間』へ。

 緑がかった白色で彩られた、全体的にふんわりとした明るさの空間にゃ。

「お邪魔しますでしゅの」

「あら、いらっしゃい」

 いきにゃり声をかけられたもんで、子ネコは思わずあとずさりにゃ。

 気遣ったイオラにゃんは早速、変幻自在の能力を発揮。

 ミーにゃんのお姉さんっぽい翅人型姿から、

 子ネコの母親と見紛うネコ型姿へと身を変えたのにゃ。

 変化へんげを目の当たりにして子ネコはびっくり。

 でもにゃ。自分とおんにゃじ白いネコが現われたもんで、ほっ、ともしたのにゃ。

 身体を舌で嘗め回してくれたことで親しみが湧き、甘えたい気持ちもまた生まれたのにゃん。


 自己紹介も兼ねて、身に起きた今までの出来事を仕草も交えてあれこれと。

 子ネコの身の上話を中心に和気あいあいとしたお喋りが続くのにゃ。

 ほのぼのとした雰囲気が漂い、初対面の気まずさにゃど、微塵も感じられにゃい。

 むしろにゃ。四にんが四にんとも、

『ウチらの出逢いは偶然ではにゃく、必然にゃったのに違いにゃい』

 にゃんて思うくらい、打ち解けた間柄とにゃっていったのにゃ。

(話しても良さそうでしゅの)

 子ネコは心に引っかかっていたことを打ち明けたのにゃ。

「実は、ネコの生る木に行ってみたでしゅの」


 自分とおんにゃじ時期に生まれたと思しき雪ネコがたくさん居たのにゃ。

「でも、自分とは違う色でしゅの」

 歩いて、でもって、きょろきょろ、と見回して、

「あっ、あそこにも居たでしゅの」

 自分とおんにゃじ真っ白にゃネコを見つけたのにゃ。

 向こうも気がついたとみえて寄ってきた。

 仲間と直ぐに判って、他のネコらとも引き合わせてもくれた。

 どの顔も興味深々。早速、子ネコを囲んでのお喋りが始まったのにゃん。

「そういうことだったんでしゅの」

 生まれた時は真っ白でも、時が経つにつれ、

 三毛猫、ぶちネコ、キジネコ、にゃどといった、

 多様にゃ姿に変わっていくのを子ネコは初めて知ったのにゃん。

 お喋りのあとは、もちろん、お遊びにゃ。

 追い駆けっこや木登りにゃど、子ネコは夢中で、みんにゃと仲良く過ごしたのにゃ。


 子ネコは『帰ってきた』と思ったのにゃ。

 このままみんにゃと居られると思ったのにゃ。

 でもにゃ。日が暮れて、仲間の雪ネコらが棲み家としている洞穴へ一緒に入ろうとしたら、

『じゃあ、またね』と断わられてしまったのにゃん。


「にゃんで?」

「どうしてなのわん?」

「それが判らないでしゅの。『ここはボクたちの棲み家だから』っていうだけで。

 最初に誘ってくれたネコも、『ごめんね、ごめんね』としかいわないでしゅの」

 ここでイオラにゃんが、はっ、とした顔を。

「そういえばユキメちゃんから、聴いたことがあるわ」

「にゃに? ユキメにゃんって?」

「ネコの生る木に宿っている精霊の名前よ。可愛い雪ネコなの」

「やっぱ霊木にゃったの」

 ミーにゃんが興味深々の顔で身を乗り出したのにゃ。

「それでそれで? ユキメって精霊からなにを聴いたわん?」

「ネコの生る木から生まれたネコ、雪ネコはね。ナワバリ意識がとても強いそうよ。

 仲間だと判っても、物心がついた時にそばに居た相手じゃなきゃ、

 自分たちの身内とは思わないみたいなの」

「かもしれにゃいにゃあ。ミクリにゃんの話では地中ネコもそうみたいにゃし。

 にゃら、この子ネコにゃんも」

「ねぇ、子ネコちゃん。さっき、ネコの生る木から離れたところで生まれたっていったわよね。

 ひょっとしたら、母親になったネコも、ずうっ、と遠くを棲み家にしていたんじゃない?」

「はい、でしゅの」

「にゃら近くに棲めにゃかったもんで、さよにゃら、されてしまったのにゃん」

「そうなるわね。お気の毒に」

「お気の毒にゃん」

 イオラにゃん、ミアン、と立て続けに『お気の毒に』を連発する中、

 顔の表情は『お気の毒に』にゃがらもミーにゃんは、

「でも、なんだか判る気がするわん。

 アタシだって生まれる前にミアンがイオラと一緒に居たから、

 ミアンを親友、ううん、家族と思った気がするもん。

 もし突然、現われたのなら、こうまで仲良くなれたかどうか疑問なのわん」

 すかさず、ミアンはかぶりを振ったのにゃ。

「いんにゃ。たとえそうであってもにゃ。ミーにゃんはウチを受け入れたと思うのにゃ」

「どうして?」

「ミーにゃんはやさしいもん。ウチは誰よりも良ぉく知っているのにゃ」

「あら。ワタシだって」

「うっ」

 ふたりの言葉に、ミーにゃんは、ぽっ、と顔を赤らめたのにゃ。

「そんなことをいわれたら、照れてしまうわん。

 恥ずかしくてなにもいえなくなってしまうわん」

 子ネコは白い頬が色づくさまを見て思ったのにゃ。

(威張ってばっかりと思っていたのに……ぷっ。にゃんか可愛いでしゅの)


 話が弾んで打ち解け合って。イオラにゃんもミーにゃんも、もちろん、ミアンも、

『そばに居て欲しいにゃあ。そばに居て当たり前にゃん』感が募るばかりにゃ。

 とうとうミーにゃんからこんにゃ提案が。

「どおぉ? 自分の棲み家がないのなら、ここで一緒に暮らさない?

 とぉっても楽しいと思うわん」

「うんにゃ。ウチも大賛成にゃ」

「ワタシも。ねぇそうしなさいよ」

 子ネコも『ここに棲みたいでしゅの』と思い始めていたのにゃ。

 三にん揃って、の勧めが拍車をかける形とにゃって、

「よろしくお願いしますでしゅの」

 ぺこり、と頭を下げたのにゃ。

 こうして子ネコは精霊の間を自分の棲み家と決めたのにゃん。



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