プロローグ『雪ネコ』
プロローグ『雪ネコ』
ネコの生る木があるのにゃ。
若草の生い茂る、そりゃあもう青々とした大草原の中。
ぽつん、と一本立っているのにゃん。
大木というに相応しい、ぶっとい幹と枝に、
厳寒の冬にも耐え得る灰白色のなめらかにゃ樹皮を纏ってにゃ。
春。
枝に出来た真っ赤にゃつぼみから、真っ白にゃ花が咲く。
優しく吹く風に靡きにゃがら、陽射しの恩恵を目一杯、身に浴びるのにゃ。
生まれた喜び。生きている幸せ。
どれほど自分がかみしめているのか、味わっているのかを教えてあげたくて、
みんにゃにもこの気持ちを分けてあげたくて、
にゃもんで花びらを思いっ切り開くのにゃ。
自分の綺麗を披露しにゃがら、日一日と過ごしていくのにゃん。
『いつまでもこのままでいられたら』
願いはしても、花の命は短いのにゃ。時が経てばやがては枯れて、
濃い緑の葉が出てくる頃には、花びらが、くるくるっ、と空に舞う。
草むらに、ぽとり、と落ちるも、とどのつまりは地に身を横たえてしまうのにゃん。
あとから生った実もまたおんにゃじにゃ。
いずれは、『さよにゃら』といって、ぽとん、と落ちる。
でもにゃ。ここからが、ちと違うのにゃ。
新たにゃ命の息吹きがあるのにゃ。
土の上に身を置いたら、どんどん大きくにゃって、
ぱかっ、と真っ二つに割れるのにゃ。
中から飛び出してくるのは幼子のネコ。
『雪ネコ』と呼ばれる真っ白にゃ子ネコにゃ。
春の風物詩が訪れたのにゃん。
夏と秋。
子ネコは遊びたいにゃけ遊ぶのにゃ。
お腹が空けば、食べたいにゃけ食べるのにゃ。
花の如く、枝の上に縛られることもにゃい。
この世に生まれた幸せを、目一杯、謳歌するのにゃ。
そして……冬。
厳寒に食欲は衰え、体力もまた奪われるのにゃ。
身体を動かすことすら叶わず、じぃっ、としたまま。
降り頻る雪に埋もれて、ついには滅びを迎えてしまうのにゃん。
亡くにゃれば、子ネコの身もまた雪とにゃるのにゃ。
春がくる前に雪解け水とにゃって、『ネコの生る木』の根に吸われるのにゃ。
糧とにゃるのか。
新たにゃ命として育まれるのか。
どんにゃ運命を辿るかは誰にも判らにゃい。
たにゃ一つ、これにゃけはいえるのにゃ。
花が咲いたのにゃら、
実が生ったのにゃら、
でもって土へと落ちたのにゃら、
何事もにゃければ数日中には実が割れて、
可愛い子ネコが生まれるのにゃん。
話変わって、というわけでもにゃいのにゃけれども。
今やゴーストプラネットと化した惑星ウォーレス。
上空は毒ガスの暗雲でびっしりにゃ。
にゃのに、暗雲の更に上を浮遊する孤島があるのにゃ。
名前は『天空の村』といってにゃ。
精霊や妖精のようにゃ霊体の命と、
実体を持つ生き物とが共存して暮らす、
まるで夢と現実をごっちゃにしたようにゃ摩訶不思議にゃ世界。
ネコの生る木が立っている『イオラの森』にゃってそう。
天空の村に拡がる数ある森の一つ。
雪ネコが生まれるはずにゃ。
雪ネコもまた、夢と現実をごっちゃにしたようにゃ存在にゃもん。
生まれにゃがらにして実体波を纏っているもんでにゃ。
霊体にゃのに実体を持つ生き物とにゃんら変わらにゃい姿。
行動もまた然りにゃ。
天空の村には、にゃんとも、ぴったんこにゃ命にゃん。
天空の村には、四季の訪れがあってにゃ。
春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て、
そしてまた春が来る……手前までが、ちょうど一年にゃ。
季節が巡る中、雪ネコは、
ネコの生る木が落とした実から、生まれるのにゃ。
ネコの生る木のそばで育つのにゃ。
ネコの生る木の前で亡くにゃるのにゃん。
一年という短い生涯を、
幼子のままという生涯を、
ひたすら懸命に生きるのにゃん。