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マクドナルド受験生

作者: 元マクドナルド受験生

表題以外の企業・ブランド名は伏字にしてみました。



 はじめに断っておきます。

 作者(以下、僕)は日本●クドナルド(株)の関係者ではありません。それどころかアルバイトでマ●ドナルドに勤務した経験すらありません。

 週に二~三回以上は確実に利用するので普通の人よりは利用頻度が高いはずですが、このエッセイが特定企業の営利を増長する目的ものではないことはあらかじめ強調しておきます。決して一企業の利益のために本文を書いたわけではありません。

 なぜなら、これから書いていく内容をお読みいただければ、本文の内容が必ずしもマク●ナルドだけに当てはまるわけではないと知っていただけるはずだからです。




 季節は一月。受験生の面々もそろそろ焦りに背中をなめられ、必死に勉強している頃合いでしょうか。

 その気持ち、僕にもよく分かります。と言うのも、去年の僕もちょうど大学受験生だったのです。幸運にも志望校に合格できましたが、友達のなかには不運のクジを引いてしまって二度目の受験を迎える人も少なくなく。現役合格してしまった手前、励ましたり応援してあげたいけれど嫌味に取られそうで怖くて、ろくにメッセージも送れていなかったりします。

 さて、勉強に励む受験生の皆さん。あなたは今、どこで勉強をしているのでしょうか。

 自宅の勉強机?

 塾や予備校の自習室?

 学校の教室や図書館の勉強スペース?

 人それぞれ、きっと色んな答えがあるだろうと思います。その環境で満足できているというあなたは、このエッセイに目を通す必要はないのでぜひ貴重な時間を別の用途に割いてあげてほしいです。

 『今の環境で勉強しても、なかなか成績がよくならないよ……』

 なんて嘆いている人にこそ、僕はこのエッセイを読んでみていただきたいのです。

 あ、もちろん絶対に書いた通りにしろとは言いません。それから本エッセイに従った結果として受験の成績が悪い方に振れてしまったとしても、申し訳ないですが責任は取れません。どうかあらかじめご了承ください! なんでもしますから!(以下省略)




 本題に戻って。


 世の中には、自宅の勉強机も、塾の自習室も、あまつさえ学校も勉強環境にすることのできなかった人間がいます。

 と言うかそれ、僕です。

 自分一人の部屋を僕は持っていないので、自宅で勉強をしようとすると兄弟や家族に少なからぬ配慮を要求しなければならなくなってしまう上、僕自身も色々なものがある自宅では集中しにくい。大手塾が苦手だったので一度も通うことがなく、かといって通学していた小規模塾の自習室は狭くていつも超満員でした。何より、その塾が自転車で数十分かかる距離にあり、普段使いするにはあまりに不便。学校に至っては電車で片道一時間の距離で、移動のためだけに毎日二時間を犠牲にするのは非効率が過ぎたのです。頼みの綱の市立の図書館は、利用客が多すぎたために予約利用システムが変更され、一定時間以上の利用が不可能になってしまいました。

 そんな僕が勉強の場に選んだのが、このエッセイの表題──マクド●ルドだったのでした。

 僕の大学受験における自習や予復習は、ほとんどマクドナ●ドで行われたと言っていいと思います。そして僕は喜ばしいことに、結果を上げられました。

 ……とはいっても、だからといって『マクドナル●で勉強すれば受験が成功するよ!』などと吹聴する気はありませんし、そんなことはとてもできません。ただ、勉強の場として●クドナルドのような環境が望ましいと思う理由はいくつか思い当たるので、ここではそれらを書いていきたいと思います。




 まず、いきなりタイトルをくつがえしてしまうようで書きにくいのですが、いちばん大事なこと。

 勉強の場所が『マ●ドナルド』という具体的な店舗・ブランドである必要は全くありません。

 モス●ーガーでもいい。バーガ●キングでもいい。フレッシ●ネスバーガーでもいいのです。いやそもそも、ハンバーガーショップである必要すらありません。実際、マクドナル●を利用する習慣がつく前は、僕はよく●ターバックスで勉強に励もうとしていました。

 それでもあえてマ●ドナルドを挙げたのは、以下のようなメリットがあるからです。

  ・遅くまで開店しており、店内が明るくて安全であること

  ・食事を摂るのが容易なので、長時間の滞在や学習には向いていること

  ・Sサイズのアイスコーヒーやハンバーガーが100円であるなど、基本的に経済事情のよくない学生の財布にとっても優しい金額設定であること

  ・店舗にもよるが、高い確率で他にも勉強をしている人がいるので、自分一人が浮いたり目立ってしまう危険が少ないこと

  ・空いている時間帯が狙いやすいこと

 自習室の中には飲食が禁止されているところもあって、空腹になったらわざわざ遠くまで買い物に行く手間が生じる場合も考えられます。メリットとデメリットを考え合わせると、自習室の確保のためだけに大手塾に申し込むのは、あまりに大袈裟な出費になりすぎる(おそれ)があるんですよね。その他、自習室を利用して勉強を進める上で考えられるデメリットを、店舗での勉強は十分に補って余りあるのです。

 上に挙げたマク●ナルドの長所と照らし合わせていくと、残念ながらスター●ックスは食事というより軽食しか摂れませんし、早朝を除けば常時、混雑しています。それに値段も高いです。勉強は空いている短時間のうちにやりたい、お金だったら何とかできる──という人は、スターバ●クスやドトー●、●島珈琲のようなコーヒーショップを利用してみるのもありでしょう。値段にさえ目をつぶれば、大手チェーンでない個人経営の喫茶店の方が長時間滞在に寛容である場合もあります。

 それからもちろん、客である我々のメリットは店側からすればデメリットでしかないということも頭に入れておかなければなりません。アイスコーヒー100円ひとつで数時間も滞在する客など、店にとっては客単価も時間辺りの売り上げも低い最悪の客に決まっています。ちなみに僕の場合、だいたい二時間から三時間おきくらいには新たに買い物をするようにして、お店になるべくお金を落とそうと意識していたりします。そのお店に撤退されたら、結局つらいのは自分なのです。


 ここまで読んできたあなたは、マ●ドナルドで勉強に取り組む光景を思い浮かべることができたでしょうか。

 であれば恐らく、こう思うはずです。

 『あんなにうるさくて人のいっぱいいる場所で勉強したら、集中できないよ!』

 疑問、もっともです。なので僕がここで『それこそがいい!』と書いてみても、すぐに賛同は得られないだろうと思います。

 お店で勉強をすることの意味は、まさにそのやかましさにあるのです。

 店舗──それこそマク●ナルドのような人気ブランドにでもなれば、時間帯次第では大変な混雑になります。狭い机での勉強を強いられますし、周りの目も多い。

 この状況は何かに似てはいないでしょうか。そう、試験会場です。本番が始まる直前の試験会場ではたいていの人は無言ですが、だからこそ喋っている人たちの会話は遠くからでもよく聞こえてしまいます。外部の雑音や空調機の運転音すら騒音と化します。いざ試験が始まると、問題用紙を思いきり広げたくても大きな机が用意されているとは限りません。おまけにいっそう静けさが高まるので、普段はなんということのない鉛筆の落ちるような音でさえ、集中力に鋭い牙を剥いてきます。おまけに試験監督員は、うろうろと動き回ったり本人確認のために顔を覗き込もうとして、これまた集中力を削ぐことこの上ありません。

 つまり受験生にとって、集中力を安定して確保しにくいという状態は、ごくごく普通のことなのです。

一般に模擬試験には、そういう環境で問題を解くことに慣れるための舞台という側面があります。でも、模擬試験は受けるのが大変だし、時間もお金も必要です。

 そこで、『お店で勉強』という発想の出番なのです。勉強の邪魔でしかないものに周りを囲まれながら勉強に励むことは、結果的に『目の前の課題に必死に集中して取り組む』ことの訓練になります。無論、逆もまた然りで、周囲に動じずに普段通り問題を解けるようになるという克服方法もあるでしょう。高い集中力か、高いスルー力か。あなたのタイプに合わせて選べばいいのです。

 これを繰り返していると、赤ん坊が大声で泣き出したりとか、すぐ隣の席で新たなアルバイトの面接が行われたりとか、向かいに座るサラリーマンの男性が苛々とした様子で電話をかけ始めたりとか、やたら大声でいちゃつく(小学生の)カップルやグループが現れたりとか、その程度のことでは問題回答に支障をきたさないようになってきます。その割にはよく覚えてるな、と思った方。目の付け所がシャープですね。実際のところ、回答時間が過ぎて鉛筆を置いた瞬間、周囲が気になり始めたりすることはあるわけですが、解いている間さえ集中できればいいので、僕は無問題だと割り切っています。

 付け加えるならば、これは試験回答中のみならず授業中や講義中の集中力の向上にも繋がります。授業中は先生や生徒が口を開くので、人によってはそのせいで教えられている内容が頭に入ってこないということもあるでしょう。横や後ろの席で関係ない話で盛り上がっている生徒がいればなおさらです。しかし常識的に考えて、昼時のマクド●ルド店内を超えるレベルで授業中の教室が騒がしくなることはまず、有り得ないはず。


 店舗内での勉強には、他にも長所があります。

 場馴れの効果はすぐには上がりません。勉強方法の改善に即効性を求めるあなたには、記憶系の勉強を進めるのがオススメです。英単語や古文単語、地理や歴史の用語・年号、数学の公式、それから科学の法則などがこれに該当するでしょう。

 ただでさえ勉強に不向きな環境で暗記するのですから、並の集中力ではこなせないのはもちろん、工夫だって必要になるはず。そして、集中したり工夫を凝らしたりして覚えたものほど、意外としっかり覚えていたりするのです。

 『勉強している環境ごと記憶』できることもあります。例えば英単語の場合、単語帳には一ページあたり何個もの単語が載っていて、(僕が幾つかの単語帳を当たってみた限りでは)それらに意味や綴りでの関連は見られないことがほとんどなんですね。思い出したい単語のひとつ上にあったものは思い出せるけど、肝心の単語が浮かばない──そんな時、そのページを勉強していた時に何か記憶に残りそうな強烈な出来事が起きていると、その強烈な出来事もろとも一ページ分の単語をみんな思い出してしまうことができることがあるのです。恐らくこれはどんな環境で勉強をしていても有り得ることだと思いますが、店舗での勉強の場合、食べ物の香りや味、目まぐるしく入れ替わる客の姿や言動、窓から差し込む陽光や景色など、強烈な出来事として記憶に残りやすい要素がたくさん溢れているので、他と比べて有利であるのは間違いありません。

 また、店内が騒がしければ騒がしいほど音読がやりやすくなる点も、見逃せない要素です。音読は単語や知識を詰め込むうえで最も有効な手段の一つ。静かな自習室で音読に臨むのはなかなか厳しいものがありますが、誰もが好き勝手にしゃべっている店内では人目を気にする必要はありません。たくさんつぶやいて、たくさん繰り返せることは、単語勉強における強みと言えるでしょう。

 さらに、どうしても雰囲気や好みが合わないと思ったら、店舗を変えて気分の刷新を図ることができる点も大きいです。僕など、ほとんど毎日のように、しかも時間帯によってあちこちのマクド●ルドを使い分けていたので、勉強をしたことのあるマクドナ●ドの店舗は都内だけで二十ヶ所以上にのぼります。僕の友達の中には、同じ考え方のもとに各地の●イゼリヤやジ●ナサンをハシゴして勉強をしていた人もいました。繰り返しになりますが、マク●ナルドにこだわることそのものに意味はありません。お金を運用できる範囲で、なおかつ行動可能圏内で、自分なりの店の使い分けをすればいいのであって、これは飽きたからといって容易に変更することのできない自習室や学校、自宅と違い、店舗での勉強だけが可能とすることでもあるのです!


 無論、注意すべきことは他にもあります。

 店舗での勉強にあたっては、あまりに長時間すぎる滞在の場合は何かを注文して、店側に『私は客です』と伝える必要があります。マク●ナルドのような空間では忘れられがちですが、店は本来、その店の商品をたしなむお客さんのための空間ですから。

 よほど空いていない限り、大きな机を独り占めするのは御法度です。何日も連続して長時間テーブルを占領されては、お店の側だってたまったものではありません。僕がたくさんの店舗を使い分けていたのは、特定の店舗に迷惑をかけすぎてしまうことがないようにという対策の一環でもありました。

 混雑のひどい都心部の店舗の中には、『勉強は禁止とさせていただいております』『二時間以上のご利用はご遠慮ください』といった注意書を貼り出しているところがあります。そういう店では勉強や長時間滞在はルール違反です。お店のルールはきちんと守って、節度ある使い方をしなければなりません。


 逆に言えば、これだけのことを気を付けてさえいれば、お店で勉強をすることの意義は大きいはずなのです!

 店内の喧騒に包まれながらする勉強も、初めは煩わしいかもしれないけれど、続けていくと段々と楽しくなってくるもので。僕の場合、店員さんの顔や名前を自然と覚えてしまったり、BGMのセットリストを覚えてしまって『ああ、次はあれだな』などと予想を立てていたりしていました。賢明な皆さんはこんなことしてないで勉強した方がいいですが、ちょっとした気晴らしもお店ならば簡単に見つけられるということです。

 みんながわいわい楽しく騒いでいる中で、自分だけはドリンクを片手に勉強。これってちょっとカッコよくないですか?(笑)

 ただし再三になりますが、お店の迷惑にだけはなりませんように!




 以上、

 『元マクド●ルド受験生』からの、ささやかなアドバイスでした。


 これを読んだ(受験生の)あなたが、少しでも勉強に集中して輝かしい未来を掴めることを、僕からも切に祈っています。









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