第8話 分かったよ
待って?
私、今何って思った?
直登の事が…………好き?
い、いやいやいやいや、それは無いでしょう?
だって、直登は幼馴染みでそんな感情なんて生まれないって。私は、ずっとそう思ってきた。
それは、今までもこれからも一緒で……。
それなのに、この胸の高鳴りは何?
この熱く火照る体は何?
この苦しくてどうしようもできない感情は……何?
それは、直登に恋をしているから。
もしかして、ずっと気づかなかっただけで、私は直登の事が、前から…………?
い、いやいやいやいや、そんな事は無い!!
断じてあり得ない!!
だって、直登は学校では王子さまを演じて、それにコロッと落ちる女子生徒を見て、嘲笑うような最悪なヤツだよ?
そして、そんな王子さまの影には私をいじめ倒す、悪魔が潜んでいる。
そう、私には全く優しくなかったじゃない!!
そんなヤツの事を、好きになるなんてあり得ないんじゃないの!?
「…………可鈴」
ドクンッ──!!
突然呼ばれた名前に、嫌でも心臓が飛び跳ねる。
体は正直って、こういうことを言うのかな。
「……何っ……?」
「……これは、お前を傷つけるだけかもしれないけど……話していいか?」
「……え?」
抱き寄せられたまま、そんな事を言われ、私は訳が分からなくなる。
「桐谷は、やっぱり俺の中では、すすめられない」
ここで出てきた桐谷くん。本当は、一番聞きたかった事だ。でも、なかなか口に出せなかった。二人の間で、何かが起こったことは確実なのに……怖くて何も聞けなかった。
でも、直登の方から勇気を出して口にしてくれている。本当に、何でも分かってくれるんだな……。
「……どう……して……?」
「……アイツは、俺みたいに本当の自分を隠してる。表の顔は確かに優等生かもしれないけど、裏の顔はとんでもない。……その証拠に、アイツは……」
その時、直登の腕に力が入るのが分かった。
「──可鈴の事、好きでも何でもない」
「…………え?」
え?好きじゃない?
じゃあ、あの言葉の数々は?
私に対する、悲しげな笑顔は?
全部騙されている私を、嘲笑うためのものだった訳?
悲しくないといえば嘘になる。
でも、どこかで安心している自分もいる。
桐谷くんは、私の中で掴めない人だったから。
それも今思えば仕方の無い事なのか。
だって、彼は私に対して真の姿なんて見せなかったから。
私に対して、何の感情も無かったから。
心に溜まっていた物が、ストンと落ちる感覚。
何か、すごくスッキリした。
私は、直登の腕からスッと逃れる。直登は、私の事を心配そうに見つめる。
「直登……ありがとう!!教えてくれて良かった!」
私の言葉に、目を丸くする直登。その様子がおかしくて私は声を出して笑う。
「変な顔しなくて良いから!!あーあ、何かスッキリしたー!!」
私がそう言って伸びをすると、その腕を掴まれ、グイッと引っ張られる。
驚いて直登の方を見るが、彼は真剣な目をしていた。
その目に、思わずドキッとする。
「……無理して笑ってないよな……?」
「……無理してないよ……?どうしてっ……?」
「いや……違うなら良い」
そう言うと、直登は優しく笑った。
その笑顔が、あまりに綺麗で……素敵で……
高鳴る鼓動を抑えることが出来なかった。
ああ、ダメだ……。
否定したって、もう無駄だ。
私、あなたが好き。
いつの間にか、あなたに恋してたみたい──。