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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第1章『ふたりの王子さま』
7/59

第7話 好き


「──瀬戸さん」



 夕日が当たり、オレンジ色に輝く教室。そんなことにも気づかず、私は一人机についていた。


「……桐谷くん」


 桐谷くんは、教室の入り口にニッコリと笑みを浮かべ立っていた。そして、そのままこちらへ近づいてくる。


「ずっと夕日見てたの?」


「……見てたのかな?」




「──それとも、また泣いてたの?」




「……え?」


 桐谷くんの言葉に、私は思わず顔をあげる。彼は、悲しげに笑みを浮かべる。また、その笑顔だ。今朝も、その笑顔で私の事見たよね?その笑顔には、一体どんな感情が、想いが込められているの?

 ………お願いだから、そんな顔で笑わないで………。



 次の瞬間、私は桐谷くんに抱き締められていた。

 時間が止まってしまったかのような感覚。

 私は、何もできず、ただ呆然とするばかりだった。



「……幸坂に、瀬戸さんが泣いたって事聞かされてから、気が気じゃ無かったよ……。ずっと、瀬戸さんの事考えてた。……でも、もし俺が泣かしたのなら……俺のせいだったら……そんな事を考えたら、足が動かなくなってね……。結局放課後になっちゃったけど、本当に心配してたよ」



「……桐谷くん」



 彼は私の体を離すと、私の頭を撫でた。


「帰ろう?暗くなる前に」


「……うん」


 私は、桐谷くんの瞳に吸い込まれるように、自然と手を差し出し、歩いていた。繋がれた手は、ひどく温かくて、そして……気持ち悪かった。




***



 ピンポーン、ピンポーン──。

 家に着いてから、私の足は勝手に動き出していた。気づけば、直登の家の前に立っていて、インターホンを押していた。


「はいよー。」


 ガチャリと扉が開く。そこから出てきたのは



「え、可鈴じゃん!!久しぶり~!!」



「お姉さん、久しぶりです!」


 直登の5つ上のお姉さん。アパレル関係で働いているので、オシャレさが滲み出ている。

 お姉さんは、私を抱き締めると玄関に入れてくれた。


「あ、直登に用事?アイツなら部屋に籠っちゃってるよ。……喧嘩でもした?」


「あー、喧嘩って訳じゃ無いんですけど……」


「まあ、何でもいいや。アタシ今から出掛けるから、勝手に上がってて?じゃ、よろしくね~♪」


「え?ちょ、お姉さん!?」


 そのまま、ガチャンと扉は閉まる。私は、仕方なく靴を脱ぐと家に上がる。何度も来た、直登の家。おばさんは、まだ仕事なのか……。直登の部屋の前に来て、私の足は固まる。

 直登と喧嘩をした訳ではない。でも、こんなに直登に会うことが怖いのは、私の中で何かが引っ掛かっているからだろう。

 でもここまで来たんだ。そう思いドアノブに手をかけた、その瞬間───ガチャリ。


 扉が突然開き、私の体はそのまま持っていかれる。そして、何かに顔からぶつかった。私は、そのままその物体に抱きつく。



「おっとっ!?…………は?」



 頭上から降ってきた声。顔を上げると、目を丸くしている直登。私も、目を丸くする。



「は!?おまっ……!?なっ…!?はああっ!?」



 直登は、そのまま驚きの言葉を口にしながら、顔を真っ赤に染める。その様子を見ていた私も、顔を真っ赤にする。体は、密着したままだ。



「ちょっ、お前、一回離れろ!!!!気安くくっついてんじゃねぇぞ!!!!」


「へっ!?あっ、いや、こ、これは事故でっ!!!べ、別にわざとやったんじゃ!!!!」


「だ、だから、それは良いから、早く離れろっての!!!!」


「ご、ご、ご、ご、ごめんなさいいいいい!!!!」




***



「……はぁ、まじでふざけんな……」


 そう言って、顔を片手で隠す直登。私も、まだ心臓の音がいつもより早く、すごくドキドキしている。

 直登、いつの間にあんなに男らしい体になったんだろう……。直登も、知らない内にどんどん大人に近づいてたんだ……。



「……姉貴は?」


「あ、お、お姉さんは、出掛けるって言ってたよ!」


「まじか……。イヤホンしてて気づかなかった……」


「ご……ごめんね……?」


「……別にいい……」


 直登は、全くこちらを見ず、顔を隠したままだ。でも、耳が真っ赤なの見えてるよ?

 空気が気まずいので、私はとりあえず質問をすることにした。



「あ、直登っ……。体調は大丈夫なのっ……?」


「は?体調なんか悪く…………」


 直登は、そう言いながら顔を上げる。そして、一瞬固まって何かを考える。



「体調なんか…………もう良くなった」


 吐き捨てるように、そう呟く。

 沈黙が怖くて、私は更に話を続ける。



「そ、そっか!それなら良かった!あ、これ、今日の配布物!!持ってきたから!!」


「え、あ、ああ。サンキュー」


「あ、それとね、凪沙が幸坂くんと話せて嬉しかったー!!って言ってたよ!」


「あー、そうなんだ。そりゃ良かった」


「あ、あとね、皆すごく心配してたんだからね!明日、何か言っときなよ?」


「それも、そうだな」


「え、えっとえっと……後は──」


 私が、そこまで話した時、直登に頭を抱き寄せられていた。まさかの出来事に、私の思考はストップする。






「もう良いよ。……無理に喋んな」






 そう言われた瞬間、再び涙が溢れそうになった。でも、ここで泣いても直登を困らせるだけだと思い、必死で涙をこらえる。

 直登の優しさが、じんわりと胸に染み渡る。直登は、口が悪いけど、本当に私の事をよく分かってくれている。一番苦しい時に、必ずフォローしてくれる。直登は……私にとって本当に大切な存在だ。




私、直登が……



直登の事が……好きだ──。






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