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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第6章『卒業式』
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第58話 メッセージ





「──ちょっ……ちょちょちょっ……桐谷くん!!」



 体育館裏まで来たところで、私は思いきり彼の手を振り払う。肩で息をする私を涼しげな表情で、彼は見つめていた。


「ごめん。井上さんが告白されてるの見たら何か居ても立ってもいられなくなってさ。連れ出しちゃった!」


 イタズラっぽく笑う彼に、私は内心『はぁー!?』と思っていた。それでも、この高鳴る鼓動をおさえることは出来ない。



「……でっ、でもっ!!さっきの女の子たちは、ほっといて良かったの!?」


「え?あー、それより井上さんと話す方が大事かなーってね」


「……何それっ……!!」



 涙腺がまだ緩んでいるからか、涙が滲んでくる。




「また、期待するようなこと言ってはぐらかして……桐谷くんの本当の気持ちはどこにあるのっ!?最後の最後まで期待させないでっ!!私もそろそろ前に進み──」




 ギュッと彼の腕に包まれる。優しいあの香りが、心地よい体温が……私の思考を鈍らせていく。



「俺もだよ。前に進もうとしてるのは……」



 掠れた声でそう呟く彼。その声に、また涙が滲んできた。



「……今さらこんなこと言うのずるいかもしれないけど」



「……へ?」



「──好きだ」



 その言葉に私は固まる。……今何って言った?

 好き?誰が、誰のことを?

 桐谷くんが……私のことを……!?


 ま、待って……頭が追い付かないんですけどっ……!?



「……嘘だ」


「嘘じゃないよ」


「……嘘だよ」


「本当だよ」



 桐谷くんは、私の両肩を掴んで優しい目で見つめてきた。


「……俺、さっき言ったでしょ?先約入れてるって。告白の先約入れてるってことだよ?」


 彼の言葉をゆっくりと聞き入れる。



「……井上さん、好きだよ」



「……桐谷くん……」



「……井上さんは?」



「……っ、私もっ……好きっ!!」



 そう言って彼に思いきり抱きつく。少しよろっとしながらも笑顔で抱き締め、頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。


 卒業式は別れでもあるけど、新たな始まりとも言える。私たちの物語は、これから始まっていくんだね──!!






***





 凪沙と湊くんが教室を出ていき、私はせっせと荷物を準備していた。

 どうせ、直登も女の子から告白されてるんだろう。最後の最後に大変なんだろうなぁ。


 でも、せっかく最後なんだから、私との時間作ってくれても良いのに……。少し頬を膨らませていた時、卒業アルバムと卒業文集の間から、紙がヒラリと床に落ちた。


 何だろう……?と思いながら紙を拾う。





『いつものあの場所で待ってる。   直登   』





「……え?」




 私は思わず辺りを見回していた。直登の姿は教室にはない。しかも荷物もなくなっている。


 ……いつの間に……?


 私は、荷物を乱雑に鞄にしまいこむと、紙をギュッと握りしめて教室を飛び出した。


 あの場所って言ったら……あの場所しかないよね──!?






***




 ガラララ──。


 何度も開けたこの扉。何度も集まったこの空き教室。少し重たいこの扉を開けるのも今日で最後なのかと思うと、寂しい気もする。


 息を整えながら、教室の中に入るが直登の姿はない。不思議に思いながら、教室を見渡して私は思わず目を見開いていた。



 黒板に大きく書かれた『卒業おめでとう』の文字。黒板の余白部分には、いつもの4人のメッセージが書かれていた。





『卒業おめでとう!!皆と出会えたこと、絶対に忘れない。最高の思い出をありがとう! 樋野綾人』




『いつも支えてくれた皆に感謝(^-^)たくさん泣いたり笑ったり忙しい毎日だったけど、今ではそれが宝物になってるよ!卒業しても絶対に遊ぼうね! 井上凪沙』




『俺の答辞はどうでしたか?きっと皆涙が止まらなかったことだろうね(笑)でも、答辞で話したことは全部俺の本心だから。最高の毎日をありがとう! 桐谷湊』




『何書こうってすごい迷ったけど、この一言に尽きるな。ありがとう。 幸坂直登』





 それぞれの感謝の想いに目を通し、私はにっこりと笑みを浮かべていた。そして、一歩ずつ黒板に歩み寄ると、チョークをギュッと握った。


 静かな教室に、チョークの軽快な音が響く。


 一番伝えたかったことを黒板に記し、満足してチョークを置いた。




「──この教室、もう使えなくなるらしいな」




 突然教室の入り口から聞こえた声に驚き、慌ててその方向を見る。



「……な、直登。そうなの?」



「俺たちが色々と問題起こしたからな。……まあ、でもここには本当にお世話になったよ」



「……そうだね」



 少ししんみりしながら、私は再び黒板を見る。すると、直登も私の隣に立ち、そっと手を握ってきた。





「……やり残したこととか、もう無いか?」




「……はい?」






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