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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第6章『卒業式』
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第57話 答辞






「本日は私たち、卒業生のために、このような式典を挙げていただき、まことにありがとうございます。

また、ご多忙の中ご出席くださいました、御来賓の皆さま、校長先生はじめ先生方、並びに保護者の皆様に、卒業生一同、心から御礼申し上げます」




 厳かな雰囲気の中、卒業生代表、桐谷湊くんの答辞が読まれる。


 そう。今日は私たちの卒業式だ。



「……さて、ここで少し個人的な話をさせて頂きたいと思います」








 あれから私たちは、前より更に絆が深まったように感じた。湊くんは、あの一件以来本当に明るくなったし、前より更に勉強を頑張るようになった。


 そして、それぞれが希望の大学に合格し、それからは5人でたくさん遊んだ。


 5人の中で進路が決まるのが一番遅かったのは、予想通り私だったが、その分皆からたくさんお祝いをしてもらえた。


 そんな大切な仲間と、学校で一緒にいられるのも、今日で最後なんだよね……。









「──僕は子どもの頃から、学校という場所が嫌いでした。転校が多かった僕にとって、友だちは必要のない存在だったからです。仲良くなってもすぐに別れが来るのであれば、友だちなんて始めから作らなければいい。そんな考えをするようになりました」




 堂々とそう話をする湊くんは、全く原稿を見ることなく、真っ直ぐ前を向いて話をする。




「しかし、この高校に来てからその考えは変わりました。たとえ、離れることになったとしても、それでも繋がりを持っていたい……そう思える友だちと出会えたからです。


そんな仲間たちと、過ごす毎日は本当に楽しかったです。簡単な言葉ではありますが、この言葉が僕たちの日々を表す、ぴったりの言葉だと思います。


皆、自分のことよりも他人の事を考えてくれました。苦しい時には、一緒に泣いてくれました。時には、あえて厳しい言葉がけもしてくれました。その場面を……今でも鮮明に思い出せます。


今まで支えてくれた4人の大切な友だちに心から感謝します」




 そう語る、湊くんの顔は本当に幸せそうで……私の頬を涙がツー……と伝った。




「そして、忘れてはいけないのが家族への感謝の気持ちです。


僕たちがこのように学校に通ってこれたこと、卒業という日を迎えられること、家族の支えがあったからこそです。


僕は、少し前までその家族のありがたさを感じることが出来ていませんでした。勝手にレッテルを貼り、決めつけをしていたからです。


ある日祖母は僕に言いました。『あなたにとっての幸せが、私にとっての幸せでもあるのよ』と。

父も言いました。『子どもの事を考えない親なんて、子どもの事を好きじゃない親なんていない』と。

そして……母は言いました。『私はあなたたちと本当の家族になりたいの。』と。


僕は、これらの言葉を一生忘れることはないでしょう。これらの言葉は僕を変えてくれたのですから」




 そこまで言ったところで、湊くんは少し後ろを向き、ハンカチを取り出していた。その光景を見て、さらに涙が溢れてきた。




「僕は胸をはって言えます。この高校に来ることが出来て良かった。今の友だちと知り合い、仲良くなることが出来て良かった。家族の元に生まれることが出来て良かった。


皆さんも、今同じような思いを抱いているのではないでしょうか?


僕はそれぞれに本当に感謝しています。


そして、自信を持って卒業をしたいと思います。


──卒業生一同起立」



 突然の湊くんの号令だったが、私たちは一斉に立ち上がった。



「回れ右」



 そのまま後ろを向く。在校生、保護者の驚きの表情が見える。



「ありがとうございました!」



『ありがとうございました!!』



 卒業生一同の感謝の気持ちが、体育館全体に響き渡る。会場は大きな拍手で包まれた──。





***




「──ううっ……ぐすんっ……!!」


「……ちょっと……凪沙、泣きすぎだってば……」


「ううっ……だってぇ……」



 最後のホームルームを終えた私たち。いや、確かに担任の言葉とか、それぞれの言葉とか感動したよ?私も泣いたよ?でもさ……



「だって、凪沙が泣いてるのって式の時の湊くんの言葉に感動したからでしょ?いくらなんでも長すぎない?」



「感動したんだもん……!!あの桐谷くんが、家族の皆さんに感謝の気持ちを伝えたんだよぉ……!?感動するに決まってるじゃん……!!」



 側にいる樋野くんも呆れ顔で、ハンカチを差し出す。



「と言っても、桐谷くん本人は今はそれどころじゃないみたいだけどね」


 樋野くんが冷静に告げる。


「あー。最後の最後に告白の嵐かぁ。モテる男は大変だねー」


「……ううっ……本当だねっ……」





「──井上さん」





 そこへかけられた声。私たちは一斉に、その声のした方へ視線を向ける。そこには、いつもチャラチャラしていた、クラスメイトの男子が立っていた。

 視線を泳がせながら、髪を触っており落ち着かない様子だ。



「……な、何でしょうか?」



「……あー、卒業するから言うんだけどさ、俺実はずっと井上さんのこと好きだったんだよね」



「「「え!?」」」



 3人揃って、全く同じ反応をする。てか、告白するなら凪沙を呼び出すくらいしろっての……!!私と樋野くんはどうすれば良いっていうのよ……!?




「……あ、えっと……そのっ……あの、私──」



 凪沙がそこまで言ったところで、私たちは全員固まった。凪沙の前に立ちはだかるのは、先ほどまで告白を受けていた筈の湊くんの姿。




「──ごめん。井上さんは、俺が先約入れてるから、ちょっと借りていっても良いかな?」




「……え?」




 呆気にとられる私たちを置いて、凪沙に向かって微笑みかける色男。凪沙はポッと頬を赤く染める。


 そして、彼は凪沙の腕を掴んで教室を出ていってしまった。


 取り残された私たち。チャラ男くんは、気まずそうにどこかへ行ってしまった。





「……良かったの?」




 私は、思わず樋野くんに尋ねていた。

 彼は、ニコッと笑って答える。




「うん。こればかりは勝てっこないよ」




 そう言って彼は切なそうに笑う。

 でも、その笑顔は酷く美しく見えた。




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