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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第5章『彼の秘密』
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第53話 話をしよう


 絶体絶命とはこの事を言うのでしょうか?

 目の前で怖い顔をする直登に、私は冷や汗を垂らすばかり。


 ギシッ……とベッドの軋む音が聞こえる。それと同時に体はベッドに沈んでいく。直登の重さと、怖さを感じながら、私は何も出来ないでいた。



「……可鈴。正直に言って欲しい」


「……な、何……?」


「……桐谷と何かあったか……?」


「……へ?」



 今日の直登は、やはりおかしいようだ。多分、私を保健室に迎えに来た時からだ。

 優しく抱き締めてくれた筈だったのに、急に突き放されて……でも、家に帰った瞬間私の部屋を訪ねてきて、押し倒されている。



「……な、何かって……?」



「……話そうとしないんだな。それなら……」



 そう言って、直登が私のスカートに手を伸ばしたところで危機を感じ、私は大きな声で叫ぶ。



「わあああああ!!!!分かった分かった!!あの空き教室であったこと全部話せば良いんでしょ!?」



 私がそう言うと、直登の手の動きはピタッと止まる。そして、私の上を退くと、ベッドに腰かける。私は、髪の毛やスカートの裾を直しながら、同じようにベッドに腰かける。



「……あのね、怒らないで聞いてよ……?」




***



 直登は私の話を聞いて、それなりに納得したようだ。そりゃ、あれだけ抱き締めてたら、香水の臭いもついちゃうよね。


 とりあえず、何か飲み物でも持って来ようと思い、立ち上がろうとしたその瞬間、肩を押さえつけられる。


 驚いて、彼の顔を見ると真剣な顔をしていた。


 そのまま、後ろに倒れる体。目の前いっぱいに映る、彼の綺麗な顔。



「……桐谷ばっかりズルい」


「……え?」


「……俺のことも……抱き締めてよ」



 顔を赤くして、目をそらしながらそう言う直登。私は愛しくなって、彼のことを思いきり抱き締めた。二人の心音が心地よく重なり、体に響き渡る。



「あー、ダメ。もう限界」



 耳元で掠れた声が響く。



「このまま襲っても……良いよね?」



 ドクンッ……!!

 一層激しくなった心臓の音。




「……ばか」




 私は、そのまま直登に溺れていった──。






***





「……はぁ」


 真っ暗な寝室に、自分のため息がむなしく響く。今、一体何時なんだろう?……明日も学校あるのに。

 すっかり暗闇になれた目で、自分の部屋をボーッと見回す。そして、今日の出来事を振り返っていた。



 瀬戸さんは俺を抱き締めて言った。


「もっと自分の思いを口にして発信するべきだ」

「ちゃんと会話をするべきだ」



 考えてみれば、父と話したのも本当に久しぶりだった。それなのに、急に叱られて……。まあ、叱られることをしたのは俺自身だから仕方ないんだけどね。



 それに、あの人があそこまで取り乱したことも気になる。子育てしてないという言葉に過敏に反応していた。


 もしかすると、俺は知らないことだらけなのかもしれない。


 その知らない部分を知ってしまった瀬戸さんが、俺に向けて助言をしてくれたのかもしれない。


 それなら俺がするべきことはたった一つ。


 決意を新たに、俺は目を閉じた。






***




 次の日。学校が終わると、すぐに家に帰った。

 父とあの人の靴は無く、少し安心している自分がいた。


「……お、おかえり」


 あまりに早い帰宅に、祖母は驚いているようだった。

 俺は辺りを見回して祖母に尋ねる。


「……ただいま。……春哉は?」


「春哉なら楓奈さんと出掛けてるけど……」


「ちょうど良かった。……ばあちゃんに話したいことがあるんだ」



 俺の言葉に、祖母は少し緊張している様子だ。

 大きく息を吐き、心を落ち着かせる。






「俺さ……進学するのやめる」






「……え?」




 長い沈黙の後、祖母は尋ねてくる。



「……どうして?」


「就職したいんだ」


「で、でも、つい最近まであんなに勉強頑張って……三者懇談でも、国立大学狙えるって……一体何があったの?」



 祖母は明らかに戸惑っているようだった。急な話だ。受け入れられないのは仕方がない。



「自立したいんだよ。もうこれ以上、ばあちゃんにも迷惑かけられないし。……あの人妊娠してるんでしょ?」


「確かにそうだけど……。楓奈さんの妊娠と、おばあちゃんはの迷惑とは関係ないんじゃないの?」


「関係あるよ」



 俺の真剣な目に、その言葉に祖母は息を呑む。






「……今までだってそうだった。……全部ばあちゃんに負担がかかってた。……だから──」






「──それは違うわ。湊」






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