第47話 彼の秘密
「──え?桐谷くんと?」
花火大会から3日後の補習終わりに、私は凪沙を捕まえて話を聞いていた。あの時言っていたあの人とは誰の事だったのか。湊くんと一緒にいた、女性の事も気になるし……。もし、凪沙がその場面を見てしまっていたら……。変な考えが巡る前に、まずは本人に聞いてみることにした。
「いやいやっ!桐谷くんとまわるなんて無理だよ!あの人って言うのは、綾人くんの事だよ?」
「え、あ、ひ、樋野くんだったのかー!そっかそっか!」
私のその様子に、凪沙は少し目を細める。
「……何?何かあったの?」
「えっ!?な、何もないよ!気にしないで!!」
「……分かった」
凪沙は納得のいかない顔をしていたが、それ以上は追及してはこなかった。
***
「──湊くーん」
補習を終え、下駄箱で靴を履き替えている時、後ろで聞きなれた声がした。
「瀬戸さん?どうしたの?」
「いや、一緒に帰ろうと思ってね!」
「一緒に帰ろうって」
俺は、キョロキョロと辺りを見回す。幸坂の姿はない。
「……幸坂はどうしたの?」
「直登なら、今日は久しぶりにお父さんが帰って来るからって、ダッシュで帰って行ったよ?」
「あー、そういえば単身赴任って言ってたね」
「そうそう!だから今日は一緒に帰ろう?」
瀬戸さんはニコッと笑みを浮かべると、靴を取り出す。
「後で怒られても、俺責任とらないからね?」
「良いの良いの!それに、湊くんには聞きたいこともあるしね!」
靴を履き終えた彼女は、そう言って俺の隣に並ぶ。
「……聞きたいこと?」
「まあ、話しながら帰ろうよ!」
普段より変に明るい彼女の様子に違和感を感じなからも、俺はその誘いを断ることが出来なかった。
高鳴る鼓動を彼女に気づかれないようにするのに、必死だったからだ──。
***
「──あ、そういえばさ、湊くん花火大会行った?」
「……え?」
「今年の花火、すっごい綺麗だったよね!!」
「……あー、実は俺見に行って無いんだよね。用事があってさ」
「……え?」
「……え?」
瀬戸さんは、俺に向けて困惑の表情を見せる。その彼女の表情を見て、しまったと思った。
「あ、間違え──」
「──わざわざ嘘つくって事は……やっぱりあの人と何かあるんだね……?」
瀬戸さんの鋭い目つき。俺は下唇を噛んで、プイッとそっぽを向いた。
あの人って……アイツの事だよな……?まさか、一番見られたくない人に見られてたなんて……。
「……あの時の湊くんの表情が忘れられなくてね……ずっと気になってた」
瀬戸さんの落ち着いた声。聞きたかった事って……この事かよ……。
「一人で何か抱え込んでるんじゃない?」
見え透いたようなその言葉。俺は、下を向いて抵抗し続ける。
「前にも言ったけど、私はどんなことがあっても湊くんの味方だから。だから、苦しいときには話してみて?話すだけでも、楽になることってたくさんあるし」
ダメだ。ちょっと一回黙ってくれないと、俺落ち着けないわ。
「私はね、湊くんの力に──」
そう言って、握ろうとしてきた手を俺はパシッと振り払った。ようやく彼女の顔を見たが、大きく目を見開いて驚きの表情を浮かべていた。
「……話すことなんてないから」
「でも、あの時の湊くん──」
「──うるさいんだよっ!!!!」
自然とそう叫んでいた。俺は、そう叫んだ直後ハッとする。彼女は、悲しげな表情を浮かべていた。
「……ごめん……なさい」
彼女は振り払われた手をさすりながら、謝ってくる。
謝罪の言葉なんて……欲しくない……。
「私じゃダメなら、直登だっているから……。凪沙も、樋野くんもいる……。湊くんは、一人じゃ──」
「──ごめん」
瀬戸さんは、俺の声に顔を上げる。しかし、そんな彼女を俺はどん底まで突き落とした。
「──全然響いてこないわ……。もうこれ以上首突っ込まないで」




