第45話 夏のイベント
あれから私たちは、本当に楽しく順調な日々を送っていた。凪沙と樋野くんが仲直りしたことで、5人で過ごせるようにもなった。
そして、あっという間に時は流れ、夏休みに突入していた。
夏休みといっても、受験生である私たちは毎日学校に通って模試を受けたり、補習をしたりの日々なんだけどね。それでも、仲間がいるというのは本当にありがたいことで、その勉強も苦にはならなかった。
そんなある日の帰り道のこと。
いつものように、5人で途中まで帰り、別れたところで私は話し始める。
「そういえば、来週って花火大会あるよね?」
私の言葉に、直登はピクッと反応を示した。
「……あー……そういえばそうだったな」
さほど興味無さそうに、そっぽを向いて答える直登。私はそんな彼に構わず続ける。
「直登ももちろん行くでしょ?」
「……まあ、勉強の息抜きにもなるし、お前がどうしても行きたいって言うんなら行っても──」
「そうだよね!?良かったー!!じゃあ皆も誘っとくから!!」
「……え?」
私はウキウキしながらスマホを取り出すと、まずは凪沙の連絡先を探す。そして、トーク画面を開いたところで、直登にスマホを奪われた。
「ちょっ……何してんのっ!?」
私は、そう言ってスマホを奪い返そうとする。しかし、直登はスマホを右手から左手に持ち変え、私から遠ざける。返してくれる気は無さそうだ。
「可鈴はさ……俺の事何だと思ってんの?」
そう言って私の事を睨み付ける。
え……ちょっ……何?
「何って……直登は直登でしょ……?」
「ちげーよ。お前にとっての俺って何だよ」
「……え?」
混乱する頭を整理しながら、私は彼の言葉を頭の中で繰り返す。私にとっての直登……?
「……直登は……私の……好きな人……?」
「……好きっ……!?っていうか、彼氏だろ!!!!」
好きという言葉に直登は顔を真っ赤にしながら、答える。ああ!そう言えば良かったのか!!
「あのな!こういうイベントは、付き合ってたら二人で行くもんなんだよ!!だから、皆は誘うな!!」
そこまで言うと、直登はスマホを返してくれた。私は呆気にとられたまま少しの間固まっていた。
「……ごめん……なさい」
「お前……本当に天然というか、抜けてるというか……まあ、良いよ。帰るぞ」
人生初の彼氏と過ごす花火大会。
既に今から緊張と楽しみでいっぱいになっている。
***
賑やかな音楽、立ち並ぶ屋台。そして、溢れかえる人たち。たくさんの食べ物の香りにつられながら、私たちは歩く。
あっという間に花火大会当日になり、隣には私の彼氏である直登の姿。黒色の浴衣を着た彼は、いつもより大人びて見える。
「……瀬戸さん、どうしたの?」
あ、大人びて見えるのは王子モードだからか。どうしても、こういう大きなイベントには学生が集まってくるもの。直登も、いつ誰に見られているか分からない状況で気が抜けないのだろう。
「僕の顔に何かついてる?」
優しくそう問いかけながらも、頭をグイッと掴んで前を向かされる。
痛い、痛い!痛いってば!!
直登は軽く微笑みを浮かべたまま、歩いていく。その行動は正解だったようだ。
まわりからは、「幸坂くんだ……!!」「浴衣姿も格好いい……!!」という声がたくさん聞こえていた。さすがは直登さま。恐るべし……。
それから、屋台で買い物をしている時に、私たちは声をかけられた。
「──あ、可鈴!」
その声に振り返ると、凪沙と妹の菜月ちゃんがいた。
「良かったー!!私、心配してたんだからね?」
「へ?何を?」
「可鈴の事だから、皆で花火大会行こうとか言い出して、幸坂くんを困らせてたんじゃないかと思ってたけど、良かった!二人でちゃんと約束したんだね!」
その言葉に私は苦笑い。直登はふき出した。
その私たちの様子に、凪沙も気まずそうな顔をする。
「やっぱりか……。」といった表情をしていた。
「……あれ?菜月ちゃんは、そういえば彼氏いるんじゃなかったっけ?」
「あ、そうですよ!この後待ち合わせしてるので、それまで姉と一緒に回ってたんです!」
「え?ということは、その後は凪沙一人になるの?」
「いや、私も待ち合わせしてるから!」
「そうなのっ!?」
私が驚くと、菜月ちゃんはニヤニヤしながら答える。
「そうなんですよー!あの人と回るらしいですよ!」
「あの人……って──」
「──じゃ、じゃあ、そういうことだから!た、楽しんできてねー!!」
そう言って二人は去っていった。
……てか、あの人っていったらあの人だよね……?




