第41話 過去③
最初は本当にびっくりした。
3年生になって、クラス替えがあったあの時。桐谷くんが同じクラスにいることよりも、綾人くんが同じクラスにいることの方が驚きだった。
そして、席替えをした時に彼と可鈴は隣の席になった。もし、この二人が仲良くなったら……?私は、前のように彼と話が出来る自信なんて無かった。
だって、私は、あの時彼を拒絶したから。
全てを彼のせいにして、罪を擦り付けた。
彼は、全ての罪を自分で背負い込んで、毎日毎日、私たちの元へと通い続けた。どれだけ拒絶されても、
「二人の未来をぐちゃぐちゃにしてしまってごめんなさい」
と両親に謝り続けていたのを、私も妹も知っている。
もう謝罪の言葉なんて聞きたくない。綾人くんは、一つも悪くない。悪いのは、私だ。彼に全てを擦り付けて、拒絶して……謝らなければいけないのは、私たちの方だ。
彼には、もう楽になってほしい。昔の事なんて忘れてほしい。自分の人生を歩んでほしい。そう思っていたのに、彼は私の前に現れた。
あの日のお昼のこと──。
***
「飲み物買ってくるわ」
そう言って、幸坂くんは空き教室を後にした。
私は、一人で涙を流し続けていた。
と、その時教室の扉が開く。思っていたよりも帰ってくるのが早かったなと思い顔をあげると、そこには、綾人くんが立っていた。
私は、目を大きく見開いて何も言えなかった。
綾人くんは、真剣な表情でこちらを見つめてくる。
「……凪沙」
そう呼ばれた瞬間、心臓が激しく音を立てた。こちらに近づいて来ようとする彼に対して、ガシャン!!と側にある机を押し倒した。驚いた彼の動きは止まる。
「凪──」
「──来ないでっ!!」
私は、大きな声で叫ぶ。彼は、悲しそうな表情を浮かべるが、首を横に振る。
「……凪沙、お願いだから話を──」
ガシャン!!!!
と、今度はお弁当の置いてある机を押し倒した。無残にお弁当の中身が床に散らばっていく。
「──もう私に近づかないで!!私になんて関わらないでよ!!」
「そんなの無理だよ……。僕は、ずっと──」
「もう何も聞きたくない!!私たちのことは、綾人くんには関係ないんだから口出ししないでっ!!」
「関係ない訳ないだろ!?」
「関係ないよっ!!」
私はそう言って制服の袖で、うっすらと浮かんだ涙を拭う。
「関係ないから……もう忘れてよ……。お願いっ」
私がそう呟くと、彼は肩を落とす。
「……また来るよ」
そう言って、教室を出ていった。私は、ハッとして廊下に出るが、もう綾人くんの姿は無かった。
フラフラとした足取りで、廊下を歩き、トイレに入る。
違う……。もっと彼を楽にさせてあげられる言葉かけがあった筈だ。結局、私には彼を傷つけることしか出来ない。彼が私の前に現れれば傷つくことしかない。
だからこそ、近づいてほしくない。関係をもってほしくない。
でも、うまく表現できない。情けない。
……本当に、情けないっ……。
「うわああああああっ!!!!」
私の悲痛な叫び声は、トイレの中に響き渡った。
***
パチッと目を開けて見えたのは、暗く見慣れない天井。自分の状況を理解するのに、少し時間がかかった。ああ……そういえば、可鈴の家に泊まりに来てたんだった。
ふと隣に視線を移すと、ぐっすりと眠っている可鈴。今回のことで、色んな人を巻き込んじゃったな……。でも、可鈴にはちゃんと話が出来てよかった。これも、あの時話をしてくれた幸坂くんや、いつも支えてくれた桐谷くんのお陰だね。
ふと、スマホに手を伸ばすと、桐谷くんからメールが入っていた。
『ゆっくり話が出来たかな?瀬戸さんパワーをしっかり貰って、来週からまた学校で待ってるよ(^o^)/』
そのメッセージを見て、私の口角は自然と上がっていた。
そういえば、可鈴に聞いたけど、桐谷くん、あの時すごく心配して必死に探してくれたって言ってた。すごく幸せなことだなって思うよ。好きな人に、そこまで心配なんて普通してもらえないからね。
私は、返信のボタンを押すとメッセージを入力する。
『ありがとう!何か元気出た!また来週から桐谷くんに会えるの楽しみに学校行くね(*^^*)』
送信してから、私はゆっくりと目を閉じた。




