第34話 嫉妬
授業が終わり、プリントを前に提出しようとすると、樋野くんが一緒に持っていってくれた。
「ありがとう。」と言って、そのまま席に座り凪沙の事を思い出す。
そういえば、湊くんと出て行ったけど、どこに行ったんだろう?二人とも帰ってきてないし……。
でも……二人で抜け出すって事は、何か面白いことに成りそうかも……!!
そんな事を思っていると、頭に衝撃が走る。
とっさに頭を押さえると、ニッコリと笑った直登が目の前に立っていた。
「瀬戸さーん。一緒にお昼食べよ~?」
え……。何その笑顔。怖いんですけど。
絶対に、何か怒ってるでしょ!?
い、嫌だっ……。このまま二人になったら、何言われるか分からないぞ……!?ど、どうすれば──
そんな事を考えている時、樋野くんが、自分の席に戻ってきた。
「──あ、樋野くん!プリントありがとうね!」
「あ、気にしなくて良いよ。ついでだったし」
「あ、あと、良かったら一緒にお昼食べない?」
「「え?」」
直登と、樋野くんの声が見事に重なる。そして、樋野くんは気まずそうに笑うと、答える。
「いやいや、流石にその二人の間に入る勇気はないよー。彼氏がいるんだから、二人で食べなよ」
「え!?え、遠慮しなくても──」
「──樋野くん。気遣ってくれてありがとう。じゃあお言葉に甘えて二人で食べさせてもらうね。ほら、瀬戸さん行くよ」
そう言って、私のお弁当袋を持つと、もう片方の手で私の腕をグイグイ引っ張る。
ああああ……!!私の安息の地がああああ……!!
覚悟を決めて、教室を後にした。
***
「──なあ、どれだけ俺の事妬かせたい訳?わざとやってんのか?」
いつもの空き教室に入った瞬間、私は扉に押さえつけられてしまった。お弁当が、ゴトッと音を立てて下に落ちるが、それを拾う暇も勇気もない。
目の前に、腕を組んで立つ直登の威圧感がすごい。
「いっ……いやっ……別にわざとやってる訳では」
「へぇ?無自覚なんだなぁ?昨日から、何かあれば樋野くん、樋野くんって……お前樋野の事が好きなのかよ?」
「す、好きとか、そんなんじゃ」
「じゃあ、お前が好きなのは誰なんだよ?」
「……へっ……!?」
「言えよ。誰が好きか。ハッキリ言え」
「そっ、それは少し無理が──」
ドンッ!と、大きな音が響く。
顔の横にある直登の大きな手。
こ、これが世に言う壁ドンってヤツですか……?
でも、こんな怖い壁ドンなら私いらないですっ!!!
「何が無理なの?」
「む、無理じゃないですっ」
「じゃあ言えるよね?瀬戸さんは良い子だから」
壁ドンしてから、急に王子モードになる直登。それが逆に私の恐怖心を煽る。
「こ、怖いよ」
「怖くなんてないよ?口にしてしまえば、何も怖いことなんて無いんだから……ね?」
そう言って、私の顎を持ち上げる。王子モードの、優しい顔が、本当に怖い。でもドキッとしてしまう自分もいるのだ。
そらせない視線。ドキドキと高鳴る心臓。そして、少しの恐怖。その訳の分からない状態で、私は直登のネクタイを掴み、グッと引き寄せた。
「……私が、好きなのはっ……直登だけだからっ……」
私が、必死にそう言うと、直登は微かに頬を赤く染める。そして、ネクタイを掴む私の手を大きな手が包み込む。
「……もう一回言って……?」
「好きなのっ……直登だけだからっ……」
「……もっと」
「……好き。直登」
「まだ足りない」
「……好きっ」
「……俺も好き」
掠れた声が、伝わる温もりが、おさまらない鼓動が、私の頭を狂わせる。何か……何も考えられない。
さっきまで、あれほど怖かったのに、今は離れるのが寂しい。離さないでいてほしい。
そのまま、優しく唇が落とされる。
そんな甘い時間に溺れていた時、廊下から誰かが歩く音が聞こえ、私たちは慌てて離れる。
すると、その足音は空き教室の前で止まり、ガラガラと扉を開けた。
「──あ、やっぱりここだったか」
そこには軽く笑みを浮かべる湊くんと、凪沙が一緒に立っていた。
私たちが、どれだけ顔を真っ赤にしていたのか、動揺を隠せていなかったのか分からなかったが、湊くんが淡々と話す。
「……何?もしかしてお邪魔しちゃった?」
何も言えない私たち。
呆れた顔の湊くん。
「……はぁ。失礼しまし──」
「──わあああ!!!邪魔じゃないから、一緒にご飯食べよう!?ねっ!?」




