第31話 運命の……
嬉しそうな声。残念がる声。
教室のあちらこちらから、色んな声が聞こえる。
そんな声を聞きながら、私はムスッとしていた。
そんな私を心配そうな顔で見てくる凪沙。
そんな私を──嘲笑うかのような表情の、直登と湊くん。教室の前に固まって座る、その3人の様子を見て私は机に突っ伏した。
「はーい、じゃあこれで席替えは終わりな。誰か座席表書いとけよー」
そう言って担任が立ち去ると、私は顔を上げ、ボーッと窓の外を眺める。
と、その時誰かが近づいてくるのが分かった。
「瀬戸さーん!」
そこには、ニヤニヤを隠しきれていない直登と湊くん。その後ろから、ひょこっと凪沙も顔を出していた。
「いやぁ、後ろの席羨ましいですわー!」
「僕も後ろの席が良かったよ!」
そう言いながら、まだニヤニヤしている二人。
私はそんな二人をギロッと睨み付ける。
そんな私の様子に、二人は少し怯んだようだ。
先程行われた席替えで、凪沙、直登、湊くんの3人は見事に教室の前の廊下側に固まり、私は、教室の一番後ろの窓際になってしまい、ぼっち状態。
よって、そんな状況を煽られたお陰で、私の不機嫌さはMAXになってしまったのだ。
「授業始まっちゃうから、3人は仲良く戻ればー?」
「か、可鈴……?」
凪沙の表情は、完全に固まってしまっている。
流石の二人も、ヤバいと思ったのか、何も言わない。
「早くしないとチャイム鳴るよ」
私が、冷たく言い放つと、3人は渋々戻っていった。
はぁ……とため息をつく。
ここまで怒るつもりは無かったんだけどな……。あまりにも二人が煽るから。さすがに、イラッと来てしまった。
「──瀬戸さん」
と考えていた時、急に隣から声がした。
隣に目を向けると、そこには一人の男の子。
幼い顔立ちで、不思議な雰囲気がある。
「……はい……?」
「あ、いや、えっと……そんなに、ここの席が嫌なら、僕誰かと変わろうか……?そうすれば、少しは気分が楽になるんじゃないかと思って……」
「へ?あ、大丈夫だよ!別に、この席が嫌とかじゃないから!!」
「……そうか。それなら良かった」
「何か、気遣わせちゃってごめんね?」
「ううん。大丈夫だよ。これから、隣同士よろしくね」
そう言って、フワッと笑うその男の子。
その優しくて可愛すぎる笑顔に、私はキュンとしてしまう。
な、何て可愛い子なんでしょう……!!!!
「こちらこそ、よろしくね!私、瀬戸可鈴です」
「あ、僕は樋野綾人です」
何か、席替えしてブルーだったけど、すごく楽しい生活が待ってるかもしれない……!!
ちょっと、楽しみになってきた……!!
***
「──なあ、可鈴」
「ん?何ー?」
下校中に、直登に話しかけられ、彼の方を見ると、少し不機嫌な表情をしていた。
「あんまり、優しくし過ぎんなよ」
「え?」
「誰にでも優しいのは、お前の良いところだけど……あんまり、誰にでも優しくしてたら、すぐに惚れられるぞ?」
直登の言葉に、私は目をパチクリさせる。
惚れられる……?私なんかが……?
「アハッ!!直登、それ余計な心配しすぎだから!」
「余計じゃねぇよ」
「とりあえず、直登たちが前の席で楽しんでる分、私も新しい友達作って楽しんじゃうんだからねー!!」
直登は、そんな私を見ると深くため息をつく。
「はぁ……。不安しか無いわ」
「私は、楽しみしかないよ!!」
「もう良いや。さっさと帰るぞ」
「はーい!早く帰ろ~!!」
***
樋野綾人くんと隣の席になった事によって、私たちの運命はまた大きく変わっていく。
そんなことも知らずに私は、ただ明日が楽しみで楽しみで仕方がなかったんだ──。




