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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第4章『3年生』
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第30話 いたずら





「──は?」


 山登りが終わって帰っている途中の私たち。

 久しぶりに二人で歩く通学路は、いつもよりもキラキラと輝いていて──なんて思う暇はない。


 私は、直登の言葉の意味が理解できず、その場に立ち止まってしまった。それに合わせて、直登も足を止める。



「ごめん、もう一回良いですか?」


「……だから、海外の大学に進学する話……無くなった」



「……は?」



 先程と同じ反応をする私に、直登は少し不機嫌な表情でこちらを見てきた。




「実は、可鈴にその話をした時、ちょうど親父が海外に転勤するって話が出てたんだ。そこで、一緒に海外に行かないか?って言われてな。憧れもあったし、担任に相談してみても反対はされなかったんだよ。だから、一応そのつもりでいたんだ」



 初めて聞く話ばかりだ。

 3ヶ月も話さないと、こんなにも分からないことだらけになってしまうんだ……。時の流れの恐ろしさを実感しながら、続けて耳を傾ける。



「でも、親父の転勤が無くなってさ……それなら、俺も別に行く理由も無いよなーって思って。……可鈴にもあんなにキレられると思ってなかったし」



 そう言うと、直登は私の顔を見て苦笑い。

 それにつられて私も、アハハ……と笑う。



「でも……良かった。直登とこうやって話せる時が来て」


「……だな」


「私、今回の事で改めて実感したよ。私には、直登がいないとダメなんだって。当たり前の事が当たり前じゃなくなるって、本当に恐ろしいことなんだね。それと同時に、直登の大切さがすごく分かったよ」



 そう言って、ニコッと笑みを浮かべると、直登も優しい笑顔を見せてくれた。まるで、王子モードの時のような、本当に優しい笑顔で。


 そして、直登は私の隣まで来ると、ギュッと手を握る。



「俺も、可鈴の事、本当に大事に思ってる。……話せないのは、すごく辛かった」



「……ごめんね」



「謝るのは俺の方だ。ごめんな」



「──直登」



 私は、そう言うと握っている直登の手を強く握り、グイッと引っ張る。そして、頬にチュッとキスをした。


 固まる直登。


 私も、直登から唇を離してから、自分の行動の大胆さに固まる。



 直登は、ゆっくりと私がキスした頬に手を伸ばすと、真っ赤な顔でこちらを向く。その目は、見開かれており、戸惑いが伝わってくる。



「……な、直登っ……い、今のは事故だよっ……!?わ、私も自分で驚いてるっていうか、なんていうか!!」



「……」



 直登は何も言わず、ただ私の目を見つめる。顔を真っ赤に染めたままで。



「ごっ……ごめんなさいっ……!お、怒っちゃった……?」



 私が、そう言った瞬間、直登は私の事をギュッと抱き締めた。



「──お前、一回黙れ」



 余裕無さげに早口でそう告げる直登。

 私は、それ以上、何も言えなかった。




「──何なんだよっ……ちょっと話さない間に、何そんな技覚えちゃってんのっ……?」



「わ、技っ……!?」



「マジでふざけんな。……あー、調子狂う」



 直登はそう言って、私から離れると、自分の頭をぐしゃぐしゃとする。俯いてはいるが、耳まで真っ赤なのが丸分かりだ。



「……直登……?」



「うるさい。喋んな」



「照れてるの?」


 私が、そう尋ねると直登はガバッと顔を上げる。



「はあっ!?て、照れてなんかねぇよ!!!!ふざけた事言ってんじゃ──」



 私は、直登の口元に人差し指を持っていく。

 何だろう。今は、私の中に緊張感は無い。


 いつもは、やられてばかりの私だけど、何か今日は違うぞ……?

やり返し出来そうな気分っ……!!




「──王子。口が悪いですよ?」




 私の言葉に、直登は更に顔を真っ赤にして、顔を覆い隠す。




「あああっ!!もう、本当にっ……!!!!」



 そう言って直登は、私の手を乱暴に掴むと早足で歩き始める。私は、ニコニコと余裕の笑みを浮かべながら、ついていく。

 そして、あっという間にマンションに、辿り着くと、エレベーターにグイッと私を押し込む。そして、そのまま壁に押さえつけられた。


 私が、驚いた瞬間、唇が重なる。


 少し乱暴に何度も何度も──。




「──!?……直っ──んんっ!!」


 苦しくて、でも気持ちよくて、変な気分になる。

 激しいキスに溺れていたその時



 『6階です。』



 という声が響き、ウィーンとドアが開いた。

 途端に離れる唇と体。


 直登は、一足先にエレベーターから降りて、私の事を見る。



「どうしたの瀬戸さん?顔が真っ赤だよ?」



 そう言って、ニヤリと笑う。


 そう言われた瞬間に、先程の状況を思い出し、私の顔は、かあああっ……!と真っ赤に染まる。

 直登を追いかけようと、エレベーターを下りるが、彼は既に自分の家の前に立っていた。

 そして、べーっと舌を出すと、そのまま家に入って行ってしまった。



 な、な、何だったの!?


 今の時間はっ──!?





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