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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第3章『冬の私たち』
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第26話 今を生きる



 ──ピンポーン。


 インターホンの音が鳴り響く。

 特に気にも止めず、そのままボーッとしていた。



 ──ピンポーン。


 再び鳴り響く、インターホンの音。


 そういえば、母も姉も帰ってきてなかった。

 重い体を起こして部屋を出ると、玄関へと向かう。

 ガチャリと扉を開けた瞬間、俺は固まった。


 そこには、息を切らした可鈴の姿。

 乱れた髪の毛。真っ赤な鼻と頬。零れる白い息。

 マフラーも上手く巻けていなくて、コートも前が留まっていない。

 そして、手に握られているプリントが目に入る。

 それを見て、目を見開いたその時、可鈴は話し始めた。




「テストっ……合格したよっ……?だから、もう会っても良いよねっ……?話しても良いよねっ……?」



 そう話す、可鈴の目には涙が浮かんでいた。



「これからは、ちゃんと自分の事を考える。……一番大事な勉強をおろそかにしないっ……!!だからっ……頑張るからっ……もう会わないなんて、言わないでっ!!」



 反射的に動いた俺の体は、可鈴の事をきつく抱き締めていた。抱き締めた可鈴の体が、あまりに冷たくて、俺の目からも涙が溢れた。



***



「──すげぇ。数学で90点も取ってる」


「自分でもビックリしてる。奇跡だと思うよ」


 返されたテストを見ながら、私と直登は並んで話をする。寒いからと言って、直登は家に入れてくれた。



「奇跡じゃなくて、これが努力の証だろ?」



 そう言われて、私は嬉しくて笑う。

 直登は、よしよしと私の頭を撫でてから、はぁとため息をついた。



「俺さ、今回の事で不安になったんだよな」


「え?私がちゃんと進学出来るかどうか?」


「違うわ!……高校卒業したらさ、それぞれの道に進むだろ?今まで、当たり前のように可鈴とずっと一緒にいてさ、離れる事なんて考えてもみなかった。……そんな状況に、俺は堪えられるのかな?ってな」


「直登……」


「かといって、同じ大学に行くなんて夢みたいなこと言ってられないしな。でも、当たり前に側にいた人と離れ離れになるって、怖いよな。そうやって、どんどん大人に近づいていくんだ」


 直登の言葉は、私にも重くのしかかる。

 そんな現実が待っているなんて、考えたくなかった。でも、それが時間の流れなんだよね。

 抗えないものなんだよね。



「だったら、"今"を大切にすれば良いんじゃないかな?」


「え」


「どうやっても時間は過ぎていっちゃうもんね。今この一瞬も、過ぎてしまえば私たちの過去になる。その過去を、いかに楽しかったものに出来るかは、今の私たちにかかってるよ。未来の私たちが、そんな過去を思い出すときに、1つでも多くの楽しかったことを思い出せるように……今をとにかく素敵な時間にしよう?」


「……可鈴」


「未来の事を考えるのも、もちろん重要だよ?でも、未来は今の積み重ねで出来るからね!だから──」



 そこまで言った時、私は直登の腕の中にいた。


 ドクッ……ドクッ……。

 心臓の音が伝わってくる。

 いや、これは私の心臓の音?

 よく分からない。



「ありがとう。何か気分が楽になった」


「そ、それなら良かった……」


「可鈴」


 直登は、私の肩を持つ。そして、じっと目を見つめてきた。その真剣な眼差しに、心臓が飛び跳ねる。

 な、な、何っ……!?



「俺さ……




──海外の大学に進学するつもりなんだ」





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